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戦術的対処がまったく出来ていなかったスペイン、ノルウェー対スペイン(1-0)・・神様のスーパードラマ(また内容も豊富だった)、ユーゴスラビア対スロベニア(3-3)・・(2000年6月14日、水曜日)


まずスペイン対ノルウェーから・・

 この試合では、先日のオランダ対チェコの試合を彷彿してしまって・・。

 ノルウェーが、しっかりと守ってカウンター・・というゲーム戦術なのに対し、「個人的な能力」では上の(でもチーム力では?)スペインが攻めきれない・・。原因は明らか。スペインのボールの動きが鈍いことでノルウェーの守備に、明確に「次」を読まれてしまい、ほとんど危険なチャンスを作り出せないのです。別な言い方をすれば、スペインの「組み立て」のリズムでは、ノルウェーの守備ブロックに「穴」を作ることも、出来ている「穴」を使うこともできないということです。「穴」とは、もちろんノルウェー守備陣が薄い(人数が足りない)部分のことですよ・・

 どうしてもっと簡単にボールを動かさないのだろう。そうすればノルウェーの守備ブロックを振り回して「穴」を作ることも可能なのに・・。能力の高いスペイン選手たちは、ボールをもったら、すべからく、一度、二度、三度とボールを持ち替え、コントロールし、はたまたフェイントまで入れてしまって・・。そして詰まった状況で、「次のステーション」へボールを回すのです。これでは、ノルウェーの守備は、やりやすいことこの上ない・・

 それに対し、フローを中心に、素早く、危険なカウンターや、攻め上がるにしても、本当にシンプルなプレーを組み合わせ(少ないタッチとパス回数で)、素早くスペインゴールへ迫ってしまうノルウェー。そしてうまく「高さ」を生かしますから、コーナーキック、フリーキックなどのセットプレーでの危険度は、相変わらず高い。これは・・

 そして後半20分。ノルウェー陣内に少しはいったところからのフリーキックという場面。ここで、ノルウェーGKのミューレが蹴ったボールは、そのままスペインのペナルティーエリアまで飛んでいきます。勝負ゾーンは「ピンポイント」。そこしかないのに、飛び出したスペインGKのモリナは遅れ気味。それに対し、飛び込んでいくノルウェーのイベルセンの「助走」はレベルを超えています。結局、GKにも「高さ」で競り勝ったイベルセンのヘッドが、そのままゴールへポンポンと転がり込んでいきました。

 何度か作り出したスペインのチャンスは、例外なく、「トントント〜〜ン」というタイミングの素早いボールの動きから生まれました(もちろん、タイミングの良いラウルのフリーランニングとの組み合わせ!)。それなんです。これだけ守備を厚くしているノルウェーを崩すためには、それが一番効果的なんです。もちろん、レベルを超えた「ドリブラー」がいても効果は同じですけれども、スペインには・・ネ・・

 スペインが、組織プレーと個人プレーをうまくバランスさせようとしているのは感じますが、最後の個人勝負が不明確。最後の時間帯には、バレンシアのメンディエータを入れるなど、リズムを変えようとしますが、それでも時すでに遅し。攻めのリズムを変えることが出来ずに、またまた「本大会に弱い」というイメージを強化してしまったスペイン・・

 この試合は、確固たるゲーム戦術の(全員のプレーイメージが一致している)ノルウェーに対し、(戦前から相手の戦い方は分かり切っていたにもかかわらず)うまく戦術的に対処できなかったスペイン・・といった構図ではありました。

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 さて次は、ユーゴスラビアと、地域予選での「驚き」を演出した(決定戦で、強豪ウクライナに競り勝った)スロベニアの一戦です。

 立ち上がりは完璧にゲームを掌握するスロベニア。旧ユーゴスラビアから独立した(八年前?!)彼らの、ユーゴに対するライバル意識はレベルを超えているように感じます。ユーゴも攻め上がろうとはするのですが、何せ「ボールの動き」がまだ緩慢。それにスロベニアの忠実・アクティブな中盤守備も素晴らしいから、まったく攻撃のペースを握れないという展開が続きます。

 ただ試合は、ノルウェー対スペインと違い、両チームともに攻めるという意識がありますから、「攻め合い」のエキサイティングゲームという様相を呈してきます。これは面白くなりそうだ・・。そして徐々にユーゴスラビアが盛り返し、試合のペースを掌握しはじめます。

 それでも、仕掛けの手をゆるめないスロベニア・・。この何ものをも恐れない攻撃性・積極性の心理的背景には、多くの国から侵略され支配されてきたという「スロベニアの歴史」があったりして・・。

 そして22分。そのスロベニアが、ユーゴスラビア守備陣の一瞬のスキを突いて先制ゴールを決めてしまいます。フリーキックを素早く左へ展開し、(たぶんカーリッチだったと思うのですが)その左サイドの選手が、「これぞピンポイント!」という、カーブをかけた「鋭い」センタリングをゴール前へ送り込んだのです。ここしかない! というピンポイントのスポット。そこに後方から走り込み、ユーゴ守備陣と競り合って「アタマ一つ」抜け出したのは、スロベニアのエースチャンスメーカー、ザホビッチ。ドカン!! 見事なヘディングでの先制ゴールではありました。

 そして互いに攻め合う面白い展開のなか、前半32分に、またまたスロベニアのザホビッチが、タイミング良く「決定的スペース」へ抜けだし、そこへ、下がってボールを受けたセンターフォワードのウドピッチから「これぞスルーパス!」というラストパスが出ます。ザホビッチのフリーシュートは、ユーゴGKクラリが足ではじき出してしまいましたが、それは、それは美しいコンビ攻撃ではありました。

 このザホビッチ、今はギリシャのオリンピアコスでプレーしているということですが(他の選手たちはオーストリアのプロリーグがほとんど)、この大会後には、「ブランドネーション」からお誘いがあるに違いない・・

 「どうもリズムを良くできない・・」、そして「決定的チャンスも作り出せない・・」というユーゴスラビアの攻撃。ボールの動きがまだ緩慢で、「組織」と「個人」も、うまくバランスが取れていない。また、スロベニアの守備も素晴らしい出来。

 ・・ってなことを思っていたら・・登場しましたよ・・そうです、我らがストイコピッチです。前半35分のこと。サスガ「世界の」ボスコフ監督。ゲームの流れを、しっかりと把握しているじゃありませんか。「ここでゲームの悪い流れを逆流させられるのは、ヤツしかいない!!」・・ってな交代でした。

 そして案の定、ユーゴの攻撃が、俄然「危険な匂い」を帯びてきます。サスガ、ストイコピッチ・・。また彼が入ったことで(完全にチャンスメーカーとして効果的に機能!)、ユーゴピッチ、ミヤトビッチ、コバチェビッチなどの攻撃陣のプレーにも、クリエイティブな発想、そして積極的なリスクチャレンジ姿勢が見えはじめます。これこそ「一人の選手がリズムを変えた!」といった場面ではありました。

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 さて後半。試合は、ピクシーを中心にユーゴがペースを握っています。それでも、スロベニアの守備の固いこと・・。簡単には崩し切れません。ここで、ボスコフ監督が再び動きます。コバチェビッチに代えて、ミロシェビッチを投入したのです。ただその直後。後半6分のことです。スロベニアが「ワンチャンス」のフリーキックを決めてしまいます。キッカーは、ザホビッチ。そして瞬間的な「飛び出し」から、中盤での攻守の「重鎮」、パブリンがヘディングで決めたのです。これで「2-0」。ユーゴは風前の灯火?! ウクライナを破ったスロベニアは、その結果がフロックでなかったことを、「内容的」に見事に証明したのです。

 そしてユーゴの怒濤の攻撃が始まります。ただチョット「無計画に近い勢い(ちょっと感情的になっている雰囲気・・)」を感じます。そしてそれを、またまたスロベニアが、クレバーに逆手に取ってしまいます。最後尾でボールを持った「名手」ミハイロビッチが、「イージー」に左足アウトサイドで横パスを出し、それを(狙っていた?!)ザホビッチにカットされてしまったのです。ザホビッチは、そのまま持ち込まれてドカン!。これで3対0! またその後の後半14分には、「感情的」になっていた(?!)ミハイロビッチが、相手を突き飛ばして二枚目のイエロー(もちろん退場ですヨ)!! フ〜〜

 恐るべし、スロベニア!

 ただここから、またまた「神様のドラマ」が・・

 後半20分。左から、ピクシーがコーナーを蹴り、こぼれ球をミロシェビッチが押し込む・・「1-3」。直後の22分。中央付近左サイドでボールを持ったピクシーから、左サイドのスペースへ完璧なタイミングでフリーランニングしたミヤトビッチへ、タテパスが通る。コントロールし、一人かわして中央のドルロビッチへ正確なパスを回すミヤトビッチ。このとき、一瞬、スロベニア守備陣の思考とアクションが「静止」する。この「落とし穴」を見逃さず、ドルロビッチが、冷静に、ゴール右サイドへ、左足でシュート。ゴ〜〜ル!! これで「2-3」。そして21分。大きく動いてユーゴ攻撃をコントロールするピクシーから、右サイドでバックパスを受けたユーゴディフェンダー。そこから、同じ右サイドでタテに抜け出ていたドルロビッチへ、ベストタイミングのタテパスが「ダイレクト」で送られる。ドルロビッチは、当たりにきたスロベニアのディフェンダーの「走るコース」をうまく利用して(逆を取って)抜けだし、そのままゴールラインまで持ち込んで「マイナス」のラストパスを、中央に詰めていたミロシェビッチへ・・。ミロシェビッチの「ゴッツァン・ゴール!」

 オイオイ! これで同点だゼ! なんて思わず声が出てしまったりして・・

 結局試合は「3-3」の引き分けで終了しました。

 この試合のポイントは、「3-0」とリードし、ユーゴ主力の一人、ミハイロビッチが退場したことで相手は「10人」という状況が、スロベニアの「緊張感」を崩壊させ、逆にユーゴ選手たちにとっては、それが「極限の刺激」となったということです。サッカーは「心理ゲーム」。「3-0」で、それも「10人で・・」という劣悪な状況からの、ユーゴの、それまでとはまったく次元の違う攻守にわたるスーパーアクティブ「サッカー内容」が、その証明だというわけです。

 サッカーは「自由なボールゲーム」だからこそ、「心理的な要因」がグラウンド上に及ぼす影響が、他の競技とは比べものにならないほど大きいというわけなのです。

 そんな「原則」が、明確なカタチで見られた・・この試合は、その意味でも、サッカーの本質的な魅力を映し出す「鏡」のようなゲームだったとすることができるかもしれません。

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 ア〜〜ッ、面白かった・・。

 非常にレベルの高いスロベニア。地力はあるが、(オランダのように)ちょっとゲームペースを乱しているユーゴ。まだまったく自分たちの特徴を生かすことができていない(戦術的に問題が見え隠れする)スペイン。また逆に、自分たちの特長を生かし切るサッカーに徹することで「勝負には抜群に強い」ノルウェー。

 さてこの「グループC」からは、どのチームが抜け出てくるか・・興味が尽きないじゃありませんか・・




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