いま、サンドニ競技場のプレスルームでこの原稿を書いているのですが、そこで、サッカーマガジンの連載でもお馴染みの、フランス・フットボール誌の著名ジャーナリスト、ヴァンサン・マシュノーさんに、そんな声をかけられました。いや本当に、どのように文章を書き始めてよいものか・・。本気になった「本物の世界」と対峙した日本が、実力の違いを見せつけられた・・!?
マシュノーさんは、「フランスは調子が悪い・・」と言ってはいましたが、そんなことはありません。フランスは、本気のペースで、日本代表に勝負を挑んできました。
それは、まあ当然の流れではあります。四週間前に行われたフランス代表対ドイツ代表では、両チームともにカッたるいサッカーで、両国のメディアに叩かれまくりだったそうで、特にフランスは、こんなサッカーじゃ・・などと(1-0で勝利を収めたにもかかわらず・・)かなり辛辣な批判にさらされたのです。とはいってもドイツもヒドイ出来だったようで、フランス代表にかなり「チンチン」にやられてしまったということでしたが・・
そして迎えた日本戦。この試合の背景には、昨年のモロッコでのハッサン二世杯でフランスが苦しめられたこと、また日本がアジアチャンピオンであること、そして何といっても、フランスには、もうそんなに「勝負の試合」が残されていないという事実があったということです。要は、彼らは「本気」でやらざるを得ない状況にあったというわけです。そして・・
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この試合における一番のポイントは、何といっても「サッカーはボールがないところで勝負が決まる・・」、そして「フランスのレベルを超えたボールの動き・・」というキーワードです。
フランスの選手たちは、個人的能力では本当に世界のトップに君臨しています。そんな選手たちが、最初から最後まで、チームワークに徹したプレーをつづけるのです。攻撃においても、守備においても・・。強いはずです。まあ何といっても彼らは、現役の「ワールド&ヨーロッパチャンピオン」なんですからネ。
試合は、はじまった早々から、フランスの「やる気」と彼らのハイレベルサッカーが目立ちに目立ってしまって・・。私がメモしただけでも、7分の、スルーパスを受けたアンリの完璧なシュートチャンス・・、8分の、これまたゴール前でフリーでパスを受け、松田のファールを誘ったピレスの勝負ドリブル(そのまま倒されてPK! ジダンが、冷静に左ポストに当ててゴール!)・・、13分の追加ゴールの場面(アンリとピレスのあうんの呼吸と、ピレスのラストパスが秀逸! アンリのシュートが楢崎の脇の下を抜けてゴール!)・・、16分の、右からの攻撃から、一度中央へパスを回し、最後はそのポイントを回り込むようにフリーランニングで走り続ける「三人目」のピレスへ、「中央」の選手が、胸でラストパスを出したシーン・・、20分の、後方から走り込まれ、フリーでヘディングされてしまったシーン(楢崎がかろうじてはじく)・・、26分の、プレスに行こうとした稲本が、単純なダイレクトパスの交換でスカッと外され置き去りにされてしまい、そこから素早く右サイドへボールを回されて決定的なカタチを作られてしまったシーン・・等など。数え上げたらきりがない・・
これはもう、フランスのレベルを超えた「ボールの動き」としか表現のしようがないものなのですが、それに対する日本代表の守備ブロックが、どんどんとウラを突かれてしまって・・
日本代表の守備ブロックは、最後まで「フラットライン」にこだわり過ぎだったと思います。相手は強く、そして最高のクリエイティビティーを備えているチーム。だから、もっと「ラインブレイク(ラインを崩してマンマークへ移行する瞬間)」を早めにし、勝負シーンの一歩手前のタイミングで、タイトマークへいかなければならなかったのに・・。どうしても、フラットスリーの「間」や、その周辺に、「2-3メートル」の間隔でフリーになっているフランス選手が出てきてしまうのです。普通のチームだったら、パスが出てから対処しても十分に間に合うのでしょうが、相手はフランスです。パス出しのタイミングが早いだけではなく、パス自体のスピードもレベルを超えている。そしてトラップも正確無比。どんなに難しいボールでも、本当にスパッとコントロールしてしまうのです。
完全にボールをコントロールした相手が、自分たちのゴール前にいる・・。そんな状況では、どうしても「最後のアタック」に入らなければなりません。ただそれが、フランス選手たちの思うツボにはまってしまったのです。完璧にボールをコントロールした、ものすごくウマイ選手に対し、2-3メートルの間合いからアタックを仕掛けることほど危険な行為はありません。それでは、簡単に「外され」てしまうのも道理。そしてもっと悪いことに、日本の守備ラインは、何度も何度も、同じような失敗を繰り返してしまうのです。
私が、「ライン維持」にこだわり過ぎだといったのは、そのことなのですが、日本代表は、もっと早めにラインをブレイクし、ゴール前でフリーな選手を出さないように、忠実なタイトマークへ移行すべきだったと思うのです。
フィリップの「フラットラインシステム」に限界が見えた・・!? とはいっても勘違いしてはいけません。それには、まずフランス選手たちの能力が、本当に抜群に高かったこと、そして日本代表の、相手のチカラを前提にした「柔軟な」戦術的準備(つまり守備プレーに対するイメージ的な準備)が、この試合に限っては、かなり外れてしまったという事実を考慮しなければならないということです。
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後半の日本は、中村俊輔の代わりに三浦淳宏を、明神の代わりに高原を入れます(トリプルボランチからダブルに戻し、伊東が右サイドに入り、中田が、二列目になります)。そしてゲームを盛り返そうと前へいきます。ただ逆に、交代したヴィルトール、トレゼゲ、そしてもちろんジダンを中心にした、抜群に正確でスピーディーなフランスのカウンターに失点を重ねてしまって・・(もうそれは夢のような・・という表現がピタリとくるほどの素晴らしいウラ取り攻撃のオンパレードではありました・・これについては、また改めて・・)
それにしてもフランスのボールの動きは、もう「アート」と表現するしかありませんよね。「あの」ジダンにしても、無理にボールをキープするシーンなどはまったくなく、とにかく「まず」シンプルにボールを動かして、すぐに「次の」フリーランニングに入るのです。そのボールの動きの鋭く、素早いことといったら・・。
観客の目には、奇異なほどにフリーなフランス選手がたくさん出てきていたと映っていたはずです。それも、フランス選手たちが、忠実な「ボールがないとこでの動き」をつづけていたからこそ。最初にも書きましたが、最高レベルの個人的能力を備えた選手たちが、忠実にチームプレーに徹すれば、それは「世界最高のサッカー」ができるのも道理なのです。
そして、(ジダンを筆頭に!)要所で魅せる、魅惑的な「個人技」。ブラジルも含め、これほどの素晴らしいサッカーは、そうそう見られるものではありません。その意味でも、パリまで来たことは、十二分に報われました。もちろん、日本代表の「課題」が、これ以上ないというほどに明確に見えたことも含めて・・
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日本の最終ラインには、とにかく「臨機応変」なラインブレイクと、その後の忠実な「タイトマーク」を意識して欲しいと思います。彼らは「体感」したはずです。相手が世界の一流だったら、ゴール前で1メートルでもフリーにしたら、そこへの強烈な「足許パス」で、完全に崩されてしまうということを・・。
要は、フリーな選手をイメージする能力(つまり二人目であろうと三人目であろうと、フリーになっている、またなりそうな味方をイメージしてボールを動かす能力)で、フランスが世界のトップにあるということ・・。そして逆に、日本の守備ブロックの「予測(読み)」能力が、それに追いついていけなかったということです。
まあ、このことについては、また別の機会にでも・・
もう一つ・・。日本の選手では、一人だけ、相手にとって危険な仕事ができそうな雰囲気を振りまいている選手がいました。中田英寿。この試合内容を見れば、「中田不要論」が、いかに無意味なものかが分かろうというものです。この試合で攻撃のカタチをクリエイトできていたのは、中田ヒデだけでしたからね。
とにかく日本の若武者たちにとって、これほど「世界との差」を体感されられた試合(最高の学習機会!)はなかったと思います。それが、彼らにとっての「次を目指すモティベーション」になることを願って止みません。
それにしても「すごいモノ」を見せられてしまったナ〜〜〜
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朝方の三時を回ってしまって・・。ということで、もうこれ以上アタマも回りません。また明日にでも、気づいたところを、試合メモでも見ながらまとめてみたいと思います。
かなり「乱文」のはず。でも、とにかく「言いたい内容」の骨子だけは書いたつもりです。また明日読み返してみますので・・
では、お休みなさい・・