トピックス


ドラマチックゲームと順当ゲーム・・イタリア対トルコ(2-1)、フランス対デンマーク(3-0)・・(2000年6月12日、月曜日)


さて、まずイタリア対トルコ。

 最初の数分間、イタリアがゲームを支配します。それは、トルコ最終ライン、中盤の底のマークが甘かったからです。サスガにイタリア、相手のマークの甘さを逃さずに「素早いボールの動き」からの決定的なスルーパス(もちろん最前線の決定的フリーランニングも!)、どんどんとトルコ守備ブロックを振り回してゲームを支配してしまったというわけです。

 ただその後、10分を過ぎたあたりからトルコが盛り返します。その要因は、何といっても中盤守備の安定です。それによって最終守備ライン(スイーパーを置く従来型のスリーバック)、特に両ストッパーの、インザーギやトッティーに対するマークも安定し、それが、彼らの迫力ある「スキルフル攻撃」の基盤になったというわけです。

 「内容」は、完全にがっぷり四つ・・というか、どちらかといえば、勢いではトルコに軍配が上がる・・という展開なのです。トルコのテクニック、戦術能力は、ここ数年で本当に進歩しました。特にボールをしっかりと動かすという「基本的な発想」が大きく発展し、その「優れた組織プレー」によって、彼らが本来もっていた「個人的なチカラ」が、より効果的に生かされるようになったのです。

 どんどんと押し込んでいくトルコ。ただ、そこはイタリア。彼らの中盤、最終ラインの守備は堅牢そのものです。伝統・・ですかネ。特に、ボールがないところでの守備が安定しています。「ボール周り」のプレーで、トルコのテクニックに振り回されても、そこからの「次の展開」で潰してしまうのです。フム・・やはりイタリアは強いな・・ということは、押されているとはいえ、本当はイタリアペースだったりして・・なんてことを思ったものです。

 そして後半7分、イタリアの、「ワンチャンスを見逃さない」夢のような先制ゴールが決まります。

 テレビ画面では、ディノ・ゾフ監督の「これはいんかな〜〜」という表情が映し出されていたのですが、その次の瞬間、イタリア陣内からのフリーキックが、直接、トルコのペナルティーエリアまで飛んでいきます。

 ヘディングの競り合い!! そんなことを両チームの選手たちが感じていたに違いありません。ただ「その瞬間」に、次の「ボールがないところでのアクション」を起こしていたのは、イタリア選手たちだけでした。トルコのディフェンダーたちで動いていたのは、インザーギとヘディングを競り合うディフェンダーと、その前方にいるトッティーをマークしていたディフェンダーだけ(ほとんどが、ボールウォッチャー、そしてアクションウォッチャー!!)。

 後方から、インザーギのヘディングの競り合いでこぼれたボールを狙うために、(フリーキックが蹴られた瞬間に)後方からスタートを切ったフィオーレ。また、同様に後方から押し上げのフリーランニングをスタートしたコンテ(これもフリーキックが蹴られた瞬間)。この二人の、素晴らしい「ボールがないところでのアクション」、もっといえば「クリエイティブな無駄走り」が、最後は「決定的な意義」を持ちます。

 まずインザーギのヘディングが(相手との競り合いに勝利!!)、正確に、フィオーレが走り込むスペースへ送られます。一瞬、「そのまま持ち込むぞ!」とか、「シュートを打つぞ!」なんていう「素振り」を見せるフィオーレ。

 ヘディングしたインザーギはというと、もちろん着地した瞬間に、ウラのスペースへ爆発ダッシュです(彼のマーカーは完璧に置き去り!!)。この「次のプレーに対する意識・イメージ」がスゴイ!1

 さてフィオーレ。彼の「素振り」で、トルコのスイーパー、そしてトッティーのマーカーの意識が「引きつけられ」ます。その瞬間、フィオーレは、『ダイレクト』で、爆発ダッシュしたインザーギの前方スペースへ、決定的な浮き球パスを送り込んだのです。

 完璧な、「ウラ取り」コンビネーション。美しい・・、素晴らしい・・。

 インザーギは、フリーシュートの体勢に入り、『同時に』、トッティー、フィオーレ、そして後方から追いついてきていたコンテが、「こぼれ球」を狙います(この、針の穴を通すような可能性に賭けた詰めの動きに大拍手!!)。この瞬間、本当に、トルコゴール前には、四人のイタリア人に対し、ディフェンダーは二人しかいなかったのです。

 その次の瞬間、インザーギのシュートが跳ね返った「こぼれ球」を、最後方から走り込んだコンテが、オーバーヘッドで先制ゴールを決めますが、とにかく私は、この「針の穴の可能性に賭けた、ボールがないところでのアクション」に、イタリアの、イタリアたる所以を見ていました。また、この一連のプレーにおける「トルコ守備の集中力のなさ」も・・

 そして結局は、その「最終勝負シーンにおける集中力の差」が、勝負を分けてしまいます。確かに、トルコ、セルゲンの正確なフリーキックを、オカンがアタマで決めた同点ゴールは見事でしたし、その後もトルコは大迫力で魅力的な攻めを魅せてはいました。それでも、攻守における「最後の瞬間での集中力」というか、ほんの「小さなところ」に、勝負を分けてしまう「僅差」を感じていた湯浅なのです。

 「クリエイティブな無駄走り」とか・・、「忠実・堅実なボールがないところでの(ボールウォッチャーにならない)守備」・・等々。それらがキーワード・・ってことです(もちろんキーワードは、もっとたくさん持っている湯浅なのですが、ここではこれだけで勘弁・・)。

 その後は、攻め込んではいるが、うまく決定的チャンスを作り出せないトルコに対し、インザーギが(フリーヘディングシュート)、交代したデル・ピエーロが(バー直撃のフリーキックや、走り込みながらのフリーシュートなど)、次々と決定的なチャンスに恵まれます。そこでも、もちろん「キーワード・プレー」が生かされていることは言うまでもありませんよネ。そして、そんな流れの中での「PK」の判定。難しい判断ではありましたが、もし誤審でも、「レフェリーのミスジャッジもドラマのうち・・」という原則からすれば・・。このPKで、イタリアが決勝ゴールを奪いました。

 全体としてみた場合、この試合は、「僅差」がそのまま「結果に出た」内容だったとすることができそうです。

=================

 さて次は、フランス対デンマーク・・

 結論からすれば、フランスに「個人的なチカラ」で一日の長があった・・ということに落ち着きますかネ。たしかにデンマークもチカラのあるチームではありますが、最後のシーンで、「本当の仕事」ができる「才能」では、確実にフランスに分があるということです。

 その才能とは、もちろん、アンリ、アネルカ、そして中盤の王様、ジダンのこと。

 でも試合は、デンマークの「ワンチャンス」から始まりました。開始早々、トント〜ンというタイミングでタテパスが出たところで、デンマークのサンドが、抜け出していたというわけです。でも、サンドのシュートは、フランスGK、バルテズの「足」に阻まれてしまって・・。これは完全にサンドのシュートミス。ゴール正面から、まったくフリーでドリブルしていったのですから・・。余裕がありすぎた?! それにしても下手なシュートではありました(大柄でパワーが信条のサンドにウマサを期待したのが間違い?!)

 そのすぐ後、今度はフランスに決定的なチャンスが巡ってきます。これまた「トント〜ン」というダイレクトでタテパスが飛び出し、タイミング良く動き出していたアネルカにピッタリと合ったのです(ホント、オフサイドギリギリでした・・本当はオフサイドだったりして?!)。ただアネルカは、デンマークの英雄であり、世界最高のGKという称号を欲しいままにしてきた、元マンチェスター・ユナイテッドのスーパーマン、シュマイケルまでも外したのに、最後はシュートミス・・(カバーしてきていた相手ディフェンダーが目に入ったことでコーナーを狙いすぎたのでしょうか・・)

 試合は、デンマークが「(どちらかというと)パワー」で押し込んでいるが、最後のところまでは攻めきれない(フランス守備を崩し切れない)・・、対するフランスは、攻め込む回数は少ないものの、ツボにはまった時の危険度は、デンマークの何百倍・・ってな展開です。ということで本当はフランスペースだった?!

 そして「案の定」フランスが先制ゴールを奪ってしまいます。

 起点は、最終ラインのブラン。センターサークル付近でボールを奪い返した彼が、そのまま、ドリブル、ワンツーを使いながら攻め上がります。このタイミングが最高! デンマークの中盤守備は、「見慣れない侵入者」を捕まえ切れません。最後は、ブランからアンリへタテパス・・それをアンリがダイレクトでタテへ・・タイミング良く飛び出した(ちょっとオフサイド気味の)アネルカが、またまたシュマイケルと1対1・・ただ今度はシュマイケルの飛び込みテクニックが勝り、一度はボールを押さえられてしまう・・でもそのこぼれ球を「見慣れないヤツ」が、漁夫の利だヨ〜ン・・ってな具合にゴールへ押し込んでしまう・・。先制ゴ〜〜〜ル!!!

 ゴールを奪ったブランは、「最初から最後まで」仕掛けの中心にいたというわけです。これは、タイミングを測った最終守備者のオーバーラップがいかに効果的か・・ということの証明のように思います。日本代表でも、中田浩二や森岡、はたまた松田といった「見慣れないヤツら」の押し上げが大きなチャンスにつながったシーンは何度もありましたからネ。

 フランスの二点目は、もう「才能」。ジダンとアンリのコンビから(スーパータイミング&コースの、ジダンからのタテパスが出た!)、アンリが抜け出してドリブルで進み、最後は、名手シュマイケルも「ノーチャンス」という素晴らしい「ゴールへのパス」を決めたのです(確か右のサイドネットを揺すった?!)。そして三点目は、完璧なカウンターを決めました。

----------------

 ところで、後半に「フランスらしいサッカー」が出てくるまで、ちょっとモタついたのですが、その原因の一端は、中盤のジョルカエフにあったように思います。これは、オランダのセードルフにも言えることですが、「天才肌」の選手たちの「気抜けプレー」のことです(ジョルカエフからビエイラに代わって明らかにフランスのベースが上がった!!)。

 要は、中盤の選手たちは、どんなポジションであれ、攻守にわたって、とにかく「自分から進んで仕事を探す!」という態度が重要だということです。その意味で、ジョルカエフやセードルフは(ボールを持ったら、たまには、他の選手たちには望めないようなファンタジアは演出するんですが・・)、ボールがないところでの「攻守にわたるプレー」に不安を感じるのです。それはチームメイトも感じていること。

 それは「目立たないビールス」とでも表現できますかネ。直接的には大きな支障はきたさないが・・でも、徐々に、そして確実に「チームの全体組織(マインド)」を冒し続け、最後は、全体的な「アクティブ・マインド」を低下させ、チームの活動量を減退させてしまう・・

 もちろん逆に、「スーパー刺激プレーヤー」もいます。活発なアクションで、チーム全体にポジティブな影響を与えられる選手のことです。私がはっきりと覚えている明確な例の一つが、フランスワールドカップでの「レオナルド」。ブラジルの緒戦、対スコットランド戦。当時のザガロ監督は、後半から、調子が上がらず、消極ビールスの「一種類」になってしまっていた「ジオバンニ」を下げ、「スーパー刺激プレーヤー」、レオナルドを入れたのです。そこからのブラジルの「蘇生」については、私のHPトピックス(二年前)を参照してください・・

 試合は、二点目が入ったところで既に決着していました。それ以降は、フランスの「才能」だけが目立って、目立って・・。

 デンマークも確かに「良いチーム」ではありますが、、やはり「個人的な才能」に恵まれた方が絶対的に有利!! あっ、その才能も「総合的なチーム力」の内か・・。まあとにかく「才能」があれば、それを十二分に生かすチームマネージメントが成功の秘訣だということが言いたかったのです。

 それは、「才能」は、前述したとおり、チームにとって「マイナス要因」になってしまうことも多々あるからです。ということで、フランス代表チームの、ルメール監督に拍手しましょ・・

 次は、いよいよ、「サッカー内容的に絶不調のドイツ代表」が登場です。ご期待アレ・・




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]