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大きな「流れの変化」があった興味深い一発マッチでした・・チャンピオンシップ第二戦・・アントラーズ対ジュビロ(1-0、延長Vゴール!)(2001年12月8日、土曜日)

立ち上がりは、第一戦と同様、ジュビロが全体的に実効あるペースを握りつづけます。とはいっても、やはりそこはアントラーズのホームスタジアム。第一戦から比べれば、両チームのダイナミズムレベルは僅差ですがネ。

 そんな展開のバックグラウンドは、何といっても中盤の守備。そして攻撃にうつった後の、素早く、広いボールの動き。もちろんそれには、攻守にわたるボールがないところでの自分主体のアクションがキーポイントになることは言うまでもありません。

 ジュビロの場合、特に、ボールがないところでの守備アクションが特筆モノ。

 そのキーポイントは「ボールへの寄せ」。相手ボールホルダー、つまり次のパスレシーバーを忠実に「意識」しつづけるのです。もちろん「寄せる選手」は、その時点でマークしていた相手をフリーにしてでも必ずアクションを起こします。もちろん、そのアクションによってフリーになった相手は、もっとも近い選手がカバーリングへ! いや、素晴らしい。だからこそアントラーズのボールの動きを抑制し、次の「読みディフェンス(協力プレス)」が効果的に機能するというわけです。

 このことについては、W杯の抽選会が行われた勧告プサンからアップした(11月30日付け)「プサン便り・・そしてチャンピオンシップについて・・」というタイトルのコラムを参照してください。その週のサッカーマガジンで発表した、チャンピオンシップに関するプレビューコラムを転載してあります。

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 さて試合。上記したように、最初の20分間はジュビロのペース。それでも、セットプレー以外、まったくジュビロゴール前まで迫ることさえできなかったアントラーズが、徐々に盛り返しはじめます。とはいっても、流れのなかではどうしてもシュートチャンスを作り出すことがままならない。ボールのないところでの「二列目」選手たちのアクションが緩慢だという事実が目立ってしまって・・。

 要は、小笠原、ビスマルクに、最前線を追い越してでも決定的スペースへ走り抜けるという強い意志が欠けているということです。第一戦同様、この試合でも、両サイドのアウグスト、名良橋はうまく押さえられていますし、熊谷、中田浩二の守備的ハーフコンビにしても、どうしても押し上げに対しては「後ろ髪を引かれて」いるようで・・。

 これでは、ジュビロ最終ラインの「ウラ」を突いていけるハズがありません。何といったって、最前線の柳沢、平瀬は、完璧に抑え込まれているし、「オレはパサーだ!」という意識が強すぎる小笠原、ビスマルクに対する集中プレスもうまく機能していますからネ。一度でも、最前線の二人が、「オトリ」として機能するような攻撃が成功したら、ジュビロ守備ブロックの「ディフェンス・イメージ」を大きく揺さぶることができるのに・・なんて思っていました。彼らの攻めでは、タテヨコのポジションチェンジが、要は「攻撃での変化」が少なすぎるということです。

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 それに対しジュビロ。少しゲームを支配されはじめたら、今度はカウンターからチャンスの芽を作り出してしまいます。たしかに、名波がいた頃のような「縦横無尽のポジションチェンジ」はカゲを潜めましたが、それでもタテのポジションチェンジは健在。藤田と奥がタテに入れ替わり、藤田と福西が入れ替わり、西と奥が入れ替わる・・、そんな変化がスペースを作り出し、そこを、活発なボールの動きで忠実に突いてくる。フム・・

 ジュビロの攻めでは、西が目立ちます。藤田と奥がボールを動かしていても、最終勝負の起点を、「西」にイメージしている・・とさえ感じてしまいます。それほど、自信レベルを格段に向上させている西の攻撃参加は効果的でした・・前半では・・。

 また「奥」。これまで私は、彼に対するシビアなコメントを出し続けてきました。それも、彼の才能が惜しいからに他ならないのですが、第一戦、そしてこの試合と、好調を維持しているように思います。味方がボールを奪い返しそうになった瞬間に、それまでのポジションから、脱兎のごとく逆サイドのスペースへ「開いたり」、走り回って、効果的な「中継ポイント」を演出しつづけるのです。

 「1.5列目」に入ったから・・!? まあそういうこともあるのでしょうが、彼ほどの選手なのですから、どのポジションでも、どんどんとリスクにチャレンジしていかなければ・・。今でも、セネガル戦、ナイジェリア戦での「悪イメージ」が、アタマにこびり付いて離れませんからネ。

 とはいっても、チャンピオンシップの二試合で、彼のキャパの高さを再認識できたことだけは確かなこと。これからも、彼に対して厳しい目を向けつづけるゾ・・なんて思っている湯浅なのです。

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 さて後半。互いの持ち味が十分に表現されるようになったことで試合内容が拮抗していた5分、やはりというか、本来の調子からはほど遠いビスマルクに代わって本山が入ります。そしてこの交代が、試合の流れを大きく変化させていく・・。

 直後の7分、ジュビロが、藤田のフリーキックから決定的なチャンスを迎えます。蹴られる前の、アントラーズゴール前での縦横無尽のポジションチェンジ。そして、そのゴール前の攻防とは関係ない後方からスッとフリーで上がってきた大岩が、決定的ヘディングシュート! でも僅かにゴール右に外れてしまって・・。さてゲームが動きはじめた。

 そんなピンチを迎えたアントラーズでしたが、実際には、本山が入ったことで、彼らの攻撃ダイナミズムが、俄然アップしてきます。

 それまでは、小笠原、ビスマルクがパサー、柳沢と平瀬が決定的なパスレシーバー・・なんていう構図で固まっていたのに、本山の、「中盤からの」突破ドリブルというアクセントが加わったことで、全員の自分主体アクションが格段に活発になっていったのです。ワンツーやドリブルで、どんどんと最前線を追い越すような仕掛けを魅せる本山。それにつられるように、熊谷、中田浩二、そして両サイドの上がりにも勢いが出てきます。でも一番「刺激」されたのは、何といっても小笠原。ビスマルクがいるときは、彼とのバランスを考えて(実際には彼の陰に隠れるように)プレーしていたのが、格段に「上下動」が増えたんですよ。さて、アントラーズはここからだな・・、そんなことを思っていました。

 でも、最後のところで攻め切れないアントラーズ。逆にジュビロが、後半14分に、素晴らしいカウンターを魅せます。右サイドの西から、タッチライン沿いに走ったゴンへ、素晴らしいタテパスが通ったのです。もちろん西にとってそのタテパスは「ワンのパス」。長い、長〜〜い距離を走って、右サイドの最前線でボールをキープしたゴンからの「リターンパス」を受け、そのままダイレクトシュート!

 曽ヶ端が、身体に当ててクリアしたから事なきを得たモノの、本当に目の覚めるようなチャンスメイクではありました。

 そして17分。今度はアントラーズが、カウンターから絶対的チャンスを作り出します。タテパスをもらった本山が、うまい切り返しで一人をかわし、まったくフリーでシュートを放ったのです。ゴール前12メートル。ただボールは、無情にも、僅かに左へ外れてしまって・・。手で顔を覆う本山。フ〜〜。

 ここら辺りから、流れはアントラーズへ。彼らのサッカーが、抜群にダイナミックなものへと変身していくのです。ジュビロのお株を奪う中盤守備での協力プレス。逆にジュビロの中盤守備に陰りが見えはじめて・・。サッカーでこんなものだ・・、何といっても全ての要素が「有機的に連鎖」している相対ボールゲームなんだから・・なんて思っていた湯浅でした。

 とにかく本山が入ってから、アントラーズの中盤守備に変化が見たのです。マンマークへの移行が早めだったのが、逆に互いのポジショニングバランスを重視するようになって・・。そのことが、素早いジュビロのボールの動きを抑制した・・と考えられなくもありません。焦ってボールホルダーへアタックを仕掛けようとしたら、その動作を見ながら、アタック直前のタイミングでパスを回してしまうジュビロの思うツボですからネ。

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 そして後半36分。今度は柳沢が、100パーセントチャンスを外してしまいます。本山の、素晴らしいドリブルからの(ジュビロ守備ブロックの動作と視線・意識を完璧に引きつけてしまう仕掛けのドリブル!)スルーパスが決まったのです。スパッとトラップし、まったくフリーでシュート体勢に入る柳沢。誰もが「よし、決まった!」と思ったに違いない!? ただシュートされたボールは、僅かにバーを越えていってしまって・・。勝負はつづきます。またまた、フ〜〜ッ、なんてため息が出てしまって。

 37分、ジュビロ中盤の、物理的、心理・無性心的リーダーである藤田が退き、代わりに前田が投入されます。もちろん彼は最前線へ。代わって奥が、二列目の中央に入ります。さて・・。でも結局は、この交代が功を奏することはありませんでした。藤田が抜けたことで、明らかに、攻守にわたるジュビロの中盤ダイナミズムが殺がれていったのです。そしてアントラーズペースがつづく・・。

 試合は、44分に飛び出した本山の惜しいシュートを最後に延長に突入します。

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 試合は、完全にアントラーズが牛耳ってしまうんだろうな・・なんて思っていたのですが、あに図らんや、延長最初のチャンスは、ジュビロが作り出します。それは、延長前半3分。ドリブルで上がった西からのタテパスを受けた前田が、うまい切り返しで相手マークを外しシュートポジションへ。そこでこぼれたボールを、西がダイレクトでシュート! でも曽ヶ端に、ギリギリでセーブされてしまって・・。

 そして延長前半10分、小笠原のフリーキックが直接決まって決戦の幕が閉じます。

 この勝負マッチでは、第一戦同様、両チームの選手交代が明暗を分けました。成功したアントラーズ。逆に、交代によってゲーム内容が沈滞してしまったジュビロ。フムフム・・。

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 それにしてもビスマルク。彼が抜けた後の、小笠原、本山たちが魅せた『解放されたダイナミックプレー』を見ていて、若手選手たちにとって(彼らの成長にとって)ビスマルクの存在がブレーキになっていたのかもしれない・・なんて思ったモノです。調子が良いときのビスマルクは、若手をうまく使っていたわけですし、彼らが学んだ部分も多かったに違いないわけですが・・。これを良い機会に、若手には「独立」してもらいましょう。その意味でも、来期のアントラーズに光明が見えた・・といった試合でもありました。

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 もちろんここで、チャンピオンシップの是非なんていうテーマを議論することはしません。でも最後に、今シーズンのジュビロが、サッカー内容で、シーズンチャンピオンにふさわしかったということについて異論のある方はいないに違いない・・ということだけは確認しておかなければ・・。今シーズンの彼らが魅せたサッカーには、全てのチームが志向すべき「未来ファクター」が満載されていましたからネ。

 さて来シーズン。「解放」されたアントラーズと、進歩的サッカーのジュビロ。その二強に、どのチームが絡んでくるのか・・。いまから楽しみで仕方ありません。

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 さて、湯浅は、明日の日曜日(12月9日)から海外出張に出かけます。アチラでは、ちょっと時間もできますから、過去に発表したコラムの内容を抜粋したり、まとめたりして、私のHPにアップしていくことにします。テーマは、「決定力」、「経済ファクターと文化ファクターの動的な均衡(チャンピオンシップのことも含めて!)」等々。ご期待アレ。

 では今日は、こんなところで・・

 




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