私が不満だったのは、シンガポールが人数をかけて守備を強化し、カウンターを狙ってくることは分かり切っていたのに、そんな相手のゲーム戦術に対する「イメージ的な準備」が十分ではなかった・・ということです。
日本選手たちのプレーに、中盤からの直線的な勝負ドリブル、相手ペナルティーエリア周辺での「勝負のタメ」などで、人数をかけることで強固になっている相手守備ブロックのバランスを崩したり、中盤でゆっくりとボールを回すなかで相手守備ブロックを引き出し、ツートップだけではなく、二列目の飛び出しなどに合わせるロング一発で決定的スペースを突くなどの、攻撃における積極的なプレー意図がほとんど感じられないのです。
出てくるのは、相手にとっては(予測が簡単だから)まったく怖くない「安全パス」でゆっくりと攻め上がり(ということで、シンガポール守備ブロックは強固なバランスを保ったまま・・)、「アバウトなセンタリング」を送り込むばかり。
最初のころは、相手守備ブロックをゴール前に張り付け、その後ろのスペースから中距離シュートを狙う・・という意図(ゲーム戦術)を感じてはいたのですが・・。
一人だけ、ドリブル勝負やロングシュート、爆発的なパス&ムーブなど、守備を強化している相手にとってもっとも怖い、攻撃での『効果的な変化』を演出することにトライしていたのは、左サイドに入った中村だけ・・という体たらくです。
何故、日本代表チームの攻めにダイナミズムが感じられないのか・・(この試合では、守備に対する評価はあまり意味ありませんから、攻撃だけを見ましょう)。
この試合を見られていた方はすぐに気付かれたとは思うのですが、パスが、味方の「足元」ばかりに出されるのです。そして出した方も、その場に立ちつくしてしまう・・。これではボールの動きに「意図」を込めることができないのも当然。また、パスを受けた選手たちも、例外なく、相手がチェックにきたら、相手にプレーのオプションを感じさせることなくすぐに「安全パス」を出してしまう(そしてその場に立ちつくす・・)。誰のプレーからも、「ヨシ、オレが最後までいってやる! オレがシュートしてやる!」という強い意志を感じないのです。
チカラに差のあるチームとの「公式ゲーム」。そこでは、守備を強化した相手をどのように効果的に崩していくのか・・というゲーム戦術が中心にならなければいけません。そんな相手を崩すのは簡単なことではないのですから、願ってもない戦術的トレーニングになったのに・・
組織プレーから、チャンスとなったら、誰でも、絶対に単独勝負にチャレンジしていかなければならない・・など、前述したような、どんな戦術的テーマにでもトライしていけるゲームだったはずなのです。ところが、「公式戦だから、とにかく勝てばいい・・」という姿勢が前面に出てしまって・・
後半の最初のころは、伊東に代わって登場したオリンピック組の明神がどんどんとタテへ仕掛けていったり、中村が、どんどんと決定的スペースへのロングパスにトライするなど、チームの総合ダイナミズムが向上する「気配」はあったのですが・・
少なくとも後半は、「勝つ」という当面の目標をほとんど達成したのだから、もう何のこだわりもなく「世界へ向けた進歩」のための爆発的なリスクチャレンジにトライし続ける積極的な姿勢を期待していた湯浅だったのです。
リスクチャレンジ・・。例えば、マークする相手を背負っている状態でも、その相手を抜き去ってしまう勝負ドリブルにトライする・・、中盤でボールを持ったら、必ず最前線とのワンツーからのファイナルバトルにトライする・・、前が空いたら必ずロングシュートにトライする・・、などなど・・。アッ、また前述したことの繰り返しになってしまった・・。というふうに、本当に残念で仕方のない湯浅なんですヨ・・
「攻撃における積極的なトライ意図」がほとんど感じられなかった日本代表。それはもう、選手全員がイメージを共有する「攻撃のゲーム戦術」がなかったことの証明です。もちろん攻撃の基礎はインプロビゼーション(即興性)ですから、選手たちの創造性を狭めてしまうような細か過ぎる戦術的計画などはナンセンスですが、それでも、前述したような「攻撃のやり方」に関する、基本的なチーム内の合意がなければ、勝負の試合という「またとない経験の機会」をムダにしてしまったことになるのですから・・
次のブルネイ戦では、まったく次元の違う「チーム総体のダイナミズム」を期待している湯浅でした。