湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第31節(2009年11月8日、日曜日)

 

あ〜あ、またまた長いコラムになってしまった・・(FCTvsR, 0-1)

 

レビュー
 
 フ〜ム・・。レッズにとって、この試合での成果は、勝ち切った(虎の子を守り切った)ということもそうだけれど、再び組織プレーイメージが戻ってきた(コンビネーションの有機連鎖イメージが戻ってきた)ということも大きいと思いました。

 とにかく、前節アルディージャ戦のサッカー内容はヒド過ぎた。誰もが、チーム内に反乱でも起きているのかい?・・なんてことまで感じてしまったりして!? あははっ・・

 わたしは、プロの現場の人間として、何度も、そんな「反乱」を体感しているのですよ。日本でも、ドイツでも・・。まあ、反乱といっても、プロチームには「なくてはらない」様々なタイプの不満が、あるとき(あることをキッカケに!?)収斂され、チーム内で一つにまとまって強大なパワーを放散しはじめてしまう・・という心理現象のことだけれどネ。

 もちろん、インテリジェンスも含む監督のパーソナリティーが、チームに(選手に)絶対的に否定されているのならば仕方ない。要は、頭が悪く(知識レベルが低く、品格のカケラもない)無能なコーチということだけれど、もしそうだとしたら、マネージメントが分からないはずないからね。

 レッズの場合は、フォルカー・フィンケ体制(チーム作りベクトルの方向性)を来年も堅持するということで、クラブマネージメント(クラブの意志決定者)が明確に宣言しているわけだから、「前節のアルディージャ現象」は、どちらかといったら、戦術的な偶発要因によって発生してしまった・・と考える方が自然なんだろうね。

 そして今節、チームの方向性が統一され、選手も「それ」を、再び本格的に志向しはじめた・・と、感じたわけです。ということで、取り敢えずこの時点では、チームのマインド(闘う意志)を回復させた(様々な日常的不満は残っているだろうけれど、取り敢えず集約された不満パワーはうまく調整した!?)現場とクラブマネージメントの共同作業に敬意を表する筆者なのです。

 ここで使った「回復」という表現だけれど、要は、より「ウラの決定的スペース」を意識するようになったことで、 人とボールの動きが、横方向だけではなく、タテ方向へも交錯するようになったのです。要は、相手守備ブロックが、目の前の現象(レッズの攻撃プレー)だけじゃなく、自分の背後スペースまでしっかりと意識しなければならなくなったということです。

 ちょっと表現が難しいですか。まあ、人とボールの動きが、より素早く、大きくなったことで、うまく相手守備の背後スペースを突いていけるようになったということです。

 とはいっても前半は、たしかに人とボールは、より活発に動くようにはなったけれど、どうも、まだまだ単調。大きなタテのポジションチェンジが見られない。だから、いくらレッズがゲーム全体を支配しつづけているとはいっても、FC東京ディフェンスブロックも、余裕をもって彼らの仕掛けを受け止められていたに違いない(レッズが作り出したチャンスの量と質は、まだまだ低レベル!)。

 ここで言いたかったことは唯一。そう・・タテのポジションチェンジを活性化することで演出する攻撃の変化。そんな効果を生み出せるのは、サイドバックや、中盤の(最終ラインからの)三人目、四人目のオーバーラップだけなのですよ。

 その視点で「本物」と言えるような、素晴らしく危険な攻めを、最初に(そして唐突に!)繰り出していったのはFC東京の方でした。それは、前半のロスタイムあたりでしたかネ。主役は、FC東京ディフェンスの重鎮、今野泰幸。

 最後方からスタートした今野泰幸が、左サイドのスペースを、味方全員を追い越して、レッズ最終ラインのウラスペースまで(例によって)全力で駆け抜けていったのです。もちろん、その決定的フリーランニングに対して正確なタテパスが通され、今野はまったくフリーで、レッズゴール前のニアポストスペースへラストパスを送り込む。そのボールに合わせて突っ込んでいったFC東京の赤嶺真吾だったけれど、結局、レッズ選手の必死のブロックにシュートがブレてしまった。レッズにとっては、本当にラッキーなシーンだったね。

 ただレッズは、同じような(決定的スペースへの)オーバーラップから、この試合唯一のゴールを叩き込んでしまうのです。後半8分。主役は、右サイドバックに入った、高橋峻希。

 右サイドでの、阿部勇樹や田中達也が絡んだコンビネーションのなかで、意を決した高橋峻希が、右サイドスペースを全力で駆け上がったのです(もちろんタテパスも出た!)。そして、フリーでFC東京ゴール前へ危険なクロスを送り込み、最後は、エジミウソンが、右足でキッチリとゴールを決めたという次第。

 前半は、効果的なオーバーラップをほとんど繰り出せなかったレッズ。

 全体的にゲームは支配し、コンビネーションの内容もアップしてはいたものの、肝心のチャンスメイクがうまく行かなかった。それが、後半の立ち上がりの時間帯では、両サイドバックだけではなく、阿部勇樹や鈴木啓太も、チャンスを見計らって最前線ゾーンまで飛び出していくなど、明らかに、選手たちの「意志の内容」に変化が見られた。まあ、ハーフタイムに、何らかの「イメージ作り」が為されたんだろうね。フムフム・・

 そして、そこから、ドラマの第二幕が切って落とされるのです。原口元気の退場劇・・

 その第二幕の最初の頃、フォー&フォーという陣形で(エジを残した8人で)堅牢なボックスブロックを形成したレッズの守備に、FC東京は、単調な攻めを繰り返します。そりゃ、そうだ。何せ、どこにも使えるスペースがないし、全員が、レッズ選手に厳しくマークされているんだからね。

 そしてFC東京は、レッズ選手の忠実なチェイス&チェックによって、少しでもボールの動きが停滞したら、すぐに協力プレスの輪を作り出されてボールを失ってしまうのです。そんな不活性な状態は、試合の残り時間20分というタイミングあたりまでつづいたですかね。そして、そこから、ドラマの第三幕がスタートする・・

 FC東京が、勝負に打って出たのです。今野泰幸を前線へ上げ、サイドへボールを開いてアーリークロスを放り込むというパワープレー・・。まあ、それまでも、交替出場した長友佑都の、スピーディーでパワフルなドリブル勝負によってゲームの流れに変化の兆しはあったけれど、そこからFC東京の攻めが、明かなパワーブレーへと変容していった。

 そして、今野泰幸の絶対的シュート、ブルーノ・クワドロスのヘディングシュート、長友佑都のキャノンシュートなど、FC東京が、何度も同点ゴールに近づいていくのです。

 「あの時間帯のゲーム内容は、 必然的なモノと偶然的な要素が錯綜していた・・だから、どちらの視点からでもグラウンド上の現象を説明できたはずだ・・一つだけ言えるのは、この勝利について、我々は、そんなにたくさんの幸運を必要としていなかったということだ(勝ったことは、ある意味必然だった!?)・・」

 フォルカー・フィンケが、私の質問に対して、そんな微妙な言い回しで答えていた。わたしの質問は、いつものヤツ。「この勝利だが、そこに至るまで、3-4本の決定的ピンチがあった・・この勝利について、必然的な要素と偶然的な要素の、どちらが勝っていたと思うか?」

 ところで、最後の時間帯に発生した、一方的にFC東京が(完璧にゲームを支配して)攻め込み、何度か決定的なチャンスまで作り出したというサッカー的な現象について。

 わたしは、レッズが、もっともっと積極的に、最後のチカラをふり絞ってFC東京の仕掛けの流れを「抑え」なければならなかったと思っているのです。

 もちろんFC東京は、がむしゃらに点を取りにいったし、レッズは、何としても失点を阻止しようとしていた。要は、攻める方と守る側が、その意識で統一され、ゲームも、まさにそのような展開になっていったわけですが、特に最後の時間帯でのレッズは、チェイス&チェックやマーキングのパワーレベルが目立って減退していたと思うのですよ。だから、「より」簡単に正確なアーリークロスを放り込まれたり、「より」フリーでボールを持たれ(長友佑都や今野泰幸の)危険なドリブル勝負に振り回されることになった。

 わたしは、そんな展開を観ながら、昨日の、アジアチャンピオンズリーグ決勝で勝ち切り、アジアの頂点に立った韓国の浦項スティーラーズが魅せた「強烈な意志」を思い出していました。

 その決勝では、浦項が「2-1」とリードしたゲームの最後の時間帯は、この試合と同じような展開になり掛けていたのです。でも実際には、浦項スティーラーズが魅せつづけた極限の闘う意志が、アルイテハドが仕掛けていこうとする捨て身の攻撃エネルギーを、どんどん減退させていった。そのゲームレポートについては、「こちら」を参照してください。

 たしかに、浦項スティーラーズとアルイテハドの決勝では、両チームともに最後まで11人で戦ったから、今日のFC東京vsレッズとは、たしかに状況は違う。ただそれでも、あの韓国選手たちの強烈な闘う意志には、真摯(しんし)に見習う価値があると思うのです。フォルカー・フィンケは、選手が最後まで魅せつづけた『戦う姿勢』には、満足していると言っていたけれど、私には、まだまだだと感じられたのですよ。

 たしかにレッズは、原口元気が退場になってからの最初の20分くらいは、とても集中した守備が出来ていたけれど、FC東京のパワープレーが風雲急を告げるようになってきてからは(疲れが目立つようになってからは!?)受け身のプレー姿勢も見え隠れしはじめた。とにかく、昨日の韓国選手たちが魅せつづけた極限の「意志パワー」には、(日本サッカー界にとっても!)とても重要なイメージトレーニング素材が内包されていたと思っている筆者なのです。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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