湯浅健二の「J」ワンポイント


2010年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第3節(2010年3月20日、土曜日)

 

誰にとっても、とても興味を惹かれる存在になったマリノス!?・・(MvsFR, 4-0)

 

レビュー
 
 「完勝じゃ〜〜・・相手は何もできなかったしノ〜〜・・フロンターレは調子悪かったのかノ〜〜・・とにかく、練習でやってきたことがピタリとツボにはまったということかな・・」

 木村和司監督。とにかく上機嫌。何か・・これまで、あまりお目に掛かったことのないパーソナリティーだから、このまま、素晴らしいサッカーで勝ち点を積み重ねていったら、監督としても、とても目立った存在になるに違いない。そうすれば、Jリーグを盛り上げるためのエネルギーだって充填してくれるはず。期待がふくらむね。もちろんわたしの学習機会という意味でもネ。

 とにかくサッカーファンの方々は、「守りに入り、官僚的にカタにはまった(監督さんの)雰囲気」に辟易(へきえき)しているはずだからネ。あんな型破りの「ポジティブ・スピリチュアル・エネルギー」をふりまけるサッカー監督が出てきたことは(もちろん、今のところ内容と結果が伴っているからだけれど、それでも・・ネ!)、素晴らしくエキサイティングな出来事じゃありませんか。

 いまのマリノスからは、美しく勝負強いサッカーというバランスの取れた方向性が明確に「見えてくる」からネ、観ていて、まったく眠くならない。美しさと勝負強さの優れたバランス・・組織プレーと個人プレーのハイレベルなバランス・・などなど、いまのマリノスには、サッカーの本質的な魅力があふれている。

 もちろん、「まだ三試合でっせ・・湯浅さん・・」なんて声が聞こえてくるけれど、それでも、あんな『ワクワクする希望を抱かせてくれるサッカー』でシーズンを立ち上げることが出来たこと、そしてそれをリードした木村和司が新任の監督であることは確かな事実だし、だからこそ「そのこと」は、とても高く評価できると思うわけです。

 では、木村和司は、監督としても優秀なのか? そんなことは、もちろん「まだ」分からないけれど、少なくとも、人心を掌握する心理マネージメント的なセンスは、とても「良いモノ」を秘めているかもしれないという可能性は感じますよ。

 前節のベルマーレ戦の記者会見で、狩野健太がブチ込んだスーパーロングシュートに対してコメントを求められた木村和司が、「ありゃ・・ワシに対する怒りが込められていたね・・」なんて発言した。

 それは、狩野が、ベンチスタートにさせられてしまったことに対して怒っていたに違いないという意味だけれど、満面に笑みを浮かべて語る木村和司のニュアンスは、もちろんポジティブ。メディアを使って、狩野健太に対してメッセージを送ったということなのかもしれない。狩野健太に対するメディアノイズをアップさせるという意図も含めて(!)ネ。その意味じゃ、木村和司は、なかなかの策士でもある!?

 その狩野健太だけれど、木村監督は、『もちろん』この試合では先発としてピッチに送り出しましたよ。それも、守備的ハーフとしてね。

 なかなか面白いアイデアだと思った。だから、そのことについて質問しようとしたけれど(守備的ハーフという基本的なポジションは、狩野をもっと怒らせるためだったのか?・・たしかに、狩野は、またまた、バーを直撃する強烈な怒りを込めた!?ミドル・キャノン・シュートをブチかましたからネ!!なんていうニュアンスの質問)、でも先に、同業者の方が質問してしまった。

 「狩野健太が守備的ハーフでプレーしましたが??」

 「そう・・ありゃ、彼自身がやりたいと言ったんじゃ・・そして頑張っていた・・彼は良いポジションを見つけたかもしれないね・・あっと・・この試合では左サイドハーフに入った兵藤慎剛だけれど、彼も、そこがやりたいという希望を持っていたんじゃ・・これであの二人は、自分に合ったポジションを見出したといえるかも知れんノ〜〜・・」

 面白いね〜〜、木村和司。自分からやりたいという「積極的な意志」を尊重し、実際にチャンスを与えることで(当然、全力でプレーするでしょ・・だからこその)ホンモノのブレイクスルーへの近道ベクトルに乗れる。とても立派で効果的な心理マネージメントですよ。自ら考えて走る・・意志とポジティブな自己主張・・というのが、モダンサッカー(究極の理想型はトータルフットボール!)の絶対的な基盤だからね。

 そんな心理マネージメントセンスだけじゃなく、木村和司は「自身が秘める天才的なプレー感覚」も、的確に選手に伝えることが出来ているようです。例えば、ボールの持ち方とか(ワンテンポずらす・・最後の一歩を繰り出していくタイミングのはかり方・・等々)、またシュートに入っていくときのタイミングや身体の使い方などなど・・。

 たぶん選手たちも、言われたことを試してみて、それが上手くいったという体感をもっているんだろうね、だから木村和司を信頼する・・。フムフム・・

ところで、木村和司の口からは、こんなコメントも聞かれた。「とにかく・・小椋祥平が効いていた・・」

 ということで、そのコメントを受け、質問をぶつけてみることにした。「木村さんの発言のなかでは、小椋が効いていた・・というのが、もっとも大事なキーワードのように感じます・・要は、ご自分の現役時代のプレーに対する良心の呵責から、あのような汗かきのプレイヤーを高く評価し、それを公共のメディアに載せる・・ということじゃないですか?」

 それに対して、最初は満面笑みだった木村和司の表情が、急に、スッと真顔になった。表情の演技が、とても上手くなったカズシ!? そして言うのですよ。「いや・・ホントに・・オグラは、とても効果的なプレーをしたと思いますよ・・でもハーフタイムには、無理してシュートへチャレンジしていかなくていいと言ったんです・・それよりも速い判断でパスをつないでいけと・・それでも、打てるチャンス10回に、1-2本は狙っていいと・・」

 木村監督が言うように、小椋祥平は、バランスの取れた意識と意志をベースに、中盤守備のアンカーマンとしても、素晴らしく効果的なプレーを展開していました。彼は、ある意味で、いまのマリノスのパフォーマンスを支える、もっとも大事な「汗かき」かもしれない。

 彼が中盤の底(センターハーフ)にいるからこそ、狩野健太と兵藤慎剛も、効果的に役割を入れ替わったり出来るし(ポジションをチェンジできるし)、特に狩野健太は、フロンターレ守備ブロックの視野から「消え」、最後の瞬間にゴール前にスッと現れるような、三人目、四人目の仕掛け人としても効果的なプレーを展開できていた。

 狩野健太は、汗かきプレーをやればやるほど、最終勝負で「目立つプレー」が出来るようになったということです。それこそが、サッカーのなかでも、もっとも重要なメカニズムの一つなのですよ(互いに使い・使われるメカニズム)。

 わたしの質問だけれど、ちゃんとした「天才」ならば、自分が良いプレー(攻撃での個人プレー)を展開できるのも、そんな汗かきプレーヤーのお陰だと(感覚的に!?)分かっているものだというニュアンスでした。あははっ・・

 ところで、試合。

 木村監督のコメント通り、最初から最後までマリノスが圧倒しつづけた。その絶対的な基盤は、もちろんディフェンスにあり。一人もサボることなく、素晴らしい組織ディフェンスを魅せつづけるマリノスなのです。チェイス&チェック、チャレンジ&カバー、ボールの周りの忠実な守備プレーが、とても上手く、組織的に連鎖しつづけるのですよ。

 そんなディフェンスプロセスのなかで、狩野健太も、とても素敵な実効プレーを魅せていた。もちろん、まだまだ「実効汗かきアクションの量と質」や「ボール奪取勝負の質」という視点じゃ、大きな課題を抱えているけれど、それでも彼が、とても大きな可能性を感じさせてくれたことも確かな事実だったですね。

 結果として、マリノスの中盤での競争は厳しさを増していく・・そして、そんな競争のなかで、健全な「緊張感」が高まり、全体的なチームパフォーマンスもアップしていく・・。そんな「競争」を、極限まで高めながらも健全なマインドの領域に収めつづけるのは心理マネージャーの仕事。木村和司監督の「指先のフィーリング」に期待しましょう。

 ところでフロンターレ。彼らの守備は、ちょっと悪すぎたですね。組織的な「プレー連鎖に対する強い意志」が感じられない。チェイス&チェックにしても、まさに「ぬるま湯」。周りの味方によるインターセプト狙いや、マーキングにしても、いい加減の極みでした。要は「意志のレベル」が、まさに地に落ちていたということです。

 これじゃ、マリノスにゲームを支配され、チャンスを作りつづけられてしまうのも道理。前節のグランパス戦での粘り強いサッカーが印象に残っていたから、この試合での体たらくに、ちょっとビックリしていた。さて、どうしたものか・・。

 この試合の後、もちろん味スタへ馳せ参じ、FC東京とセレッソのエキサイティングマッチも観戦しました。でも今日は、ちょっと疲れ気味。機会をみてポイントだけでもまとめますので・・

 



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