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「素晴らしいユニットプレー」対「単発の個人アクション」という構図?!・・チャンピオンシップ第二戦・・マリノスvsアントラーズ(3−0)・・(2000年12月9日、土曜日)


その瞬間、大きな音をたて、緊張の糸が「プツン!」と切れました。

 もちろん、アントラーズ、鈴木の先制ゴールが決まった瞬間です。シーズン途中にアントラーズへ復帰した鈴木は、完全に「ブレイクスルー」を達成しました。最前線でも良し・・、1.5列目でも良し・・。彼の、攻守にわたる「チームワーク貢献度」は、素晴らしい・・なんていう形容詞を超越しています。そして、そのスーパーパフォーマンスが、柳沢や平瀬の「モティベーション」にもなる・・。理想的なライバル関係が見えてきた・・

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 さて試合ですが、まず、昨日の金曜日にアップした「Yahoo Sports 2002 Club」のコラム、「決定的スペースの攻略・・」を参照していただけますか・・。そのコラムは、「決定的スペースの攻略」という意味で、アントラーズに、明確に一日の長がある・・という内容です。

 攻撃では、常に「決定的スペース」を強烈に意識していなければなりません。そのために、「ボールがないところ」での勝負のフリーランニングを仕掛ける選手と、ボールホルダーとの「イメージ」が高次元でシンクロ(同期)していなければならないのです(もちろんマラドーナだったら、一人で、決定的スペースまでドリブル突破してしまうでしょうがネ・・)。それが結果として、「他のタイプ」のシュートチャンス(上記のコラムを参照してください)の源泉だとも言えます。

 その意味では、決定的スペースを攻略するという「発想」が、すべての攻撃の原点といえるのかもしれません。もちろん、それを達成するための「イメージ・シンクロ」も含めて・・

 アントラーズは、最初攻め込まれました。そこでは、マリノスの「前へのエネルギー」は、想像を絶するレベルにある・・そんなことを感じたモノです。ただ数分が経過して、ハタと感じました。「あっ、これは難しい・・。マリノスの選手たちには、最後は個人勝負だ! という発想しかない・・」

 そうなんです。マリノスの攻めに、「次の勝負」に対して「複数の意図」が整合するという雰囲気さえ感じないのです。常に中田や熊谷に厳しいプレスを掛けられている中村がボールを持っても、誰も寄ってこようとしない・・、また周りの選手たちも、ボールを持ったら、常に「こねくり回して」しまう(それは、タメという高次元のプレーではなく、ボールの動きの停滞以外のなにものでもない!)・・。そして、「攻撃の意図」が有機的に連鎖する可能性のカケラも感じさせない「シングル・アクション」ばかりが目立ってしまって・・

 あえて言えば、開始早々の一分に飛び出した左サイドからの攻めくらいだったでしょうか。タイミング良くパスを受けた中村が、左サイドから正確なセンタリングを上げます。そしてそれが、本当に正確に、アントラーズゴール前で待ちかまえるエジミウソンへ・・。そしてエジミウソンは、後方からせめ上がってきていた上野へ、測ったようなバックパスを「胸」で落とします。ただ、ドカン!!・・という音が聞こえてくるはずが、結局上野のシュートは、正確にインパクトできなかっただけではなく、コースも、高桑の正面に飛んでしまって・・

 (チョット書き足しですが・・)あっ、と・・、後半11分のマリノスの決定的チャンスについても触れなければ。

 それはもう、マリノスが作り出した完璧なチャンス。もしこのチャンスを生かしていたら、「ゲームの流れ」が大幅に逆流したかも・・。それは、ユー・サンチョルからのタテパスからはじまります。そのタテパスを、左サイドのスペースで受けたエジミウソン。このとき既に、ユーは、エジミウソンを追い越して、中央の決定的スペースへ走り込もうとしています。このユーの「パス&ムーブ」もすごかった・・。ただエジミウソンは、中央でフリーに上がってきていた中村俊輔へ横パスを出します(素晴らしいエジミウソンの判断!)。

 さて、ここからが「中村俊輔」という稀代の天才の本領発揮です。中村は、右へコントロールしてシュートモーションへ・・。これで、アントラーズ最終守備ブロックの四人を引きつけ(得も言われぬ美しい『動的なタメ』!!)、そしてその右サイドからオーバーラップしていた永山へ、ラストのタテパスを出します(アントラーズ守備陣を左に引きつけたことによって、ゴール前の右サイドには太平洋のような決定的スペースが!)。

 この「ラストパス」の、コース、強さ、種類・・本当にため息がでます。それは、永山が、まったくボールを止めることなく、完璧なタイミングで「ダイレクト・シュート」を打てるものだったのです。でも永山には、「ギリギリのテンションの中でシュートを決める!」という体感ベースの「経験」があまりありません。また、左サイドからは、エジミウソンも、爆発フリーランニングで走り込んでいます。永山には「二つの選択肢」が・・。そしてその「広い可能性」が、「心理的なワナ」になってしまって・・

 結局永山は、シュートではなく、「心理的な逃げ」という表現が正しい、エジミウソンへのラストパスを出してしまうのです。そして案の定(逃げの心理だから?!)、その横パスがズレて、相馬にクリアされてしまう・・

 それは、この試合がマリノスが作り出した「もっとも美しいシュートチャンス」だっただけではなく、そこからのマリノスの大反抗の「心理的なキッカケ」を失ってしまった瞬間でもありました。

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 試合開始当初の10分間くらいは、マリノスが大パワーでせめ上がる・・という展開が続きます。それは、アントラーズの中盤(特に熊谷と中田浩二のボランチコンビ)が下がりすぎ、グラウンド全体の「バランス」が後方に偏っていたからです。要は、中盤での「守備戦争」で劣勢だったということです。

 まあそれも、ゲーム開始当初は「注意深く」守備を安定させることに神経を使うという、アントラーズの「試合開始の時間帯におけるゲーム戦術」だったとは思うのですが・・。両ボランチが、マリノス二列目の「追い越しフリーランニング」に最後まで付いて戻るシーンを何度も目撃しましたからネ。それが、マンマークへ移行するタイミングが比較的早い(ライン・ブレイクのタイミングが早い)「アントラーズ守備システム」の生命線ということです。

 ということで、ちょっと押され気味のアントラーズでしたが、それでも「心理的に押し込まれ過ぎる」ことはありません。攻撃に転じたら、あっという間に「厚い」攻撃ブロックを組織してしまうのです。やっぱりアントラーズは強いな・・そう感じていた湯浅でした。

 そして14分、マリノスのCKから、アントラーズが、猛烈なカウンター攻撃を仕掛けます。小笠原から鈴木、そして爆発フリーランニングで「決定的スペース」を狙う柳沢へとパスが通りそうになります(必死の波戸がカバーリングしてクリア・・波戸の忠実なディフェンスに拍手!)。そして今度はマリノスのカウンター・・。ここら辺から、ゲームが、緊迫感あふれる「ホンモノの勝負の展開」になっていきます。

 そして、前半24分の「プッツン!!」。

 このゴールでは、小笠原からのヒールパスを受けた鈴木と、マリノスの小村との「交錯」が話題になるでしょう。ビデオを見たのですが、これは本当に「微妙」。小村を身体でブロックした鈴木は、既に「ボールをコントロールできる範囲にいた?!」。だから正当なスクリーニング(ボールと相手との間に自分の身体を入れ、相手のアタックアクションをブロックするプレー)だと解釈することもできるし、逆に、ボールのカットにいった小村を「不当」にブロックした・・とも考えられます。でもまあ、タイミング的には(本当に微妙ではありましたが・・)、鈴木の「ワザあり」ブロックだったと考える方が自然かも・・(マリノスファンの皆さん・・悪しからず・・)

 そしてその後は、柳沢とのワンツーで「決定的スペース」へ抜け出した鈴木が、意を決した左足シュートで先制ゴールを決めます。この一連のアクションは、本当にインプレッシブ。このゴールは、「ブレイクスルー」を果たした鈴木が魅せ続けた「ハイパフォーマンスの結晶」とでもいうべきものでした。

 あっ、そうそう・・、この試合での「ベストゴール賞」は、何といっても、名良橋に差し上げなければ・・。もちろんそれは、前半39分に挙げた、アントラーズの追加ゴールのことです。

 それは、ビスマルクのフリーキックからはじまります。そして、マリノスディフェンダーのヘッドでのクリアをひろった秋田が、左サイドから、ここしかない!というタイミングとコースの「ラスト・サイドチェンジパス」を、三列目から走り込んだ選手へ送り込みます。そう、右サイドに空いた「決定的スペース」へ走り込んだ名良橋へ・・

 秋田のラストパスの瞬間、まだ二人のアントラーズ選手が「オフサイドの位置」に残っていましたが、彼らはまったくプレーする意志を見せず、トコトコと戻るだけ(アントラーズ選手たちのゲーム理解度の高さにも拍手!!)。そして、そんな状況だから「こそ」、強烈な意志を込めた超速ダッシュで決定的スペースへ走り上がる名良橋。もうその「タイミング」は、ドリ〜〜ム!!・・でした。

 パスを送り込んだ秋田、トコトコ戻りのトップ選手、そして後方から走り込んだ名良橋。彼らに、「ドリーム・ゴール賞」を差し上げようじゃありませんか。これって、もしかしたら、今シーズン私が見た、もっとも美しいゴールだったりして・・

 そしてその後の41分には、川口のミスからアントラーズの三点目が入り、ゲームが決まってしまいます。一つのユニットとして完璧に機能するアントラーズを見れば、この試合のマリノスの出来では、挽回は不可能に近い・・。たぶん誰しもがそう感じたに違いないと思う湯浅でした。

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 この試合は、「組織のアントラーズ」に対し、効果の薄い「個人勝負」ばかりをくり返すマリノス・・という構図だったのかもしれません(シュート数は、アントラーズの16本に対し、マリノスはたったの6本・・)。

 またそれは、アントラーズの「決定的スペース」に対する意識の高さばかりが目立った試合でもありました。

 典型的な例として、前半41分に魅せた、小笠原の「二列目からの飛び出しフリーランニング」を挙げましょう。中盤左サイドでビスマルクがボールを持つ・・、その瞬間、後方にいた小笠原が、味方の最前線を追い越して「決定的スペース」へ走り抜ける・・、そこへ、ビスマルクからピタリのロングスルーパスが・・。まさに「決定的スペースの攻略」を体現したシーンではありました。

 マリノスは、たしかに良い選手たちを揃えています。ただ、その「能力」が、うまく組織的に機能しない・・。今後の、オジー(アルディレス監督)の「建て直し(戦術的な発想の調整)」のウデに期待しましょう。

 とにかくこの日のアントラーズは、目の覚めるような「チーム・ユニット・クオリティー」を魅せ続けました。そのことは、アントラーズベンチが、80分を過ぎるまで交代選手を送り込む気配さえ感じさせなかったことからも伺い知れますよネ。

 これでアントラーズの「三冠王」が見えてきた?! さて・・




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