湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第5節(2009年4月12日、日曜日)

 

厳しいスケジュールのなか、アントラーズは「内容と勝負のバランス」をうまくマネージしている・・(FC東京vsアントラーズ, 1-2)

 

レビュー
 
 「アナタの質問だけれど、それは、質問というより、アナタ個人の意見だと捉えることにしよう・・我々は、それを目指して努力をつづけている(それは周知のことではないか!?)・・たしかに(状況によっては)個人のチカラに頼ることが(比較的)多くなるケースも出てくるだろうが・・」

 アントラーズのオズワルド・オリヴェイラ監督が、表情を崩さずに(ちょっとイラつき気味に!?)わたしの質問に答えてくれました。その質問は、こんな感じ・・

 「アントラーズが挙げた(マルキーニョスと大迫による)二つのゴールは、まさに個人のチカラによるものだった・・このところのアントラーズのゲームを観ていると、どうも個人勝負による仕掛けが多いように感じる・・もちろん、頼れる『個』がいるのだから、それを活用しない手はないけれど、それでも、サイドからのクロス攻撃とかコンビネーションとか、そんな組織プレーをもっとミックスすれば、アントラーズの個の才能も、より効果的にそのチカラを発揮できると思うのだが・・」

 この試合は、内容では(城福監督も記者会見で胸を張っていたように)明確にFC東京に軍配が上がります。中盤での構成・・仕掛けプロセスでのイメージ・シンクロ度・・そして実効あるチャンスの量と質・・などなど・・

 もちろんその背景には、アントラーズが、前半15分までに二点のリードを奪ったということ「も」あります。そこでの選手たちの心理は、こんな感じだったのかな・・

 ・・我々はまだ、アジアチャンピオンズリーグによる(移動と生活、気候の違いetc.による)蓄積された疲労から完全に回復しているわけではない・・あっ(そんな厳しい状態にもかかわらず!?)二点もリードできた・・よし、残りの時間は、その二点をしっかりと安定したカタチで(そして効率的に)守りきってやろう・・

 そしてアントラーズのサッカーが(特に、ボールを奪い返すプロセスでのダイナミズム=迫力や力強さ=が)勢いを失っていくのです。そんなアントラーズに対し、もちろんFC東京のサッカーは、どんどん活性化していく。中盤での攻守にわたる活動量が(考え、そこで描写されるプレーイメージを積極的にグラウンド上で実行していこうとする姿勢が!)アップし、サイドを攻略していく積極性が高揚していったのです(長友と徳永、そして石川の意志パワーがアップ!)。

 ゲームが立ち上がった最初の20分間は(アントラーズがゴールを奪うまでは!?)内容的に、完全にアントラーズがゲームを掌握していた。その時間帯でのFC東京の攻めは、まさに寸足らず。城福監督の「戦術的な意図」が、まったくといっていいほどグラウンド上に投影できていなかったのです。

 そんなサッカーを観ながら、「やっぱりアントラーズは強いな〜・・これじゃFC東京はノーチャンスだぞ・・」なんて思っていたものです。でも・・

 まあ、サッカーは「究極の相対ボールゲーム」だからネ。別の表現をすれば、両チームの人とボールが、攻守にわたって有機的に連動しつづけるような、ホンモノのチームゲームとも言える。だから、相手のサッカーの内容によって、こちらのサッカー内容がアップしたりダウンしたりするわけです。もちろんチカラのあるチームの場合は、自分たちが「ゲームの流れの主役」になるわけだけれどね。

 というわけで、勝つことは勝ったけれど「全体的な内容」では納得できなかったオリヴェイラ監督・・ということだったんだろうね。記者会見に出席したオズワルド・オリヴェイラ監督の表情は硬かったですよ。まあ、わたし以外のメディアの質問も、ちょっとネガティブなニュアンスのモノがつづいたこともあるんだろうけれどネ。

 今シーズンのアントラーズ「も」、良いサッカーをやっているし、それに伴った結果も残している。私も含めて、誰もが、オズワルド・オリヴェイラ監督のプロコーチとしての(また心理マネージャーとしての)ウデに対して敬意を表しているはずです。

 私にしても、オリヴェイラ監督が、私の質問に対してちょっと「ムッ」として答えた心理バックボーンを分かっているつもりです。要は、彼が「トータルフットボール」を標榜していることをよく知っているのですよ(ある雑誌で、彼が好きなのは1974年ドイツワールドカップでのオランダチームだと言っていた・・その一言で彼のマインドが明確に理解できる!)。

 でも、サッカーでは、良いときもあれば悪いときもあるわけで、その背景要因に対して、純粋サッカー的に興味を持つことは、進化にとって大切な価値のあるクリエイティブ(創造的)なことだと思うのですよ。

 もちろん「ゲーム内容に対するネガティブなニュアンスの質問がつづいた」背景には、アントラーズが、日本を代表する、とても優れたチームだからこそ・・ということがあるのは言うまでもありません。実力があるからこそ、起きたネガティブな現象に対して「エッ・・何故、どして???」という純粋サッカー的な興味が湧く。決して、「重箱の隅を楊枝でほじくる」ような悪意の質問ではなかったと思いますよ。

 最後になったけれど、オリヴェイラ監督も触れていた、アジアチャンピオンズリーグと「J」の両立についてもちょっと触れておくことにします。アジアは広いし、気候条件がまったく異なるから、これは、UCLよりもかなり厳しいと言えるだろうね。

 もっと言えば、サッカーの歴史上、アジアチャンピオンズリーグと自国リーグの両立ほど、クラブにとって苛酷なテーマはなかったかもしれない。そのことは、一昨シーズンのレッズ、昨シーズンのガンバにも言えるでしょ。

 彼らは、2-3日のインターバルで厳しい勝負マッチがつづくという苛酷な条件のなかで「疲労回復と次のゲームへの戦術的な準備」という作業を、出来る限り効果的にルーチン化した。でも結局は、自国リーグでは成果を挙げられなかった。もちろん「ダブルやトリプル」は、ヨーロッパでも至難の業だけれど、それでも、その実質的な難易度を比べれば、確実にアジアの方が厳しいということになるでしょ!? もちろん彼らは、アジアチャンピオンズリーグのために自国リーグのスケジュールを「柔軟」に調整しちゃうような中東諸国も相手にしなければならないわけだからね。

 アントラーズのオズワルド・オリヴェイラ監督は、過去に「両立にトライした」経験があるから、今度は(予選リーグの地域マネージメントも導入されたこともあって!?)より効果的なチームマネージメントを魅せてくれるものと思いますよ。もちろん、内容と結果についての、「両立という意味合いも含めたベストバランス」を模索しながらネ。

 その視点じゃ、この試合のアントラーズに対しては、厳しいスケジュールを前提に、うまく「内容と勝負のバランスが取れた」サッカーを展開したという評価をするのが正当なものかもしれないね。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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