湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第29節(2009年10月17日、土曜日)

 

2009_「J1」_第29節・・今日は、三試合を一気にレポート(順次アップ)・・(SAvsGA, 2-2)(ALvsR, 0-1)(JUvsA, 0-0)・・(2009年10月17日、土曜日)

 

レビュー
 
 今日は、三試合を一気にレポートします。とはいっても、もちろんテレビ観戦。だから、どうしても俯瞰(ふかん)的なコラム内容になってしまう。ご容赦アレ・・

 ということで、まずサンフレッチェ対ガンバから。両チームともに、観ている方が手に汗握る、とても魅力的な(攻守にわたる)組織サッカーを展開しました。とはいっても、組織と個のバランスという視点で「微妙」な違いはある。個の才能タイプ(プレーイメージの違い)・・

 要は、ガンバには、ペドロ・ジュニオールという、危険なドリブル勝負という自分の武器を「強烈に意識した」攻撃の才能がいるということです。それに対してサンフレッチェには、佐藤寿人に代表される「組織的なフィニッシャー」が最終勝負を(最終勝負のコンビネーション・イメージを!)引っ張る。フムフム・・

 たしかに前半には、ペドロ・ジュニオールが、タテパスを受け、素晴らしいコントロールでサンフレッチェ守備を翻弄してルーカスへの(とても柔らかい)ラストパスを供給するなど、決定的なチャンスを演出した。また自分自身もドリブルから決定的シュートを放ったりした。でも彼が、ガンバの組織的な仕掛けの流れを「阻害した」というのも確かな事実。フムフム・・

 どうも今シーズンのガンバは、外国人選手について誤算がつづいている。それでも、優勝争いの最前線ゾーンへ「再浮上」してきたのだから、西野朗監督のウデに対して心からの拍手をおくるしかない。

 その「誤算の外国人選手」だけれど、新戦力のチョ・ジェジンは、強力な(相手センターバックの動きを釘付けにしてしまうような)スピアヘッドストライカー(もちろんポストプレーも含めて!)という期待とは裏腹に、「前戦のフタ」になってしまうといった体たらくシーンが多かったし(その傾向については今でも変わりありませんかネ!?)、同じく新戦力のレアンドロは、とても良い「組織と個のバランス」を魅せていたけれど、例によって、中東へ引き抜かれてしまった。

 そしてアルビレックスから完全移籍で参加してきたペドロ・ジュニオール。彼は、まだまだ個の勝負テイスト(イメージ)が強すぎることで、ガンバの仕掛けプロセスでの、軽快な組織パスコンビネーションのリズムを阻害することの方が多い。

 この試合でもそうだった。そのことを象徴していたのは、ペドロ・ジュニオールが退き、佐藤寿人にも匹敵する究極の組織プレイヤー播戸竜二が入ってから、途端にガンバの攻めの勢いが何倍にも増幅したという現象。そう・・、やっとガンバが、本来の「組織イメージとリズム」でプレーできるようになったということです。

 そして、そんな(本来のリズムを取り戻し、自信レベルを格段に高揚させた!)ガンバが、サンフレッチェ守備ブロックを振り回して、同点に追いついてしまう。

 この、ペドロ・ジュニオールと播戸竜二の交代によるゲームフローの逆流は、とても興味深いテーマ(学習機会)でした。同じように、西野朗監督が、チョ・ジェジンに対する「過大な期待」を見直したところから(!?)本物のガンバの反攻がはじまったわけだからね。

 やはりガンバの組織パスサッカー(コンビネーションイメージ)を支えているのは、積極的な組織 ディフェンス(イメージが有機的に連鎖しつづける協力ボール奪取勝負)と、攻撃での(ボールがないところの)人の動きなんだよ。あっと・・そりゃ、当たり前か・・。

 サンフレッチェだけれど、相変わらず素敵な組織サッカーを展開していたけれど、後半は(まあ・・播戸竜二が出場してきてからは!?)全体的なペースが落ちてしまい、その虚を突いたガンバに同点に追い付かれてしまった。いや、播戸竜二が入ったことで格段に活性化したガンバのパスサッカーに、サンフレッチェ守備ブロックがついていけなかった・・という方が正しい表現だね。ただ、その後は、再び前半の組織的な仕掛けの勢いが復活し、最後の最後までチャンスを目指しつづけたけれど・・

 とにかく、素晴らしくエキサイティングな組織サッカーの饗宴だった。ア〜〜、面白かった・・

============

 さて次は、アルビレックス対レッズ。こちらも、エキサイティングな「意志の勝負マッチ」になりました。観ていて、本当に爽快でしたよ。

 その試合で、もっとも強く感じたこと。それは、レッズ選手のマインドが一つにまとまったということですかネ。彼らが展開する一つひとつのプレーから、強烈な闘う意志が感じられたのですよ。あの、強いアルビレックスに対して、(たしかに何度かは危険なシーンを作り出されはしたけれど・・)全体的な内容では明確に上回って快勝したんだからね。

 いろいろと(アンフェアな!?)外部ノイズがあったにもかかわらず、よくここまでまとまった!? いや、そんな怒りを抑えきれない(!?)状況だったからこそ(共通の敵を仲間とシェアできたからこそ!?)・・またレッズの社長さんが、強い意志を(自身が負わなければならない本来的な責任を)明確に表明することで、これからのレッズの方向性をクリアに示したからこそ・・なんだろうね。

 それにしてもアルビレックスは、主力選手をガンバに取られたにもかかわらず、本当に優れた組織サッカーをつづけている。いまの、優勝争いレースにしっかりと踏みとどまっていることは、まさに順当な発展プロセスだと思いますよ。

 ボール奪取にかかわる何人もの選手のイメージが、有機的に連鎖しつづける組織的なディフェンス。そして、ボールを奪い返してからの、全力&想像的&創造的な、ボールがないところでのプレー。そんな、攻守にわたる汗かきプレー(意志)の量と質は、まさに、監督のウデの証なのですよ。鈴木淳監督に、これまた、心からの拍手をおくります。

 さてレッズ。とても良かった思います。得点は最小限だったけれど、強いアルビレックスに対して、何度も決定的チャンスを作り出したし、全体的なゲーム展開でも、明確にアルビレックスを上回った。

 そんな優れたサッカーの絶対的なベースは、言うまでもなく、優れたディフェンス(優れた守備意識!)。要は、意志のチカラ・・。彼らは、本気で、今シーズンの優勝と次年度のACLを目指しはじめた(天皇杯でのセンセーショナルな敗退も含め、前述した様々な刺激によって、その目標イメージがより明確に脳内に刻み込まれた)に違いありません。

 ゲーム直後に、トゥーリオとポンテが、エンスージアスティックに(情熱的に)言葉を交わしていた。またその後には、ポンテが山田直輝に声を掛け、さまざまなアドバイスをしていた(!?)。そんな、目立たない小さなシーン全てに、彼らの「闘う意志の高揚」を感じるのですよ。良いね・・

 ところで山田直輝。やっと、本来の「吹っ切れたプレー」が戻りつつあると感じさせてくれた。ケガが回復してから何度かプレーしたけれど、とにかく(心理的に)中途半端の極みだった。そんなだから、トラップをミスったり、パスを失敗したりするのも道理。そして、そのネガティブなことが原因で、もっともっとプレーが縮こまってしまう・・心理的な悪魔のサイクル・・

 そんなネガティブな心理サイクルは、この試合での吹っ切れたグッドプレーで、ある程度は断ち切れたことでしょう。

 また、久しぶりに先発した田中達也も、とても素敵な「闘う意志」を魅せてくれた。とにかく、これからのレッズの発展プロセスに対する興味がつのるじゃありませんか。

=============

 そして最後が、ナイターで行われたジュビロ対アントラーズ。

 最初に、この試合でもっとも強く印象に残ったコト(サッカー的な現象)に言及したいと思います。それは、ほぼ完璧にゲームを支配したジュビロではなく、アントラーズの「らしさ」が甦(よみがえ)ってきたかもしれないと感じさせられる時間帯があったこと。そう・・「アントラーズ的」な勝負強さ・・

 ゲームのほとんどの時間を支配しつづけ、何度も、何度も、アントラーズ守備ブロックを振り回して決定的なチャンスを演出しまくったジュビロ。結局シュート数では、ジュビロの24本に対し、アントラーズは10本しか打てなかった。

 それでも、終盤に入ったところで、交替出場した田代有三やマルキーニョスが、パーフェクトといっても過言じゃないチャンスに恵まれるのですよ。チャンスを見計らった(唐突に演出された!)人数を掛けた組織コンビネーションによる仕掛けとか、一発のロングパスやスルー(タテパス)パスによる最終勝負シーンとか、それは、まさにアントラーズらしい「ガマンにガマンを重ねた上の粘りのチャンスメイク」プロセスではありました。

 でも驚いたことに、結局そのチャンスを決め切れなかった。そこが、「いつもの」アントラーズとは違うところ・・っちゅうことなんだろうね。そんな展開に、とても強い違和感を覚えたモノです。だからこそ、そのことが、わたしにとって、もっとも強く印象にのこったサッカー的な現象だったというわけです。

 この試合では、久しぶりに、アントラーズの小笠原満男が、高めのハーフとしてプレーすることになりました。その代わりに、中田浩二が、守備的ハーフの一角として先発メンバーに入った。要は、本山雅志がベンチを温めることになったということです。

 たしかに、ケガから復帰して出場した数試合では、彼特有のダイナミズム(攻守にわたる力強い汗かきプレー!)が影を潜めていたけれど、出場しなければ、その感覚がフルに再生されることもないわけだから・・。どうなんだろうね・・

 前述したように、この試合では、攻守にわたる抜群の運動量をベースに、人とボールを素晴らしく動かしつづけるダイナミックな組織プレーを展開したジュビロが、アントラーズを圧倒しつづけました。その原因だけれど、たしかにアントラーズが良くなかった・・という面もあるけれど、ジュビロが良すぎたという捉え方もあると感じる。

 でも、やっぱりアントラーズのサッカーに、彼ら本来の忠実さが欠けているという見方が正解だろうね。何か、ジュビロが良すぎといったり、アントラーズが悪すぎといったり、ゲームに関する評価内容があっちこっちへ不安定に彷徨(ほうこう)していると感じる。スミマセン、これもまた、誰もが驚くほど「本来の勝負強さ」を減退させているアントラーズが原因かもしれない。フ〜〜

 とにかくアントラーズでは、ボールがないところでの粘りの動きが「つづかない」・・チェイス&チェックにダイナミズムが足りない・・マーキングに粘りが感じられない・・

 そうそう、日本で活躍する英国人ジャーナリスト(ここでは名前は伏せましょうネ)の方が、アントラーズのゲームについて、「彼らの守備は、特にボールがないところでのマーキングが、とてもカジュアルだったよ・・」なんて言っていた。要は、ココゾ!の勝負所での全力の戻りや忠実マーキングの姿勢が十分ではなかったということか(呑気で軽いプレー=強い意志が感じられないプレー)。フムフム・・

 特に、小笠原満男のプレーが、とても中途半端だったと感じました。ボールを持っても、必ず「こねくり回す」・・もっとシンプルにボールを動かせばいいのに、彼自身が「そこ」で何かを起こそうとし過ぎていたのかもしれない・・ということで、逆に「そこ」でボールが停滞し、周りの味方の足も止まってしまう・・また中央ゾーンへ入りすぎることで、サイドゾーンからの仕掛けが薄くなってしまったり(サイドバックとサイドハーフのタテのコンビネーションがアントラーズの生命線なのに・・)・・

 それでも、小笠原満男が(選手交代によって)本来の守備的ハーフの位置でプレーしはじめてからは、常に『前を向いてボールを持てる』ことで、いつものシンプルなタイミングでのゲームメイクが見られるようになった。まあ「そのこと」が、終盤の二つ、三つの「粘りチャンスメイク」のバックボーンだったという見方もできるかもしれないね。

 それでも(しつこく繰り返すけれど)そのチャンスを決め切れないアントラーズ。勝負強かった頃は、いくら相手に攻め込まれ、ゲームを支配されていても、最後の最後には、一発の仕掛けから決勝ゴールを奪ったりしていたのに・・。

 たしかに、その頃のアントラーズの「粘りのプレー姿勢」からすれば、いまの彼らは、あまりにもカジュアル(呑気で軽いプレー姿勢)に過ぎるよな。やはり、ここは、何らかの方法で、チーム内の緊張感を高揚させる心理マネージメントが必要なんじゃないですかネ・・。

 この試合、ジュビロにとっては、とても、とても、残念な「引き分け」っちゅうことになってしまいました。もちろん、あれほどの決定機をゴールに結びつけられなかった訳だから、自業自得というわけだけれど、それにしても、観ている方(ジュビロサポーターの皆さん)にとっては、とてもフラストレーションのたまるゲームだったに違いないよね。まあ、いつものサッカー的ドラマではあったわけだけれど・・

=============

 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

=============

 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]