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最終勝負での「ひと味」と、全体的な安定感に一日の長が・・鹿島アントラーズvs清水エスパルス(3−2、延長Vゴール!)・・(2001年1月1日、月曜日)


みなさん、明けましておめでとうございます。本年もよろしく・・

 ちょっと挨拶しなければならない方々がいたので、コラムを書きはじめるのが遅れてしまいました。悪しからず・・

 今回の天皇杯の決勝も、ラジオ文化放送で解説したため、ちょっと声がハスキーになってしまって・・。もしかしたら「しゃべり過ぎ」だったのかも。お聞き苦しい点がございましたら、それもまた、「湯浅のサッカーに対する(発展的な?!)思い入れの高さの証明」とお考えいただくことで、ご容赦アレ・・

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 決勝は、アントラーズが先行し、それを「起死回生ゴール」でエスパルスが追うという、素晴らしくエキサイティングなゲームになりました。サスガに「実力チーム」同士の、意地をかけた一戦・・

 「起死回生」といったのは、エスパルスの「最終の仕掛け」がうまく機能しなかったことで(もちろんアントラーズ守備が堅かったから・・)、「これでは、シュートチャンスを創り出すことさえも容易じゃないだろう・・、危険なニオイのしない攻撃では同点ゴールを奪うなんて・・」と思いはじめていた、まさにその瞬間に叩き込まれたゴールだったからです。前半の同点ゴールも・・、後半の同点ゴールも・・

 エスパルスの攻めには、これまでに何度も書いたことですが、まだまだ「最後の仕掛け」に変化が乏しいと感じます。「変化」・・。もちろんそれは、相手守備ブロックの「(発想の)ウラ」を突く攻撃プレーのこと。例えば・・右サイドでボールを動かして相手守備を引きつけ、ココダ!というタイミングで、「顔が向いている方向とは逆」の左サイドへ素早くボールを展開して「最終勝負」を仕掛けさせる・・、中盤でのドリブル勝負で、守備ブロックの「前のライン」を外してから「タメ」を演出し、そこから決定的スペースへスルーパスを出す(もちろん決定的フリーランニングとの連動!)・・。そんな「最終的な仕掛けの変化」が乏しいエスパルスだから、たしかにボールを支配する時間帯はありますが、それも、どちらかというと「持たされている」と感じられてしまうのです。

 要は、エスパルスの攻めでは、(決定的)スペースで「ある程度フリーでボールを持つ選手」が出現してくるような雰囲気が希薄すぎる・・ということです。対するアントラーズの攻撃には、「比較的」多くの変化があると感じます。最前線の鈴木、二列目の小笠原、ビスマルク、そして何といっても、頻繁に三列目から「前戦の味方を追い越していくオーバーラップ」を魅せる熊谷などのプレーに、互いに「使い」、「使われる」という攻撃のメカニズムに対する深い理解を感じます。だから、ボール絡み、またボールがないところでも、「次の攻撃の変化」を意図した「イメージの連動性」が明確に見えてくるのです(そのことが、ウラスペース活用の可能性をより大きく感じさせる!)。

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 とはいっても、全体的なゲームの流れは、まさに膠着状態。互いに、「決定的なシュートシーン」を創りだすところまで、相手の守備ブロックを振り回すことができません。アントラーズにしても、たしかに「攻撃の変化に対する意図」は見えるけれど、それを、エスパルス守備ブロックのウラに広がる「決定的スペース」を効果的に突くところまでつなげることができないのです。

 「これは、予想したとおり、守備合戦になったな・・」、そう感じたものです。

 そんな時間帯に生まれた、スキを逃さない先制ゴール。これは明らかに、エスパルス守備ブロックの「集中ギレ」。彼らは、レフェリーがホイッスルを吹いて試合を止めた(ファールのホイッスルの後に、ゲームを止めるためにもう一度ホイッスルを吹いたと)・・とばかり思っていたのです。GKの真田などは、カベに対する指示を出すために、右サイドポストまで移動していました。レフェリーは、ゲームを止めるホイッスルをまったく吹いていなかったのに・・

 このゴールの後、アントラーズの攻撃がよりアクティブになり、対するエスパルスの攻めは、「ショック」もあったのでしょうが、もっと遅滞したモノへ・・

 そんな雰囲気の中で、サントス&オリバのコンビが、夢のような「同点ゴール」を挙げたから、エスパルスにとって、それが「起死回生ゴール」だったと書いたわけです。

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 後半は、再びアントラーズがゲームを支配する展開ではじまります。そして4分。この日も、攻守にわたって大活躍の小笠原から、「ファーポスト側スペース」へ向けた、正確なサイドチェンジのロングパスが、相手守備ブロックの背後から走り込んだ熊谷へピタリと合い、そこからのシュートが、鈴木の「こぼれ球ゴール」につながります。

 このシーンでは、確認はできませんでしたが、小笠原からのサイドチェンジパスに対し、触ろうと思えば、鈴木はボールに触れました。それを、一瞬の判断で(ヘディングするのを止めて)後方へ流したのは、たぶん熊谷が、鈴木に対して「後ろからの神の声」をかけたからに違いありません。「流せ!!」ってな声をネ・・

 ともあれ、このゴールが入ってからは、失うモノがなくなったエスパルスが、極限パワーで攻め込む・・という展開になったことは言うまでもありません。

 ただ、たしかに(選手たちの走る量とスピードに代表される)ダイナミズムが格段に向上しただけではなく、一人ひとりのリスクチャレンジの姿勢も格段にシャープになったエスパルスでしたが、いかんせん「最終の仕掛けに対するアイデア」がまだまだ稚拙だから、アントラーズの「堅牢守備」を破れるような雰囲気かもし出すところまでいけません。アントラーズは、「余裕をもって」エスパルスの大パワーオフェンスを抑えつづけるのです。そして時間だけが・・

 そんな、見かけとは違う、(押し込んでいるエスパルスだが攻めきれないという)本当の試合の流れを断ち切ったのは、アレックスという「才能」でした。

 この試合でのアレックスは、同サイドの名良橋だけではなく、中田浩二や小笠原などにも(ケースバイケースで)ハードなチェックを受けていたことで、ほとんどといっていいくらい攻撃の最終シーンを演出するところまでいけません。その「起死回生ゴール」までは・・

 右サイドでボールをもったアレックスが、一人、二人とアントラーズ選手をかわし、中央のゾーンへ切れ込んでいきます。そこは、中央エリアから少し右側の、ペナルティーエリア際。一瞬、切り返してタテへ勝負する素振りをみせるアレックス。チェックに入る本田。その後方で、ピタリと足を止めてしまう、中田浩二とファビアーノ。その右には、市川が、虎視眈々とタテのスペースを狙っています。

 もちろん中田浩二に、市川の「意図」が見えていないはずはありません。ただ自分の前のゾーンでボールを持っているのは「あの」アレックス。本田が抜かれたら、今度は自分がカバーへ・・という意識で、どうしても、アレックス寄りのポジションを取ってしまいます。そして、アントラーズ守備陣の「意識と視線」を十二分に引きつけた(タメた)アレックスが、満を持して、右サイドの市川へ「ファウンデーションのパス」を出すのです。それが勝負の瞬間でした。

 アレックスがしっかりとタメたおかげで、中央で待つ横山、オリバは、次の勝負プレーに対するイメージを、明確に描けています。そして市川からの正確なセンタリング(低く、鋭い弾道!)。横山の、身体を投げだしたサイドキックでのダイビングシュート! 高桑が指先ではじいたことで、右ポストを直撃! そして、詰めていた伊東が「起死回生ゴール」を挙げたというわけです。

 その後、エスパルスの戸田が二枚目のイエローで退場。これで延長戦は、11人対10人ということになってしまいます。「ヨシ! これで試合は、またまたサッカーの神様の領域にはいったな・・」、そんなことを思ったものです。エスパルスは、数的不利という追いつめられた状況・・でも・・

 私は、追いつめられ、一つのチームとしてこれ以上ない程まとまるに違いないエスパルスは、確実に「100パーセント以上」のチカラを発揮する・・、逆にアントラーズには「心理的な余裕」という落とし穴が・・、さてここから「ホンモノの心理ゲーム」であるサッカーの「奥深い」おもしろさを堪能できる・・そう思っていたんですよ。でも実際には、アントラーズ選手たちにとっては、そんな、自分たちのパフォーマンスが揺り動かされる「心理ゲーム要素」など先刻ご承知・・ってなことだったんでしょうね。彼らの「落ち着き」は、それこそレベルを超えていました。

 延長前半1分に飛び出した、小笠原の「スーパーVゴール!」。このゴールでは、置くように「ソフト」にアシストしたビスマルクにも拍手をおくりましょう。

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 「MVP」に輝やいた小笠原だけではなく、ケガをおして最後までファイトしつづけた名良橋、最前線から自ゴール前まで戻ってのディフェンスと、グラウンド全体をカバーする活躍を魅せた鈴木(完全にブレイク!)、積極的な攻撃参加を魅せながらも忠実にディフェンスもこなしていたボランチ、熊谷(特に、最前線を追い越してしまう二列目からの飛び出しが秀逸!)、攻撃での組み立てや守備での穴埋めなど、これまた広範囲な「実効ある」老練プレーを魅せたビスマルク、形容しがたいほど堅牢な最終ラインの前で、忠実&クリエイティブな(読みベース)守備を展開した中田浩二、そして19歳とは思えない吹っ切れた積極プレーを展開した根本(自信ベースを勝ち取った!)などなど、彼らの「ハイレベルなチームプレー」に対し、最大限の賛辞を惜しまない湯浅でした。

 誰が出てきても、どのように守り、どのように攻めるかについて、明確なイメージをもってプレーできる・・。これも「伝統」。それが、彼らの「安定感」の根底にあるということなのでしょう。

 アントラーズが、「チーム戦術的な伝統(プレーイメージの伝播と継承)」で一歩先んじていることを再び証明した・・といったゲームではありました。

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 湯浅は、1月5日ころから「海外遠征」に入ります(10日間前後)。もちろん気づいたことがあれば「遠征先」からでもHPをアップしますが、まあちょっと「オフ」ということにしましょうかネ・・

 さて今年は「ワールドカップ前年」。日本代表にとっても、世界トップとの勝負を通した「ホンモノの課題」の発見など、「内容を拡充する期間」として重要な意味をもつ年です。私もそれを、自分の「学習機会」として、十二分に活用するつもりです。

 今後ともよろしくお願いします。




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