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最後まであきらめない韓国の粘りが実を結んだ、延長ゴールデンゴール・・アジアカップ準々決勝、韓国対イラン(2-1)・・(2000年10月24日、火曜日)


この試合は、「時間を追って」レポートすることにします。

 静かな、静かな立ち上がりです。ノックアウトのトーナメントということで、両チームともに、まず守備を固めよう・・、そして「高い位置」でボールを奪いかえすような絶対的なチャンス以外では、極力リスクは避けよう・・という戦い方です。

 こんな展開になったときには、強力な「武器」をもっているチームは有利。そうです、「アリ・ダエイのヘディング」という絶対的な武器を・・。イランの選手たちは、「グラウンダーの展開」を続けながらも、最後は「ダエイの頭」を狙っていると感じます。

 それに対し韓国は、ダエイへのセンタリングを事前に抑えてしまうような、マンマークを主体にした強化守備をベースに、完全にカウンター狙い。そしてチャンスと見たら、「例によって」何人もの選手たちが「追い越しフリーランニング」で前へ上がっていきます。その迫力には、まだまだ「韓国的な鋭さ(パスが通ることを信じた、吹っ切れた迫力の上がり)」がある・・。これは、「動き」は少ないかもしれないが、緊迫した面白い試合になるに違いない・・そんなことを感じます。

 前半23分、左サイドでボールをキープしたバゲリが、その外側にフリーになっていたミナバンドへショートパスを回します。それが勝負の瞬間でした。そのとき、ミナバンドの視線は、すでに韓国ゴール前にいるダエイの動きに向けられていたのです(少しでもボールの動きが停滞したらセンタリングを上げられないから・・)。迷わず、ダイレクトでピンポイントセンタリングを送り込むミナバンド。体勢を崩しながらも、「サスガのヘディングシュート」を韓国ゴールへ飛ばすダエイ(惜しくもGKの正面)。それは、この試合で最初の「らしさ」を感じさせるシュートチャンスではありました。

 対する韓国も、徐々にボールの動きが活発になっていきます。イランのペナルティーエリア付近で、早いタイミングのパスが、どんどんとつながるようになってきたのです。ボールの動きでは、完全に韓国に軍配。イランの組み立ては、本当に「のろい」。これは、全員が「韓国ゴール前のターゲット」をイメージしている・・つまり、ゴール前へのタイミングの良いセンタリングを送り込むことばかりイメージしながらパスを回しているからなんでしょう。つまりイランは、最初から「攻撃の変化」は捨て、韓国ゴール前で待つダエイや、タイミング良く上がってくるバゲリ(この試合では攻撃的ハーフ)への一発ラストパスに狙いを定めているということです。

 そんな変化のない攻撃は、普通だったら実を結ぶことは希なのですが、イランの場合は、ダエイ、そしてバゲリという「絶対的な武器」を持っていますからネ・・なんて思っていたら、またまたイランが、ニアサイドに走ったダエイの頭に合わせたセンタリングを送り込み、ダエイが「スリップ・ヘッド」したボールを、後方の選手が狙うというチャンスを作り出してしまいます。

 そんなふうに「イランの攻撃の意図」が明らかになったナ・・なんて感じられていた前半36分。今度は、決定的スペースへ走り抜けたマハダビキアへのスルーパスが決まり、そのままダイレクトシュート! 韓国GKが、ギリギリのところではじき出します。いや、ビックリするような「グラウンダーのパス攻撃」。それは、ダエイ、バゲリへの「放り込み」・・というイメージに偏りかけている韓国の守備ブロックの「イメージのウラ」を突いた、クリエイティブな攻撃でした。

 この時間帯までは、イランが、何度か決定的なチャンスの芽を感じさせるなど、「内容」では韓国を上回っています。

 ただ、そんなイランの決定的チャンスが、今度は韓国にとっての「大いなる刺激」になります。どんどんと押し上げ、イランを押し込みもはじめる韓国。この「心理・精神的な強さ」が韓国の持ち味なのです。「相手にチャンスを作られた・・ナニクソ、今度はオレたちが押し込んでやる!」・・そんな「攻撃的マインド」です。そして実際に、何度か、(タイミング的には)決定的なスルーパスを決めてしまいます(トラップ・シュートは失敗しましたが・・)。

 そんな韓国の攻勢ですが、そこでは何といっても、「ホン・ミョンボ」の、早いタイミングで繰り出される「起点のタテパス」が光り輝きます。

 後方でフリーでボールを持つ。ただ、前戦にフリーな味方がいるにもかかわらず、少し躊躇してパスタイミングを逃して横パスを出してしまう・・、そんな選手たちが多いなか、ホン・ミョンボは、ボールを持ったら常に「タテのスペース」を志向します。だから、前戦の選手たちも「スペースへ入り込みやすい」し、周りの選手たちも、ホン・ミョンボからの早いタイミングのタテパスをイメージした「次の決定的な仕掛け」をイメージできるのです。

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 さて後半、やっと「ノ・ジュンユン」が登場です。これで、韓国のペースがどのように変化するか・・注目です。イランは、確実に彼を意識してくるでしょうからネ・・

 そして思った通り、韓国がペースを握ります。素早く、広いボールの動きをベースに、どんどんとイランを押し込んでいきます。それに対し、ボールの動きが遅いイランは、次のパスを読まれ、次々とボールを奪いかえされてしまって・・

 とはいっても、後半15分を過ぎたあたりから、イランが盛り返してきます。その要因は、何といっても、中盤守備がアクティブになったことでした。中盤での、「素早く、クリエイティブな読み守備」が、攻撃プレーにも「イメージ的に」ポジティブに影響し、彼らの「ボールの動き」がアクティブになっていったのです。

 これも、典型的な「サッカー的現象」。守備での「動き(心理的ムーブメント)」が、そのまま攻撃での「アクティブな動き」のベースになる・・それです。

 攻守が、サッカーほど間断なく入れ替わってしまうようなボールゲームは他にはないのですが、だからこそ、相手からボールを奪いかえすという目的の、つまり、自分たちがプレーの主体になるという目的を達成するための「守備に対するマインド」が、攻撃にも大きく影響するのです。攻撃と守備は、心理・精神的に、完全に「有機的に連鎖(リンク)」している・・ということです。

 ハナシを続けます・・イランの攻勢でしたっけネ・・

 それでも、ホン・ミョンボを中心に、完璧に守備ブロックを構築している韓国ですから、簡単にはチャンスを与えません。ボールの動きがアクティブになってきたイランとはいっても、簡単には崩しきるところまでいけないのです。そしてまたまた、ダエイ、マハダビキア、そして二列目のバゲリを狙った「単調な」ロングボールが目立つようになっていきます。

 これは、また韓国が攻め込みはじめるゾ・・そんなことを思っていた後半の16分。コトが起きてしまいます。それまで、前後に、激しく攻守に活躍していたカン・チョルが、一瞬、集中を切らせてミスパスをしてしまったのです(ミナバンドのプレスに、逃げの横パスを出してしまった!)。それを拾ったのが、フリーになっていたバゲリ。「前があいた・・ここだ!!」。渾身の力を込めて振り抜いた右足での(アウトサイド気味)ロングシュートは、ググッと右へ曲がりながら、韓国ゴールの右上角に飛び込んでいきます。

 これはもうバゲリを誉めるしかない・・。韓国GKは、まったくノーチャンス。それは、まさに「神様の悪戯ゴール」としか表現のしようがない見事なスーパーゴールではありました。

 その後の韓国の大パワーの攻め上がり。でも・・もう・・、なんて思っていたロスタイム。またまたコトが起こってしまいます。ユン・ジョンファン(セレッソ大阪)のCKから、こぼれたボールを、イ・ドングがシュートし、それをクリアしようとしたイラン選手のキックミスが足許にきたボールを、キム・サンシュクが、右足で「ドカン!」と蹴り込んだのです。同点ゴ〜〜〜ル!!!

 韓国特有の大迫力の粘り・・、でももうここまできてしまっては・・、なんてことを感じていたのですが、アタマを掻きながら「いや、アンタたちはスゴイ!」なんて、見直してしまう湯浅でした。

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 さて延長。

 その立ち上がり、まずミナバンドのFKから、ダエイが「一発」のヘディングシュートを放ち(韓国GKが前で飛び出たのですが触れず・・GKのミス!・・ただボールは、わずかにバーを超える)、次には、交代出場したカリミが、韓国ディフェンダーを翻弄してフリーシュートを放ちます(これまた、わずかにバーを超える)。

 さて、「ドラマの最終章」がはじまった・・

 逆に、簡単にはシュートチャンスを作り出せない韓国・・なんて感じていた延長前半の9分。ホン・ミョンボの「タテへのドリブル」を起点とした、夢のようなカウンター気味の攻撃が見事に決まってしまいます。それは、本当に「唐突な幕切れ」ではありました。

 ホン・ミョンボからタテパスをもらったソル・ギヒョン。ホン・ミョンボは、「オレが試合を決めてやる!」と、そのままタテのスペースへ上がっていきます。こんな状況では、そのままリターンパスを出すのが定石。ただワントラップしたソル・ギヒョンは、ホン・ミョンボへは戻さず、そのまま「ズバッ」という右サイドへのスルーパスを決めます。そのスペースには、ノ・ジュンユンが走り上がっている・・、彼は、ダイレクトで素早くイランのゴール前へ、これまた「ズバッ」という、グラウンダーの「ラスト・センタリング」を送り込む・・、そして最後はイ・ドングが、「ズバッ」というゴールデンゴールを決める・・。

 それは、「三つのズバッ」が見事なハーモニーを奏でた、素晴らしい、本当に美しいカウンターゴール。その「起点」が、韓国の精神的&戦術的支柱、ホン・ミョンボであったことをアタマに刻み込んでいる湯浅でした。

 それは、韓国が、最後の最後まで往年の「粘り」を見せつけた勝利。ホント、彼らの粘り強いプレーは、毎回「とんでもないドラマ」を演出してしまいますよネ。とにかく「2002のパートナー」たちの立派な戦いに大拍手!!




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