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イタリアの「ツボ展開」に打ち勝った世界チャンピオン・・フランス対イタリア(2-1)・・(2000年7月3日、月曜日)


さて、どのように書き始めようか・・。いま決勝の前半を見終わったところです。

 まずフランスに、プティーがいない、アネルカがいないことを書かなければ・・。ルメール監督は、アンリをワントップに、二列目の中央にジダン、その両側に、右にジョルカエフ、左にデュガリー、そしてダブルボランチにデシャン&ビエラという布陣を選択しました。もちろん不動のフォーバックは変わりません(チュラム、ブラン、デサイー、リザラズ)。

 対するイタリアは、準決勝で退場になった右サイド、ザンブロッタの代わりにペソットを入れます(左サイドは不動のキャプテン、マルディーニ、そしてネスタ、カンナバーロ、ユリアーノのフラット気味スリーバック)。そして準決勝で交代出場し、決定的なカウンターシュートまでいったデルベッキオをワントップに(ゾフ監督は、インザーギの代わりに彼を選択)、トッティーとフィオーレで二列目を形成します。ボランチは、ディ・ビアッジオとスーパーボランチ、アルベルティーニ。

 試合は、最初の5分間、エッ! というくらいにイタリアが攻め上がります。それでも考えてみれば、イタリアが、最初の時間帯に押し上げ、相手が(バランスを崩しながら?!)押し返してくるところを見計らってカウンターを仕掛ける・・という「最初の時間帯におけるゲーム戦術」は彼らの常道ですから・・

 イタリアの立ち上がりでの押し込みですが、それによって相手(フランス)が、「これはイカン。押し返すゾ!!」と(ちょっと前後のバランスを崩してまでも?!)上がってくるところを必殺のカウンターを決めてしまう・・という「イメージ的な展開」を考えているんでしょう。そして実際に、デルベッキオがシュートまでいってしまいます。なるほど、イタリアは確かに試合巧者だな・・

 そしてフランスは、、「アッ、これはいけない・・ちょっと押し上げが無計画・・」と感じ、15分が過ぎたあたりから、「バランス良く」押し上げはじめます。

 そして、そんなプロセスを経て、試合が落ち着いたものになっていきます。フランスが、試合を「ある程度」コントロールし、イタリアがカウンターを狙う・・という「予想された展開」になっていったのです。そして膠着状態に・・

 両チームともに、「十分な」決定的シーンを作り出せないまま(フィオーレのセンタリングからのデルベッキオのシュート、逆にフランスでは、アンリのドリブル突破からのセンタリングや、コーナーキックからのチャンスなどはありましたがネ・・)時間が過ぎていきました。

 フランスのルメール監督が、デュガリーとジョルカエフを選択した判断については、同業者として尊重はしますが、さて・・というのが私の本音。デュガリーの、攻守にわたるダイナミックとプレーが、ある程度機能していたことは認めますが、(もう何度も書いているように・・)ジョルカエフの「試合への実効ある参加レベル(自分から仕事を探すという姿勢!)」に対しては大いなる疑問を感じていた湯浅でした。

 たぶんルメール監督は、守備の強いイタリアだから、ほとんどの場面では「消えてしまう」ジョルカエフでも、ワンチャンスで決定的仕事をしてくれるのでは・・なんて考えているんでしょうね。さて・・

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 後半もフランスが仕掛ける展開。

 4分には、左サイドで、リザラズからのタテパスを受けたアンリが、マークするカンナバーロを振り切ってゴールラインまでボールを運び、決定的なショートセンタリングのシーンを作り出します。ただ中央へ爆発的に走り込んでいたジダンへは合わず・・。そしてジョルカエフは「下がり気味」に、緩慢に動いただけ・・

 イタリアは、典型的な「カンヌキ守備」になっています。そして一発ロングパスでのカウンター。フランスは、そのことをよく分かっていますから、足の速いデサイーを中心に、デルベッキオ、フィオーレ、トッティーなどの「抜け出し」を確実にチェックしています。

 またフランスは、(主にブランが)最後方からアンリへ勝負のロングパスを送るなど、何とか「攻撃の変化」を演出しようとはしますが、イタリア守備の堅いこと・・

 ここでイタリアのゾフ監督が動きます。「チームワーク系」のフィオーレに代えて、「タレント系」のデル・ピエーロを投入したのです。これで両チームの監督は、守備への貢献を捨ててでも、ワンチャンスに期待が出来る「才能」を入れてきた?!(フランスはジョルカエフ、そしてイタリアはデル・ピエーロ)

 そしてこの「交代」によって、イタリアに「瞬間的な追い風」が吹きます。たぶんゾフ監督の思惑だったと思うのですが、デル・ピエーロの交代出場が「刺激」となり(このことは試合前からの合意だったのかも・・デル・ピエーロが出たら、とにかく押し上げろ・・と・・)、戻り気味だったイタリアの「前への勢い」が急激に加速したのです。

 そして、左サイドからの決定的に近いセンタリング攻撃の後、右サイドからのコーナーキックを得ます。そこからの展開で、トッティーのベストタイミングの「バックヒール・パス」が、それを狙っていたペソットへ通ります。そして、「ダイレクト」で、本当に狙いすましたピンポイントセンタリングを、中央で待ち構えるデルベッキオにピタリと合わせたのです。先制ゴール!! それは、後半10分のことです。

 このピンポイントセンタリングですが、素晴らしいカーブを描き、ゴールを決めたデルベッキオの「前」にいたブラン、デサイーの「横」を、ギリギリで(回り込むように)すり抜けて通ってしまいます。とにかく、ここ一発の極限集中パワーが乗り移った・・としか表現のしようがない、美しいセンタリングでした。

 イタリアの「ここ一発の集中力」に脱帽!!!

 後半12分、フランスのルメール監督も動きます。デュガリーに代えて、売り出し中の「攻撃の才能」、ヴィルトールを入れてきたのです(彼は、対日本戦でも出場)。さて・・

 もちろん「前へ」重心が移動するフランス・・。当然イタリアの「カウンターチャンス」は増大します。デル・ピエーロという才能も加わりましたからね。

 後半13分、一瞬のスキを突き、イタリア、ディ・ビアッジオからトッティー、そして最後は、フリーになっていたデル・ピエーロへラストパスが・・。彼のシュートは、僅かに右に外れましたが、「これぞ、イタリアの必殺カウンター!!」といったシーンではありました。ここからは、イタリアの「十八番(おはこ)」の展開になってしまうのか・・

 「失うものが何もなくなった」フランスが、大迫力でイタリアを押し込み続けます(イタリアのワナ?!)。そして、左サイドからヴィルトールが・・、中央からジダンが・・と決定的なカタチを「作りかけ」はしますが・・

 逆にイタリアも、トッティー、デル・ピエーロ、デルベッキオ、そして両サイドのマルディーニ、ペソットなどが危険なカウンターを仕掛けます。緊迫する展開。後半30分には、結局最後まで「波に乗れなかった」ジョルカエフが、トレゼゲと交代。フランスは、緊急スリートップという布陣になります。

 もうここからはフランスが大パワーの攻撃を仕掛け、イタリアがしのぎながらカウンターを仕掛けるといった展開。またまたヴィルトールが決定的シュートを放ち、イタリアGKのトルドがギリギリで防ぐ・・そのすぐ後には、「組み立て」から、右サイドのトッティーからパスを受けたアンブロジーニが、ドリブルで突進して(また最前線で構えるデルベッキオと協力して)フランス守備選手たちを引きつ、最後は、左サイドでフリーになっていたデル・ピエーロへ正確なラストパスを送る・・フランスGKと1対1になってサイドキックでシュート!!・・バルテズが右足で防ぐ・・!! フ〜〜

 ロスタイム・・肩を組んでタイムアップのホイッスルを待つイタリアベンチ・・必死に攻め続けるフランス・・残り時間が1分を切った・・そのときでした、神様の気が急に変わった(?!)のは・・

 フランスGK、バルテズのフリーキックから、交代出場のトレゼゲがヘディングで流します。そのボールを、イタリアのカンナバーロがヘディングでクリアしようとしますが、届かずに流れてしまい、最後は、背後にポジショニングしていたヴィルトールの足元へ・・。胸で落としてそのまま左足シュート・・。シュートされたボールは、イタリアGK、トルドの脇の下を見事に抜いていきました。同点ゴール!!

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 さてもう誰も交代できない両チーム。延長へ向けて、何らかの戦術的な変更はあるのか・・

 フランスは、アンリとトレゼゲのツートップ。同点ゴールを入れたヴィルトールは、ジョルカエフと同じ、右サイドのトップ下に位置します。対するイタリアは、基本的な戦術に変更なし・・

 そしてゲームが落ち着いた雰囲気になっていく・・?! いやいや・・

 決定的なタテパスから、デル・ピエーロが抜け出しそうになる・・フランスGKバルテズがギリギリのところで飛び出してクリア・・その直後、フランスの(交代出場した)ピレスが、中距離シュートを放つ・・トルドがファンブルしかかり、そこにアンリが詰める・・

 一つのアクションで、急にゲームが動き、そしてまた落ち着くというエキサイティングな展開をくり返すのです。これも「ゴールデンゴール・システム」の賜?!

 そんな展開が続いていた延長前半12分のこと・・アッ、フランスが・・

 フランス左サイドで、アンリ、ジダンがプレッシャーをかけていたことで、(リザラズと交代した)左サイドバックのピレスが(アルベルティーニのクリアミスから)ボールを奪い返します。一瞬「タメ」を入れ、状況を頭に叩き込むピレス。この瞬間、彼は意を決しました。「ジダンも、アンリもマークされている・・。ヤツらが相手を引っ張っているから、ここは勝負しかない!」

 そして、爆発的なドリブルをスタートします。そのタイミングの良かったこと。まず体勢を崩していたアルベルティーニを外し、次にアンリのマークを意識していたことで、ほんの一瞬、対応が遅れたカンナバーロも抜き去ってしまいます。そして、追いついてきたネスタの股間を抜く「ラスト・センタリング」。それが、中央で待ち構えていたトレゼゲにピタッと合ったのです。左足ダイレクトシュート!!

 この「ゴールデンゴール」は、ピレスの「意を決したドリブル勝負」が全て。勇気をもって「個人勝負」へチャレンジしたピレスに大拍手です。

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 「ツボ」にはまった展開だから、誰もがイタリアの勝利を確信していた残り時間1分。そんなタイミングで生まれたヴィルトールの同点ゴール。そして延長に入ってからの、トレゼゲの「ゴールデンゴール」。世界トップの男たちが繰り広げた「ホンモノの闘い」を堪能した湯浅でした。

 負けたイタリアは、「彼らのサッカー」を最後までやり通し、そして優勝をほぼ手中に収めるところまでいきました。彼ららしい「勝負を極限まで意識する」サッカーは、見ている方に「これはもうイタリアのツボにはまっている・・このまま行っちゃうナ・・」なんて確信させるだけのパワーがあったのです。それに対しても拍手!!

 そして「ダブル」を達成したフランス代表。これからも、ヨーロッパでは、彼らとオランダを双璧に、ポルトガル、チェコ、またバルカン諸国や旧ユーゴスラビアなどの「選手輸出国」がリードしていくことになるでしょう。

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 湯浅は、明日からヨーロッパ遠征です。ビジネスミーティング、そしてドイツでの国際コーチ会議など・・。折に触れてレポートします。ご期待アレ・・

 また、今回のヨーロッパ選手権での(予選ラウンドのみですが)「決定的シーン」を、拙著「五秒間のドラマ」風にまとめた記事が、文芸春秋社の「ナンバー・ヨーロッパ選手権特集号」に掲載されます。そちらもお楽しみに・・

 では今日はここら辺で・・




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