トピックス


典型的な「決勝ゲーム」・・でも見所も豊富・・チャンピオンズリーグ決勝、バイエルン・ミュンヘンvsバレンシア(1-1、PK戦:5-4)・・(2001年5月24日、木曜日)


ハ〜〜〜〜ッ

 バレンシア七人目のキッカー、ペジェグリーノのPKを、バイエルンの守護神、オリバー・カーンが横っ飛びに押さえたのです。2001年チャンピオンズリーグのチャンピオンが、そして今年のトヨタカップ出場チームが、ドイツのバイエルン・ミュンヘンに決まった瞬間です。

 先週末のドイツブンデスリーガ最終節における優勝決定へのプロセスも含め(結局バイエルン・ミュンヘンがリーグ優勝を決めたのですが、そこに至るまでの紆余曲折は、まさにミステリー・・)、本当にコイツらはタフな強者たちだな・・、そんなことを思っていました。ブンデスリーガ最終節については、一つ前の「トピックス・コラム」、そして「Isize Sports 2002クラブ」のコラムでレポートしましたから、そちらを参照してください(「Isize」へのリンクボタンはトップページにあります)。

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 まずPK戦の「レポート」からいきましょうか・・

 先攻のバイエルン。最初のキッカーは、ブラジル代表のパウロ・セルジオ(ショルと交代)。助走に入ったとき、一瞬、バレンシアGK、カニサレスの動きを牽制するようにステップを変えます。一瞬、「トッ!」と、突っかかるように助走の動きを止めたのです。カニサレスは、完全に一方のサイドへ飛んでいましたから、後は、がら空きになったゴールへ「パス」するだけなのに・・。でもパウロの蹴ったボールは、大きくバーを越えてしまって・・

 彼には、カニサレスの動きが見えていたに違いありません。「ヨシッ!」と思ったのかどうか・・。そして「変な力」が入ってしまったと思うのです。彼は、最初から蹴る方向を決めていたにもかかわらず、一瞬「フェイント動作」を入れたことで、またカニサレスの動きが見えたことで、逆に力が入りすぎて(身体の重心である『腰』がついてゆかずに)蹴り上げてしまったのです。フム・・

 その後、バレンシアのキャプテン、メンディエータが安定したPKを決めます。次のバイエルンのキッカーは、サリハミジッチ。決めはしましたが、バレンシアGK、カニサレスの「読み」がピタリと当たったことで、ギリギリ成功・・。次のバレンシアのキッカー、カレウは、メンディエータ同様、落ち着いて、バイエルンGK、カーンの逆を突いたシュートを決めます。雰囲気は、もう完全にバレンシア・・

 グラウンド上の選手たち、またベンチは、どちらに「PK戦の勢い」があるのか・・という雰囲気を敏感に感じ取るものなのです。ただ・・

 バイエルンの次のキッカー、ツィックラーが冷静に決め、バレンシアのキッカー、スロベニア代表のザホビッチの番になります。ここで「PK戦の勢い」が逆流してしまいます。左利きのザホビッチが、インサイドで「左隅」を狙い、それをカーンが、「分かっていたよ!」ってなセービングで阻止してしまったのです。そしてここで、「やっと」PK戦の流れが「イーブン」に戻ったように感じた湯浅でした。

 たぶんカーンは、バレンシア全員の「PK情報」がアタマに入っていたんでしょうネ。まあ、このクラスの戦いでの「情報戦」は、熾烈を極めますからネ。そんな情報集めは、バレンシアのカニサレスも同様です。次のバイエルンのキッカー、アンデションのシュートを、これまた「分かっていたヨ」ってなセービングで、見事に防いでしまいます。フ〜〜

 百戦錬磨の両チームベンチは、何が起ころうと「表情」を変えません。PK戦は「心理戦」ですから、指揮官が動揺したら、もう負けが決まったようなものなのです。そのことを心底理解しているバレンシアのクーペルと、バイエルンのヒッツフェルト。

 バレンシアが有利になった状況で登場したのが、バレンシアの次のキッカー、カルボーニ。スタンドのバレンシアファンは、満面の笑みを浮かべています。すぐに「奈落の底」に突き落とされることを知らずに・・。歓喜と落胆の間を、極限の振幅で「揺動」するスピリチュアルエネルギー・・ってなことですかネ。

 「定石」ともいえる「ゴール真正面」へシュートを飛ばすカルボーニ(相手GKが、読みベースでどちらかのサイドへ飛ぶことを前提にしている)。右へ飛びながらも(逆モーションになりながらも)、ギリギリ伸ばした右手でボールに触るカーン。手に当たったボールは、真上へはじかれ、次に「カーン!」とゴールバーに当たってゴールの外へ・・。これで「失敗の数がイーブン」になり、「PK戦の勢い」が、今度はバイエルンの方へ傾いていったと感じました。

 「雰囲気が傾く」というのは、もちろん感覚的なものなのですが、私は、PK戦がはじまったときに感じた「カニサレスの迫力」が、PK戦が進むにつれて、カーンの方へ流れはじめたと感じたのです。

 そして、エッフェンベルク(バイエルン)、バラハ(バレンシア)、リザラズ(バイエルン)、キリー・ゴンザレス(バレンシア)と決まり、運命の、七人目のキッカーの番になります。最初はバイエルンのリンケ。安定したストッパーです。カニサレスの逆を突き、右サイドへ。そしてバレンシアのキッカーは、ペジェグリーノ。彼は、「PK戦の流れ」を敏感に感じ取っていたかのように、身体が縮こまったモーションで、甘いコースへ蹴ってしまいます。カーンの「読み」がピタリと当たった方向へ・・

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 さて試合ですが、開始早々の3分、バレンシアがPKで先制したことによって、当初予想されていたゲーム展開が、より鮮明になっていきます。バイエルンがゲームを支配し、バレンシアが堅く守る・・その構図です。

 しかし、先制ゴールから3分が経過した前半6分。バイエルンのエッフェンベルクが、華麗なボールコントロールで抜け出すところを、バレンシアのアングロマが、引っかけて倒し、これまたPKが、今度はバイエルンに与えられてしまいます。でもショルが蹴ったボールは、コースを読んでいたカニサレスの足に弾かれてしまって・・

 これで、「構図」には変化なく(いや、もっと輪郭が鮮明になってきた!?)ゲームが進行します。堅牢でダイナミックな守備ブロックをベースにゲームをコントロールするバイエルン。ゲームを支配されながらも、最後のところではしっかりと守りつづけるバレンシア・・

 バイエルンでは、左サイドからの攻撃が目立ちに目立っていました。最初、左サイドの前気味ポジションに入ったサリハミジッチと、左サイドバック、リザラズが積極的に崩しにきていたのです。そのサイドには、バレンシアのキャプテン、メンディエータがいるのですが、リザラズが上がった後は、しっかりとハーグリーブスがカバーします。ハーグリーブスは、この試合での「隠れたMVP」。まだ弱冠20歳。カナダ生まれで、現在はイングランドU21の代表とのこと(まあイングランド側からのラブコールらしいですがネ・・)。もし彼が、最終的にイングランド国籍を選択したら、フル代表のエリクソン監督は、願ってもない「実効ある戦力」を得ることになる・・!?

 攻勢をかけつづけるバイエルン。それでも、「決定的チャンスの芽」までは見えるのですが、どうしても、バレンシア守備のウラを突くことができません。もちろん、チャンスとなれば、サイドからだけではなく、ロングシュートを放ったり、コンビネーションで中央突破を図ったりと、攻撃の「変化」を演出しようとする姿勢は感じるのですが、そこは、世界の強者たちが構成するバレンシアの守備ブロック。しっかりとバイエルンの攻勢を受け止めるのです。

 前半のシュート数は、バイエルンが「10本(枠内は2本)」、対するバレンシアは、たったの「2本(枠内は1本)」。カレウやアイマール、キリー・ゴンザレスやメンディエータといった才能たちも、バイエルン守備陣の「忠実」なハードマークにほとんどといっていいほどチャンスをつくりだすことができません。

 バイエルンの守備も、堅牢そのもの。それも、あれほど押し上げているにも関わらず・・。もちろんアンデションを中心にした最終ライン、両サイドバックも堅実なのですが、やはり何といっても、ハーグリーブスのダイナミックな貢献度が輝いてしまって・・(もちろんエッフェンベルクの攻守にわたる高い貢献度も、いつものように特筆モノではありましたが・・)。とにかくバイエルン選手たちの、攻め上がるなかでも「前後のバランス」を崩さない、攻守にわたる「自分主体の実行能力」は抜群でした。

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 そして後半、バレンシアのクーペル監督は、アルゼンチン期待の星、アイマールに代え、守備的ミッドフィールダー、アルベルダを入れます。いや、それはないだろう・・、そんなことを思ったものです。

 たしかに前半のアイマールは、バイエルンの強固な守備ブロックに目立つことができませんでした。それでも、要所では「危険な臭い」は放っていたわけで、彼がいなくなれば、バレンシアの攻撃に「大きな穴」が空いてしまう・・なんて思ったものです。

 とはいっても、各選手に対する「深い理解」をベースにした監督の判断は、私のそれとは違うところにあったのでしょうがネ。代わって登場したアルベルダにしても、もしかしたら、後方からの攻め上がりに強みを発揮するタイプなのかもしれないし・・なんて考え直したりしたものです。でも結局は、その「判断」が、最後までネガティブな尾を引いてしまいます。

 後半開始3分。左サイドでうまく抜け出したエウベルが、才能を発揮して相手ディフェンダーを振り回し、決定的なセンタリングを、ファーポストサイドへ送り込みます。

 飛び込んでいくヤンカー。前には、最初にボールがくるスポットへ入り込んでいたカルボーニがいる。そこへ、背後から迫るヤンカー。その瞬間、カルボーニが、ヤンカーの身体を押さえます。ただヤンカーの「飛び込みパワー」は、カルボーニの「押さえ」を完全に上回っていて・・

 結局、背後から身体を「寄せられた」カルボーニは、ヤンカーを押さえるために開いていた「腕」を「押されて」ボールにタッチしてしまいます。レフェリーは、ハンド! の判定。カルボーニは、ヤンカーを「押さえる」には、ちょっと無理な体勢でした。もし背後から入ってきたヤンカーが、カルボーニと身体を「接触」させながらヘディングシュートを放ったとしてもファールにはならなかったでしょう。でも、ボールに当たったカルボーニの腕は、明確にヤンカーに「押され」たわけで・・。いや、微妙な判定ではありました。

 でもまあ考えてみれば、ゲーム開始直後にバレンシアが得たPKの根拠になったアンデションのハンドにしても、スローで見る限り、「本当か!?」ってなモノでしたから、これで「イーブン」かな・・

 でも、最初のバレンシアの「PK」がなけば、バレンシア攻撃の核、アイマールが交代することもなかったでしょうから、それを考えると・・。その後、サンチェスに代わってザホビッチが登場します。でも彼にしても、(一本だけ決定的チャンスはありましたが・・)全体としては、アイマールのパフォーマンスを補うには完全に役不足。まあそれも、サッカーですからネ・・

 その後は、もう完全に「膠着状態」。とはいっても、「決定的チャンスの芽ができそうな雰囲気」では、完全にバイエルンが凌駕しています。逆にバレンシアでは、アイマールの「穴」が目立ってしまって(少なくとも私は、そう強く感じていました)・・。

 延長前半の3分には、バイエルンのエウベル(ブラジル代表)が決定的チャンスを得ます。演出したのは、バイエルンのスーパーストッパー、クフォー(ガーナ代表)と、左サイドバックのリザラズ(フランス代表)。この時間帯になって、最後尾の選手たちが最前線で決定的な仕事をする・・。それでも前後のバランスは崩れない・・(しっかりとエッフェンベルク、ハーグリーブス等がカバー!)。たしかに総合力ではバイエルンの方が上・・。でも、アイマールがいたら、また違った展開も・・なんて、しつこく「・・たら・・れば」を繰り返す湯浅でした。

 そんなことを思っていたら、その直後に今度はバレンシアが、日本戦で決勝ゴールをたたき込んだボランチのバラハが、意を決したドリブル突破から、うまく抜け出してカレウへのラスト横パスを出すという決定的チャンスを迎えます(そのパスは弱く、読んでいたアンデションがカット!)。そして直後の延長前半6分には、ショルからのスルーパスを受けたサリハミジッチが、ペナルティーエリア右の決定的スペースへ抜け出してシュート(バレンシアGK、カニサレスの正面)!

 やはりこんな膠着状態になったら、相手ディフェンスにとって「見慣れない」選手たち(守備ブロック選手たち)の攻撃参加だけが「攻撃の変化」を演出できるんだな・・。そして、そんなリスクチャレンジが雌雄を分けるキーポイントになってしまう・・。ただ・・

 そしてゲームは、終盤の「膠着状態」へ・・

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 ちょっと疲れたので、このあたりで一度アップすることにしましょう。

 とにかくこの試合は、例にもれず、両チームともに、しっかりと守ってワンチャンスを狙う・・という「ビッグタイトルを争う決勝の典型的なゲーム展開」ではありました。それにしても、PK戦は、見応え十分でしたヨ。では・・




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