チェコにとっては、絶対に勝たなければならない試合。彼らの攻撃的な姿勢は、ゲームがはじまった瞬間から強烈に伝わってきます。どんどんと攻め上がるチェコ。まず、右サイドを押し上げたシュミチェルからの鋭いパスを受けたネドビェドの左足シュート、次は、シュミチェルのセンタリングを「ドカン!」と、ヘディングシュートを放つコラー・・
ゲームの流れはチェコ。落ち着いて、その勢いを受け止めようとするフランスですが、チェコの勢いは止まりません。これは・・なんて思ったものなのですが・・
そんな「期待」を抱いていた前半7分。一瞬のチェコ守備陣の集中切れを見逃さなかったフランスが、キッチリと先制ゴールを奪ってしまいます。
チェコのガブリエルが、自分の後方を確認せずに、バックパスをしてしまったのです。それも緩いパス。ただガブリエルの後方にいたのは、フランスのアンリ。そのパスをカットしたアンリは、そのままドリブルで突き進んでチェコGKと1対1。そして、本当に「世界レベルの落ち着き」でGKの股間(・・それとも脇の下?)を抜いてキッチリとシュートを決めてしまったのです。これはもう、サスガとしかいいようがないゴール・・
その後は、チェコの「勢い」をしっかりと受け止め、クレバーに、エレガントに、クリエイティブな攻撃を仕掛けるフランスに、やっぱりレベルは一クラス上か・・なんて感心しきりの湯浅でした・・
続けざまに、アンリが、アネルカが、決定的なシュートにトライします。特に美しかったのは、攻撃のコアとして機能しているジダンが、チェコのゴール前で夢のようなタメを演出し、最後は、左サイドのタテに空いた決定的スペースへ抜け出したアンリへ、スパッと決定的スルーパスを通したシーン(アンリの右足シュートは、ギリギリでゴール右へ外れる!)。才能だけが演出できる「夢のようなスルーパス」・・といった場面ではありました。
フランスでは、ジダンのチャンスメーカーぶりが目立ちっぱなし。運動量の多さと、「自分を中心にチャンスを作り出してやる!」という意識の高さが素晴らしい。そして実際に、どんどんと彼にボールが集まってきます。それも、彼の「寄りの動き」や、実効あるフリーランニングの賜なのです。決して、「止まって」足元パスを要求しているのではありません。もちろん効果的(効率的)な守備参加も健在(だからチームメイトも彼のことを本当のリーダーとして認めている?!)。また、彼の中盤パートナーであるビエラの汗かきプレーも秀逸です。
勢いはともかく、内容的には、ゲームを支配しはじめるフランス。そして時間が経つにつれて、チェコの前への勢いも殺がれがちになっていきます。このままチェコは、フランスに圧倒されてしまうのだろうか・・いやいや・・
前半33分のことです。一瞬のカウンターから、シュミチェルが右サイドでタテパスを受け、一瞬ボールをキープして「タメ」を演出します。その左サイドを、全力でサポートに上がってきた選手がいました。ネドビェドです。迷わずそこへパスを回す。もちろんネドビェドも、「迷わず」タテへドリブルで抜け出ようとします。決定的シュートチャンス!! ただその瞬間、ネドビェドが、追いついてきたデシャンに、後方からアタックされて倒されてしまったのです。
ペナルティーエリアギリギリの場所でのフリーキックか、それとも「PK」か・・。副審のところへ意見を聞きにいくレフェリー。副審は、迷わず「今のはPKですよ!」。ポボルスキーがキッチリと決めて「1-1」のイーブン!
その後は、再びチェコが「実効ある勢い」を復活させ、ポボルスキーが、シュミチェルが、決定的に近いシュートを放ちます。これは本当に面白くなってきた・・
内容的にも、世界のトップレベル。こんな試合は、そうそうは見ることはできない・・なんて、気が張りつめてきた湯浅でした。
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後半、プティーに代わってジョルカエフが登場してきます。ビエラを中盤の底へ移動させ、ジダンの「攻撃」パートナーとして、ジョルカエフを投入するルメール監督。さてこの采配が吉と出るか凶と出るか・・
そんなことを思っていた後半開始早々、フリーで抜け出したポボルスキーが、正面から、ドカン! とフリーシュートを放ちます。ギリギリところでセービングするフランスGKバルテズ。大丈夫か、フランス・・
フランスのペースが上がりません。それに対し、シュミチェル、ポボルスキー、ネドビェド、ネメッツ、そしてコラーなどが縦横無尽にポジションを変えながら、どんどんと積極的に攻め上がってくるチェコ。後半は、どちらかというとチェコペースです。対するフランスは、中盤のダイナミズムが低下してしまっているといった印象を受けます。
ここで、調子の上がらないアネルカに代えて、デュガリーが登場。彼とアンリが交代にワントップとして最前線に張り、中盤を厚くしようという意図のようです。
そしてそのすぐ後の後半15分。またまた一瞬のスキを突いて、フランスが勝ち越しゴールを決めてしまうのです。まず、中盤の右サイドにポジションを取っていたジダンへ、後方からタテパスが送られます。彼には、ピタッとチェコのディフェンダーがマークに付いているのですが、そのこともあってジダンは、瞬間的な判断で、中央付近にいるジョルカエフへ「ダイレクト」で中距離パスを通してしまいます。パスを受ける前から周囲の状況を正確に把握している・・さすがにジダンではありませんか。
このパスを受けたジョルカエフが「次のプレーに対する戦術的な発想」でミスをするはずがありません。ジョルカエフにパスが通った瞬間、「既に」スタートを切っていたアンリへ、本当に正確なパスを通してしまうのです。このようなクリエイティブな展開プレーでは、ジョルカエフは、たしかに世界の超一流なのです。
左サイドで相手をかわすアンリ。そして、本当にソフトに、チェコゴール前、ペナルティーエリア際に空いたスペースへラストパスを通します。このスペースは、フランスの左サイドバック、カンデラがタテへ走り込んだことで作り出されたものです(チェコの守備がカンデラのフリーランニングに引きつけられた!)。アンリからの「ソフト」なラストパスが、ポンポンと転がる・・。そこへ飛び込んできたのは、アンリへタテパスを通した当の本人、ジョルカエフでした。
ドカン!! ジョルカエフの右足が炸裂し、ボールが見事にチェコゴール右サイドへ吸い込まれていく・・・。見事なシュートではありました。
その後の展開は、一進一退。互いに「ハイレベルな仕掛け合い」を魅せ続けます。コラーのヘディングシュートがフランスゴールのバーを直撃したり、ネドビェドやシュミチェルがフリーシュートを放ったり・・、逆にフランスも、オーバーラップしたブランが決定的シュートを放ったり、アンリがフリーでシュートしたり・・
本当に、ハイレベルなエキサイティングゲームではありませんか。これもチェコが、「全員守備、全員攻撃の力強いサッカーで、世界チャンピオンである「才能の宝庫」に対して堂々の互角ゲームを展開したからです。
この大会では予選リーグ敗退ということになってしまいましたが、オランダを崖っぷちまで追い込み、フランスとも互角の戦いを展開した彼らのサッカーが、世界の超一流だということだけは確かな事実です。「組織プレー」と「個人プレー」が理想的にバランスしたチェコに、感謝と敬意を込めた大拍手を送っている湯浅です。
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さて次は、オランダ対デンマーク・・
この試合の「構図」は明確。
デンマークは・・守備でのポジショニングバランスを崩すことなく、フィールド全体で積極的なプレッシャーをかけ続け、ワンチャンスのカウンターを決める(その時点で参加できる者は全員前へ絡んでいく!)、ボールを奪い返されたら、瞬間的に守備に転じ、全体を観ながら、穴を作らないように、ポジショニングバランスを取りながら「まず」戻る・・
また、ベルカンプ、(後方から上がってくる)ダービッツなどの「二列目」キーパーソンに対しては、どんな状況でも「確実」にプレッシャーをかけ続ける・・絶対にフリーでプレーさせるようなシーンがあってはならない・・。デンマークの「ゲーム戦術イメージ」は、そういったものでしょう。
そして、そんなゲーム戦術が、本当に効果的に機能します。もちろん、オランダが、「いつもの戦術」でやろうとするけれど、どうしても「こねくり回し」が多く(とはいってもセードルフが先発が抜けたことで、チェコ戦と比べれば改善しましたが・・)、ボールの動きが停滞気味だったこともありましたがネ。
オランダが本来のサッカーを取り戻すためには、まず「ボールがないところでの周りの動き」に対する意識を高めなければ・・。それがアクティブではないから、ボールの動きも緩慢になり、足元パスが増えてしまうんですヨ。 前半では、デンマークが、何度か「危険なカウンター」を決め、決定的な場面を作り出します。それに対し、全体的にはボールを支配しているものの、ボールの動きがカッタルく、どうしてもデンマーク守備のウラを突いたり、シュートにトライできそうな場面で「フリーで」ボールを持つ選手を「作り出す」ことができないオランダ・・。彼らのフラストレーションが目に見えるようです。
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後半も同じような展開で始まります。デンマークの「集中力」に脱帽!ってな具合ですかね。
オランダは、トップにクライファートが一人で残り、二列目中央にベルカンプ、右サイドにゼンデン、左サイドにオーフェルマルス、その後ろに、ダービッツとコクーの守備的コンビが入るといったシステムですが、まだまだ理想的に機能するまでには紆余曲折がありそう・・
でも、この試合でのデンマークのように、最高レベルの集中が途切れないシステマティックなプレス守備を繰り出されては、どんなチームでも簡単にプレーできないことも事実ですがネ・・。まあブラジルだったら、ちょっと違う展開になったかも(ヒールなど身体全体を駆使し、相手がまったく予測できないくらいに素早くボールを動かしてしまうことで相手のプレスを簡単に外してしまう・・なんてネ・・)
とにかくベルカンプ、ゼンデン、オーフェルマルス、ダービッツなどが自由にプレーできていないこと・・、逆にいうとデンマークの彼らに対する「制限プレー」が理想的に機能していることで、どうしてもオランダは攻撃のリズムを作れないでいました・・でも・・
後半12分のことです。やっとオランダが、苦しみ抜いた末の先制ゴールを奪うことに成功したのです。
自軍深く、右サイドでボールを奪ったダービッツ(自チーム最終ラインを追い越すくらい下がって積極ディフェンスを展開した彼に拍手!!)、素早く前方の中央ポジションでフリーになっていたベルカンプへタテパスを通します。
それだ!! その「カウンター気味」のタイミングでの「タテパス」が欠けていたんだ、オランダには・・そんなことを叫んでいた湯浅でした。
久しぶりに、フリーで超速ドリブルを仕掛けるベルカンプ。この「前後のスペースをつなぐ」直線的なドリブルが、デンマーク最終守備ラインの注意を引きつけます。もちろんその左サイドでは、クライファートが、タテへの抜けだしを狙っている・・
でも、タイミングが合わずに(クライファートがタテへの爆発ダッシュを止めてしまったから!)、結局ベルカンプは、(決定的スペースへのスルーパスではなく)クライファートへの「足元パス」を出すことになる。クライファートの前には、完全に組織を作ってしまったデンマークの最終守備ラインが立ちはだかる・・詰まってしまうクライファート・・
ただこの瞬間、オランダの「インディビジュアル・タレント」が眩いばかり光を放ちます・・ベルカンプとクライファートの才能が・・
詰まった状態で、「仕方なく」右サイドにいるベルカンプへ「横パス」を出すクライファート。全体的な雰囲気は「アッ、クライファートもベルカンプも詰まってしまって・・この攻撃は、また潰されてしまうだろうな・・」ってなものだったんですが・・
クライファートの、どちらかといえば「逃げ」の横パスがベルカンプにわたった瞬間、デンマーク最終ラインの「二人」が同時に彼にプレッシャーかけに行きます。これは守備陣にとっては「常道」。クライファートの横パスは、「例によって」完全に「読める」パスだったんですから・・。ただその瞬間・・
ベルカンプは、スパッとトラップします。そして、アタックに来たその「二人」の間を、チョン!とボールを「決定的スペース」へ流し、自身はそのままタテへ抜け出たのです(デンマークの二人のディフェンダーは、体勢的にベルカンプを身体で押さえることができなかった!)。そして、一瞬、デンマークのスーパーGK、シュマイケルの、前へのスタートも遅れた?!
結局、最初にボールに触ったのは、ベルカンプ。前へ飛び出しながら「追いつかない!」と感じたシュマイケルは、今度はすぐにセービング(横向きに身体を投げ出し、シュートをはじく壁になる!)の体勢に入ります。そして案の定、ベルカンプが「つま先」でつついたシュートは、シュマイケルの身体に当たって、後方へはじかれてしまう! ただそのボールが、クライファートの「足元」へ転がってしまったのです。
この瞬間のクライファートの「ひらめき」は、もう才能としか言いようがありません。彼は、「ダイレクト」で、ここしかない!というコースへ、左足の「サイドキック」で、狙いすまして蹴ったのです。ギリギリで、シュマイケルのセービングが届かず。三人いたデンマークのディフェンダーたちの「間」も見事に抜いた。先制ゴ〜〜ル!!
その後は、(後半20分)ゼンデンからの、GKシュマイケルとデンマーク最終ラインの間にある「針の穴のスペース」を通したセンタリングを、ファーポスト側に走り込んでいたロナルド・デブールが決めた追加ゴール、(後半31分)右サイドをオーバーラップしたライジガーからの折り返しをゼンデンが決めた三点目・・
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たしかにデンマークの、極限の集中力が発揮された忠実・堅実、そしてねばり強くインテリジェントな守備には感動しましたが、それでも結局は、オランダの「レベルを超えた才能たち」にやられてしまう・・。まあサッカーの歴史・・というか「(戦術的な)文化」は、彼ら「才能」たちが作り上げてきたものですし、現在の世界サッカーでは、確実にオランダも、一つの「(戦術的)文化の流れ」を作っていますからネ・・
さてこれで、フランスとオランダの決勝トーナメント進出が決まりました。後は、最終戦で「順位」が決まるわけですが、両チームともに、この一両日で(他グループの結果を見て)決勝トーナメントでの「ブロック選び」をすることになります。
引き分けたら、フランスが一位(総ゴール数)ということになりますが・・さて・・