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いや、素晴らしい試合でした・・チャンピオンズリーグ・・レアルマドリード対バイエルンミュンヘン(2-4)・・(2000年3月1日、木曜日)

先週末の、レアル・マドリード対バルセロナ(レアルが圧倒的な勝利をおさめた試合)があまりにも印象的だったものですから、バイエルンは苦戦するに違いないと思っていたのですが・・

 バルセロナ戦でのレアルは、本当に偉大なチームでした。中盤でのねばり強い守備から、素晴らしいボールの動きをベースにした、要所での「才能による勝負」。それはもう世界有数・・と感嘆させるに十分な試合内容だったのです(まあバルセが、個人プレーが多すぎる、中盤守備が機能しないなど、出来が悪すぎたということなのですが・・)。ですから、アウェーで戦うことも含め、ミュンヘンも大変な苦労をするに違いない・・と思っていたのですが・・

 思えば、クリストフ・ダウム率いるレーバークーゼンが、一昨年のチャンピオンズリーグでマドリードに乗り込んだときは、それぞれの競り合いの場面で、本当に「チンチン」という表現が適当かも・・というほどに「個人」のチカラの差を感じてしまったものでした。ですから、この試合も・・なんて心配していたんですよ。

 それが、終わってみれば、歴史的なマドリードでのドイツチームの勝利(それまでマドリードでドイツチームが勝ったことはなかった・・)。それも、内容がともなった試合で・・。ちょっと気持ちよかった湯浅でした。

 試合は、バイエルンのスーパーペースで始まります。中盤でのダイナミックな守備から、素早く、広くボールを動かし、最後は、パウロ・セルジオ、エウベル、メーメット・ショル、はたまたエッフェンベルクなどの才能たちが、コンビネーションを基に、はたまた単独勝負からと、どんどんとレアル最終守備ラインを崩していきます。

 先制ゴールは、バイエルンのメーメット・ショル。

 まず、中盤でボールを回すバイエルンのエッフェンベルクが、最前線の中央でハードにマークされているエウベルの「足元」へ、ズバッというパスを「当て」ます。左サイドでは、エッフェンベルクがパスを出す瞬間には、ショルがタテへのスタートを切っています。素晴らしいタイミング! この瞬間、ショルとエウベルの「次のプレー」に対するイメージが完璧に一致していました。

 エッフェンベルクからの鋭いパスを、『ダイレクトで』、ショルの前方のスペースへ「流す」エウベル。この瞬間、レアルの最終守備ラインはズタズタでした。そのままドリブルで持ち込み、飛び込んでくるGKの身体をギリギリで越していくような「フワッ」というループシュートを飛ばすショル。素晴らしい先制ゴールの場面ではありました。

 二点目は、稀代の才能、エッフェンベルクが、相手GKの「予測の逆」を突いたフリーキックを直接ゴール左隅に決めてしまいます。

 ここでやっと目を覚ましたレアル。今度は、大パワーの攻めを展開し始めます。大パワーとはいっても、中盤で無駄なドリブルを仕掛けたり、無駄なキープをしたりするのではなく、彼らの中盤でのボールの動きが「超速レベル」にあがっていったということです。

 お互いに何度か、「決定的スペース」を突く「フリーランニング」に、ピッタリのスルーパスを合わせたり、ドリブル突破からの決定的な仕事を魅せたり・・と、本当にエキサイティングな「ファンタジア」を演出し続けます。そして徐々にバイエルンが、レアルのパワーに「心理的」に押されはじめたとき、レアルの「追いかけゴール」が決まります。

 バイエルンの「働き蜂」、(守備主体)ボランチのフィンケのクリアミスから奪われたゴール。それは、フィンケのクリアミスが、マドリードのスーパースター、ラウルに奪われ、それままシュートされたボールがバーを直撃して跳ね返り、それをモリエンテスにヘッドで決められたものでした。

 ただここから再びバイエルンがペースを盛り返してきます。「追いかけゴール」を奪われた方は、一瞬でも意気消沈し、奪った方が完璧にペースを握るのが普通なのですが、そこは世界の超一流たち。「フザケルナよ・・」とでもいわんばかりに、バイエルン・ミュンヘン最前線の三人(エウベル、セルジオ、ショル)も含めて、再び、中盤でのダイナミックな守備を展開しはじめたことでバイエルンがペースを奪い返し、三点目を決めてしまいます。

 ゴールをゲットしたのは、失点の原因を作ったフィンケ。針の穴のチャンスを見つけた彼が、「ここだ!」と、最前線まで飛び出していったのです。

 彼は、「オレのミスの失点だったから、チャンスがあればオレが取り返してやる!」という心境だったに違いありません。「前への飛び出し」には、そんな迫力がありました。それは、「個人事業主」の「個人事業主」たる所以のゴールでもありました。もちろん、フィンケのオーバーラップを「視野の端っこ」で捉え、ヒールで、まるで「置く」ような「ファウンデーション(アシスト)」のバックパスを出したエウベルにも「大拍手」ですが、とにかく、このバイエルンの三点目のゴールには、フィンケの「プロの意地」が込められていた・・と思いたい湯浅でした。

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 さて後半早々の、ロベカルの「スーパーダイレクト・ピンポイントセンタリング」をラウルが決めた「追いかけゴール」。

 それは、得も言われぬ美しいゴールではありましたが、私が注目していたのは、後半はじまったときの、バイエルン・ミュンヘンのカッタルい試合テンポが、『再び』、この失点で「急激にアレグロ」に上がったことでした。

 「3-1」とリードした彼らは、「よし、このまま逃げ切るか・・」ってな具合に、守備的な(どちらかというと受け身、消極的な)プレーから入っていったのです。それが、早々の失点。これで「3-2」と一点差まで「ホームの」レアルに迫られてしまった・・。普通だったら、そのままペースを奪われ続ける・・ってな展開なんですが、バイエルンの選手たちは、そんな「普通の展開」に対する「経験」を豊富に持っていたのでしょう。彼らは、ここでレアルのペースになったら、完璧にやられてしまう!!・・と『感じ』たに違いありません。急にゲームのテンポを『自分たちの判断と決断=強い意志』で、急激にアップしてしまったのです。

 これには、昨年のチャンピオンズリーグ決勝で、マンチェスター・ユナイテッドに奇跡の逆転劇を許してしまったという「地獄の経験」が生きているに違いない・・そんなことを思ったものです。それにしても、「自分たち自身で」試合のテンポを変えてしまう。それを、単に「経験」とだけで表現して良いものかどうか・・

 とにかくこのレアルの一点が、バイエルンの選手たちに与えた「刺激」は、マンチェスターとの決勝を思い起こさせるほど強烈だったに違いないと確信する湯浅でした。その意味では、バイエルンにとっても「ラッキー!!」な失点だったとまで言えるかもしれません。

 なんといっても、その後は、再び「試合内容」をイーブン以上に盛り返してしまったんですからネ。それは、選手全員が同時に、そして共通して感じた「強烈な刺激」がなければ叶わなかったことです。そして、パウロ・セルジオの追加ゴールが入って勝負が決してしまいました。

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 この試合ですが、両チームともに、「自国選手」がマジョリティーです。後で、両チームの先発メンバーを確かめてみてはいかが・・?! その意味でも、良かった・・と思っている湯浅なのです。どこかの「世界選抜」チームなんかは、自国選手が一人もいなかったり、ほんの二〜三人ということもザラなんですから。

 このことについては、昨年、ヤフーのコラムで、シリーズ的に書いた「経済と文化の動的な均衡・・」を参照してくださいネ。バックナンバーは揃っていますから・・。  また、レアルのアネルカについて・・。最高の才能です。数日前のバルセロナ戦でも、すぐに「スーパーな才能」であることを感じさせました。それでも私は、「この子は、これから苦労する・・」とも、すぐに思ったものだったのです。彼は素晴らしい才能を持っています。それでも、どこかの国でチヤホヤされる若者たちと同様、全盛期のマラドーナではないのです。

 だから彼も、「チームメートにとっても」スターとなるためには、攻守にわたるチームプレーにも精を出さなければなりません。あのままでは、周りから「何だ、オマエ。なに考えているんだ・・」ってなことになってしまいますし、効果的な「ボールがないところでの攻守にわたるプレー」に欠陥をかかえている彼が出場し続けることで、チーム全体の調子も(心理・精神的なことが原因で)落ちていってしまう・・と思うのです。

 彼が、「才能の墓場」へ入り込まず、世界中のサッカーファンを楽しませることができるような「ホンモノのスター」に成長することを願ってやみません。




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