湯浅健二の「J」ワンポイント


1999年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第十三節(1999年11月20日)

レッズvsベルマーレ(2−0)

レビュー

 これで、一時期は「湘南の暴れん坊」とまで呼ばれたベルマーレの、「J2」への降格が決定しました。かなり以前から降格の可能性は限りなく大きかったわけですが、それでも実際に決定してみると・・

 私が読売サッカークラブのコーチをしているとき、ベルマーレの母体だった「フジタ」は、常に強敵でした。また私は、神奈川県サッカー協会の技術指導委員でもあるわけで、「地元」のクラブが降格することは寂しい限りではあります。

 これで彼らは、本格的な「再生プロセス」をスタートさせることになります。それも「市民・イニシアチブ」のクラブとして(そう聞いています・・)。私は、その先駆者である「横浜FC」とも連絡を取り合い、互いに助け合うような関係を構築できれば・・なんて期待しているんですが、いかがですか「横浜FCソシオ」の皆さん。

 今まで、市民イニシアチブの活動が、官僚主導の日本でメジャーな社会的存在になることはありませんでした。それが、横浜FCの登場で、「風穴」の雰囲気が・・。その活動に、着実な「市民イニシアチブ・パワー」を感じるのです。

 もちろんシチズン・サッカークラブとしての「市民権」を獲得することまでには(要は、地元の人々が、そのクラブのことを自分たちのクラブだと認識し、アイデンティティーや誇りを感じること)、まだまだ様々な紆余曲折があるに違いありません。ただ私は、サッカーが持つ、人類史上でも比較対象がないほどの「異文化接点パワー(文化的パワー)」を信じています。

 「高い参加意識」をもって活動を続けている、湘南ベルマーレに「かかわる」方々に敬意を表するとともに、羨ましくも思います。信ずるものを持ち、誇りに思える活動に参加すること、そしてそれを育てていこうとすることは、自らの「社会的アイデンティティー」を持つことを意味するのですから・・

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 さて試合ですが、ジェフが、ヴィッセルに「0-1」で負けたことを、レッズの選手たちが知らないはずがありません。私は、その「何かからリリースされた心理状態」が、立ち上がりから彼らのプレーに如実に現れていたと思います。そのことを感じたのは、試合がはじまってすぐのことです。

 前節のジェフ戦とまったく同じメンバー、同じゲーム戦術で試合に臨んだレッズ。ただ彼らの「実際のプレー内容」はまったく別物でした。中村が積極的に最前線に飛び出していく。両サイドの城定、山田のオーバーラップも盛ん。また永井が、以前の全盛期のプレーを彷彿させる仕掛けプレーてんこ盛りの大活躍。そして小野も、10分を過ぎる頃には、立ち上がりの「消極プレー」とは見違えるほどの、自分主体の(自分を中心にゲームを進めてやろうとする姿勢に満ちた)効果的プレーを繰り広げはじめます。

 4分(中村から福田へ・・シュートまで)、8分(石井からのパスを受けた永井が、ドリブルで中央へ切れ込んでそのままシュート・・先制ゴ〜〜ル!)、12分(またまた福田のフリーシュート)、14分(今度は中村のフリーミドルシュート)、17分(小野スーパー守備からラストスルーパスを受けた福田がシュート!)、そして19分(永井のセンタリングを福田がヘディングシュート・・追加ゴ〜〜ル!)などなど・・

 前節のジェフ戦では、レッズの選手たち全員が「守備のチーム戦術」に金縛り状態でした。全員が「次の守備」のこと(つまり、ボールを奪われちゃったらどうしよう・・ということ)ばかりを考え、「手足が縮こまった攻め」しか展開できなかったのです。いくら慎重に・・とはいっても、それでは「ワンチャンス」だって作り出せません。デモス監督は、「慎重に、確実に守り、チャンスがあれば思い切って・・」という『意識付け』だったんでしょうが、選手たちは、「とにかく、まずノーリスク!(負けたら大変・・というネガティブ指向)」という意識の方が強すぎることで、手足が萎縮してしまって・・

 極限的な心理プレッシャーのなかでも、ココゾ!の場面でリスクにチャレンジする勇気を持ち続けることが出来る・・それも「世界」へ近づくプロセスに「乗る」ための必要条件なのです。

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 この試合で目立ったポイントをいくつか。まず小野・・

 立ち上がりは、「例によって」受け身で消極的な、ニブいプレーに終始しましたが、先制ゴールが決まった頃から、攻守にわたるプレーが格段に積極的なものになっていきます。特に17分のプレーは秀逸。レッズがボールを失った瞬間から、最前線で(それも一人で)激しいチェイシングを続けてボールを奪い返し、そして、これまた「例によって」の(類い希なる才能ベースの)、福田へのスーパースルーパスを決めたのです(前述のとおり、強烈なシュートはGKの正面!!)。

 いやいや、この一連のプレーはタメ息ものではありました。だから彼の「才能」が、もっと早く、もっと大きく花開いて欲しいと思っているんですヨ。

 小野の、この試合での『攻守にわたる』積極プレーの姿勢(守備でのチェイシングは特筆モノ)は、私が見た中では最高レベル。だから、彼の「才能ベースのクリエイティブプレー(スーパーパス、相手をかわした後のドリブル勝負、はたまたベストタイミングのフリーランニング等など)」が、もっともっと危険なものになる・・。そんなプレーを見て、ちょっと安心した湯浅でした。

 次がベギリスタイン(チキ)の、決定的フリーランニング。

 彼は、本当に「ちょっとしたチャンス」でも、常に「決定的なスペース」へのフリーランニングを狙っています。その「忠実さ」は、まさに「世界」。たしかにバルセロナでも、彼は「使われ役」としても非凡な才能を発揮していましたからネ。

 あれだけ「パスを呼び込むフリーランニング」が忠実だと、パスの出し手の方も、常にチキのフリーランニングを「イメージ」に置いて「パスを受ける」ことが出来ますからね。永井、小野、はたまたペトロヴィッチなども、チキの「スターティングポジション」をアタマの中にイメージしながら味方からのパスを受けていましたから、そこから「ダイレクトや、ワンタッチトラップからの素早いタテパス」が出されていました。彼の「イメージ・シンクロ・フリーランニング」から、一体何本の「決定的チャンス」が生み出されたんでしょう・・素晴らしい!!

 (この試合では?!)彼の「決定的スペースへのフリーランニング」を見るだけでも、入場料にオツリがくるってえもんじゃありませんか・・

 最後に、中村とペトロとの交代について・・

 試合後のインタビューに出られなかったモノで、実際のところは分かりませんが、たぶんそれは、この試合のベルマーレだったら、もうちょっと守備を薄くしても攻め崩されることはない・・、だから、攻撃力のあるペトロを入れることで、ジェフとの得失点差をもっと有利にしておこう・・ということだったんでしょう。でも結局は、二点取ったことで、ちょっと緩みすぎてしまったレッズは追加ゴールを奪うことはできませんでした。

 ペトロは、いつものように超アクティブにプレーしていましたが、逆にそれで、小野のプレーが、ちょっと「狭く」なってしまった・・?!

 小野には、ペトロがいたとしても、「オレが中心になってボールを動かす!! オレが中心になってチャンスをつくる!!」という気構えでゲームに臨んで欲しいモノです。

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 これでレッズは、ジェフに「3ポイント差」をつけ、得失点差でも逆転しました。とはいっても勝負はこれから・・本当にこれからなんです。

 たしかにレッズは、「降格リーグ・サバイバルレース」での心理・精神的アドバンテージを「勝ち取り」はしました。それでも、この心理・精神的余裕は、一歩誤れば、逆に「ネガティブ」に作用したりするのです。

 「とにかく失点を避けなければ・・もっと確実・慎重に・・」という守りの姿勢によって、レッズに、消極プレーを繰り返す落とし穴が口を開け、逆に、何も失うモノがなく「全てから吹っ切れた」ジェフが、スーパーゲームで残りの試合を制してしまう・・そんな可能性を誰も否定できないですからネ・・




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