トピックス


イングランドが、34年ぶりの勝利を飾る・・イングランド対ドイツ(1-0)・・中盤のせめぎ合いに終始し、ロスタイムFKで勝負がついた退屈ゲーム・・ポルトガル対ルーマニア(1-0)・・(2000年6月18日、日曜日)


正直に書きます。心情的・感情的には、本当に「ガッカリ」しました。ドイツは(サッカーにおける)私の第二の故郷ですし、この試合でのドイツは、久しぶりに、「ドイツらしいソリッドなゲーム」を展開しましたからネ。また勝負では、内容とは違った「要素」も大きく関わってきますから・・

 それでも、フランスや、(これからもっと調子を上げてくるに違いない)オランダ、(グループリーグ敗退が決まったとはいえ、ハイレベルサッカーは賞賛に値する)チェコ、またユーゴ、スロベニア、(伝統的なサッカーで強さを発揮する)イタリア、はたまた(イメチェン半ばの)ポルトガルなどに比べて、ドイツ代表チームの「サッカーの質」には大いなる疑問が残りますから、まあ仕方ないな(逆にサッカーの発展にとってはその方がいいのかも)・・、一度どん底へ落ちなければ「体質」は改善されないし、ここが「ドイツサッカー再生」のスタートと考えるべきなんだろうな・・なんて気持ちを入れ替えている湯浅なのです。

 「理論的な可能性」は残っていますが(最終節で、ドイツがポルトガルに勝ち、イングランドがルーマニアに負ける!)、再スタートを切るには(ドイツサッカーの構造的改善をはかるには)良い機会ですから(脅威と機会は常に背中合わせ!!)・・

 90年代に入ってから、(ドイツ伝統の?!)「勝負強さの減退」に歯止めがかからなくなってしまっていることは誰の目にも明らかです。勝負強さ・・。それは、基本的には心理・精神的な「勢い」のこと。選手全員の「統一された意志」が相乗的にチーム力を倍加し、攻守にわたる爆発的なリスクチャレンジがくり返されるなかで、完璧に相手を「心理的な悪魔のサイクル」に陥れてしまう・・、そして終わってみれば大逆転劇・・なんていうのは、そのまた昔の「伝説」になってしまった・・?!

 ドイツの「勝負強さ」の心理・精神的なベースは、過去の「勝利の歴史」。「オレたちが負けるはずがない!!」、また「よし、ここからだ!! 最後はオレたちのモノなんだ。それは誰にも変えられないんだヨ!!」という『確信』なのです。でも今では・・

 1966年イングランドワールドカップ決勝以来の、イングランドに対する敗退。それが「何か」を象徴していることは明確な事実だと思う湯浅なのです。

 保守的なドイツサッカーの「体質」を改善するのは大変な作業になるでしょう。また、若い世代の「興味の対象」も、本当に多岐にわたるようになってしまい、ストリートサッカー(自由な創造性を伸ばす機会)が激減している・・、プロサッカー選手が子供たちの憧れの存在ではなくなっている・・などの社会的な要因もあります。

 ここは、(古い体質に染まっていない?!)若い世代に、子供たちの指導方針、育成システムなども含む、協会の全体的な運営を任せたり、代表監督に(ベンゲルなどの?!)外国人コーチを登用するなど、思い切った改革が必要ですし、今回はそのための千載一遇のチャンスだと捉えるべきなのです。とはいつても、建て直しには時間がかかるだろうな・・

-----------------

 では、イングランド対ドイツの試合を短くレポート・・

 試合前の両チーム選手たちの厳しい「顔つき」は、彼らの気合いの入り方を如実にものがたっていました。イングランドは、第一戦、ポルトガルにまさかの大逆転劇を演じられ、ドイツも、いいところなくルーマニアと引き分けてしまいましたからネ。

 特に、出来が悪く、チーム内でも批判の対象になったと報道されているマテウス。チーム内で批判の声が上がる、それも「あの」マテウスに対して・・。ただそれも、逆に言えばドイツの心理・精神的な「強さ」とも考えられます。そのくらいの「自己主張」がなければ、闘いを勝ち抜くことなど望むべくもない・・。そんな「チーム内での不協和音(自己主張のぶつかり合い)」は、マネージメントがしっかりさえしていれば、「闘う集団のなかの」選手一人ひとりにとっての「強烈なポジティブ刺激」になるものなのです・・。

 あっ・・と、もう一つ。キャプテン、ビアホフの負傷戦線離脱も、選手たちにとっては「レベルを超えた刺激」になっているに違いない・・

 試合は、「静かな」立ち上がり。両チームともに、チームの意志がまだ完璧に統一されていない状態で(つまり、まだ明確な「刺激」がない状態で)、「バランスを崩してまでもリスクにチャレンジしたら(仕掛けたら)」確実にカウンターパンチを食らう・・、そんな心理なんでしょう。

 そんな「静かな」前半ですが、それでも、全体としてはドイツの方がペースを握っている・・という印象です。

 前半では、ドイツのハマンの中距離シュート、素晴らしいフリーランニングからスルーパスを受けたショルのシュート、そしてヤンカーのバックパスを受けたツィーゲのシュート、対するイングランドでは、オーウェンのヘディングシュート(ドイツGKカーンがスーパーセービング!)、スコールズのシュート(ベッカムのラストパスが秀逸!)・・くらいが目立った程度でした。

 ドイツでは、期待され続けたダイスラーが、「やっと」本領を発揮しはじめたこと、左サイドのツィーゲが、イングランドの攻撃の核、ベッカムをしっかりと抑え、簡単には「必殺センタリング」を上げさせなかったこと、プレミアリーグで活躍するハマンが、中盤の「バランサー」としてうまく機能していること、そしてショルが、チャンスメーカーとして、かなりのアクセントになっていることが目立っていました。

 逆にイングランドでは、マクマナマンのケガで出場したワイズの出来がいま一つ。またベッカムが肝心なところでツィーゲに抑えられ、ちょっとフラストレーションがたまった表情を見せていたこと、相変わらずオーウェンの調子が今ひとつ、といったネガティブな面が目立ちました。

 ということで、「6本」対「3本」というシュート数にも表れているように、前半は、「どちらかというと」ドイツペースで進行します。

--------------

 ただ、同じような展開ではじまった後半の8分。イングランドが、この試合で唯一のゴールを叩き込んでしまいます。

 右サイド深いところからの、ベッカムのフリーキック。本当によく曲がり、中央でニア側スペースへ走り込んだオーウェンにピタリと合います。ただボールは、オーウェンと、マークしていたノヴォトニーの「頭の間」をすり抜けて、後方へ流れます。また、後方から走り込んだもう一人のイングランド選手、スコールズ、そしてスコールズに引きつけられたドイツのイェルミースとダイスラーの誰もボールに触れない。そして、最後方にポジションをとっていたシアラーへ・・。フリーのヘディングシュート・・

 これはどうしようもないゴールではありました。とにかく、ベッカムが蹴ったボールが、オーウェンにピタリと合ったところまでが「人のワザ」、それ以降は「神様のワザ」ということです。

 さて、どうするドイツ・・

 もちろんここからは、ドイツがガンガンと「前へ」攻め上がります。こうなってはやるっきゃない! まずドイツセンターフォーワードのヤンカーが、オーバーラップしたストッパー、バッベルからの「横パス」をイングランドゴール前で受け、マークする相手を背負いながらも振り向きざまに決定的なシュート! 惜しくもバーを越えてしまって・・

 その3分後、今度は、同じくストッパーのノヴォトニーが攻撃に参加した場面。最終守備ラインのストッパーであるノヴォトニーやバッベルのオーバーラップに、ドイツの「前への姿勢」が明確に表れているのですが・・。

 中盤の高い位置でボールを持ったノヴォトニー。そこが攻撃の「起点」になります。ズバッと、最前線のキルステンへタテパスを通し、自らも「パス&ムーブ」で最前線へ飛び出していくノヴォトニー。ただキルステンは、ノヴォトニーへリターンパスを回すのではなく、これまた最後尾から押し上げていたマテウスへ、正確なバックパスを戻します。ここが勝負の瞬間でした。

 キルステンがマテウスへバックパスを出した瞬間、いやもっといえば、ノヴォトニーが、キルステンの足元へタテパスを出した瞬間、逆の左サイド、ちょっと下がり気味のポジションにいた「ショル」が、自分の目の前に空いたスペースへ向けて、爆発的なフリーランニングをスタートします。彼の意図は、まず、キルステンからの、ダイレクトでのラストパスを受けること。ただキルステンは、マテウスへバックパスしてしまった。それでもショルの「自分主体のアクション」は止まりません。今度は、走る方向を「右側」へ変え、バックパスを出したキルステンの後方に広がる「決定的スペース」へ、超速ダッシュを続けたのです。

 世界のマテウスが、そんなショルのアクションを見逃すはずがありません。スパッ! マテウスから、ショルが狙っている決定的スペースへ、正確な浮き球パスが通されたのです。完全にフリーでパスを受けるショル・・。アッ、ゴールだ!! そのとき誰もがそう叫んだに違いありません。

 ただショルが放ったグラウンダーのシュートは、ギリギリのところで、ゴール左ポストを外れてしまって・・。フ〜〜

 このプレーは、試合を通じてもっとも美しく、もっとも可能性の大きなチャンスではありました。イングランド守備陣も、その瞬間、「アッ、やられた!」と、完全に諦めたに違いありません。ショルのシュートが外れた後の、彼らの「あっ、完全に守備ブロックを崩されてウラを取られてしまった・・」という、張りつめた「気」が一挙に抜けてしまったような表情が印象的でした。

 その後も一本、決定的なチャンスがありました。それは、右からのCKを、まずバッベルが強烈なヘディングシュートを放ち、落ちたところにいたキルステンがダイレクトでシュートし、イングランドGK、シーマンが左足ではじいたボールが、それこそ「測ったように」という表現がピッタリくるくらい正確に、詰めていたヤンカーの「右足元」へ転がっていったのです。

 でも、ヤンカーのシュートは、左ポストをギリギリのところで外れてしまって・・。これで万事休す。その後は、両チームともに見せ場をつくれないまま(イングランドの守備の集中が極限まで高まり、逆にドイツの攻めの勢いが減退・・)、イタリア、コッリーナ主審がタイムアップのホイッスルを吹き、「歴史的なイングランドの勝利」が確定したのです。

----------------

 さて、湯浅はこれから、日本代表対ボリビア代表の試合を観に、横浜国際競技場までいってきます。ということで、ちょっと気落ちしている湯浅の次のレポートは、本日(日曜日)の午後にアップする「日本対ボリビア戦」ということになります。ご期待アレ・・




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]