トピックス


オリンピック決勝、カメルーン対スペイン(2-2、PK戦、5-4)・・三位決定戦、チリ対USA(2-0)・・(2000年10月1日、日曜日)


数日前に帰国し、日本で三位決定戦、決勝をテレビ観戦しました。

 ここでちょっとお詫び・・。「Yahoo Japan 2002クラブ」の読者の方々には(西村編集長に対しても・・)、今回選んだテーマに関して、ちょっと『私的なロジック撞着』に陥ってしまったために文章を完成させることができず(締め切りギリギリの金曜日早朝まで苦しんでいたのです!!)、今週のコラムを休まざるを得なくなってしまったことをお詫びします。

 さて試合ですが、三位決定戦は、チリの勝負強さ、アメリカの「最終勝負の稚拙さ」が目立ったゲーム・・、決勝は、完全に「神様の領域」に入ったゲーム・・といったところでしょうか。

-------------------

 まず決勝から・・

 この試合については、スポーツサイト、「スポーツナビゲーション」でもレポートしたので参照して欲しいのですが、とにかくあまりに「神様のドラマ」が多すぎて・・

 神様のドラマ・・要は、ロジックな「予想(期待)」がどんどんと覆されていったということです。まず何といっても「サッカーの内容」。

 カメルーンの個人的な能力の高さは、もう世界が認めるところ。動物的ともいえる素晴らしいテクニック、レベルを超えたスピード・・。そしてこれが、彼らにとっての「ワナ」になる・・。皮肉じゃありませんか。

 立ち上がり、完璧にスペインがペースを握り、カメルーン守備ブロックをきりきり舞いさせます。それはそうです。決定的フリーランニングでスペースへ抜け出ていこうとするスペイン選手に付いていかず、パスが出されてからあわてて対応するんですからネ。それでも多くのケースで「追いついて」しまう・・! それです!! そんな彼らの個人能力の高さが、彼らにとっての「ワナ」なんです。だから忠実な守備に対する意識が「レベルを超えて低い・・」というわけです。これでは、ちょっとレベルの高い相手になったら問題が続出してしまうのも道理です。

 カメルーンの試合は、予選リーグの「対USA戦」、そして「対チェコ戦」を観ました。そして思ったもののです。「ホントに、コイツらに組織プレーという発想を定着させることができたら、もう世界に敵なしだ・・」、と・・。でも彼らは、攻撃でも、守備でも、個人的な「発想(アイデア)」だけでプレーをしている(それにこだわっている?!)・・、だから特にUSA戦では、守備ラインがボロボロにされ、そのことで攻撃も全く単発になってしまう。

 私は、彼ら(・・というか、アフリカチーム全体)が、どちらにせよ「勝ち進めない」と確信していたものです。それが・・

--------------

 決勝では、神様が何度も「イタズラ」します。まず、スペインが「2-0」とリードし、また試合の内容から、「もう試合は決まったな・・」と誰もが確信していたに違いない後半7分に飛び出したエムボマの「ラッキーゴール」。その後のエムボマとエトーによる、絵に描いたようなスーパーゴール。ガブリとホセ・マリの退場。そして延長に入ってからの、カメルーンのボロボロサッカー・・。

 この一連の試合の流れについては「スポーツナビゲーション」で書いたので・・

 前半ですが、開始1分のFKをシャビに決められ、数分後にはPKを取られ(これはカメルーンGKがよく防ぐ!)、その後も、中盤からの個人勝負や(詰まってからの)足許パスばかりで、最終勝負の仕掛けが稚拙なカメルーンは、当然の成り行きとして、「あわや!」なんていう雰囲気のチャンスは、まったくといっていいほど作り出せません(アバウトな放り込みからのエムボマのヘディングシュートなどはありましが・・)。

 それでも後半に入ると、二点もリードしていること、そして暑さからか、スペインの中盤守備が「遅れ気味」になりはじめ、カメルーン中盤での「キープ&ドリブル勝負」に、危険なニオイが感じられるようになっていきます。スペインの「予測守備(ターゲットを絞ったプレス守備)」が遅れ気味になり(忠実度も低下気味)、カメルーンの中盤選手達が、よりフリーでパスを受け、仕掛け体勢に「より楽に」入っていけるようになったのです(中盤にスペースができるようになった)。

 自信を持ち始めるカメルーン選手たち。そして中盤でのドリブル勝負が決まりはじめ、そのたびに、スペイン守備ブロックは、「体力を消耗してしまう」ようなポジショニングの修正に追われます。

 そんな「全体的な展開傾向」に拍車をかけたのが、エムボマの「ラッキーゴール」だったというわけです。そしてそれが、エトーの同点ゴールにつながります。

 その後の後半24分に、スペインのガブリが、相手の膝にスパイクの底を見せて当たる危険なタックルで一発退場。そして中盤での「バランス」を欠いていた直後の後半26分、右サイドを疾走してタテパスを受けたローレンが、そのままギリギリのところで折り返し、中央のエトーがフリーシュートを放ちます。この「100%チャンス」が決まらなかったのも神様のイタズラ???

 そして、一人多いカメルーンが、「停滞サッカー」という傾向に大きな変化はないが、全体的なゲームのペースだけは握り続ける・・、それに対し、たまに危険なカウンターを仕掛けていくスペイン・・という展開が続いていた後半のロスタイムに、「コト」が起きてしまいます。「レフェリーの明確なミスジャッジによる」、ホセ・マリの退場劇です(スポーツナビゲーションを参照)。

 そして「誰もがカメルーンの勝利を信じて疑わなかった」延長における、彼らの「目を覆いたくなる」ような停滞サッカー。もちろん残っていたスペイン選手全員が守備に入ったのですから、容易にシュートチャンスを作り出せなかったこともあるのですが、それでも「組織プレー(仕掛け)に対するアイデア」に乏しいカメルーンの弱点をさらけ出した延長の展開・・だったとするのが順当な分析だと思います。

 カメルーン選手達の個人能力の高さは、本当に感動モノでしたし、私も存分に楽しませてもらいました。それでも、そんなサッカーでは「結果を出せない」ことも厳然たる事実。今回は、暑さ、また「レフェリーのミスジャッジ(それもドラマの重要な要素!)」という味方を得たために金メダルという栄冠を得ることができましたが、それでも「長い目』で見たら・・。今回の勝利が、彼らにとっての「神様のワナ」にならないことを願って止みません。

----------------

 さて三位決定戦について短く・・

 試合は、「内容的」にはアメリカのものでした。彼らの、チーム戦術に忠実なダイナミズムに乾杯です。たしかに「面白み」はありません。それでも、抜群の運動量に支えられ、しっかりとボールを動かしながら(組織プレー)、チャンスを見はからった個人勝負でサイドを突いていくという「ロジカルなプレー」に、好感を持たない方はいないに違いありません。

 この試合でも彼らの持ち味が十二分に発揮されます。両サイドの「オーバーエイジ」、エイデュクとアグースの抜群のスピードと運動量に支えられた効果的なオーバーラップ、ハイクラスなクレバー戦術プレーから、時折、個人での突破能力も魅せるオルブライト、中盤でのバランサー・コンビとして、忠実な守備をベースに、優れた展開力も魅せるオブライエンとバジェナスのボランチコンビ、抜群のスピード、パワー、そして高さで、最前線での実効ある「ポイント」となっているケイシーと、最前線の切り込み隊長、ウルフ。また、堅実な守備を魅せるカリフとダンセス(マッカーティーは出場停止)。そして素晴らしい存在感で堅実なゴールキーピングを魅せるフリーデル。素晴らしい「チーム」ではあります。

 対するチリ。試合全般を通じて押し込まれる時間帯が多く、彼らの「停滞したボールの動き」ばかりが目立ってしまって・・。それでも、チャンスメイカーのピサーロがたまに魅せるタメやドリブル突破トライ、そして言わずと知れた世界のストライカー、サモラーノの「ワンチャンスを狙う猛禽類の鋭い眼」には、「世界」を感じます。

 押し込むアメリカ。ただ最終章部局面では、どうしてもチリ守備ブロックを崩しきるところまではいけない・・。対するチリも、アメリカの忠実で効果的な中盤守備(常に前の選手が戻って守備参加する!)に苦しみ続け、攻撃のカタチを作り出すことさえできません。

 それにしても、アメリカの最終勝負局面での「稚拙さ(工夫のなさ・・変化のなさ?!)」には、まさに経験不足という表現がピッタリのように感じます。

 グループリーグの対カメルーン戦では、アメリカの忠実な「ボールがないところでの動き(決定的フリーランニング)」に、カメルーンのディフェンダーが最後の瞬間に「マークを振り切られてしまう」というシーンが続発したために、繰り返し「決定的チャンス」を作り出しました。

 それでも、結局はそのチャンスを決めることができずに(PKの一点だけで)引き分けてしまいます。そのとき、彼らの「体感ベースの決定力」という課題を実感したものです。ただチリ戦では、押し込んではいるものの、相手の「クレバーな予測ベース守備」に、簡単には決定的チャンスを作り出すことさえできません。

 そして結局は、チリの「ワンチャンス能力(これを世界の集中力とでも規定しますかネ・・)」に、PKを取られ、追加ゴールを決められてしまうのです。

 それにしても、サモラーノの追加ゴール(そこに至るまでの最終勝負プロセス)は見事でした。ピサーロが絡んだ右サイドでの「ショート・ショート&ワンツー」という、短く鋭いパス回しによって、最後には、左サイドにいるサモラーノのマークまでも、その右サイドに引きつけられてしまいます(と言うよりも、チリ選手がワンツーで抜け出してきたから、そのカバーに行かざるを得なかった!)。そして、次の瞬間には、その抜け出してきたチリ選手の、クールなラストパスがサモラーノにわたるのです。チャンスを見極め、そこを集中して攻め立てることで「逆サイド」にフリーゾーンを作り出してしまう・・。ホント、お見事!!

 結局4位になってしまったとはいえ、「MSL」や「選手育成システム」など、サッカーのファンダメンタルズが充実してきているUSA。「人種のサラダボール」であることを考えれば、また彼らの(経済力などの)「底力」を考えれば、彼らが、本当に短いスパンで、今回のオリンピックチームが魅せた「抜群の組織プレー」に異文化の「個人クリエイティビティー(創造性)」が程良くミックスした、魅力的で強い代表チームを作り上げてしまうことは確実です。

 「そうなんだよ。いまアメリカじゃ、子供達が本気になってサッカーに取り組むようになっているし、MSLでの報酬額が高まってくれば、アフリカ系やヒスパニック系の人々がどんどんとプロサッカーに参加してくるようになるから、大いに期待しているんだ・・」

 友人のアメリカ人ビジネスマンが、眼を輝かせて言っていました。ちなみに彼は、ドイツ系のアメリカ人で、東海岸のフィラデルフィア出身。そこはアメリカでも特にサッカーの盛んな地方ではあるんですが・・

 ともあれ、今回のオリンピックチームを見て、アメリカに対する興味がどんどんと高まっている湯浅でした。




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]