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チカラの差が、そのまま結果に表れた試合でした・・ナビスコカップ決勝・・アントラーズVSフロンターレ(2-0)・・(2000年11月4日、土曜日)


この試合では、「チーム力の差」というキーワードを取り上げましょう。

 たしかにフロンターレは良くなっています。特に、守備のバランスに大きく改善の後を感じます。そのキーマンが、中盤のボランチに入った鬼木であり、原田。中盤での「バランサー」の二人がうまく機能しているということなのですが、それでも攻撃が・・

 対するアントラーズですが、決して調子がいいわけではありません。守備は相変わらず安定しているのですが、特に攻撃でのボールの動きが、良いときと比べて「かなり」落ち込んでいると感じたのです。小笠原が出場停止だったから・・?! そうかもしれません。代わりに出場した熊谷は、右サイドに張り付いているシーンが多く、積極的に「中」へ、中継ステーションとして顔を見せるシーンは希でしたから。

 とはいっても、全体的には、アントラーズの「チーム力」が、フロンターレのそれをかなり上回っている・・というのは、動かし難い事実でした。

 まあそれも、長年培った「継続的なチーム戦術(彼らの基本的なチーム戦術は、93年当時から変わっていない!)」ということなんでしょう。選手の一人ひとりが、基本的なポジションで何をやるのかについての「明確なイメージ」をもっていると感じるのです。人はそれを「伝統」などと表現するのでしょう。

 まず攻撃ですが、フロンターレは、積極的に前へ行こうとはします。ただ、いかんせん、ボールの動きがあまりにもカッタる過ぎて・・。中盤での各ステーション(ボールを持つ選手)で費やされる時間が、あまりにも長すぎ、戻りが早いアントラーズ守備ブロックに、ことごとく「次のパス」を読まれて、簡単にボールを失ってしまうのです。

 それには、フロンターレ攻撃の「コア」であるリカルジーニョの「非」をまず挙げなければなりません。彼ほどの才能の持ち主なんですから、どうして、まず組織プレーに徹しながら(ボールがないところでしっかり動いて次の決定的スペースを狙う!)チャンスを待ち、「ココゾ!」の勝負所で、彼の持ち味である優れた勝負ドリブルを仕掛ける・・という「メリハリ」の効いたプレーができないのか・・。

 ほとんどの「攻撃ユニット(一回の攻撃の単位)」において、例外なく彼のところでボールの動きが停滞してしまうのです。たしかに、素晴らしいボールキープ力ではあります。ただ彼も「また」、ディエゴ・マラドーナではない・・。一人かわせても、すぐに「次の相手」にチェックされ、詰まった状態で「苦しい逃げのパス」を出すような後ろ向きのプレーに終始します。これでは、アントラーズ守備陣に簡単に「予測」され、(チームとして)ボールを失ってしまうのも道理。フロンターレの攻めでは、リカルジーニョ、そしてルイスの個人勝負しか「チャンスの芽」はありませんが、それも、(前へのスピードが遅いから)アントラーズ守備陣が完璧に整った状態での勝負になってしまって・・

 対するアントラーズですが、攻めの中心は、何といってもビスマルク。彼の、組織プレーと個人勝負プレー(タメからのスルーパス、勝負所をわきまえたドリブルなど)のバランスは一流です。それも、彼の「良いプレーに対するイメージ」が一流だからです。

 後半13分・・。アントラーズのフリーキックから、名良橋の素晴らしいロングシュートが飛び出した後のプレーですが、フロンターレのGKからの展開に「前」からプレスをかけるアントラーズ。たまらずフロンターレは、逆の右サイドへ展開するのですが、そのボールの動きを「事前に予測」し、爆発的なプレスを「最初」に仕掛けていたのがビスマルクでした。それだけではなく、試合全体を通じたビスマルクの「攻守にわたる貢献度」は、もう抜群。彼の「実効」あるプレーは、特に「才能ある」若手選手たちの模範です。

 たしかにアントラーズの攻めは、全体的には「ダイナミズム」に欠けたものでした。それでも、勝負所における「仕掛けの苦クオリティー(発想ベース)」は、確実にフロンターレを凌駕しているのです。流れの中では、フロンターレの安定した守備ブロックによって、うまく「止め」られてしまいますが、それでもセットプレーは、本当に危険そのもの。何度、ビスマルクのフリーキックから、チャンスを作り出したことか。

 それは、キッカー(ビスマルク)の能力の高さと、それを信頼する周りの選手たちの(セットプレーにおける)ボールがないところでの決定的な動きの質の高さによるところが大きいのです。何度も、フロンターレゴール前で「フリー選手」が出現し、そこに惜しいボールが飛ぶ・・そんなシーンを何度も目撃しました。

 たしかに直接ゴールにつながりはしませんでしたが、ビスマルクがキックする瞬間の、ゴール前での「爆発的な動き」、そしてビスマルクの正確なボールに、何度「アッ、ゴールだ!」と思ったことか。もちろんそれには、セットプレーでの、フロンターレ守備陣の集中力の欠如という問題点も挙げなければなりませんがネ・・

 こんな「スローテンポ」の試合では、やはりセットプレーが重要だということですかネ・・(前半31分の、後方から上がっていった中田の先制ゴールも、キッカケはフリーキックでした・・完璧なヘディングシュートチャンス・・そのこぼれ球からの展開から中田浩二の足許へ・・)。

 あっ・・と、ケガが癒え、ボランチとして登場した中田浩二ですが、中盤での効果的なボール奪取、そして攻撃の起点プレー、はたまた攻撃の最終シーンに絡んでいく理想的なタイミングなど、その出来には、ほれぼれさせられるものがありました。とにかく、全身からほとばしり出る「自信」。それはもうレベルを超えたものだったのです。

 「自信あふれるプレーが出来ていた・・ですか?? そうですね。とにかく世界との勝負を経験できたことで、もうどんな相手とでもビビらずにチカラを出し切れる自信はありますネ・・」。試合後のインタビューで、彼が、しみじみとそう言っていたのが印象的でした。

 この二ヶ月間に続けて行われた、オリンピック、アジアカップ。そこでの「本当の成果」は、選手たちの「心の深層」に強く刻み込まれているということです。

 ではまた・・




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