湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第4節(2009年4月4日、土曜日)

 

今シーズンのレッズは、本当に楽しみだね・・(レッズvsトリニータ, 1-0)

 

レビュー
 
 「日本の一部メディアで、今シーズンのレッズは(まったく)新しいチームだといったニュアンスの報道がなされていると聞く・・その報道に対して、この場を借りて明確にしたいことがあるのだが、それは、今年は、昨シーズンと戦力的に(選手の顔ぶれが)ほとんど変わっていないということ(ましてや、永井雄一郎や相馬崇人といった主力級が抜けたから、戦力的には、どちらかといえばダウン!)そしてそのチームをテイクオーバーした私が、わたし自身のコンセプトを基盤にチーム作りをしている最中であるということだ・・」

 ちょっと唐突に、フォルカー・フィンケが、そんな発言をはじめました。それは、質問に答えるというよりは(多くのメディアが来ているから、敢えて・・と、彼自身も注釈をつけていたように)彼自身が、日本のメディアに明確に認識してもらいたかったことなのかもしれないね。

 私は、その発言を、こう解釈していました。

 チームは良くなっているけれど、それは新戦力が入ったからではなく、オレの仕事が実を結びはじめているからだ・・。フォルカー・フィンケが、プロとしての自分の仕事に対するアイデンティティー(誇り)を主張した!? まあ、まさに「その通り!」だよね。

 ドイツの「SCフライブルク」でも、16年間にわたって、クラブ財政的にスターを買ってくることができない(逆に、育てた優秀な選手をビッグクラブに奪われてしまう)という環境のなかで良い仕事を積み重ねてきたわけだからね。いまある(限られた!?)才能を限界まで進化させ、それを攻守にわたる究極の組織プレーのなかで「有機的に連鎖させる」・・。彼は、そんな仕事に対して、大変な誇りをもっているというなんでしょう。

 もちろん日本のメディアも、そのことを知らないはずがないし、もしかしたら記事も、フォルカー・フィンケによって「レッズが生まれ変わった」というニュアンスだったのかもしれないよね。

 たしかに、フォルカー・フィンケが監督に就任してからのレッズ選手たちは「新鮮なモティベーション(やる気)」をもってサッカーに取り組んでいると思いますよ。

 フォルカー・フィンケは、こんなことも言っていた。「例えばエジミウソン・・優れたストライカーである彼が、この試合でも(流れのなかで)自軍ゴール前までもどってディフェンスをするシーンが何度もあった・・それは、彼の新しい側面だと思う(プレーイメージが広がった)」

 エジミウソンだけじゃないよね。アレックスが最終勝負を仕掛けていったら、「左サイドゾーンにいた」ポンテが、次の守備について自軍ゴール前まで戻っていたし、鈴木啓太と阿部勇樹の守備的ハーフコンビと山田直輝も、連続的にポジションをチェンジしつづけていた(山田直輝が、効果的なカバーリングに入っていた!?)。そんなシーンが、ホントに何度も積み重ねられているんですよ。

 要は、創造的なタテのポジションチェンジの実効レベルを極大化するための絶対的ベースである「守備意識」が高まっているということです。

 前々回のコラムに、「英語のかこみ取材」でフォルカー・フィンケが、今シーズンのレッズでは、最終ラインの選手でさえも、急に相手ゴール前まで顔を出して仕事をするというシーンを繰り返し目撃することになるだろう・・それも、今シーズンのレッズのコンセプトに含まれるのだ・・なんて話していたことを書いた。

 意味的には、前述したエジミウソンやポンテ、山田直輝のカバーリング仕事と同じコトだよね(あっと・・田中達也のディフェンス参加は言うに及ばずだよ!)。そんなプレー姿勢があるからこそ、誰でも「後ろ髪を引かれる」ことなくオーバーラップして最終勝負シーンへ絡んでいける。

 要は、全員守備、全員攻撃のトータル・フットボール・・。

 攻撃についてフォルカー・フィンケは、しっかりとボールをキープしながら(確実なポゼッションから)チャンスとなったら急激にテンポアップすることでコンビネーションを最大限に機能させる・・なんていう表現をしたりするけれど、彼がイメージするサッカーを、原則的なサッカーメカニズムを使って表現したら、こんな風になるかもしれない・・。

 相手にボールを奪われたら、チェイス&チェック、インターセプト、ボール無しのマーキング、協力プレスなどを有機的に(そしてダイナミックに)連鎖させることで(できるだけ高い位置で!?)相手からボールを奪い返す・・そして、カウンターやロングパスによる一発勝負チャンスを失ったら、まずしっかりとボールをキープすることでチーム内のポジショニング(スペーシング)バランスをマネージし、チャンスを見計らった(複数の選手が一斉にスピードアップするといった)テンポアップ&組織パスプレーによって決定的スペースを突いていく・・

 ダメだね・・まだまだ舌っ足らず。要は、しっかりと走ることで、攻守にわたって、出来る限り多く「数的に優位な状況」を作り出す・・ということであり、そのための絶対的ベースが「高い守備意識」と、それを実際のプレーに反映させるための「強い意志」ということなんだけれど・・。

 まあここでは、フォルカー・フィンケのサッカーについて、これからも「よりシンプルな表現」を模索しつづける・・という表現にとどめましょう。とにかく、難しい事象を(万人が共通の理解を共有できるくらいに!)より簡単で分かりやすく表現することこそが究極の目標イメージだからね。

 レッズの現状だけれど、もちろん、パス&ムーブや、三人目、四人目のフリーランニングも含め、ボールがないところでの動きの量と質についても、もっともっと改善していかなければなりません。目指すは「世界」。アーセナルやバルセロナ、マンUやチェルシー、リヴァプールやバイエルンといったワールドトップチームでは、世界の天才たちが、レッズの選手たちよりも、守備でも、攻撃でも(ボールがないところでも!)ガンガンと、全力スプリントで走りまくっているわけだからね。

 ということで、今回も最後は「選手個人に対するコメント」で締めることにします。

 まず何といっても、山田直輝。すごかったネ〜〜。豊富な運動量、パス&ムーブ、カバーリングといった「目立たない汗かき」だけじゃなく、守備でのボール奪取勝負、ココゾのチャンスでは、爆発的なドリブル突破にもチャレンジする。それも、何度ミスをしても、その積極的なチャレンジマインドに陰りを感じることがない。「そのこと」が、本当に素晴らしい。

 前半にも何度かあったけれど、後半立ち上がりにレッズが作り出した二度の決定的チャンスは秀逸だった。その中心にいたのが山田直輝。自信あふれるボールキープとフェイント。そして強烈な意志(勇気)に支えられた突破ドリブル。そして、自身でシュートにトライしたり、味方へ素晴らしいラストパスを通したり。鳥肌が立ったよ。

 最初の頃、若手では、原口元気の「発展ベクトル」が目立っていた。

 でも私は、最初の(原口の)二試合を観ながら、「テメ〜〜、ふざけるなヨッ!」ってな罵声を飛ばしていた。彼のプレーでは、そんな叱咤が自然と口をついてしまうような、ミスを恐れるからこその「後ろ向きの安全プレー」の方が目立っていたのですよ。でも、公式戦3試合目あたりからは、吹っ切れた勝負マインドが前面に押し出るようなった。

 そんなところに出現したのが、もう一人の若手、山田直輝でした。周りのジャーナリストの方々は、彼のことをよく知っているのでしょうが、私は、そこまで山田直輝を追いかけていたわけじゃないから・・(認識不足でした、スミマセン!)。

 山田直輝については、ここ数試合のコラムを参照してください。

 ところで、レッズでの若手の台頭。彼らをうまく(彼らが良いプレーをできるように)チーム戦術的な機能メカニズムに組み込んでいく。そこにも、フォルカー・フィンケのウデが発揮されていることは言うまでもないよね。

 ということで、最後はアレックス。90分間を最後までプレーした。そのなかで、唯一のゴールも演出した。やはり、ドリブル勝負やクロスの「変幻自在で実効レベルの高い内容」は、大したものです。たしかに守備では(いい加減さ故の!?)例によっての不安定さは何度か露呈したけれど、彼の攻撃での実効レベルには、確かに素晴らしいモノがある。まあ、イージーな守備の姿勢については、フォルカー・フィンケが、心理マネージメントのウデを発揮するでしょう。

 今日出場したプレイヤー以外にも、細貝萌、梅崎司、平川忠亮、赤星貴文、セルヒオ・エスクデロといった才能が目白押し。しっかりと考え、強い意志を基盤にしっかりと走ることの大切さを深〜く意識させられつづけた才能たち。

 今シーズンのレッズは、本当に楽しみだね。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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