トピックス


 

ヨーロッパ便り(4)・・まさに、セネガル戦で得た「様々な体感」が十二分に活かされたというナイジェリア戦でした・・日本vsナイジェリア(2-2)・・(2001年10月7日、日曜日)

いや、試合後に、大変なことになってしまいました。サザンプトンの駅までは辿り着いたのですが(スタジアムでもタクシーを1時間ほど待たなければならず・・)、今度は、ロンドン行きの電車が来なくて。大雨のために立木が倒れたとか。もう・・

 日本代表対ナイジェリア代表の試合は、「嵐の中のゲーム」になってしまったのはご存じのとおり。まあ日本代表にとっては「追い風」になったわけですが、観る方にとっては完全に「向かい風」。いつになったらロンドンに到着できるのか・・

 とにかくゲームの「ファーストインプレッション」だけでもまとめておこうと思い、サザンプトン駅のプラットフォームでキーボードに向かった次第。何といっても、湯浅のビジネスコンセプトは「モーヴァイル・オフィス」ですからネ。世界中どこででも・・、たとえ路上でも仕事ができる・・なんていつも豪語している手前、ここでメゲては・・なんて、コンピュータを開いたというわけです。

 でも実際に、電車を待つ人々であふれ返るプラットフォームでキーボードを打つとなると・・。でも不思議なことに、書きはじめたら、周囲環境がまったく気にならなくなりました。ということで、はじめましょう。

-------------------

 「とにかく、セネガルとナイジェリアでは、チームプレーに対するマインドが全く違うんだよ。ナイジェリアの選手たちは、例外なく、まず自分ありき・・だからナ。まあ、自分勝手なエゴイストの集団ということだよ。それに引き換えセネガルは、完全に、チームとして一体になっている。アフリカのチームのなかでは、南アとともに、大きく成長できるキャパを備えているよな・・」。

 パリを出発するまえに話した、友人のフランス人ジャーナリスト氏が、ナイジェリアとセネガルのチームを比較していました。彼は、アフリカのチームを追いかけていますから、その言葉には、明確なバックグラウンドがあると感じます。そして、まさにその通りの展開に・・

-------------

 ナイジェリア戦での日本チームは、皆さんもご覧になったとおり、セネガル戦とは見違えるほどのダイナミックサッカーを展開しました。そんなアクティブサッカーを楽しみながら、私は、セネガル戦の後半での「成長」が、そのバックボーンにあると思っていたのです。

 セネガル戦の日本代表は、前半に限っては、完全に「心理的な悪魔のサイクル」に陥っていました。セネガルの高質なサッカーに、心身ともに圧倒され、プレーが縮こまってしまったのです。それでも、(中田浩二と服部、藤本と伊東、そして高原と柳沢の交代をベースに!)トリプルボランチにした後半は、見違えるほどサッカーが安定し、積極的になりました。だからこそ、セネガルとの「本来の実力差」が明白に見えてきた・・!?

 結局は、二ゴール奪われて負けてしまったわけですが、選手たちは、「よし! サッカー内容は良くなったゾ!!」と体感していたはず。試合のなかでの成長。それこそ、セネガル戦での最大の「成果」だったと思う湯浅なのです。

 そしてその「成果」が、数日後のナイジェリア戦で、これ以上ないカタチで現出します。選手たちの、自信にあふれた実効サッカーが、そのことの明白な証明でした。

----------------

 それにしても、ナイジェリアのサッカーは変わらない。いや、変われない・・!?

 彼らには、「クリエイティブな無駄走り」という発想がないんでしょうかネ。一人ひとりが、まず「自分自身を表現すること」ばかりにご執心。

 この試合も、完全に「アウェーの雰囲気」。11000人ほど入った観客のほとんどはナイジェリアサイドです。ところが彼らが大歓声を上げるのは、「個人プレー」が成功したときやシュートチャンスのシーンばかり。ボールのないところでの「目立たないチーム貢献プレー(高質な戦術プレーのことですよ!)」になんて全く興味ないのでしょう。とにかく、フェイントが決まったり、トリッキーな個人プレーが成功したときばかりに歓声が沸き起こるのです。そのトリッキーなフェイントが、全体的な「仕掛けの流れ」からすれば、あまり意味がないにもかかわらず・・。フ〜〜

 日本代表の守備ブロックは、そんなナイジェリアの「プレーリズム」を、完全に把握しています。だから、フェイントでマークを外されても、常に「次の選手」がカバーに入っていますし、外された選手も、落ち着いて「次の効果的な守備ポジション」へ入ってしまうのです(それも、ナイジェリアの組織プレーのリズムが遅いから!)。

 試合を通してナイジェリアが作り出したチャンスは、本当に数えるほど。それに対し、日本代表は、ボールをしっかりと動かす組織プレーをベースに(小野の起点プレーも効いていた!)、最終勝負のチャンスでは、しっかりと「個人」を表現する等、常にナイジェリア守備ブロックの「ウラ」を突くことをイメージしています。そして実際に、何度も「ウラ」を突いてしまいます。いや、爽快!

---------------------

 前半4分。稲本の「狙いすました」インターセプトが決まります(相手ペナルティーエリア際!)。そんな「読みベースディフェンス」も、小野が、高い位置で相手ボールホルダーに対してプレスを掛けていたからこそ出てきたクリエイティブ守備プレー。惜しくも、カットしたボールがタッチラインを割ってしまったとはいえ、そこからのゲーム展開を「予感」させるに十分な、自分主体の「守備でのリスクチェレンジ」ではありました。

 つづく8分には、日本代表の最終ラインが、うまいラインコントロールを魅せます。スッと上げることで、相手のスルーパスタイミングを遅らせ(要は、タテパスを出せなくした!)、実際にスルーパスが出された瞬間には、今度はスッと下がって(もちろん相手よりも先にスタートを切って!)パスコースに入ってしまうのです。それでも、走り抜けたナイジェリアの八番、アイェベニのスピードがレベルを超えていたために、パスカットに入った松田のクリアも、最後はギリギリのタイミングになってしまいましたがネ・・。それにしても、たしかにナイジェリア選手たちの「個人的な能力」は凄い!

 また10分には、宮本が、タイミングの良い「ブレイク・カバーリング」によって、見事な守備を魅せます。相手のスルーパスを、見事にインターセプトする宮本。でも宮本は、全体的には、まだちょっと不安定。自分の足が「あまり速くない」ということで(ナイジェリア選手たちの足が抜群に速いことを体感したことで!?)、基本ポジショニングが中途半端になりはじめている・・と感じます。

 とはいっても、この試合でのフラットスリーは、セネガル戦同様に、全般的にうまく機能していたとすることができそうです。後半では、2-3本、ラインコントロールの乱れをうまく突かれてチャンスを作り出されてしまいましたがネ。

------------

 (ゴールも含めた)チャンスシーンをまとめましょう。

 まず前半25分。日本代表が素晴らしい先制ゴールを決めたシーンです。中央からのフリーキックが、左サイドに入った波戸へ素早く展開され、そこからの早いタイミングのセンタリングを、ニアポストスペースへ走り込んだ柳沢がヘッドで決めたのです。このシーンでは、ヘディングゴールを決めた柳沢の「決定的なフリーランニング」が秀逸でした。右サイドから、マークする相手が「波戸」を見た瞬間を狙ってスタートを切り、完璧に、相手の「前のスペース」へ、「フリー」で走り込んだのです。

 次は、その二分後のナイジェリアの同点ゴールシーン。コーナーキックから、こぼれ球(!?)を押し込まれます。

 前半38分。左サイドの中田浩二から、逆サイドの最前線で張っていた柳沢へ、超ロング(サイドチェンジ)ラストパスが通ります。柳沢がダイレクトシュート! 惜しくも右へはずれていく・・。前半43分。ワンツーで抜け出したナイジェリアの8番、アイェベニがシュート(川口の正面へ!)。前半44分。左サイドの波戸からのセンタリングに、またまたベストタイミング(アクション)でニアポストスペースへ走り込んだ柳沢がフリーヘディングシュート!(惜しくもゴールの上へ・・)

 ・・ってな具合で、前半は、本当に日本が、ゲームを支配していたのです。気持ちいいこと、この上ないではありませんか。

----------------

 心配した後半でしたが、そこでもまだまだ日本がペースを握りつづけます。一度「ブレイク」が入ると、試合の流れが逆流してしまうことが多いんですよ。だからこそ、ここで日本代表が、前半のペースを維持して試合の「流れ」を牛耳りつづけたことの意味は、殊の外大きいと感じる湯浅なのです。もちろん、日本の実力が確固たるものへと進化しているということですよ。

 後半の交代です。まず左の波戸に代わって服部。右の小野に代わって広山。そして、モビリティー(活動性)に欠ける消極プレーに終始した西沢に代わって、若大将、鈴木の登場です。それでも、一番大事な「中央の六人ブロック」は変わっていませんから、チームとしては安定したペースを維持できたというわけです(だから新しい選手たちも、苦もなく、ゲームの流れに入っていくことができた!)。

 そんなポジティブな雰囲気のなか、後半開始早々の4分には、代わったばかりの鈴木が、戸田からのスルーパスをもらってシュートまでいってしまいます。そんなシーンを見て、これは、前半よりもペースアップしたかな・・なんて感じたりして・・。とにかく鈴木の、恐れを知らない積極プレーが目立ってしまって(柳沢とのコンビも抜群!)。そして後半12分、その鈴木がやってくれました。服部のフリーキックをダイレクトで決めたのです。勝ち越しゴ〜〜ル!!

 ただその後は、ナイジェリアがペースを上げてきます。後半17分。右サイドをワンツーで突破しセンタリング。それを、中央のアガリが、フリーヘッド!(僅かにゴール右へはずれていく・・ラッキー!!)

 後半22分、日本代表がラインコントロールをしている状態で、はじめてナイジェリアにスルーパスを決められる(左サイドからの崩し・・ラッキーなことに、そのままボールはラインを割ってしまう!)。

 後半25分。セネガル戦での「軽い故障」のために(!?)、奥と交代します。そしてここから、ナイジェリアの攻撃に、俄然「危険なニオイ」が漂ってくるのです。28分には、奥がボールを奪えず、そこを起点に、ワンツーを決められて、決定的スペースへ走り込まれてピンチを迎えたのですが、それは、宮本のカバーリングが遅れたためでもありました。

 そこなんですよ、私が心配したのは・・。中盤ディフェンスが低調になることで、それまでうまく機能していた最終ラインの「読み」にも「イメージのブレ」が生じてくる・・。自分主体に、どんどんと読みディフェンスを仕掛けつづけていた稲本に比べ、奥の「守備参加」は明らかに受け身で消極的。パートナーである伊東と戸田は疲れてきているのですから、奥こそが、縦横無尽に走り回って、ボールホルダーへの「最初の爆発チェック」を仕掛けつづけなければならなかったのに。何回、「オマエ、何でそこでテレテレとジョギングしてんだヨ!!」なんて声が出てしまったりして・・。

 それでも直後の29分には、柳沢が、左から中央へ持ち込んでシュートまでいきます。いや、スカッとするシーンではありませんか。相手は、抜群の身体能力のナイジェリアディフェンダー。それを、フェイントとドリブルで振り切り、強烈なシュートまで放ってしまう・・。やはり彼は本物だ。

 ただ中盤での機能性は、確実に「ダウン」しつづけています。やはりサッカーでは守備が(フラットスリーでは特に安定した中盤守備が!)基盤なのです。守備が「後手、後手」にまわることで、最終ラインが心理的に安定した状態で対処できなくなるだけではなく、攻撃でも前への勢いが殺がれてしまう・・。そして、そんな状況のなか、「やっと」必死になったナイジェリアが、抜群のパワーで、日本を押し込みはじめるのです。さてどこまで、レベルを超えた「アフリカンパワー」を跳ね返せるかな・・、今度はそんな興味が沸いてきた次第。でも結局は・・

 何とか持ちこたえていた日本代表ですが、そのなかで「一瞬の集中切れ」が発生してしまったのです。後半40分。左サイドで、奥のミスからボールを奪われ、そこから逆サイドの最前線へラストロングパスを出されてしまいます。それでも、その「ラストロングパス」に対して、しっかりとラインをコントロールしていた日本の最終ラインは、そのパスが出された瞬間(もちろんワンテンポ前に!)、スッとラインを下げたのです。上手い! 思わず声が出たのですが、でも次の瞬間には、信じられない光景が目に飛び込んできます。完璧なタイミングで追いつき、余裕を持ってコントロールしようとした(アウトサイドキックで宮本へパスをしようとした!?)松田が、こともあろうにミスってしまったのです。そしてボールを奪われ、ナイジェリア14番に走り込まれてしまって・・。こうなったら、もうナイジェリアのもの。ドカン!と、ゴール左上隅に同点ゴールを決められてしまいました。

 松田は、「勝負所でのイージーミス」を猛省しなければなりません(アレさえなければ日本は勝利を飾っていた!)。まあ、全体的には「高質ディフェンス」を展開した松田のことですし、このミスについては、彼自身が一番悔しく、反省しているでしょうから・・。

 その後は、ナイジェリアのディフェンダーが退場処分になったこともあり、同点でタイムアップを迎えます。

-------------------

 ナイジェリアと引き分け。それも、中田や名波抜きで、内容的には「互角以上」。選手たちの自信レベルは大きく深化したに違いありません。

 私は、タイムアップの笛を聞きながら、「積極的な守備をベースに勇気をもってリスクにチャレンジしつづければ、どんな相手とだって拮抗したゲームを展開できるという、サッカーの歴史が証明する真実を、再度、明確に認識させてくれた(その機会を与えてくれた)セネガルに感謝しろヨ・・」なんて思っていました。

 とにかく本当に良かった。選手たち自身が、自分たちは正しいベクトルの上にいる・・、そして自分たちは進化している・・ということを実感できて本当に良かった。

---------------

 テロに対する本格攻撃がはじまったと聞きました。明後日に、ロンドンから、フランクフルト経由で日本へ向かう予定なんですが、さて、どうなることやら・・。

 湯浅はこれから、スポナビの文章に取りかかります・・。ではまた、水曜日のナビスコカップ準決勝レポートまで・・

 




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]