トピックス


さて、「ドラマ」の予選リーグ最終日が終了しました・・「C」組のユーゴスラビア対スペイン(3-4)とスロベニア対ノルウェー(0-0)・・そして「D」組のフランス対オランダ(2-3)・・(2000年6月22日、木曜日)


まったく予断を許さない予選「Cグループ」。

 「引き分け」でも決勝トーナメントに進出できるのは、スペインとの「頂上対決」を闘うユーゴスラビアだけ。ただ彼らにしても「引き分けでも・・」という姿勢では、確実にスペインにやられてしまうことは明らか。またもう一つの対戦カード、スロベニア、ノルウェーにしても状況はまったく同じ。ということで、この「ホンモノの死のグループ」の最終戦は、全4チームに「可能性」が残されたサバイバルゲームという様相を呈しています。

 この両試合は、「同時進行」で書くことにします・・

---------------------

 両試合でまず動いたのが、ユーゴ対スペイン。前半31分のこと。これはもうスーパーゴールとしかいいようのない「サイド攻撃」でした。

 ボールを奪い返したユーゴのピクシーが、中盤、自陣内でドリブルし、相手を二人引き連れた状態からバックヒールキック。これで、ハーフウェイラインからちょっとユーゴ陣内に入ったスポットで、ユーゴの下がり気味ミッドフィールダーが、「まったくフリー」でボールを持ちます。

 試合全体では、「勝たなければ!」という勢いのあるスペインが「押し気味」ではありますが、ここぞ!のチャンスの作り方では、才能レベルの高いユーゴに一日の長がある・・と感じていた湯浅です。この場面がそれを象徴していました。ユーゴには、中盤での華麗なパスワーク、高い個人勝負能力だけではなく、正確なロングパスを使った「大きな展開」という武器も備わっているのです。

 このミッドフィールダー(ヨカノビッチだと思いますが・・)から、左サイドのスペースへ上がっていくドルロビッチへ、正確なロングパスが送り込まれます。「前」へ重心がかかっているスペイン。右サイドのセルジも上がり気味で、右サイド(ユーゴにとっては左サイド)にポッカリと大きなスペースを作ってしまっていたのです(センターにはミヤトビッチ、ミロシェビッチがいるから、スペインのセンターバックは中央を固めざるを得ない!)。その「穴」を見逃さないユーゴ。

 もしかすると、相手からボールを奪い返して最初にボールをもったピクシーの「イメージ」のなかに、この「左サイドスペース」が映し出されていたのでは・・。最初にボールを持った彼の体勢では、そこへ(素早く)パスを出すことができない。だからヨカノビッチを経由して、そのスペースを突く・・というイメージが「瞬間的にできあがった」と思うのです。

 これはもう想像の域をでませんが、私の経験からも、最初にボールをもって前へ向いたとき、瞬間的に「グラウンド全体の状況」が、正確に「脳内スクリーン」に映し出されたに違いないと思うのです。そこで、「アッ、オレの前にいる(右サイドの)ミヤトビッチは、完全にマークされているし、オレの前のスペースは埋まっている・・でも左サイドは大きく空いている!」・・ってな具合です。

 そこからのバックヒール。これこそ「イマジネーションあふれる」プレー。この瞬間、「次の仕掛け」に絡む、ピクシー、ミヤトビッチ、ミロシェビッチ、そして素晴らしいピンポイントセンタリングを上げたドルロビッチたちの「展開イメージ」は、完璧にシンクロしていたのです。

 そのイメージ通り、左サイドを駆け上がるドルロビッチに、ヨカノビッチからタテパスが出されます。完璧フリーでボールをコントロールしてルックアップし、中の動きを正確に「予測」するドルロビッチ。もちろんスペインセンターバックは、ドルロビッチのドリブル突破を阻止するために、一人が「寄せて」いくのが精一杯・・

 そして、ドルロビッチから、スペインゴール前で「平行に並ぶ」二人の相手センターバックの「間のスペース」へ、本当に測ったような「ピンポイント・センタリング」が送り込まれたのです。この瞬間に「勝負あり」。少し後方から、「もしオレに合わせるなら、このスポットしかない!」と(一度前へふぇいんどどうさを入れながら)走り込んだミロシェビッチの頭に、夢のようなセンタリングが合う・・先制ゴール!!

 私は、この「攻撃ワンユニット」に、才能集団、ユーゴスラビアの真骨頂を感じていました。たしかにスペインも、キッチリとしたサッカーはしますし、そこそこ強い。それでも、組み立て段階における展開で、ロングパス、スペースをつなぐドリブルなどの「変化」を効果的に織り交ぜることができる(もちろんピクシーを中心に)、そして、ココゾ!のワンプレーに(ほんの僅差ですが)上回る「才能」を発揮する・・、そんなユーゴにホンモノの強さを感じていたのです。

 その後の前半38分。今度はスペインのラウールが、「パスを受ける際のフェイント」とドリブルからユーゴディフェンダーを外し、最後はアルフォンソが左足で、ゴール右隅へ決めます。スペインの同点ゴール!

---------------------

 もう一方の試合。スロベニアとノルウェーですが、こちらは互いに仕掛け合うも、どうも決め手にかけるといった展開です。(全体的には)ノルウェーの「パワーサッカー」対、スロベニアの「クリエイティブサッカー」といった構図・・

 ちょっとコメントに窮したので、またアムステルダム・アレーナのユーゴ対スペインに戻ります・・

-------------------

 後半の展開はもうエキサイティングそのもの。

 まず5分。右サイドでパスを受けたドルロビッチが、どんどんとスペインペナルティーエリア内へドリブルで入っていきます。「ボックスへ入って行け!!」。よく言われることななのですが、とにかく「ボックス(ペナルティーエリア)」入ることで、相手守備は安易に当たることが出来なくなってしまいますからネ。

 最後は、ドルロビッチから「チョン!」とファウンデーションの横パスが、後半にユーゴピッチに代わって登場したゴヴェダニカへ・・。スパッ! そんな音がしたに違いありません。彼が振り下ろした右足サイドキック気味のシュートが、カーブしてスペインゴールへ飛び込んでいきます。ユーゴの追加ゴール!!

 このシーンでの注目ポイントは、シュートしたゴヴェダニカとスペインGKの間に、一人のスペイン守備者が入っていたことです。このことで、スペインGKが、一瞬、ボールとゴヴェダニカのシュートモーションを見失ってしまった(カゲに隠れて見えなかった!)と思うのです。そして蹴られたボールは、見事なカーブを描いて、スペインGKの正面へ! ただ、ボールが「目線よりも高く」、「カーブしていた」ことと、GKの、一瞬の「見失い」によって、GKの反応が「数百分の一秒」遅れた・・するのが正解のようです。

 それにしても、ドルロビッチの、「セオリーに忠実」な、ボックス内への切れ込みは見事ではありました。さて、これでユーゴが再びリード。

 ただその一分後、スペインが、これまた見事な攻撃からの同点ゴールを決めてしまいます。

 右サイドでボールをもったエチェベリアが、メンディエータとのパス交換から抜け出し、フリーで、中央後方でパスを待つムニティスへの横パスを通します。それをムニティスが、本当に狙いすました左足シュートを決めてしまったのです。それも、ユーゴゴールの左ポストを直撃するシュート。これはもうどうしようもない。いったいこれからどんな展開になるのか・・

 一進一退の展開が続いていた後半18分。今度は、ユーゴ守備ラインの重鎮、ヨカノビッチが「不用意」なファールで二枚目のイエローを受けてしまいました。正当なイエロー。それにしても、ドリブルするムニティスに対する、本当にイージーな「引っかけファール」。第一戦、スロベニア戦でのミハイロビッチもそうですが、こんなところにも、ユーゴが「世界」で勝てない「心理的な原因」を垣間見た気がしたものです。

 それでも追加ゴールを奪ったのはユーゴスラビア。後半29分のことです。

 ミハイロビッチのフリーキックから、こぼれたボールを、最後はコムリエノビッチが、浮き球の横パスを、右足アウトサイドで「技アリ」のゴールを決めてしまったのです。さて・・

 その後は、スペインが押し気味ですが、例の「単調なボールの動き(変化がない)」を、ユーゴ守備陣に読まれ気味で、どうしてもチャンスを作り出せず、とうとうロスタイムに入ってしまいます。

 彼らには、(前半終了した時点で)ノルウェーとスロベニアが「0-0」であることは伝わっていたはず。また試合中にも情報が伝えられていたのかも(このことについては、どちらが正解・・なんてありませんが、そんな心理プレッシャーがあったらなおさら極限まで闘うマインドが先鋭化される・・というのがヨーロッパプロたちの常識ですから・・)

 そしてロスタイム(5分!!)の二分目が過ぎようとしていたとき、コトが起きてしまいます。ユーゴのディフェンダーが、スペイン選手を引っ張って倒してしまったのです。PK!!・・冷静に、そして「確信をもって」左隅に決めるメンディエータ。素晴らしい。彼には、この一点の「重み」がよく分かっていたに違いないのに・・。プレッシャーと「お友達」のメンディエータに大拍手!!

 そして、その1分後の勝ち越しゴール。面白いのは、この最後の1分半の間に、何度もロングパスが繰り出され、最後のシュートが決まったのも、後方からの、グアルディオラの一発ロングパスがヘディングで落とされたところを、アルフォンソが左足で叩き込んだものでした。最後の最後に、ロングパスが成功してしまって・(もちろん状況的にパワープレーをするしかなかったことは言うまでもありませんがネ・・)。これでスペインも、ショート・ショートだけではなく、ロングパスもミックスしていくこと(攻撃ゾーンを一瞬にして変化させること)の「有効性」を再認識したのでは・・?!

-----------------

 こんなドラマを見せつけられ、本当に心身ともにエキサイトし過ぎた湯浅は、ちょっと疲れ気味。これからすぐにビジネスミーティングも始まるということで、今日はここまでにして、スロベニア対ノルウェー戦(結局0-0で終了!)、またグループDのフランス対オランダ戦(2-3でオランダが勝利!)につていては次の機会に分析しようと思います。ご容赦アレ・・

 アッと、一つだけ。たぶんノルウェーの選手たちは、0-0で試合が終了したとき、ユーゴ対スペインが「3-2」で終了したものと思いこんでいたに違いありません。もちろんその後にスペインが「3-3」にしても、「同勝ち点の場合は(ともに勝ち点4)当該チーム対戦結果」が適用されますからノルウェーが準々決勝へ進出・・と確信していたに違いないと思うのです。そしてその後の「地獄」・・。まあそれもサッカーのうちですから・・

 これで、準々決勝の対戦が決まりました。

 一方の「ブロック」では、イタリア対ルーマニア(24日)とオランダ対ユーゴスラビア(25日)、もう一方が、トルコ対ポルトガル(24日)とスペイン対フランス(25日)とう組み合わせです。どれをとっても「エキサイティング」。楽しみで仕方ありません。

 では本日はこれで・・




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]