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コンフェデカップ(8)・・オジーは本当によく我慢してワンチャンスを決めました・・オーストラリア代表vsブラジル代表(1-0)・・(2001年6月9日、土曜日)


オーストラリアは、そのワンポイントチャンスだけに、勝負所のイメージを絞り込んでいたんでしょう。「ワンチャンスのフリーキック」で、(ブラジル守備ブロック全員の意識が集中するに違いない)ゼインとポポビッチを「おとり」に使い、ブラジル守備ブロックの「ウラスペース」を使う・・。ゼインとポポビッチのヘディングの強さは折り紙つきですからね。

 後半38分、決勝ゴールのシーンです。

 そんなオジーの「意図」が見事に「ツボ」にはまってしまって・・。あれだけオーストラリア守備ブロックが「集中力を切らさずに耐える」ことができたのも、彼ら全員に、絶対にいつかはい・・という「確信」があったからに他なりません。その「いつかはチャンスが巡ってくる・・」というイメージのもっとも重要なパターンがセットプレー。それもコーナーキックではなく、より勝負ゾーンを「広く」設定できる、ゴールからの半径25-30メートル以内のフリーキックだったに違いない・・!?

 ゴールのシーンでは、ほんの一秒の間に、血わき肉おどるドラマが、ブラジルゴール前で展開されました。

 ちょっと後方からブラジルゴール正面ゾーンへ突っ込んでいくのはポポビッチ。ゼインは、最後方(ペナルティーエリア、逆サイドの角)から前へ入っていこうとしています。もちろん、ポポビッチが狙うブラジル中央ゾーンには三人のブラジル選手がポジショニングし、後方から狙うゼインには、「身体を張って」マークするブラジル選手が付きます。そして、右サイドのタッチライン際から、オーストラリアのフリーキッカー、ラザリディスが、「明確なイメージ」をもったフリーキックを送り込みます。そうです。「前」のポポビッチと、「後ろ」のゼインという「おとり」がブラジル選手たちを引きつけたことによって出来るに違いない「その二人の間のスペース」へ向けた正確なラストパス・・

 ラザリディスが蹴った瞬間、ポポビッチと一緒に「前方」へアクションするという「フェイント」を入れたズドリリッチが、瞬間的に「回り込む」ことで、ブラジルゴール正面で迎え撃つ「守備ブロック」のウラスペース(つまりファーポストのスペース)へ、スッと移動します。そしてそこへ、正確なフリーキックが飛んできたというわけです。

 でも実際にヘディングを決めたのは、はじめからファーポストサイドの「背後スペース」にポジショニングし、そこからタイミングを見計らい、スッと「前へ」走り込んだオーストラリアのストッパー、マーフィーでした。ということで、ラザリディスが「最初から」イメージしていた「背後スペース」には、最終的には「二人」のオーストラリア選手が走り込んでいたのです。素晴らしい「ワンチャンス・センス」じゃありませんか・・

 それにしてもオーストラリアは、フランス戦同様、本当に最後まで「ワンチャンスイメージへの集中(期待)」をベースに頑張りました(フランス戦もフリーキックからのゴールでしたからネ)。勝負では「本物の強さ」を発揮するオーストラリア。これも、選手たちのほとんどがヨーロッパで活躍している「賜」であることは確かな事実です。

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 このゲームの「構図」というか、「内容的な流れ」は、下記のようなことだと思います。

 要は、個人的なチカラでは上回っているブラジルが、全体的にはゲームを牛耳っている・・、そして数回、決定的チャンスも作り出した・・、でもその支配の仕方が「オールドファッション」に過ぎる・・ということです。対するオーストラリアは、本当に攻守にわたり「チームとして」まとまったプレーを魅せます。ブラジル守備にとっては、オジーの仕掛けがどのようなプロセスになるのかは「明確にイメージ」できるものの、とにかく抜群に「忠実」だから、「同じようなイメージをベースにした攻撃」の繰り返しから、決定的なチャンスを作り出されてしまう・・といった展開です。

 ブラジル代表のサッカーが「オールドファッション」だといったのは、個人的なチカラがオーストラリアを凌駕しているということで、どうしてもボールを「こねくり回し気味」だからです。またそのことで、決定的フリーランニングなど、ボールのないところでのアクションにも、「爆発的なテンポチェンジ」が感じられなくなっています。

 オーストラリアの選手たちは、ボールをもっても、極力「相手との競り合い状態になる前」にボールをシンプルに動かしてしまいます(そして、一発ロング勝負以外は、忠実にサイドへ展開していく・・)。その「球離れの早さ」も彼らのコンセプトの一つです(ロングボールは少なくなりました・・そのことで、ショートとロングの組み合わせにも本物の実効が伴いはじめて・・)。それに対してブラジル選手たちは、マーク相手を「引きつける」ボールキープによって(もちろん「傾向」のハナシですヨ)、それぞれの局面に絡んでくるオーストラリアのディフェンダーを、ドリブルやワンツーなどを駆使して「置き去り」にすることばかりに腐心します。そのことで、最終的な仕掛けゾーンにおいて「数的優位な状況」を作り出そうとするのです。

 そんな「イメージ傾向」でプレーするからなんでしょう、どうしても彼らの攻撃が狭く、最後は「中央へ」入っていき過ぎます。もちろん「なか」へ入っていくにしても、最前線のプレーヤーたちに「タイミングを見計らった決定的フリーランニング」をスタートするという明確な「意志」が感じられませんから(オジー選手たちが、ブラジルの次の仕掛けを明確に読めるから)、最後はオーストラリアの壁に阻まれてしまって・・(読みベースの忠実マーク&カバーリングは感動モノ!!)。

 ブラジルは、「狭いゾーン」で局面を打開していこう・・、それも「個人的な才能」を駆使して・・という攻撃イメージに固執し過ぎている・・でもそれじゃ・・。ブラジルが決定的なチャンスをつくったのは、そのほとんど全てが「外からの、早いタイミングでのセンタリング」だったという事実の持つ意味は、重いですよね。

 フランスとの準決勝では、そんな「戦術的な発想の差(組織プレーと個人プレーの優れたバランス!)」が如実に現れてしまって・・。まあ、本物のセレソンならば、かなり違ったゲーム展開にはなるんでしょうが・・

 友人のブラジル人コーチが言っていたモノです。「とにかくブラジルのコーチ連中の最大のテーマは、才能ある選手たちに、最後の瞬間以外のシーンで、いかに効率的な組織プレーをやらせるかということなんだ。それが出来るコーチが、高く評価されるんだよ。まあ、組織プレーにも鋭い感覚をもっているヤツじゃなければ、ヨーロッパで金儲けはできないし、スカウト連中の目にも止まらないから、今じゃ若い奴らも、しっかりと組織プレーを意識するようにはなってきてはいるんだけれどな・・」。




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