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レアル・マドリーとパルマの「再生・発展プロセス」・・(2001年9月24日、月曜日)

ウワ〜〜ッ! 画面にのめり込むように「その」サッカーを見ていたとき、思わずそんな声が出てしまって・・。スペインリーグ第4節、レアル・マドリー対エスパニョール(マドリッドについては、スペイン語の「マドリー」に表記を統一することにします)。レアルが、まさに「才能がポジティブに加算」されたドリームサッカーを展開したのです。もちろん、その「コア」は、ジダン、フィーゴ、ラウールといった「天才たち」。

 希代の才能、ジネディーヌ・ジダンが加わったレアル・マドリー。私は、シーズン前から彼らの動向に注目していました。そしてスペインリーグ、チャンピオンズリーグと試合を重ねる毎に露呈する、彼らの「産みの苦しみ」を観察していました。

 この「プロセスのまとめ」については、先週アップした「イサイズ2002クラブのコラム」を参照してください。

 そこでの締めの文章です。『プロの現場では、両雄ならび立たず(複数の才能に相乗効果を発揮させるのは、ものすごく難しい作業だ!)」という、(数限りない)歴史的な事実をベースにした経験則がある。ただボクは、ヨーロッパの友人たちが高く評価するデル・ボスケ監督の手腕、そしてフィーゴ、ジダンのインテリジェンスに大いなる期待をもっている。だからこそ、彼らの発展プロセスに限りない興味がわくのである』

 「コーチの優れた手腕」と、当事者の「インテリジェンス」。監督に「ウデ」がなく、選手の「思考レベル」が低ければ、確実にチームの機能性が破綻してしまいます。それが、前述の「歴史的な事実をベースにした経験則」の背景にあるというわけです。

 それにしても、よくこんな短期間で・・。エスパニョール戦でレアルが展開したスーパーサッカーを見ていたときの正直な感想でした。たぶんデル・ボスケ監督は、「天才たち」との深いディベートを何度も繰り返したに違いありません。何といっても、「原因」は明白でしたからネ。スペインリーグ、チャンピオンズリーグの試合内容を、ビデオなどを使って詳細に分析しながら・・。

 グラウンド上での「ポジティブな意志が込められたパス」、互いの「表情や仕草によるコミュニケーション」などを見ていて、「ナルホド、彼らは、互いにレスペクト(尊重・尊敬)し合える関係になりつつある・・」と感じたものです。

 エスパニョール戦でのゲーム戦術は、基本的には、惨敗した前節のベティス戦と同じでした。フォーバックにワンボランチ。攻守の「ダイナミズム・ジェネレーター」は、言わずと知れたマクマナマン。ワンボランチによって、天才たちの「守備意識」を活性化する・・。このことについては、前述した「イサイズのコラム」を参照してください。

 そして彼らのサッカーが光り輝きます。たぶんこのゲームを見ていたライバルたちは、こんなことを思い、落胆にくれていたに違いありません。

 「何てこった!・・レアルが、チームになってしまった・・あの不協和音状態は、もうしばらくつづくに違いないと思っていたのに・・あのままだったら、オレたちにも大いなるチャンスがあったはずなんだけれどナ・・何といったってレアルは、政治的にも、ジダンを使いつづけなければならないんだから・・それにしても、よくこんな短期間で・・フ〜〜!」。

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 エスパニョール戦でレアルが展開したサッカーは、まさに「ドリーム」。とにかくボールの動きがレベルを超えているのです。一つひとつのステーションで、「無意味な停滞」が起きることなど皆無。ボールの動きが一旦停止するとしたら、それは例外なく、中盤での「仕掛け意図」を満載したクリエイティブプレーなのです。そしてジダンからフィーゴ、フィーゴからマクマナマン、マクマナマンからロベカル、ロベカルからラウール、そして再びジダンへ・・。そんなふうにボールが動いている間にも(アクティブプレーゾーンが意図的に移動されている最中にも)、三人目、四人目が、(相手守備の目を盗んで)どんどんと「スペース」へ入り込み、そこへ、これまた例外なくパスが通される・・。

 対するエスパニョール守備ブロックは、そんな「クリエイティブで狡猾なボールの動き」に、守備における「読み」に対する余裕もなく翻弄されっぱなし。

 ジダンとフィーゴ、はたまたラウールの「バランスのとれた才能プレー」は言うまでもなく、そこではマクマナマン、マケレレ、はたまた両サイドのロベカル、ミッチェル・サルガド等も、素晴らしい機能性を魅せつづけるのです。いや、目を奪われてしまいました。

 それでも、ジダンの(ボール絡み、またボールのないところでの)守備参加は、まだまだ「ぬるま湯」。それに対しフィーゴは、常に「最後まで」しっかりと責任を果たすような守備を展開していました。まあ、ジダンのことだから、時間が経てば「実効レベル」も上がってくるとは思うんですがネ。

 とにかく、中盤のマケレレ、フィーゴ、マクマナマン、ジダン、そしてラウールの五人が(もちろんそれに両サイドのロベカルとサルガドも絡んでくる!)、縦横無尽のポジションチェンジをくり返しながら、攻守にわたって美しく、そして効果的に機能しつづけたサッカーは、レアルの発展プロセスが「次の段階」に入ったことの証だったといえるでしょう。

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 そんなスーパーサッカーを見せられた翌日、中田英寿が出場した、パルマ対ブレシアも観戦しました。良かったですよ、中田。やっとチーム内での「コンビネーション(戦術的な発想)」がシンクロしはじめてきたと感じ、うれしく思ったものです。それでもネ・・、その前日に見せつけられたレアルのドリームサッカーのイメージが強すぎたもので、どうしても最初のころは、問題点ばかりが目についてしまって・・。

 シンプルプレーの天才、中田がイメージしているのは、レアルのような「流れるようなボールの動き」をベースにしたクリエイティブサッカーでしょうしネ。

 前半の最初のころは、各自のプレーが「有機的に連鎖」しないチクハグなプレーばかり。パスを受けた中田も(ハードマークされていることもあって)、ちょっと後ろ向きな停滞プレーに入り込んでしまう場面が目立っていました。ただ前半も半ばを過ぎたあたりから、「組み立ての流れ」にポジティブな変化が見えはじめます。

 中田の運動量が増えたこと(守備への積極参加、また左右のサイドスペースへの積極フリーランニングなど!?)・・、アルメイダが、中田の大きな動きで空いた中央スペースを活用することで「より」積極的に組み立てに参加しはじめたこと・・、また両サイドの押し上げタイミングが合ってきたこと(最初から上がりすぎるのではなく、少し後方でタメてから、タイミングを見計らって前方へダッシュするようになった!)・・。

 彼らは「試合のプロセスのなか」でどんどんと成長していったのです。まあそれも、スリーバックと、抜群の忠実さで中盤守備に貢献するボラーニョとアルメイダを中心にした守備ブロックの「安定感」に対する確信が出てきたからなんでしょう。そしてパルマが席巻しはじめます。

 とはいっても、ブレシアの守備ブロックを「崩し切る」ところまではどうしても到達することができません。中田が、シンプルなパス回しから、勝負所で「仕掛けの起点」になっても、最前線の、決定的スペースへの飛び出しや、左右スペースへの開く動きなどが連動しない(決定的フリーランニングの意志が明確に見えてこない!)・・、だから最終勝負のパス出しがままならない・・、また前線の動きが緩慢だから、ドリブル勝負するスペースも出来ない・・、そして次のプレーへのタイミングが遅れることで相手ディフェンダーに囲まれてしまう・・。

 後半は、中田、アルメイダを中心に、ボールの動きが、よりクリエイティブに活性化します。良いサッカーへの階段を上りはじめたパルマ。でも、ブレシア守備ブロックが(この時点で既に引き分けを意識して!?)より結束しはじめたこともあり、決定的スペースをイメージした攻撃を仕掛けられない(最前線の動きが連動しない)・・。

 そんな閉塞感のなか、ウリビエリ監督がタイミングよく動きます。「足許プレー」に終始するミロシェビッチに代え、ケガでスタメンを外れたディ・バイオを送り出したのです。そして、疲れが目立ちはじめた右サイドのディアーナに代えて、若き才能、マルキオンニも投入します。これが功を奏し、停滞していた攻撃のリズムに活力がもどってきます。そのことで、「決定的スペースを攻略できるかもしれない」という期待感を高めてくれるような、リスクチャレンジプレーが出はじめたのです。ディ・バイオが、左右の最前線スペースへどんどんとフリーランニングする・・、右サイドでボールをもったマルキオンニが、どんどんとドリブル勝負を仕掛けていく・・。

 そして、後半も残すところ数分というギリギリのタイミングで決勝ゴールが生まれます。右サイドからの仕掛けでフリーになったディ・バイオが、「ゴール前の状況」を正確に、本当に正確に把握し、決定的なラストパスを通したのです。そう、中田がイメージして走り込んでくるスペースへ向けて・・

 この「最終勝負の瞬間」では、ボナッツォーリの「ニアポストスペースへの走り込み」が最大限の効果を発揮しました。そのことで相手ディフェンダーを引きつけただけではなく、ディ・バイオと中田が狙える「ピンポイント・スペース」も作り出したのですから・・。

 中田の決勝ゴール。それは、彼の「目立たないところでのチームへの貢献プレー」が、最高のカタチで報われた瞬間でもありました。

 とにかく、この「リーグ初勝利」が、彼らの「成長プロセス」を加速させることを願って止まない湯浅なのです。何といっても、チーム内の中田に対する「信頼感」は、(グラウンド上の仲間たちのプレーや態度を見ていて)十二分に感じますし、この勝利で、中田を中心にチームを作ると公言するウリヴェリ監督のポジションも「かなり」安定するでしょうから・・

 




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