湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第32節(2009年11月22日、日曜日)

 

そりゃ、あんなダイナミックサッカーを魅せられちゃ、誰だって感動するよ・・(JEvsFCT, 2-1)

 

レビュー
 
 誰だったかな・・。試合後の記者会見で、監督しての初勝利を挙げたジェフの江尻篤彦監督に対して、こんな質問をした記者がいた。

 「今日のジェフは、これまでと見違えるほど素晴らしいサッカーを展開した・・その背景要因だが、監督が言われた、心理的なモノだけなのだろうか・・??」

 たしかにジェフの江尻篤彦監督は、記者会見の冒頭で、こんなコメントをしていたっけ。

 ・・我々は、ジェフの歴史にとって初めての二部落ちという現実を受け容れなければならなくなった・・また、サッカー内容が好転しないなか、天皇杯でも、二部リーグのFC岐阜にやられてしまうという失態を演じてしまった・・

 ・・我々は、選手の意識をリセットし、オレ達はもっと良いサッカーが出来るはずだというイメージを高揚させることに全力を傾注しなければならなかった・・もちろん、選手たちにもプロとしてのプライドがあるはずだし、試合前の社長の挨拶も、大いなる刺激になったことだろう・・それらの集大成が、この試合での、ミスを恐れないチャレンジプレーとなって現れたと思う・・

 フムフム・・。そして江尻篤彦監督は、冒頭の記者の質問に対して、良いサッカーになった背景のほとんどは、心理的な要因によるモノだ・・といったニュアンスことを言っていた。

 そう・・。サッカーは、ホンモノの心理ゲームだからネ、良いゲームが出来るためには、『意志』という心理パワーを全開にしなければならないのですよ。もちろん、クレバーなゲーム戦術プランも大事だけれど、その「机上の空論」に命を吹き込むのは、意志のパワーなのです。もちろん、『クリエイティブな(戦術)ルール破り』というリスクチャレンジ姿勢も含めてネ・・

 とにかく、この試合でのジェフ千葉は、ホントに素晴らしく感動的な「闘い」を魅せてくれた。

 その絶対的なベースは、もちろん、守備。積極的で忠実なチェイス(相手ボールホルダーへの寄せ)&チェック・・厳しく忠実なマーキング・・リスクを恐れないボール奪取勝負チャレンジ・・長い距離の全力ダッシュで集散を繰り返す『組織プレッシング』・・そして、忠実な守備がうまく機能しているからこその、クレバーで美しいインターセプト・・等々。そんな守備バックボーンがあるからこそ、次の攻撃でのダイナミズム(力強さ)も格段にアップするというわけです。

 たしかに、江尻篤彦監督が言うように、相手守備を中央ゾーンへ集中させるようにボールを動かし、そこからサイドへ展開して決定的なクロスを狙う(キーポイントは、左サイドバックのアレックスのオーバーラップ!)・・という彼らのチーム戦術的な意図がうまく機能した側面もあったでしょ。でも、その「イメージ」を現実のモノにするのは人間なんだからね。フムフム・・

 あっと・・素晴らしいジェフ千葉のファンの方々のことも忘れちゃいけない。

 一万五千人ほどが詰めかけたということだけれど、皆さん、ホントに気を入れてサッカーを観ていたし、選手たちの全力の闘いに、身体全体で共感していた。素晴らしく一体化したスタジアムの雰囲気。これならば、二部でも盛り上がるでしょう。もちろんメンバーがどうなるかという問題もあるけれど、江尻篤彦監督の意志が貫徹され、さまざまな困難に『本音』で立ち向かっていけば(彼の学習能力は高いと聞いている!)必ずや、最短で一部に復帰してくることでしょう。

 ところで、この試合で私がピックアップした戦術テーマを一つだけ紹介します。それは、ゴールという刺激によるプレー姿勢の変化・・

 「前半の先制ゴールの後、ジェフは全体的に下がってしまった(先制ゴールを奪ったことで、受け身で消極的なディフェンス姿勢になってしまった!)・・そして人数が多いこともあって足が止まり気味になり、FC東京のコンビネーションに、守備の組織がズタズタにされ、同点ゴールを叩き込まれてしまった・・無様な失点だった・・ただ、後半に再び勝ち越しゴールを奪ったときは、選手たちのプレー姿勢がまったく違った・・そこでは、攻撃的なディフェンスを基盤にしたミスを恐れないリスクチャレンジ姿勢が、より活性化した・・ハーフタイムで、何か具体的な指示をしたか?」

 そんな私の質問に対し、 江尻篤彦監督が、待ってましたとばかりに語りはじめる。

 「あの時間帯は、チーム全体が消極的になってしまった・・FC東京は、後方からの三人目、四人目のサポートの動きも含め、とても危険なコンビネーションを仕掛けてくる・・それに、見事にやられてしまったわけだが、そんな東京が仕掛けてくる勝負コンビネーションに対するイメージを確認することと、決して引かず、もっともっと点を奪い取るという姿勢でプレーすることを要求した・・」ってなニュアンスのことを言っていた(・・と思う・・)。

 そう・・その通り。ディフェンスでは、「待つ」というのと「奪いにいく」というのでは、その姿勢は真逆だからね。待ったら、必ず、攻守にわたるサッカー全体が沈滞してしまう(消極ビールスが瞬間的に蔓延してしまう!)。そして、人数が足りていることで(全体が下がりすぎてしまうのだから人が多くなり過ぎるのも道理!!)足が止まり、集中力が途切れ気味になってボールウォッチャーになってしまう・・。FC東京にブチ込まれた同点ゴールは、まさに「無様」な失点だったよ。

 でも、後半に、再び勝ち越しゴールを奪ってからは、まったくと言っていいほど、その積極プレー姿勢が減退することはなかった。いや、むしろ守備がダイナミックに活性化したと言えるかもしれない(ボールを積極的に奪いにいく姿勢が格段にアップした=1974オランダ代表のボール狩り!?)。だからこそ、アレックスのオーバーラップを中心に、次の攻撃にも抜群の勢いが乗りつづけていた!!

 江尻篤彦監督は、「平山相太が退場になり、人数的に優位になったから、最後まで持ちこたえることが出来た・・」なんていう(謙虚な!?)ニュアンスのコメントを出していたけれど、いやいや、この試合でジェフが魅せたダイナミックサッカーならば、平山相太が退場になっていなくても、最後までFC東京を凌駕しつづけていたに違いないよ。

 このサッカーならば、サポーターの方々に対しても、胸を張って「応援をお願いします!!」って言えるよね。そして、互いのフェアな感覚をベースに「価値交換メカニズム」が気持ちよく回りつづけ、ジェフ千葉が、地域社会のアイデンティティー(誇り!)として存在感を格段にアップさせていく。さて、(市原をベースにした!)千葉にも、本格的なサッカー文化が深く浸透しつつある。頼もしい限りじゃありませんか。

 ガンバレ〜〜、ジェフ千葉〜〜!!

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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