湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第22節(2009年8月19日、水曜日)

 

同じような「ゲーム戦術」のワナにはまりつづけるレッズ!?・・(RvsRS、1-4)

 

レビュー
 
 フ〜ム・・ちょっと(レイソル・ネルシーニョのゲーム戦術のツボにはまって!?)やられ過ぎだったよな〜。観ているこちらも、チカラが抜けてしまった。

 「 悪いゲームだった・・全体的に、運動量が十分ではなかった・・それが、攻撃から守備への切り替えの遅さと、守備でのサポートの薄さにつながり、カウンターから失点を重ねてしまった・・(中盤での動きのダイナミズムを支える!?)鈴木啓太と山田直輝の不在も大きかった・・とはいっても、堀之内聖については、長いブランクにもかかわらず、よくやったと思うが・・」

 フォルカー・フィンケのコメントをニュアンス的にまとめると、こんな感じでしたかネ。フムフム・・

 このゲームでのレッズも、前節のガンバ戦と同様に、セットプレーを除き、流れのなかからは、まったくといっていいほどチャンスを作り出せないという体たらくでした(まあ・・立ち上がりのエジミウソンのチャンスを除いてだけれど・・)。そんなネガティブなゲームがつづいているという現象の「時系列的な背景」は、大まかに言えば、こんな感じだと思いますよ。

 ・・今シーズンのレッズは、とても良いサッカーをやっている・・攻守にわたって運動量豊富な、とてもハイレベルな組織サッカー(コンビネーション・サッカー)を魅せつづけている・・気候が涼しいうちは、豊富な運動量をベースに、中盤から相手を圧倒してボールを奪い(優れた内容のポゼッションをスタートラインに!)活発な人とボールの動きをベースにゲームの主導権を握って押し切ってしまうという素晴らしいサッカーを展開しつづけた・・

 ・・そうなったら、もちろん相手も、自分たちのサッカーを貫こうとするのではなく、「詳細なスカウティング」を基に、細かな「ゲーム戦術」を練ってくるのは当然の成り行き・・そのやり方の大勢は、やはり(この試合でレイソルが徹底したような)しっかりと守って効果的なカウンターを仕掛けていくというゲームイメージ(ゲームプラン)でしょう・・

 ・・相手の、徹底的に強化された(人数を掛け、忠実で強烈なマンマークを基盤にした)守備ブロック・・もちろん、中盤での「球出しポイント」も、前戦から戻ってくる相手選手に抑えられてしまう・・こうなったら、相手の厳しいマンマークによって、うまくスペースを使えなくなるのも道理(要は、ボールがないところで相手マークからフリーになることが難しく、パスで崩していくのが難しくなる!)・・

 ・・その結果として、レッズ選手の足が止まり気味になり、相手守備ブロックの「眼前」でしかボールを動かせなくなる・・相手にとって思うツボとも言える「足許タテパス」や無理な状況での「ゴリ押しの」ドリブル勝負・・そしてイヤなカタチでボールを失って危険なカウンターを喰らう・・この試合では、カウンターピンチにもかかわらず、切り替えが遅いだけではなく、ディフェンスの戻りアクションにも勢いが乗っていかなかった・・

 ・・そんな、相手の徹底したゲーム戦術による(レッズにとっては厳しい)流れに(いや・・それと時を同じくして!?)日本の蒸し暑い夏という厳しい気候条件も追い打ちをかける・・全体的な運動量の減退・・もちろんレッズも、「緩急のメリハリ」を基盤にした、クレバーな『蒸し暑い夏用サッカー!?』を志向しているのだろうけれど・・とはいっても、その「メリハリ」を実現するためのチーム内の「イメージ統一」が十分とはいえない・・

 そんな状況で、相手が、守備を強化しながら、徹底してカウンターを狙うというゲーム戦術で試合に臨んでくることは分かっているにもかかわらず、どうも、レッズ選手に、その強化守備ブロックを、効果的に切り崩していくための仕掛けアイデアが乏しいと感じる(チーム内で、アイデアが明確にシェアされていない!?)。

 例えば、たまには、エジミウソンや高原直泰のアタマを狙った「放り込み(アーリークロス)」を送り込みつづけてみたり、中距離シュートをガンガンとブチかましてみたり。クロスにしても、ニアポストへのライナー性の強烈なボールを送り込むという最終勝負イメージを徹底させたり。

 とにかく、いまのレッズには、明確な「攻撃の変化」が必要なのですよ。それが、うまくツボにはまるようになれば(それでチャンスの芽が出てくるようになれば!)、相手の強化ディフェンスブロックにしても「開いて」いかざるを得ないわけだからね。

 とにかく私は、いまのレッズが、相手の『ゲーム戦術のツボ』にはまり過ぎていると感じているわけです。分かっているんだから、それを、クレバーに『逆手に取る』というアイデアを、フォルカー・フィンケだけではなく、選手たちにも主体的に考えさせ、そのイメージをチーム内で十分にシェアし、徹底させることも大事なポイントだと思うわけです。

 二人目、三人目の「追い越しフリーランニング」が出てこないのに、最前線で完璧にハードマークされているトップの足許にタテパスを付けるんじゃネ・・。もちろん「そこ」で、しっかりとボールがキープできればいいけれど、相手も、その最前線のタメ(仕掛けの起点)を潰すことに全力を傾注するから、エジミウソンにしても高原直泰にしても、はたまた原口元気にしても、しっかりとボールをキープすることがままならない。

 それに、この試合でのポンテの出来もヒドかった。レイソルは、ポンテがボールをキープすることは(要は、そこでボールの動きが停滞することを)明確にイメージしている。だから、ポンテにパスを出させるようにし、「そこ」へ協力プレスを仕掛けていくのですよ。

 最後の4点目のシーンだけじゃなく、ポンテが中盤でボールを失ったことで決定的カウンターピンチに陥ったシーンは、いったい何回あったですかね。立ち上がりの時間帯は、とても軽快に動きつづけながら、以前のような実効ある勝負プレーを魅せていたから、とても期待したのだけれど、その期待が大きかったから、落胆の幅も尋常じゃなかった。フ〜〜・・・

 それにしても、レイソルのゲーム戦術はツボにはまったよね。その徹底度に、新たに監督に就任したネルシーニョのウデが垣間見える・・。

 とはいっても、ゲーム立ち上がりのレイソルは、ガンガンと積極的に攻め上がった。だから、それをしっかりと受け止めた(相手に攻勢に刺激された!?)レッズも、効果的なボール奪取から、積極的に仕掛けを繰り出していった。でも、その後は、レッズがゲームのイニシアチブを握れば握るほど、レイソルの「狡猾なゲーム戦術」が牙をむいていった!?

 もしかしたら、立ち上がりの「ガンガン前へ行くレイソル」というのは、ネルシーニョの狡猾なワナだったりして!? さて・・

 先制ゴールは、明確なカウンター状況ではなかったけれど、レッズの攻守の切り替えが遅れただけではなく、ボールウォッチャーになって「守備へ戻ること」に忠実じゃない選手も目立ったことで、レイソルに数的に有利な状況を作り出され(だからこそ!)最後は、単純な「ワンツー」で最終ラインが置き去りにされてしまった。

 まあ、ポポがぶち込んだ二点目のスーパーゴールは仕方なかったし、前後のバランスを崩して攻め上がったことで連続して喰らった三点目(フランサの天才ゴールは見応え十分だったネ)、ポンテのミスからの四点目は、ゲームの流れからすれば、まあ自然な成り行きだったと言えないこともないね。

 問題だったのは、人数を掛けて(レイソルに追い付こうと!?)攻め上がっていった後半の状況で、人数が十分に足りているにもかかわらず(!)二人目、三人目の追い越しフリーランニングが、ほとんど出てこなかったという事実です。要は、人数はいるけれど、例外なく、止まって(足許)パスを待つばかりだったということです。

 もちろん、一人はタテのスペースへ走るけれど、結局は「それだけ」。だからレイソル守備は、タテパスをもらったレッズ選手をチェイスしさえすれば簡単に追い込んでいけた。人数がいるのだから、誰かが、相手守備ラインの「ウラの決定的スペース」へ飛び出しして行きさえすれば、必ず、レイソル守備ラインも乱れたに違いないのに・・。そんな「タテの攪乱フリーランニング(クリエイティブなムダ走り)」が出てこないのだから、レイソルが余裕をもって「ボール奪取ポイント」をイメージし、そこから必殺カウンターを仕掛けてけるの理の当然だったわけです。フ〜〜・・

 次のサンフレッチェ戦では鈴木啓太は戻ってくるだろうけれど、中盤でのダイナミズム・ドライバーとも表現できる、様々なチーム戦術的な意味合いを内包するキーパーソンの山田直輝はどうなんだろうか。いまの、タテのポジションチェンジがなく、ゴリ押しのドリブル勝負や単発の仕掛けタテパスばかりのレッズじゃ、ちと厳しいよネ。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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