湯浅健二の「J」ワンポイント


1998年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第六節(1998年9月19日)

ジュビロvsヴェルディー(1-0)

レビュー

 前節のベルマーレ戦。そこでは良くなる方向にある・・という印象をもったヴェルディーでしたが、この試合では、まったくの格の違いを露呈してしまいました。

 それほど、ジュビロとのサッカーの質に差があったのです。たしかに最初の10分間は、ある程度は互角の展開を見せました。ただそれはボール支配率という意味だけ。内容は完全にジュビロのものだったのです。

 その内容の差の意味ですが、それは「ボールの動きの質」とでもいえるものです。ジュビロのボールの動きが、「タテに深さのある」ものなのに対し、ベルディーのそれは、まったく横方向のみ・・というのが最も目立った差です。これでは、ジュビロ中盤の守備の餌食になってしまうのも当然といったところでした。また、ボールの動きの素早さ、広さにも大きな差があります。

 「タテに深さのあるボールの動き」ですが、それは、短いタテパス、バックパスを、横パスをつなぐなかでどんどんとミックスしてくるという意味です。

 そんなふうにボールを動かさせてしまったら、守備組織が「タテ」に振り回されてしまうことになるというわけです。横方向の守備ラインの移動では、ある程度組織をコントロールできます。それでも、戻って、また前へという守備の動きを繰り返さなければならないのでは、あまりにも負担が大きすぎるのです。

 ヴェルディーが、タテに振り回されてしまった原因は、なんといっても中盤守備にあります。中盤でのジュビロのボールの動きを寸断してしまうような、読みベースの守備が見られないのです。

 ジュビロは、10メートル前の選手の足元に、どんどんとボールをつなぎます。その選手は、ボールをこねくり回さず、スグにダイレクトなどでバックパスをするか、横に展開してしまいます。バックパスの場合は、もちろん、最初にタテパスを出し「パス&ムーブ」で動いた選手へ戻すのです。それを今度は、左か右へ展開した後、またまたタテの「前後パス」をつないでしまいます。そして、ヴェルディーを「タテ方向」に振り回すことで出来た「タテのスペース」を簡単に突いてしまう。これでは・・。

 後半のシュート数は、ジュビロの14本に対し、ヴェルディーはたったの1本。そんな数字にも、サッカーの内容に大きな差があったことがうかがえるというわけです。

 その立役者は、例によってドゥンガ、名波、藤田の中盤コンビです。特にドゥンガの「顔の向きのフェイント」をつかったシンプルな「短いタテパス」。それがどんどんと決まり、ヴェルディー守備陣をタテに振り回してしまいます。

 とにかくジュビロのサッカーの質は、他のJチームと比べても群を抜いています。たしかに、セカンドステージでは、開幕戦から二連敗を喫してしまいましたが、内容だけは対戦相手を圧倒していました。新しい日本代表監督、トルシエ氏も、短い時間でしたが、観戦したレッズ対ジュビロの試合で、勝った方のレッズではなく、ジュビロの質の高いサッカーをしっかりと評価していたのが印象的でした。

 さてヴェルディー。これは時間がかかるな・・、というのが正直な感想です。個人的なチカラは誰もが認めるところですが、とにかく「良いサッカーに対するイメージ」の、チーム内でのシンクロ(調和)レベルがあまりにも低いと感じます。一人ひとりのプレーがバラバラなのです。これでは、クリエイティブで効果的なパス回しができるはずがありません。

 個人的なチカラはあっても、チームとして、どのようなサッカーをやるのかという「コンセプト」が五里霧中ではいかんともし難い?! たしかに、忠実な守備から、シンプルにボールを動かして攻めようという意図は感じますが、それがまったく機能していない。クリエイティブな「リスクチャレンジ」もない。

 ヴェルディーは、心理的な悪魔のサイクルに入っているのかもしれません。

 そこから這い出すためには、とにかく、まず監督の意志として「こういうサッカーをやる」というのが出発点になります。場合によっては、必要な中心選手たちとの合意が必要になるかも知れません。そしてそれをトレーニングで徹底的に追及するのです。そんな日々の努力のみが、この悪魔のサイクルから脱出する手段となります。

 彼らがどこまで再生するかにも注目してみようと思っている湯浅でした。

レッズvsフリューゲルス(3-0)

レビュー

 これは、あまり面白い内容のゲームではありませんでした。

 両チームのボールの動きは、ジュビロ対ヴェルディーのゲームと比べようがないほどカッタルイものだったのです(ヴェルディーも、ボールの動きだけはそこそこのレベルにありましたからネ)。

 でもそれなりに見所はありました。

 まずレッズですが、彼らの、しっかりと守ってカウンター・・というチーム戦術は明確です。彼らのゲームで良かったのは、選手全員がそのチームコンセプトに則った、クレバーで忠実なプレーを最後まで続けていたことです。一人でもそのコンセプトに合わないプレーをしてしまっては、そこからリズムが狂ってきてしまいますからネ。

 またこの試合は、小野がケガで出場できないということで、また前半に一点リードできたということで、その「ゲーム戦術」が、よりメリハリの効いたものになります。つまり、7-8人で、しっかりとした中盤から最終守備ラインまでの守備ブロックを作ってしまい、「フリューゲルスに攻めさせ」、そして効果的なカウンターを決めるという戦術ターゲットが、より鮮明になっていたということです。

 そのカウンターですが、以前のレッズがやっていたような、一発ロングパスというプリミティブなものではなく、ボールを奪い返した地点から、素早く、しっかりとボールを動かしながら(選手間でパスをつなぎながら)、なるべく素早く相手ゴールへ迫るというものです。そこでの「ミソ」は、ボールを奪い返した選手と、少なくてももう一人が必ず攻撃に参加し、ツートップをサポートするというチーム内の決まり事があったことです。

 たぶん原監督は、フリューゲルスが採用しているスリーバックの弱点を見抜いていたのでしょう。つまり、レッズのサイドバックがオーバーラップするときは、確実に両ウイングが戻って両サイドのスペースを埋めるが、ツートップを除く、それ以外の二列目、三列目の選手が、基本的には大きなスペースが空いている両サイドを攻め上がった場合、(最初の段階で)フリーになってしまうケースが多いということです。遅れてマークにきた相手との勝負では、攻撃側が格段に有利になりますからね。

 その決まり事があるから(つまりサポート要員は常にいるから)、攻撃参加する選手も、後ろ髪を引かれることはありません。彼らのカウンターは危険このうえないものでした。そして、その効果的なカウンターを仕切っていたのが、中盤のスーパーマン、ペトロヴィッチと福永だったというわけです(とはいっても、この試合のペトロはそんなに良い出来ではありませんでしたがネ)。

 そのようなゲーム戦術のレッズに対してフリューゲルスは、(知ってか知らずか・・)ゲームを支配し続けます。特に、一点を追う後半などは、ほとんどの時間帯、フリューゲルスがボールをキープし続けていたのです。

 ただ、中盤でのレッズ守備(マークとインターセプト狙い)が忠実なため、どうしても、横方向の足元パスだけになってしまいます。前線にボールをつけ、そのポストプレーを利用して広く素早い展開を・・などといった攻めの変化がまったくといっていいほど出てこないのです。

 彼らの攻めは、後方で横パスをつなぎ、次に中盤でも横パスをつなぎ、最後は、前方にスペースが空いた誰かが、単独勝負で打開していくといったことの繰り返し。たしかに、レディアコフ、フットレ、三浦などの才能が、最初の段階では切り込むことに成功しますが、後が続かないという攻めを繰り返すのです。

 ジュビロのような、タテの素早いパス交換はほとんどありません。もちろんレッズの中盤守備が非常に厚いことで、たしかにスペースはなかったのですが、それでも、どんどんと短いタテパスで味方の足元にパスをつけ、そこから素早いダイレクトパスをつないで展開するといった、クリエイティブなアイデアは、ついに、最後まで見ることがありませんでした。

 能力はあるフリューゲルス。ただこのまま負け続ければ、心理・精神的な悪魔のサイクルに落ち込んでしまい、プレーがどんどんと消極的なものになっていってしまうに違いありません。

 一度彼らは、レッズのようにしっかりと守ってカウンターを仕掛けるという、それまでとは全く違ったゲーム戦術で戦ってみてはどうでしょうか。もちろん、逆に守備的になり過ぎて、攻撃参加が消極的になってしまう危険性はありますが、そこで監督の「意識付け能力」が試されるというわけです。

 自信を取り戻すためには、まず勝ち星を挙げることが先決。自信を喪失したチームほど惨めな存在はいません。そのことで、彼らのサッカーが、より矮小に、より消極的になっていってしまうに違いありませんからネ。

 ともあれ、これでレッズの単独首位は変わりません。どこまで突っ走るか。守備ブロックは堅牢ですから、そうそう崩れることはないとは思いますが・・。とにかく彼らも含め、優勝争いが非常に面白いものになってきていることだけはたしかです。BR>



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