湯浅健二の「J」ワンポイント


1998年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第十三節(1998年10月24日)

アントラーズvsグランパス(1-0)

レビュー

 グランパスには、攻撃と守備の要、ストイコビッチとトーレスがいません。前節、国立競技場で対戦したアントラーズとレッズの試合では、両チームあわせて四人の主力抜きでの試合内容に注目し、そのことを「Yahoo Sport 2002 Club」に書きました。そこでは、アントラーズのパフォーマンスが、レッズを圧倒していたのです。

 主力と考えられている選手を欠いても、全体的なパフォーマンスに大きな落ち込みがない。それは、優勝候補と呼ばれるための条件です。その意味では、ドゥンガがいなくても、高いレベルのサッカーを維持できるジュビロも真の優勝候補と呼べる存在というわけです。

 さて試合です。開始当初は、この試合に負けたら完全に優勝戦線から後退してしまうというグランパスの闘志が、アントラーズの勢いを抑え込んでしまいます。ただ徐々に、落ち着いたゲーム運びのアントラーズが、ペースを握り返しはじめます。

 これは完全に地力の差。たしかに、ダイナミックな中盤守備など、積極的なプレー姿勢は見せるものの、それがチームとしてかみ合わないグランパス。徐々に選手たちのフラストレーションがたまり、チームプレー、特にボールがないところでの動きが消極的になってきます。そしてそのことが、守備にも悪影響を与え、これまたボールがないところでのマーキングに問題が生じてきてしまうのです。

 たしかに何度かグランパスも、平野や岡山などの個人勝負からチャンスを作り出しはしますが、それも単発。チームコンセプトの浸透度を測る指標でもある、「チームプレーと個人プレーのバランス」という意味では問題山積みといったところです。

 グランパスでは、創造性の欠如という意味で、やはりストイコビッチ欠場のマイナスが明らかに感じられます。

 彼がいれば、クリエイティブなタメなども含め、広く素早い展開など、攻撃に大きな変化をつけることができます。ただこの試合のグランパスは、変化どころか、どちらかといえば猪突猛進といったイメージなのです。チョット言い過ぎのように感じますが、基本的なキャパが高いグランパスなのですから、高いレベルのサッカーを期待するのは当然ですからね。

 後半も同じような展開です。

 中盤でのアクティブな守備からペースを握ろうというグランパスですが、逆にアントラーズが、落ち着いたサッカーで「効果的」なサッカーを展開してしまうのです。グランパスの場合は、ココゾッというチャンスでの「ボールの動き」がカッタルい。つまり、ここでスルーパスが出れば・・という状況で、決まってボールの動きが停滞してしまうのです(ボールを持ち過ぎてしまう)。

 そんなことを繰り返せば、決定的な場面でのフリーランニングが停滞してしまうのも道理。グランパスでは、チャンスでの「決定的な展開」に関する「共通イメージ(ピクチャー)」が十分に浸透していないと感じます。これでは、決定的なチャンスを作り出すことができないのもアタリマエ?!

 逆にアントラーズの選手たちは、ココゾッというチャンスでの「イメージ・シンクロ度」がレベルを超えています。シンプルにボールを動かすことで、比較的簡単にシュートまでいってしまうのです。それに対応し切れないグランパス守備陣。アントラーズの先制ゴールは時間の問題と感じられた後半最初の時間帯です。

 この原稿は、リアルタイムで書いているのですが、案の定、後半19分、フリーキックから、秋田が先取点を決めてしまいます。さてここからグランパスがどのようなサッカーを展開するのか。このまま、同じように、チャンスでのカッタルいプレーを続けるようでは・・。

 決定的なチャンスでは、決定的なフリーランニングと連動する、素早いスルーパスを通すのか、そのまま自分自身でドリブル突破を仕掛けるのか・・そのどちらかしかありません。ただグランパスでは、結局、そんなメリハリの効いたプレーは見られず仕舞い。積極的な中盤守備から、決定的なチャンスが出来かかるところまでいくのですが、そこでのプレーに「決断」が感じられないのです。これでは、アントラーズの堅牢な守備陣を崩し切ることなど出来るはずがありません。そして試合終了のホイッスルが鳴り響きました。

 この試合は、両チームともに積極的なプレーを展開するなど、「見た目」には拮抗した面白いゲームだったのですが、それでも内容的には、アントラーズが「一日の長」以上の差を見せつけたといったものでした。

レイソルvsレッズ(2-0)

レビュー

 今日は連戦。国立競技場でもナイター観戦です。

 この試合は、勢いでも内容でも、レイソルがレッズを圧倒しました。レッズは、国立競技場での連戦になりましたが、彼らにとってはここが鬼門?!

 レッズは、前節のアントラーズ戦もそうでしたが、小野とペトロヴィッチ(怪我)が欠場した場合、本当に「内容」が奈落の底・・になってしまうことを二度も続けて証明してしまったことになります。

 この試合でも、中盤でのレイソルのプレッシャーに、まったくゲームを組み立てることができません。ゲームの組立とは、勝負の場面に至るまでのファウンデーション。そこで、いかにクリエイティブにボールを動かし、最終的に、相手の守備の薄い部分を突いていくかが、勝負の場面における可能性の大きさを決めてしまうというわけです。

 それができないレッズは、結局は、前節のアントラーズ戦同様、単発の「直線的攻撃」を 繰り返すだけです。

 それには、前回も指摘した、彼らの「ファジー」な中盤守備も原因のように思います。彼らは、(世界の趨勢にのっとり?!)中盤での「バランス・オリエンテッド」な守備戦術をとっているのですが、そこでのキーポイントである「相手の攻撃の次に展開に対する読み」が甘いため、どうしても、レイソルの選手たちが、(中盤で)フリーでボールを持ってしまいます。つまり中盤の多くの場面で、レイソル側が「攻撃の起点」をどんどんと作り出してしまうということです。

 それはそうです。レイソルの中盤選手たちは、プレッシャーが甘い状態でボールを受けるわけで、簡単に振り向けたり、余裕をもって「ルックアップ」ができるのですからね。

 対するレイソルの中盤守備は、これまた前節のアントラーズ同様、非常に忠実な「マン・オリエンテッド」。レッズの中盤選手たちで、ある程度フリーでパスを受ける選手はほとんど出てきません。これでは・・

 また、レイソルのツートップ、ストイチコフとベンチーニョの、迫力あるクリエイティブプレーに比べ、福田、岡野のツートップはほとんど仕事ができません。それはそうです。後方からの、状況をしっかりと把握した押し上げがほとんどないのですからネ。

 ストイチコフですが、私がヨーロッパで見たときよりも、数段パフォーマンスが落ちています。まあ、年齢を考えれば当然なのですが、そんな彼でも、周りが彼を「起点」として使おうという意識が強いレイソルでは、超ロング・サイドチェンジパス、決定的なスルーパス、はたまたドリブル突破など、かなりの活躍を見せていました。

 それも、チーム全体の意識付けの成果。チーム内での決まり事がしっかりと機能していることの証明といったところです。西野監督に拍手しておきましょう。

 それでもチョット気になったことがあります。それは、日本選手たちは、決められたことを守ることだけは得意だということです。最終的には自由にならざるを得ないサッカーでは、「クリエイティブなルール破り」も、強く、魅力的なサッカーを実現するためには不可欠な要素です。何となくイイコチャンばっかりそろってしまった感じのするレイソル(事実誤認であればご容赦!!)。それさえ越えれば、確実に優勝候補の一角を担ってくるに違いありません。一人ひとりは、それを予感させるだけの能力を持っていることはたしかなことですからネ。

 最後に、レイソルの二人のセンターバック、渡辺と萩村について。

 この二人のプレーが、非常にインプレッシブだったもので、一言だけ付け加えることにしました。

 彼らの、忠実でクリエイティブな守備は、本当に特筆もの。もちろんそれは、明神などの守備的ハーフの活躍があって初めて可能になるのですが、それにしても・・なのです。レイソルの中盤守備のプレッシャーとマーキングは忠実そのもの。それがあるから「パスの出所」に対する読みが確実なものになるということです。そして彼らは、本当に忠実に、そして集中力をもって、確実でフェアなアタックを敢行します。

 そのセンターバックの守備だけを見ていても入場料にオツリがくるというものです。私は、彼らのプレーだけでも十分に試合を堪能しました。

 さて、レッズを除き、アントラーズ、ジュビロ、エスパルス、そしてマリノスの上位四チームが勝利を収め、優勝争いを演出するチームが絞り込まれてきました。

 試合内容からすれば、当然ともいえるリーグ展開ではあります。長丁場のリーグ戦を制するのは、やはり「内容」が伴っているチーム。つまり、一国のリーグチャンピオンが、その時点での実力ナンバーワンチームというわけですが、それが、前年度の各国リーグチャンピオンが集うヨーロッパ・チャンピオンズリーグが有する「権威」の背景にあるのです。



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