The 対談


「The 対談」シリーズ_第12回目・・クリストフ・ダウムの右腕、ローラント・コッホと、1.FC.ケルンでのチャレンジについて語り合いました・・(2007年1月27日、土曜日)

「メディアのヤツらが何を書こうと、まったく気にならないね。とにかく俺たちは、チーム(1.FC.ケルン)が大きく成長することを100%信じているいるんだよ」。ローラント・コッホが、目を輝かせながら、確信のエネルギーを放散しつづけます。

 どうも皆さん、ちょいとご無沙汰してしまいました。先日のコラムでお知らせしたように、いまドイツへ来ています。到着したのは1月23日の火曜日。ということで、ドイツ滞在4日目にはいったところです。

 これまでに、既に1000キロ近くは移動したかな。決して(クルマの運転好きとか、アウトバーンをブッ飛ばしたいだけ等々の)ビョーキなんかじゃありませんよ。やりたいこと、やらなければならないことが山積みだし、会いたい友人達もドイツ全土に散らばっているから仕方ないのですよ。だから時差ボケになっている暇もない。フ〜ッ!?

 ところで、ヨーロッパの天気。今年は暖冬で、私が到着する前日までは、まさに春を思わせる異常気象がつづいていたんだそうです。それが、私の到着と同時に、最高気温がマイナスという厳冬がはじまってしまった。日本でもニュースになっているはずだけれど、まさに私が到着した23日の火曜日から、ミュンヘンやシュツットガルトといった南部を中心に(もちろん、フランスやスペインなど他のヨーロッパ諸国でも)ドカ雪が降ったのです。よくある表現だけれど、ドイツの友人達からは、「オマエが冬将軍を連れてきたに違いない・・」なんて白い目で見られたりして。その影響で、交通は今日この時点でも一部混乱しているとのことです。

 ただ私は、ラッキーなことに、まだ雪と遭遇しないで済んでいます。まさにツキとしか表現のしようがないのだけれど、ドイツ北部のハンブルクとフレンスブルクを後にした24日水曜日の夜から、今度は、その北部もドカ雪に見舞われたのです。それでも、私がいま滞在しているケルン(ドイツ中西部の100万都市)では、まったく雪は降っていない。そんなツキに対して友人達は、「オマエ・・本格的な冬を連れてきたくせに、そこをスリ抜けるのも上手いよな・・」なんて好き勝手なことを言う。フ〜ッ・・。

 それでも来週の月曜日(1月29日)には、昨日ドカ雪に見舞われたシュツットガルトへ行かなければなりません。ギド・ブッフヴァルトと再会するのですが、翌日の1月30日(火曜日)には、ブンデスリーガマッチ(第19節のシュツットガルト対ビーレフェルト戦)も観る予定です。それまでに雪害が解消されていることを望むばかり。

 ちなみにこの週末だけれど、今日の金曜日は、ドルトムントで行われる後期開幕ゲーム、ボルシア・ドルトムント対バイエルン・ミュンヘンを観戦し、土曜日は、高原直泰が所属するアイントラハト・フランクフルトとシャルケ04の一戦にはせ参じます。そして日曜日はアーヘン対レーバークーゼン戦に舌鼓を打つつもり。それらの試合が行われる地方では雪が降らないハズだけれど・・。

 ということで、ドイツを離れるまでの移動距離も、例によって多くなりそうです。この週末に行われる試合は、すべて第18節。そして来週の火曜日と水曜日に第19節が行われるというわけです(要はイングリッシュウイーク!)。

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 あっと、またたまハナシが本題からズレてしまった。今日のコラムは、私の長年の友人であるクリストフ・ダウムとローラント・コッホが、久しぶりに、母国ブンデスリーガの監督とヘッドコーチに就任したことをお知らせするために書くことにしたんだっけ。もちろん、就任しただけならば何のことはないけれど、そこで彼らが対峙しているチャレンジには、様々な視点で意義のある「意味」が内包されていると思っているのですよ。だから、皆さんが知っておいてもソンはない。

 そのクラブとは、ドイツ・ブンデスリーガ2部で低迷する「1.FC.ケルン」。ドイツサッカー界では超のつく名門です。奥寺康彦が(1977年に)プロデビューしたクラブといえば、皆さんも合点がいくはず。また、ケルンは私の第二の故郷だから、「1.FC.ケルン」は私のマイチームでもあります。私が留学していた当時は、ドイツ伝説のスーパーコーチ、故ヘネス・ヴァイスヴァイラーに率いられ、リーグ優勝とカップウィナーに輝きました。

 ただ最近の1.FC.ケルンは、継続的な不調にあえいでいます。ちょっと前までは、ハンブルクと並び、ブンデスリーガが創設されて以来一度も二部に落ちたことのない伝統クラブだったのに、最近の数年では一部と二部を行ったり来たりするという体たらく。昨シーズンも一部から二部へと逆戻りしてしまいました。

 どうもチームのフォームを高みで安定させることができない。これはもう、クラブの体質的な側面が如実に現れているとしか考えようがない。

 とにかくまず一部へ復帰することが絶対的な命題だった今シーズンにしても、リーグ立ち上がりのシフトアップが効かずに中位に低迷してしまうのです。そこで、クラブ首脳陣が監督の交代を決断し、クリストフ・ダウムとローラント・コッホに白羽の矢を立てたというわけです。

 結局彼ら(クリストフとローラントのコンビ)はオファーを受けることになったわけだけれど(何度も断ったらしい)、受諾した背景には、様々な「クラブ体質的な課題」に対してクラブ側が真摯に取り組むという約束もあったとのことでした。

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 クリストフ・ダウムとローラント・コッホは、1980年代の後半から、監督とヘッドコーチのコンビを組んでいます。クリストフ・ダウムが監督で、ローラント・コッホが宰相。そして、このコンビがスタートしたのが、1.FC.ケルンからだったというわけです。

 当時は、「プロ選手の経験もない若造どもを、伝統ある1.FC.ケルンの監督とヘッドコーチに据えるなんて、ケルン首脳陣はアタマがどうかしてしまったんじゃないか・・」なんて揶揄されたものです。

 クリストフ・ダウムとは、ドイツへ留学した1976年に1.FC.ケルンのアマチュアチームで知り合い(一時期、私もそのチームに参加していたことがある・・当時、私の恩師であり、日本のコーチングスクールの原型作りにも大きく貢献したゲロー・ビーザンツ氏が監督だった)、ローラント・コッホは、1980年のプロコーチ養成コース(スペシャルライセンスのコーチングスクール)で一緒に学んだ戦友でした。ということで彼らは、30年来の知己なのです。

 コンビをスタートした当時のクリストフとローラントのコンビだけれど、様々なメディアによるネガティブキャンペーンにもかかわらず、すぐに頭角を現し、当時どん底にあえいでいた1.FC.ケルンを、バイエルン・ミュンヘンとリーグ優勝を争うまでに進化させてしまうのです。

 「単なる偶然にすぎない・・」。当時のメディアは、それでも、彼らの実績を認めようとしない。ただ、そんな好成績が2年、3年と続いたことで、周りも認めざるを得なくなったというわけです。

 その後、コンビでシュツットガルトへ移籍します。そして、1992年にシュツットガルトをブンデスリーガの優勝へ導いた二人は(当時のシュツットガルトのキャプテンは、ギド・ブッフヴァルト!)、1995年にトルコリーグ優勝に輝いたベジクタシュ・イスタンブール(トルコ一部リーグ)、レーバークーゼン(再びドイツ・ブンデスリーガ)、再びベジクタシュ・イスタンブール、リーグとカップのダブルチャンピオンに輝いたオーストリア・ウイーン(宮本とアレックスが移籍したザルツブルクが所属するオーストリア一部リーグ)、そして、04年05年とトルコリーグを連覇したフェネルバフチェ(現在、日本代表を率いたジーコが、クリストフ&ローラントコンビの後釜に座っている)と渡りあるくなかで、何度もリーグやカップを制しました。とにかくこの二人は、現在のドイツサッカー界では、押しも押されもしない最高クラスのプロコーチ(コンビ)という評価が定着しているのです。

 そんな彼らだけれど、昨シーズンで袂を分かったフェネルバフチェ後の充電期間にいたところを、ケルン首脳陣に粘り強く口説き落とされたというわけです。

 クリストフ・ダウムの(ローラント・コッホとのコンビの)ケルン復帰は、大変な話題になりました。何せ、「あの」クリストフが(ローラントとのコンビが)、二部で低迷するクラブを率いることになったわけだからね。そんな背景があるから、「まだ」うまく結果が出ていないことが、殊の外、大仰に取り扱われるというわけです。ただ、そんなネガティブな報道のなかでも、二人の確信には、ほんの少しの揺らぎもありません。それが、冒頭で紹介したローラントの力強い言葉の背景にあるというわけです。

 ローラント・コッホとは、一昨日の水曜日に急に会うことになりました。ちょっと立ち話のつもりが、結局、二人だけの会食ということになった次第。まあクリストフとは、どうせそのうち会うことになるだろうし・・。それにしても、ローラントが放つ言葉の一つひとつの力強いこと。そこには、確信のエネルギーが充満していました。

 そのエネルギーの根拠として、ローラントはいくつかのファクターを挙げていました。まず何といっても、クラブの全面的なバックアップ体制。1.FC.ケルンは、本気で、継続的にトップクラスを維持できるまでにクラブを再生したいと考えているのです。選手のマインドを、クリストフとローラントのコンビが設定する「ベクトル上」に乗せ、それに揺らぎが出ないようにする。クラブマネージメントは、そんな支援方針で一致しているということでした。もちろん、良いスポンサーに恵まれていることも強みです。だからこそ、少しくらいのネガティブな「結果」には、まったく影響されることがない。

 余談だけれど、二部のブンデスリーガにもかかわらず、毎試合、4万を超える観衆がスタンドを埋めるとのことです。やはりドイツ人にとってサッカーは、大切な生活文化アイデンティティー(日常をモティベートするための誇りを高揚させられるリソース)の一つだということなのでしょうね。もちろんそこには、ケルンっ子にとっての誇りという意味合いもあります。サッカーには、代理戦争という意味合いも含まれているというわけです。

 ローラントがつづけます。「とにかく、チームは大きく改善する方向へ向かっているんだよ。たしかに明確な結果はまだ出ていないけれど、確信はある。俺たちが今までに率いたチームは、そのほとんどが大きな問題を抱えていた。俺たちが最初に率いた当時のケルンもそうだったし、シュツットガルトやレーバークーゼンにしても、またトルコのクラブにしても、問題が山積みだったんだ。俺たちは、それらを一つひとつ解決しながら明確な方向性を与え、そしてそれを粘り強く継続した。そんな仕事が、これまでの成功の背景にあったというわけさ」。

 それは、一言でいえば、ネガティブなマインドや現象が蔓延しているチームを再生するという、マイナスから何かを作り上げる喜びみたいなものなんだろうね。ローラントも「作り上げる」という表現を繰り返していた。もちろんそれは、「チャレンジ精神」というバックボーンなしには絶対に成立しない仕事であることは言うまでもありません。

 これは人伝えのハナシだけれど、クリストフ・ダウムが、あるメディアのインタビューで、特に才能に恵まれた若手選手は、真面目に汗をかき、全力を傾注して(苦労して)何かをやり遂げるという意志に欠けるという意味のことを言っていたとか。才能に恵まれていることで、周りにチヤホヤされ、自分は苦労しなくても(汗かきプレーをせずとも)自然とボールが回されてくるという甘い環境に慣れてしまっている若手プレイヤー。たしかに、ドイツに限らず、多い。

 ローラントは、そんなマインドを粘り強く矯正することこそが、彼らの仕事の根源的ななコンセプトの一つだといいます。ボールがないところで勝負が決まるというメカニズムに対する深い理解を背景に、しっかりと走ることで、攻守にわたって、着実に(汗かきの)組織的な仕事に全力を傾注し、リスクを恐れずに勇気をもってチャレンジしていく。

 そのコンセプト(仕事の概念的な意味づけ)は、彼の国の誰かにも通じるわけですが、そんな内容のハナシが進行していくなかで、次のキーワードが話題に上ってくることになります。バランス・・。

 それは、私が最初に口にしたのだけれど、ローラントも、そうだ!と相づちを打ち、チーム構成の(つまり選手タイプの)バランスがいかに重要かを語りはじめるのです。

 要は、個の才能と組織プレーとのバランス。彼の国の誰かも、同じような視点でチーム構成を語っていますよね。とはいっても、ローラントはドイツだから(クリストフとローラントのサッカー観は完璧にシンクロしている!)、どちらかといったら、組織ニュアンスの方がより強くなります。そんな「感覚的な相違ポイント」こそが、それぞれの国のサッカーの特長を形づくっている!? まあ、そういう見方も出来るだろうね。

 「400メートルリレーを例にしようぜ。そこには、100メートルのタイムで世界最強の四人が揃っていたとしても優勝できるとは限らないという事実があるんだよ。だからこそ、様々な意味を内包するコンビネーションという発想が大事なってくるんだ」と、ローラント。まさに、我が意を得たり。

 チーム規律の深化、そして様々なファクターに対する正しいベクトル設定とその継続性などが、プロフェッショナル・ワークのバックボーンだろうけれど、ローラントと話し合うなかで、もう一つヒントが出てきましたよ。それは、文章化。

 常に考えながら、そこで浮かんでくるアイデアを、どんな小さなコトでも、とにかく文字にしてメモしておくのです。常に小さなメモ帳を持ち歩いている私も、思わず大きく頷いていました。文章(文字)にすることで、アイデアに具体的な輪郭が出来てきますからね(輪郭を明確にするために考えて文字に落とし込まなければならない・・その作業自体に意義がある!)。それこそが、プロの仕事の神髄ということなんでしょう。

 あっと・・バランス。この言葉についても、様々なメモがあるとのことだけれど、そのなかから、こんな言葉が出てきました。

 「選手のタイプは多岐にわたるよな。選手のなかには、好んでリスクへチャレンジしていくヤツもいるし、逆に、チームとしてのミスを防ごうとする(ミスの影響を小さく抑えようとする)タイプの選手もいる。もちろん、攻守にわたってね・・。チームは、そんなタイプがうまくバランスするように構成しなければならないということだよな」。

 当たり前のことだけれど、多分ローラントは、その発言に、一人の選手の「なか」で、様々なファクターを高次元でバランスさせるというニュアンスも含めていたように感じていました。そのプロセスにおいてこそ、本当の意味でのコーチのウデが問われるということです。フムフム・・。

 さて、1.FC.ケルン。この時点での順位は、ブンデスリーガ2部で11位。二部から一部へ昇格するためには、3位以内に入らなければなりません。現在のケルンの勝ち点は「21」だけれど、トップをいくカールスルーエのそれは「41」。そして二位につけるハンザ・ローシュトックは「37」。ということで、追い付くのは難しすぎる。でも三位のMSVデュイスブルク(勝ち点33)は、まだ何とかなる。

 「そうさ。俺たちにとっては、これから本格的な勝負がはじまるというわけだ。今シーズンの具体的な目標は、三位になること。そのために、デュイスブルクとの12ポイントという勝ち点差を、どれくらいスムーズに縮めていけるのかがポイントになる。いまからワクワクしているぜ。とにかく、そのためにも、明後日(このコラムをアップする当日の1月26日)に行われる、ヴァッカー・ブルクハウゼンとのアウェーゲームがものすごく大事になってくるんだよ。オマエも、応援してくれよな」。

 なかなか面白い「The 対談」でした。皆さんも、クリストフ・ダウムとローラント・コッホのコンビが、どこまで目標に近づくことが出来るのかに注目してください。私も、彼らの闘いの軌跡を追いながら、ケースバイケースでローラントに電話取材しようと思っています。

 ブンデスリーガ二部の結果については、ドイツ・キッカー誌が運営しているサイトで、直に、アップトゥーデイトの結果と順位を確認できる「このページ」を参照してください。

 これから私は、ブンデスリーガ一部の後期開幕ゲーム、ボルシア・ドルトムント対バイエルン・ミュンヘンを観るためにドルトムントへ向かいます。内容に応じて、このHP かスポナビでレポートするかもしれません。それでは・・。

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 追伸:前述した、ヴァッカー・ブルクハウゼンとのアウェーゲームだけれど、先ほど終了しました。結果は、「1-3」でケルンの勝利。さて、これからが楽しみになりました。



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