湯浅健二の「J」ワンポイント


1998年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第九節(1998年10月3日)

フリューゲルスvsジュビロ(0-4)

レビュー

 アララ、ジュビロが四点も入れてしまった。

 この試合を、終了10分前まで三ツ沢で観戦し、国立競技場でジェフ対ヴェルディーの試合を観戦するため、スグに東京にとって返したのですが、国立競技場の記者控え室で、またまた中山がハットトリックをやってしまったことを知ったのです。

 私が見ていたときはまだ「2-0」。やっぱり最後まで見てから出発すればよかった・・。

 とにかく中山の忠実なフリーランニングと、針の穴ほどのチャンスでも、勝負のスポットに飛び込んでいくチャレンジの姿勢には脱帽といったところです。

 秀逸だったのは先制ゴール。左サイドで、清水、奥とのワンツーを交わして上がっていくドゥンガ。最後は、奥からのリターンパスを、右足のアウトサイドで「指先のフィーリング」を感じさせるタテへのスルーパスです。それも、顔が向いている方向からすれば「背後へのパス」ということになります。流石ドゥンガです。そこに中山が飛び出していたことは言うまでもありません。

 それにしても中山のフリーランニングスタートのタイミングの良かったこと。それも、ドゥンガの「背中の目」に対する信頼なのでしょう。これでは、フリューゲルスのディフェンダーが付いていけなくても当然か・・・などとアマイ評価を下してしまう湯浅でした。

 ところで、その中山のシュートですが、それは、最後の瞬間までシッカリと楢崎の動きを観察し、彼の股間を抜いて挙げた素晴らしい「ゴールへのパス」でした。その落ちついていたこと。これも、ワールドカップ効果なのでしょうか、中山は、ストライカーとして一皮も、二皮もむけたように感じます。

 さて試合です。そこでまず感じたのは、三ツ沢のグランドの悪さ。もうこれは、プロサッカーの試合をする環境ではありません。グランドが悪いと、どうしてもボールばかりを見てしまうようになります。周りが見られないから、クリエイティブなパスプレーに、どうしてもブレーキがかかってしまうというわけです。

 たぶん、学生のサッカーや、もしかしたらラグビーなどにも使っているのかも知れません。それも、悪天候にもかかわらず・・。「J」の権威の凋落といったところでしょうか。もし「J」が、以前のような価値を提供できているのだったら、けっしてグランドを台無しにするような、そんな愚鈍な行為は慎まれたに違いないと思うのですが・・。

 それでもジュビロのボールの動きが、普段と変わりないように見えたのですから大したモノです。試合は、最初から、忠実でクリエイティブな中盤守備がうまく機能し、ボールを奪い返した後の攻撃でも、例の、前後左右に広く、素早いボールの動きが冴えたジュビロが、完全に制圧してしまいます。

 押し返せる可能性がまったく感じられないフリューゲルス。レシャック監督の後を受けたエンゲルス監督にとっての初陣なのですが、彼がコンベンショナルなスリーバックに戻したこともあり、最終局面での守りは良くなっています。ただ攻撃がいけない。しっかりとボールをつないで押し上げていくことができないのです。それは、奪い返した後のボールの動きがスムーズでないことから(フリーランニングがない、ボール扱いがカッタルイ・・)、ほとんどの攻めが、ジュビロの中盤守備の餌食になってしまっていたからです。彼らは、疑似「悪魔のサイクル」に落ち込んでいたとすることができそうです。

 それでも15分過ぎに、一度フリューゲルスが、カウンターでジュビロゴールに迫ります。それは、ジュビロの選手たちが、ちょっと調子に乗って上がりすぎ、守備のバランス(人数的、ポジション的)が崩れてしまっていたからです。決定的なチャンスに結びつけられなくてよかった・・ホッと胸をなでおろすジュビロの選手たち。

 ただここで、ジュビロの本領が発揮されます。危ない場面に持ち込まれてしまった後、すぐに最終守備ラインと中盤守備の組織を修正してしまったのです。たぶんのドゥンガのリーダーシップが発揮されたのでしょうが、そんなところにもチャンピオンの貫禄を感じます。

 この試合でのドゥンガですが、たしかに運動量が減ったとはいえ、とにかく攻守にわたってクリエイティブなプレーを魅せ続けます。彼のプレーで秀逸なのは、何といってもダイレクト、ロングなどのパスの種類が多いこと。それも、身体の向きに関係なく、素晴らしいタイミングで理想的な方向、強さ、種類のパスが飛び出します。

 彼のクリエイティブな守備と、攻撃でのパスを見ているだけで、横浜にきた甲斐があったと感じたモノです。

 後半、フリューゲルスが急に積極的になります。ただそれも、最初の時間帯だけ。二度、三度とジュビロのカウンターを浴びてからは、また前半のような消極サッカーに逆戻りしてしまいます。要は、中盤での守備がすべてだということです。そこでの集中力(考え続ける姿勢)が、その後のアクティブな攻撃の「心理的なベース」になるのです。

 フリューゲルスの守備は、たしかに最終守備ラインは少しは安定する方向にあるとはいえ、ポジションバランス、相手の「次のプレー」に対する予測など(それが、美しいインターセプトのベース)、中盤での守備にまだまだ課題をかかえています。そしてその後の攻撃のカッタルイこと。これでは・・。

 ちなみに、この試合のシュート数は、ジュビロの「21本」に対し、フリューゲルスは、たったの「4本」でした。まだまだフリューゲルスの再生には時間がかかりそうです。

ジェフvsヴェルディー(0-2)

レビュー

 やっとヴェルディーが勝ちました。相手が調子の悪いジェフだったとはいえ、また内容的にもまだまだだったとはいえ、勝ったことで、次のジャンプアップにつながる希望が見えてきたことは大きな収穫だったと思います。

 ヴェルディーは、前節から、運動量が極端に落ちてきたラモスを先発から外しています。また、同じく運動量が少ない前園も、ブラジルへ短期移籍しています。それが、中盤での攻守にわたるモビリティー(動きの質と量)が、前に私が見たときよりも向上していることことの理由の一つのようです。

 ボールの動きはまだカッタルイのですが、それでも、中盤での守備がアクティブになってきたことは好材料です。前述しましたが、それがすべての始まりなのです。

 また、守備の戦術自体も、かなり堅実なものに好転していると感じます。それまでは、自分たちのゴール前でもマークを受け渡してしまったり、タテにフリーランニングした相手を、簡単に行かせてしまうような、いい加減な守備をやっていたのですが、この試合では、「ボールのないところでのアクティブ守備」など、選手一人ひとりに、忠実な守備プレーに対する意識の高まりを感じたのです。

 ヴェルディーは、正しい方向へいっているようです。何もそれは、彼らが久しぶりに勝ったからいうのではありません。彼らの意識に、明らかにポジティブな(前向きな)変化が見えてきたからなのです。

 この試合では、モアシール、菅原のボランチコンビがうまく機能していたことも注目点です。一つのチームにおけるボランチの重要性は、今回のワールドカップで、より鮮明になってきました。この二人が、このままウマク機能することが、これからのヴェルディーの生命線になるかもしれないと感じています。

 最後に、後半に交替出場したラモスについて。たしかに運動量は減りましたが、それでも彼の非凡なゲームセンスは、まだまだ冴えわたっていました。負けていても、勝っていても、相手が疲れてくる試合途中の「勝負どころ」で彼を起用する・・。効果的です。

 実のこというと、湯浅は、今日は疲れ気味です。ワールドカップ後の最初の本は出版されたのですが(世界サッカー紀行・・湯浅健二のワールドカップ観戦記・・ゼスト刊)、いまは二冊目の執筆に追い回されている最中なのです。ということで今日はこれまでにしたいと思います。では・・・



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