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「多国籍軍」が魅せた「ドイツ的な勝負強さ」・・チャンピオンズリーグ準決勝の第二戦、バイエルン・ミュンヘンvsレアル・マドリード(2-1)・・(2001年5月10日、木曜日)


私は、ドイツサッカー協会公認のコーチですから(このライセンスは、国家試験なのです!)、バイエルンが決勝に進出したことは(アウェー、ホームともに勝利!)、正直いって嬉しいのですが、それでも、レアルの「美しさ」も捨てがたくて・・

 とはいっても、チャンピオンズリーグの決勝が、また「スペイン勢同士」というのも興ざめですからネ。これで、バイエルン・ミュンヘン対バレンシアの決勝が、本当に楽しみになりました。

 でもバイエルンは大変だ。現在のドイツリーグ(ブンデスリーガ)での彼らは、シャルケ04と、激烈な優勝争いもしていますからネ(シャルケと同勝ち点で二位につけている!)。それが、「ローテーション・システム」と呼ばれる「選手バンク・システム」を助長させたんですよね。

 ローテーション・システムとは、要は、リーグ戦、ヨーロッパ戦など、どうしても日程が混み合ってしまう「強豪クラブ」が、たくさんの「良い選手」を抱えることで、常に、同じレベルの「ラインアップ」を組めるようにすることです。もちろん「選手の組み合わせ」という意味合いもあり、「戦術イメージ的」にコンビネーションが良い「選手グループ」を、いくつかの「セット」にして抱えておく・・ということも意味します。まあ「贅沢」なことです。

 「経済と文化の相克(せめぎ合い)」。以前、そんなコラムを書きました。世界中から「マネー」があつまる強豪クラブだけが「選手バンク」を持つことができる・・、そして「強者と弱者の差」がどんどんと広がっていってしまう・・。それが「サッカー文化隆盛」のためにポジティブな現象なのかどうか・・

 「自由」と「規制」は、常に、たがいに「揺り動き」ながら、市場原理、社会原理をベースに「収斂」し「収束」していくものです。今は、完全に「経済主導」の(独占禁止法の理念に抵触する!?)世界のサッカー界。

 情報化時代において、サッカーという「コンテンツ」の価値は、どんどんと高まっています。世界のマネーも、投資先として、ワレ先にとサッカーへ向かってきています。さてこれから、どんな展開になるのか・・。このことについては、以前に「2002クラブ」で書いた文章を参照してください(いまはイサイズの2002クラブのコラム倉庫に格納されているハズですが・・)。

 ちょっとハナシが逸れてしまって・・。さて試合です。

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 立ち上がり、バイエルンが、ビックリするくらい積極的に攻め上がってきます。ショルが惜しいシュートを放つ・・、エウベルが、右サイドから強烈なシュートを見舞う・・。

 それに対し、美しい「中盤での組み立て」はいつもの通りなのですが、どうしても、最終勝負の仕掛けがうまくいかないレアル。

 そして前半8分、セットプレー(コーナーキック)からバイエルンが先制し、「これはもう、試合の行方は決まったかな・・」なんて思わせました(入れ込んでいるので、どうしても「感情的な視線」ばかりが先行してしまう湯浅なのです!)。でも、その後の18分。決めたんですよ、レアルが・・。それは、それは美しい同点ゴールを・・

 それは、左サイドバックのロベルト・カルロスからはじまりました。味方からの横パスを、スパッとトラップし、同時にルックアップ。広い、広〜〜い視野。もちろん、最前線の右サイドで「決定的フリーランニング」を狙っているラウールと目が合います。その瞬間、左足、一閃。美しい、本当に美しい「ピンポイントパス」が、ラウールをマークしているリンケのアタマを越え、右サイドの決定的スペースへ、美しいタイミングで飛び出していたラウールに、ピタリと合います。

 スパッと、左足の「インステップ」でトラップするラウール。天才だ!! そんなことを思ったものです。彼は、ダイレクトシュートは無理だと判断したのでしょう、一度ボールを止めることにしたのです。もちろんリンケは、当たりにいけません。ラウールはウマイ選手ですから、安易に飛び込んだら簡単に外されてしまいますし、何といってもそこは、ペナルティーエリア内ですからネ。

 落ち着きはらい、ルックアップしながら、またマークするリンケを挑発するようにキープするラウール。そこが勝負の瞬間でした。その後方20メートルのところで、爆発アクションをスタートした選手がいたのです。フィーゴ・・

 彼は、前にいるハーグリーブスの視線が、ラウールへ向かった瞬間を狙い、爆発スタートを切ります。追いつけないハーグリーブス。そしてラウールから、ベストタイミング、最高の球種とコースのラストパスが、フィーゴが走り込む「猫の額」のような決定的スペースへ送り込まれたというわけです(横パス)。

 これで分からなくなった・・。もしレアルが決勝ゴールを決めれば、同勝ち点、同得失点差の場合は、アウェーゴールが二倍にされるというルールが適用されますからネ(第一戦では、バイエルンが、アウェーで「1-0」の勝利)。

 手に汗握る展開になりました。この試合、私は、どちらかというと「感情先行」で観戦していましたから、本当に手に汗握ってしまって・・。

 そしてレアルが、このゴールに勇気づけられたのか、どんどんと積極的に攻め上がってくるようになります。フム、バイエルンにとっては苦しい展開になるかもしれない・・、そんなことを考えていました。「積極性に支えられる創造性」・・。それほど怖いものはありませんからネ。

 常に「決定的スペース」をイメージして創造的な攻めを構築するレアル。対するバイエルンの攻めは、どうしても「直線的」。驚き、変化が感じられません。もちろんそれでも、迫力は満点なのですが・・

 そんな「クオリティーの違う一進一退」がくり返されていた前半36分(34分だったかも・・)。バイエルンが、またまたセットプレーから追加ゴールを挙げてしまいます。

 ショルのフリーキックから、イェルミースが、狙いすました「ゴールへのパス」を、レアルゴール左スミに流し込んだのです。呆然とするレアル守備陣。

 そして一進一退がくり返され前半が終了します。この時点で私は確信していました。「後半のバイエルンは、人数をかけて守備に回り、カウンターを狙うだろう。そうなったらヤツらは強い。たぶんレアルは、攻め切れないのでは・・」。

 そして思った通りの展開に・・。たしかに、ラウールの決定的なシュートはありました(これも、右サイドのサルガドからの一発サイドチェンジ・ラストパスが、ベストタイミングで左サイドのスペースへ飛び出したところへピタリと合ったチャンスでしたが・・)。でも逆にバイエルンも、蜂の一刺しのようなカウンターを繰り出してくる・・。

 八人、九人で守備ブロックを構築し、一人ひとりが、絶対に「アナタ任せ」にならない積極ディフェンスを展開するバイエルン。こうなったら、才能集団のレアルといえども、簡単にゴールマウスの鍵を開けることはできません。何度も、何度も、組織プレーをベースに、ココゾ!の個人勝負を挑んでくるなど、美しさを内包するオフェンスなんですが・・でも・・

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 イメージした通りの展開で、試合終了。

 外国人選手がマジョリティーの「多国籍軍」であるバイエルンミュンヘンなのに、強烈に堅いディフェンスをベースにした「ドイツ的な勝負強さ」を魅せつづけた・・。ちょっと奇異な感覚に襲われた湯浅でした。このことについては、次のテーマとして考えてみよう・・

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 最後に、抜群の「最終勝負でのラインコントロール」を魅せた、バイエルンのフラットスリーについて短く・・

 フラットライン守備システムの「機能性」に対しては、私が、様々なメディアでのコラムで発表しているとおり、相手が中盤で組み立ててくる攻めにおいて、中盤で「最終の仕掛けの起点(フリーのボールホルダー)」ができた「状況のみ」に、正しく評価することができます。

 どこかの試合で、カウンター状況であるにもかかわらず、「あっ、今の相手の攻撃では、フラットスリーが崩されてしまいましたネ・・」なんていうテレビコメントや、プリントメディアでのコラムを、聞いたり、見かけたりしますが、本当に「閉口」しますよネ。

 そんなカウンター状況では、「はじめから」、フラットラインは「ブレイク」して、マンマークへ移行しているわけですからネ・・フ〜〜・・

 あっ・・と、この試合にもどりましょう。例えば、フィーゴが、中盤の高い位置で「攻撃の起点」になり、最前線(オフサイドラインギリギリのところ)で、ラウールが決定的スペースへの「飛び出し」を狙い、タイミングを測っているという状況。

 そこでバイエルンのフラットスリーは、「まだ」ラインを保ちながら、ラウールへのマークを「意識」しているディフェンダーが、フィーゴの「アクション」を観察しながら、ラウールの動きも、最高の集中力で警戒します。「いつスルーパスを出してくるんだ・・?? いつでもいいぞ・・! ラウールには、絶対にフリーで抜け出させないからナ!!」

 そしてそんな状況で、ボールを持つフィーゴへ、味方の中盤選手が「うまくチェック」を掛けます。この時点で、フィーゴからの「ラストスルーパス」の芽はなくなります。その瞬間、バイエルンのフラットスリーが、「一体」になって、レアル最前線の選手の「タテへの抜け出しの動き」に対応せずに(最前線で張るレアル選手へのマークを放り出し!)、スパッと、ラインの「下がり」を止めたり、極端なケースでは、スッと、ラインを数十センチ上げたりするのです。

 そんな「最終勝負のラインコントロール」をリードするのは、スウェーデン人のアンデション。両サイドは、クフォーにリンケ。そんな「最終勝負の駆け引き」を見ているだけで、入場料にオツリがくるというものです。

 私が言いたかったことは、フラットラインシステムが機能しているかどうかは、そんなギリギリの「最終勝負のラインコントロール」でのみ評価しなければならない・・ということです。

 まあこれを語りはじめると長くなってしまうので、本日はこのあたりで・・




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