The 対談


対談シリーズ(第四回目)・・今回は、現ドイツ代表監督、クリンズマンとの単独インタビューです・・(2004年12月28日、火曜日)

さて、お約束したとおり、ドイツ代表監督ユルゲン・クリンズマンとのインタビュー全文を「The対談」に載せておくことにします(インタビューでは、彼のファーストネームであるユルゲンと呼びかけています)。まあ対談とはいっても、限られた時間のなかで何とか彼に話してもらうことがミッションだったから、実際には、まさに「インタビュー」ということになってしまいましたけれどネ。

 彼が話した内容については、「行間コンテンツ」も含めて、ニュアンスまでしっかりと網羅してあります。もちろん行間コンテンツについてはカッコでくくりました。普遍的なテーマも含め、なかなか内容あるインタビューになったと思っています。また部分的に、代表コーチのエーリッヒ・ルーテメラーのハナシや、ドイツ代表に帯同してきたドイツ人ジャーナリストによる情報も載せておきます。また、残念ながら今回は、様々な事情で写真の掲載は断念しました。悪しからず・・

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 湯浅(以下Y):『ユルゲン・クリンズマンがチームを引き受けてから、オーストリアとのアウェー戦、ブラジルとのホーム戦、イランとのアウェー戦、カメルーンとのホーム戦を3勝1引き分けと負けなしだっただけではなく、内容的にも、内外から高く評価それる素晴らしいサッカーが展開できている。その好調の要因は??』

 ユルゲン・クリンズマン(以下K):『まず何といっても、コーチのヨアヒム・レーヴ、マネージャーのオリバー・ビアホフ、そしてGKコーチのアンドレアス・ケップケと監督のオレで組むカルテットが、それぞれに強みを発揮し、それが相乗効果を発揮しているということを挙げなくちゃならない。コーチのレーヴは、戦術的なブレインとしてだけではなく、トレーニング計画やその実施でもチカラを発揮してくれている。彼のポジティブシンキングは特筆だよ。またドイツ代表チームに関する実際的なマネージメントをすべて掌握しているビアホフも、現場を全面的にバックアップしてくれている。彼は、現場と協会マネージメントを結び付けているわけだけれど、(現場のメカニズムを深く理解しているから)本当に信頼できる仲間というわけさ。』

 つづけてK:『代表チームをこのようにチームでマネージするのは今までにない試みなんだ。誰がチーフというわけではなく、全員がそれぞれに与えられたフィールドで強みを発揮し、信頼関係ベースの協力体制を敷いているというわけだ。もちろん最終的な決断はオレが下すけれどね。』

 ここでYの補足:ユルゲン・クリンズマンについて、私の旧友でもあるドイツ代表の第二コーチ、エーリッヒ・ルーテメラーが次のように補足してくれました。彼は、プロも含む、全てのドイツ・コーチ養成コースの総責任者でもあります。要は、コーチ養成システムの責任者が、常に代表チームの現場と直接的に連携していることには重要な意味と価値があるということで、誰が監督になろうと、エーリッヒが常にコーチとして代表チームに含まれるということです。ちなみに、日韓ワールドカップでも、ミヒャエル・スキッベとエーリッヒ・ルーテメラーが、ルディーフェラー監督を補佐していました。そのエーリッヒのクリンズマン評はこんな感じでした。「とにかくユルゲン(クリンズマン)は、ポジティブシンキングで、決断力があり、パーソナリティーにあふれたリーダーシップを備えているよ。オマエも聞いていると思うけれど、彼が代表監督に就任してからの短い期間にもいろいろな厳しい意志決定シーンがあった。そこでのユルゲンは、とにかくためらうことなく、オーラを発しながら正しい決断をしていた。周りの期待感が高まるのも当然だな・・」。ここでエーリッヒが言った厳しい決断とは、ドイツサッカーの伝説的なGKであり、これまで代表チームのGKコーチとして長い間仕事をしていたゼップ・マイヤーと決別したことを指すのでしょう。これはエーリッヒではなく、ドイツ代表に帯同してきたドイツ人ジャーナリストから聞いたハナシだけれど、そんなクリンズマンの決断について、前代表監督のルディー・フェラーが、こんなことを言ったとか。彼とクリンズマンは、ドイツが世界チャンピオンに輝いた1900年イタリアワールドカップでのストライカーコンビでした。「ユルゲンは、正しい決断を下したと思うよ。オレには、決して出来ない決断だけれどね・・」。どうして出来ないのかについては、湯浅が想像力を発揮しましょう。たぶんそれは、フェラーが、ドイツ代表の「古い体質」に乗っかっていただけではなく、ドイツの定番メディアとも「お近づき過ぎて」いたということなんでしょう。まあこのテーマについてはまたそのうちに・・。ちょっと寄り道をし過ぎました。ユルゲン・クリンズマンの言葉をつづけます。

 K:『ドイツ代表はヨーロッパ選手権では負けたけれど、誰もが、そんなに悪いチームではなかったと思っているんだよ。オランダ戦でみせたサッカー内容は最高だったしね。でも結局は負けてしまった。我々は、そんな落ち込んでいたチームにうまくフィットしたということかな。チームにとっては、とてもポジティブな刺激になったということだと思う。このチームの誰もが自国ワールドカップに出たいと思っているからモティベーションレベルは高いしね。だからこそフェアな競争環境を作りやすいということだな。もちろんそれには、予選の勝負マッチがないということもある。だからこそ、才能ある若手をどんどんテストできるということなんだよ。今回連れてきた若手のなかには、これまで誰も気付かなかったタレントも含まれている。彼らは、2006年だけではなく、次、そのまた次のワールドカップでも活躍できるポテンシャルを持っている。とにかく彼らのモティベーションレベルは高い。だからこちらも仕事のやり甲斐があるし、トレーニングが楽しくて仕方ないんだ。』

 Y:『いままでドイツは、世代交代が難しいチームだといわれていた。ただユルゲンは、そのカラを破って世代交代を推進できると言われているけれど・・』

 K:『我々にとっての唯一の評価基準は、選手たちのクオリティーなんだ。そこでは年齢なんて関係ない。フェアな競争あるのみということだね。予選がないから、とにかく選手のテストをくり返すことができるし、そのなかで年長の選手たちも、ドイツの若手がいかに優れているかという事実を体感できる。そしてそれが競争環境をより活性化するというわけさ。それこそが善循環じゃないか。たしにかノヴォトニーやヴェルンスなどのベテランたちは今でも素晴らしいプレーヤーだけれど、彼らがいなくてもチーム力が落ちないということがものすごく大事なんだ。その意味でも、若手に対し、確実なチャンスがあるという事実を認識させることが重要だと思っている。そんな(フェアな競争環境の)雰囲気があるからこそ選手たちが、こちらがビックリするくらいハッスルしているんだよ。』

 Y:『ユルゲン・クリンズマンという存在は、既にドイツサッカーにとっての大いなる希望の星になっている・・?!』

 K:『とにかく我々は、自国ワールドカップで優勝したい。準決勝以上に進出することなどといったものじゃなく、明確に優勝だけをターゲットにしているんだ。国内でも、そのことに対する希望や期待が膨らんでいるけれど、それは大事なことだと思う。ポジティブに考えることがいかに大切なことか・・。ドイツのサッカーファンが、ドイツが優勝すると確信できることの意義はものすごく大きいと思うんだよ。』

 Y:『私は、ビジネスマンなどの一般ドイツ人も、ユルゲン・クリンズマンはドイツを優勝に導けるという期待を抱きはじめていることを知っているが、そんな国民的な期待については・・?』

 K:『私は、妻がアメリカ人ということもあって1998年にアメリカへ移住し、そこで異文化を学んだ。また選手としても、ドイツだけではなく、イタリアやフランス、イングランドでのプレーを通して様々なサッカーに触れてきた。そのことで、考え方がオープンに広がったと思う。これまでの私のインタビュー内容は、サッカーだけをやってきた人たちのものとはひと味違っていたはずだ。たぶんドイツの人々は(彼のインタビュー内容に対して)ポジティブに驚いたと思うんだ。そんなことも希望の背景にあると思うよ。またアメリカでは、組織の発展のために大事なことも学んだ。例えば、リーダーは、いかにそれが厳しいものだったとしても、しっかりとした決断を下せなければならないとかね。たぶん周りはそこまで期待してはいなかったのだろうけれど、我々は、短い時間で、確固たる決断力を示せたと思っている。それもまた、モラルの高揚とか、フェアな競争に対する実感とか、チームが発展するためのベースになっていると思うんだ。とにかく選手たちは全員やる気になっているんだよ。』

 Yの注釈:ここでクリンズマンが言った「確固たる決断力を示せた・・」というのが、前述したゼップ・マイヤーGKコーチとの決別であることは明白ですよね。

 Y:『ユルゲンは、どちらかといったらドイツサッカー界のアウトサイダーというポジションにいることで(しがらみが薄いから?!)ドイツ代表チームの体質の改善にもより容易に着手できたという側面もあるのでは?!』

 K:『私も、ギド(ブッフヴァルト)やリティー(リトバルスキー)やオジー(アルディレス)のように異文化から多くを学んだんだ。私は、そのポジティブな面を忘れない。だからこそ、このチームにも異文化を導入しているんだ。アメリカ人のフィットネスコーチもいるし、心理学者や心理療法士もチームの一員として活躍してくれている。そんな異文化をしっかりとチーム内に組み込んでいくことは、確実にポジティブだと思っているんだ。そこにもまた、クオリティーだけが評価基準という原則が貫かれているんだよ。いいモノに対して興味を持ち、良いと判断したら確実に採り入れていく・・。そんな柔軟な姿勢が大事だと思うし、それがなければ組織の発展なんて望めないよな。』

 Y:『ここでちょっと視点を変えて、美しさと勝負強さのバランスというテーマに入りたい。ドイツは勝負強いだけだなんて揶揄されているけれど・・?』

 K:『すべての国には、それぞれの特性がある。ドイツは、ブラジルのようにプレーしたことはないしね。ドイツにも特有なサッカーがあるということだよ。それは多分、意志の強さとか集中力の高さ、また、精神的なプレッシャーに強く、ハイテンポ・ハイプレッシャーのサッカーを展開できるなんていう表現に落ち着くかもしれない。それらもドイツの特性や強みというわけだ。我々は、そんな強みを発展させ、伸ばしていくことの方が大事だと思っているんだ。我々には世界的なスーパースターもいるし、汗かきもタイプの選手も若手もいるわけだから、彼らをうまく融合していくことも大事な仕事だしね。とにかく、良いところを発展させることの方が大事だということが言いたかった。いくら弱みの改善をテーマにしたところで、成果なんて知れたもんだよ。それでは選手たちを解放することなんかできないし、逆に彼らは恐る恐るプレーすることで実力を存分に発揮できなくなってしまうに違いない。とにかく今は、ドイツの特質と強みをどんどん発展させていくことが私のミッションだと思っているんだ。』

 Y:『予選がないことをポジティブに捉えているということだったけれど、一般的には、チーム作りという視点で、勝負のゲームがないことによるネガティブな面の方に注目が集まるけれど・・?』

 K:『予選は厳しい一発勝負マッチだよな。もちろん負けることもある。たしかに厳しい勝負の試合は、それなりに必要だけれど、私は違う捉え方をしているんだ。予選が終了するのは2005年の10月から11月にかけてだよな。そしてそれ以降は勝負の試合はない。ということは、そこから7-8ヶ月は、どのチームもイコールコンディションということになる。要は、ワールドカップがはじまるころには、予選の厳しい試合のことなんか誰もが忘れてしまっているということさ。だから私は、多くの若手をテストできることの方が大きなアドバンテージだと思っているんだよ。予選での目的は勝つことだから、あまり大きなリスクは冒せないし、それなりのゲーム戦術が求められる。それは、発展に対するブレーキだと捉えられないこともないよな。』

 Y:『若手とベテランを競争させる環境の整備だけれど、それはユルゲンだからこそできるのではないか・・?』

 K:『いや、そんなことはない。世界中どこにでも、ライバル関係をベースにした競争環境はある。クラブでも、どこでもライバル同士の競争環境があるものだ。それが貴重な経験になる。たしかに若ければナーバスにもなるだろうけれど、いまでは、25歳前後の選手たちでさえ、リーグや代表ゲーム、チャンピオンズリーグなどの勝負マッチを数多く経験できる。それが競争環境を整え、若手でも、競争によるプレッシャーにも耐えられるだけの精神的な強さを身につけられるというわけだ。今の若者たちには、我々の時代よりも格段に経験を積む機会が用意されている。だから我々の時代よりも格段に進歩しているし、プレッシャーをお友達にできていると思う。』

 Y:『攻撃的なブレッシングサッカーだけれど、ギド(ブッフヴァルト)もレッズに導入して成功している。この攻撃的なサッカーを成功させるための秘訣は、選手たちの守備意識を高揚させることにあると思うのだが・・?』

 K:『ドイツの特徴は、リアクションではなく、常に自らアクションを起こしていくサッカーだ。要は、相手が我々のアクションにリアクト(反応)するようにしてしまうということだ。もちろん相手がブラジルだったら難しいけれどネ。とにかく、前へ・前へというのがドイツの特徴なんだよ。もちろん、あくまでも守備をおろそかにすることなくね。イタリアは、待ちの姿勢から、一気の蜂の一刺しカウンターを狙いつづけるというサッカーを特徴にしている。我々には、そんな忍耐力はないから、とにかく待たずに、常に自ら仕掛けていくんだ。ギド・ブッフヴァルトは、そんな我々の特徴を忠実に実践したプレイヤーだった。守備的なタスクを担っていたけれど、ボールを奪い返したら、まず自分が率先して前線へ押し上げていった。そのプレー姿勢こそが攻撃的なブレッシングサッカーの原点だ。そんなダイナミズムこそがドイツの伝統なんだよ。もちろん、それでうまくいくときもあれば、失敗するときもあったけれどね・・』

 Y:『若手を育成する可能性について聞きたいんだけれど、ブンデスリーガでは外国人が多すぎると思わないかい? それが若手のチャンスを奪っていると・・』

 K:『たしかにブンデスリーガには多くの外国人がいる。でもそれは欧州全体に共通していることだよ。問題なのは、このテーマがたまに、アリバイとしてネガティブに用いられているということだ。外国人が多すぎるからオレたちはプレーできない・・ってね。でもそれは違う。そんなことを考える選手は、はじめから落伍者だと思うよ。ドイツ人でも外国人でも、スターティングメンバー入りすることに対する強烈な意志だけが問題なんだ。その意志がなければ、最初から何も得ることはできない。だからこそフェアな競争環境が大事になる。たしかに若手の意志を高揚させるのは難しいけれど、それがなければダメということを認識させることが必要なんだ。もちろんそのためには、全員に可能性があるということを、強烈な刺激とともに分からせることも大切だけけれどね。とはいっても、性格なども含め、最後は選手たち自身がその意志を高揚させられるかどうかにかかってくる。そんな強い意志がないならば、決して発展など望めないよ。』

 Y:『では最後に、ここで、2006にワールドチャンピオンになると宣言して欲しいんだけれど・・』

 K:『我々の目標はワールドチャンピオンになることだ。それはもう何度も表明したし、我々には大いなる可能性がある。我々はホスト国だし、ドイツのサッカー的なバックグラウンドも考えれば、目標として優勝という一言しかないではないか。それ以外のどんな目標設定も虚しいだけだ。とにかく今の段階で、優勝という具体的な目標を掲げることにはものすごく大事な意味がある。それこそが、選手たちの緊張感を高め、発展パワーを与えると思うんだよ。具体的な目標設定によって、全ての選手が、メンタルな準備をベースに成長できる。それこそがもっとも大事なことなんだ。また2006年ワールドカップは、中央ヨーロッパでの大会として特別な意味合いもある。次にワールドカップが中央ヨーロッパに戻ってくるまでに何年待たなければならないか・・。その意味でも我々は、ドイツサッカーの存在感を高めるだけではなく、ドイツという素晴らしい国を世界中に知ってもらうために全力を尽くさなければならないんだよ。』

(了)




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