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拮抗した「守備合戦」でした・・チャンピオンシップ第一戦・・マリノスvsアントラーズ(0−0)・・(2000年12月2日、土曜日)


いままでの「J-チャンピオンシップ・ヒストリー」のなかで、ファーストステージの優勝チームが勝利をおさめたのは、95年のマリノスと昨シーズンのジュビロだけ・・。この試合でも、「立ち上がり」では、そんな「事実」がナルホドと思えてきたものです。

 マリノスの出来が(特に守備!)、ことのほか不安定なのです。「立ち上がりは、たしかにウチのチームはちょっと硬くなっていたかな・・」。試合後のインタビューで、オジー(マリノスのアルディレス監督)がそう言っていたものです。

 その立ち上がりの50秒。アントラーズ最終守備ラインで、ファビアーノ、熊谷、名良橋とボールが回り、名良橋が「最後尾」から、ワンツーチャレンジを仕掛けます。最前線で戻り気味にフリーランニングした鈴木の「足許」へ、「ワンのパス」を出し、自身は、忠実な「パス&ムーブ」で前方へ超速ダッシュ。マリノスの波戸にタイトマークされている鈴木は、倒れ込みながらも、ダッシュしてくる名良橋の前のスペースへ「リターンパス」を送ります。イメージ通りにボールをもった名良橋は、「当然」、走り出した瞬間から次の勝負をイメージしています。そう、マリノスゴール前の「決定的スペース」への勝負のスルーパスを・・

 その「イメージ」をシェアしていたのは、もう一人のアントラーズのトップ、柳沢。タテへズバッという勝負のフリーランニングを仕掛け、そこに、ワントラップした名良橋からの測ったようなラストスルーパスが通ったのです。

 その「仕掛け」は、マリノスのストッパー、小村の身体を投げ出したタックルに引っかかってしまいましたが(小村の忠実マークに拍手!)、それが、マリノス最終守備ラインを崩しかけた、あわや!というチャンスだったことは事実です。そんな「決定的シーン」が、アントラーズの選手たちに「勇気」を与えないはずがありません。

 案の定・・というか、その「ファーストチャンス」から、アントラーズの攻撃プレーに、自信あふれる(確信をもった)積極性が目立つようになり、逆にマリノス選手たちの守備プレーからは「(不安で)受け身の姿勢」が見え隠れしてきたりして・・。全体的な試合の流れは、「互角」という雰囲気なのですが・・、少なくとも私にはそう感じられたのですが、最初の15分の時間帯におけるマリノス守備(中盤守備も含む)に不安定なキザシ(受け身で消極的なプレー姿勢)が「ほんの少し」あったことは確かなことです。

 こんな「緊迫したゲーム」ですから、そんな「ちょっとしたトコロ」が勝負の分かれ目になってしまう・・

 8分のアントラーズのプレー。左サイドで、ボールの動きが停滞したところで(ボールを持ったユー・サンチョルが無為にボールをキープしてしまった!)、相馬とファビアーノが協力プレスでボールを奪い返し、(相馬が)すかさず小笠原へパス。小笠原は、前にスペースがあったことで、迷わずにドリブルし(これこそ、次の勝負パスを狙った『動的なタメ』!)、爆発フリーランニングでタテへ抜け出した柳沢へ、それは、それは美しいスルーパスを決めてしまいます(柳沢のフリーシュートは、ギリギリのところで川口が足の先ではじいて防ぐ!!)。

 このシーンでは、マリノスのキャプテンでもある上野は、小笠原がボールをもった時点で、「全力ダッシュ」で追いかけなければなりまなせんでした。予測さえしっかりとしていれば(ユー・サンチョルがボールを奪われ、それが小笠原にわたるのは事前に予測できたはず!)、確実に追いつけました。ただ彼は、状況を見ながら「ジョギング・スピード」で戻るだけ・・

 このシーンでは、もう一つのポイントがありました。それは、マリノスゴール前の決定的スペースで、完璧にフリーでスルーパスを受けた柳沢へのマーク。柳沢が、一度、右サイドのストッパー、波戸へめがけてフリーランニングし、そこから急速に方向転換して、逆の左サイドへ斜めに走り抜けたのに対し、波戸は、まったく彼のターンの動きについてゆけず、逆の左サイドにいた小村も、ボールウォッチャーになってしまっていたのです。

 たしかにここでは、柳沢の「クレバーなフリーランニング」の方を誉めるべきなのでしょうが、それにしても、マリノス守備ブロックの「不安定さ(集中切れ・・オジーに言わせれば硬さ?!)を象徴するシーンではありました。

 そしてその1分後には、今度は右サイドの熊谷から、ダイレクトでのタテパスが、タテの決定的スペースへ抜け出した鈴木にピタリと合います(右サイドからの完璧なフリーシュートチャンス! でも最後はシュートミス!)。

 鈴木を「最後まで」マークし続けなければならなかったのは松田。彼は、(決定的なタテパスを出した)アントラーズの熊谷にボールがわたる「一瞬前のタイミング」で、最前線の鈴木への「タテパス」を狙い、スパッと、鈴木の前の「インターセプト・ポジション」に入ります。それは、素晴らしい「積極的な守備の意図」でしたが、その後がいけなかった・・。自分の眼前を、鈴木がタテに走り抜けているのに、全力ダッシュで「正しいマーキングポジション(少なくとも鈴木に追いつけるポジション)」に入ろうとせずに、「かもしれない・・」で足を止めてしまったのです。

 私は、この二つのシーンでは、マリノス最終守備ラインが、積極的に狙っているわけでもないオフサイド「かもしれない・・」ということで、積極的なマーキングを止めてしまうような(足を止めてしまうような)「消極的でイージーな姿勢(これが、チョットしたところの本質?!)」が如実に表れていたといえます。この二つのシーンともに、オフサイドではなかったのに・・

 とにかく「立ち上がり」の15分は、完璧にアントラーズのペースではありました(こんなチャンスを決められなかったら、何らかのシッペ返しがあるものなのですが・・)。

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 ただその後は、拮抗した内容になってきます。

 たしか、セカンドステージ第8節での、この両チームの対戦も同じような展開だったような・・。最初アントラーズがペースを握り、一クラス上のチームだと感じさせていたのが、アントラーズの先制カウンターゴールの後、それまで「個人勝負」ばかりが目立っていたマリノスが、息を吹き返したように「チームとして」危険なアクティブ攻撃をはじめたのです(結局1-1の引き分け)。

 その後は、14分に、中盤でのワンツーから抜け出したユー・サンチョルが、左サイドの「二列目」から飛び出した遠藤への素晴らしいスルーパスを決め、そのまま遠藤が決定的なシュートチャンスまでいったり、その直後には三浦淳宏が本当に惜しいドリブルシュートを放ったり、はたまた29分には、右サイドの木島がアントラーズディフェンダー三人を抜き去って決定的シュートまでいったりと、マリノスも盛り返してきます。

 対するアントラーズも、27分の、カウンター気味の攻撃から、小笠原が左サイドを切り裂いてセンタリングを上げ、最後は熊谷がロングシュートを放った場面、30分の、マリノス、小村のバックパスミスを拾って連続に攻撃につなげたシーン、続く34分の、カウンターから、左サイドを駆け上がった相馬のセンタリングが、ニアポスト側への完璧なダッシュでフリーになった柳沢に、ほんのわずかに合わなかったシーン(これはマリノス守備ブロックが完璧に崩された場面!!)、はたまた39分のビルマルクのスルーパスから、柳沢が抜け出して上げたセンタリングを鈴木が外したシーンなど(鈴木のヘディングシュートが、スーパー守備を魅せた小村のアタマに当たってゴールラインを割ってしまう!)、どんどんとチャンスを作り出します。

 後半も膠着状態は変わらず。そのなかで、ユー・サンチョルのヘディングシュート(もうスーパーとしか言いようのない、中村の決定的ロング・タテパス!)、柳沢と小笠原が、最初から最後まで協力して作り出した小笠原の完璧なシュート(小笠原の素晴らしいタテパスタイミング、柳沢の完璧な動き出しと、その後のアタマを使ったコントロール、そして全力で上がってきた小笠原のフリーシュートなど・・もしかしたらこの試合でのベストシュートシーンだったかも・・)、そして中村の直接フリーキックなど、何度か決定的なチャンスが、「唐突」に飛び出します。

 そうなんだよ・・唐突なんだよナ・・もっと「事前」から、「これは!」という雰囲気を感じさせてくれる「クリエイティブな意図がテンコ盛りの攻め」をもっと見たかったのに・・フ〜〜

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 ちょっと今回のコラムは、「個別のチャンスシーン」を追いすぎた感もあるのですが(だから、全体的に冗長になってしまった?!)、両チームともに中盤での「意図のある組み立て(つまりアクティブなボールの動き)」がうまく機能しなかったことで(ミスパスが多い=だからボールの動きがギコチない=もちろんそれは、両チームともに守備が良かったことの裏返しなのですが・・)、チームプレーと個人勝負プレーが「美しいハーモニー」を奏でるような「意図のある攻撃ユニット(要は誰もが感動する、フィニッシュまで完結するような組織的な攻撃の仕掛け・・)」が少なかったということですかネ。

 もちろん、アントラーズが、「三浦・中村俊輔コンビ」を抑えるために、(アントラーズの)右サイド守備を強化してきた・・、マリノスの遠藤が、基本的にはボランチのポジションから、積極的に「二列目・三列目の飛び出し」を狙っていた・・、マリノスが、ビスマルクに対する「よりタイトなマーク」を心がけていた・・、はたまた「攻守にわたって」自分から仕事を探そうとするアクティブな姿勢が格段に向上した中村俊輔の、たまに魅せる効果的な「個人才能ショー」が、マリノスの組織プレーのなかに本当に効果的に組み込まれつつある・・等々、その他の戦術的な視点はあるのですが・・

 最後に、両チームの守備システムについて・・

 マリノスは「フラット気味のスリーバック」、対するアントラーズは「フラット気味のフォーバック」。そして両チームともに、自分の基本ポジションで「周り」とのバランスを保ちながら「マークを受けわたし」、そのなかで限りなく「早い段階」で、ラインをブレイクして「マンマーク」へ移行するという守り方。一つ違うのは、マリノスが、松田という「限りなくリベロに近いセンターバック」を、最初から最終ラインに置いているのに対し、アントラーズは、「伝統的な」フォーバックで、センターバックの後ろのスペースは、ボランチの一人がカバーする・・つまり、マリノスの二列目選手が、味方トップを追い越して決定的スペースへ抜けるようなフリーランニングを仕掛けてきたときは、「その時点」でケアーしていた「前」の選手が、確実に(味方の最終ラインを追い越してでも)最後までマークし続ける・・というものです。

 これに関連したテーマは、昨日アップした「Yahoo Sports 2002 Club」にも書いたので、参照してください。

 さて・・これで次の最終戦が、(引き分けで終わったことで、その試合だけに限った、ゲーム戦術を立てる前提条件がありませんから・・)「フィフティー・フィフティー」の最終勝負ということになりました。国立競技場ですし、そこでは、アントラーズに「明確なホームの利」もありませんからネ(たぶん観客は、二分する?!)。

 たぶん国立は一杯の観客で埋まることでしょう。こんなエキサイティングゲームを見逃す手はない・・。ではまた・・




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