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ワールドユース選手権(4)決勝トーナメント・・もっとフランスは、個人のチカラを組織プレーでも発揮させなければ・・フランスvsドイツ(3-2)・・(2001年6月28日、木曜日)


いや、素晴らしくエキサイティングな一発マッチでした。両チームの「特徴」が鮮明に出ていましたからネ。

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 中盤から最終ラインにかけての「組織」で守り、ボールをしっかりと動かしながら「組織」で攻めるドイツ。対するフランスは、どちらかといえば、「まだ」個人の能力に頼るサッカーです。もちろん守備では、「戦術」を忠実に守りはしますが、それでも「ジヴェ」と「メセ」という強力なセンターバックコンビが目立ってしまって・・(中盤の守備ブロックは、最後に彼らが、読みベースでボールを奪い返すためのアシスタント的な意識になってしまっている!?)

 試合の立ち上がりは、両チームによる「中盤でのせめぎ合い」が目立ちます。全体的には、守備が忠実・堅実なことで、また攻撃での「ボールの動き」がフランスを量がしていることで、ドイツがペースを握っています。でも・・

 開始早々の9分。やってくれました。フランスの天才ストライカー、「シス」。右サイドでロングボールを受けた彼が(このパスにしたって、タイミング的には通る感じではなかったのに・・)、マークにきたドイツのストッパーを、それこそ「ツインターボ付きエンジン」のような加速で(ドリブルしながら!!)振り切り、決定的なシュートを放ってしまいます(わずかに左へ外れた!)。

 また直後の12分には、ドイツの「一瞬のマークのズレ」でフリーになったフランスのダリックが、フリーでボールを持ち、そのまま素早いタイミングで(守備の強いドイツでフェンダーに当たられる前のタイミングで)、スパッと、中央へセンタリングを送り込みます。そこに走り込んでいたのが、またまた「シス」。シュートしたボールは、ドイツGKの素晴らしい飛び出しと、落ち着いた対応で(しっかりと身体に当てた!)守られてしまいましたが、この二本の「絶対的なチャンス」が、フランスの確信につながった・・!? そうです、「とにかく最後はシスだ! アイツにボールを通せば何とかしてくれる!」・・

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 その後にも、右からメンディーが持ち込み、斜めに「爆発フリーランニング」するシスへのラストパスを通そうとする・・。たしかに「個人プレー」が目立ちすぎるフランスですが、その個人の能力がレベルを超えていると感じます。

 とはいっても、そこは「ドイツ」。「個人的なチカラで劣っている」と体感したからこそ、闘志がかき立てられたりして・・。とにかく中盤から最終ラインにかけてのディフェンスが、忠実でダイナミック(最終ラインは、フラット気味のスリーバック!)。どんどんとボールを奪い返しては、基本に忠実な「ボールの動き」と「周りのサポートの動き」を繰り返すことで攻め上がります。そして17分。それが功を奏し、最初の決定的なチャンスを作り出してしまいます。

 最後方で、右から左、左から右へとボールを動かし、そこからのタテパス、落としたボールをサポートの選手が拾い、そのままトップの「足許」へパスを出して「パス&ムーブ」、またまた落としたボールを今度は、左サイドへ回します。「もちろん」そこには、後方からサポートの動きで上がっていたフリーのドイツ選手がいる・・。こんな「組織プレー」がドイツの真骨頂なんです。そこからシュート! ゴール前まで走り込んでいたアウアーは、ギリギリで詰め切れませんでしたが、まさに「ドイツ的な組織的オフェンス」ではありました。

 そして先制ゴールが決まります。ドイツ!! 例によっての中盤から最終ラインにかけての忠実なディフェンスでボールを奪い返し、右サイドのプロイスから、50メートルはあろうかという「一発ロング・ラストパス」が、トップで、忠実に「逆サイドスペース」を狙っていたアウアーに通ってしまうのです。アウアーはフリー。こんなところにも、フランスの天才ディフェンダー、メセの「個人能力に対するおごり」が感じられたりして・・。とにかく、自分の背後にいる「アウアー」をフリーにし、そのロングパスが「空中」にあるときでも、オレがカットしてやる・・なんていう「いい加減」なポジショニング(戻りの動き)でしたからね。そしてアウアーの、これまた「ドイツ的な(!?)」正確&確実シュートが、フランスゴールの右隅に決まったというわけです。

 そしてゲームに、本物の「ダイナミズム」がわき上がってきます。これはエキサイティングマッチになる・・

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 それにしてもフランスの「ボールの動き」が緩慢。彼らの攻撃では、本当に「中盤でのボールのこねくり回し」が目立ちに目立ってしまって・・(フル代表のサッカーは、まだ若手には浸透していない!?)。だから、ドイツの組織的なディフェンスの「網」にことごとく引っかかってしまい、チャンスの芽をふくらませることができない。それに対してドイツは、ボールを奪い返し、すぐにそれを「ダイナミックに動かしつづける」ことでフランス守備ブロックの「薄い部分」をどんどんと突いていく(そして、何本もシュートチャンスを作り出す!)。これは・・なんて思っていた湯浅だったのです。ただ、前半33分。左サイドからの「ドリブル突破チャレンジ」が、フランスに起死回生のチャンスを与えます。ドリブラーが倒されてしまったのです。PK!

 冷静に決めるシス。これでゲームが振り出しに戻りました。

 そして41分、フランスが逆転ゴールをたたき込ます。押し気味にゲームを展開するドイツでしたが、一瞬のスキを突かれてしまって・・。フランスゴールキーパーからのロングボール(フリーキック)を競り合ったメンディー。そのこぼれ球を「シス」が拾うことを確信した瞬間、タテの決定的スペースへ走り抜けたのです。最終ラインは、シスへの「ヨコパス」に合わせて、ラインを上げていた!

 そして「ウラの決定的スペース」へ走り抜けるメンディーへ、一瞬のトラップからの素早いタイミングのラストスルーパス(浮き球のラストパス!)が通されたのです(このプレーこそ、シスの天才の証明!)。そして、まったくフリーで、ドイツGKと一対一になったメンディーが、落ち着いて、飛び出してくるドイツGKの「股間」を抜いてゴールを決めます。フ〜〜

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 後半開始早々から、ガンガンと前へ押し上げるドイツに対し、まずフランスが、二本、三本と、カウンター気味の決定的チャンスを作り出してしまいます。前へ重心がかかっているドイツ。また「フラットスリーの最終勝負ラインコントロール」がうまく機能しないドイツ。そこを、これまた「シス」の、うまいポジショニングからの「飛び出し(もちろんタイミングの良い球だしも!)」にどんどんと突かれてしまうのです。

 それは、中盤の守備ブロックが「前へ」上がりすぎていたから。ドイツの選手たちが、なるべく高い位置でボールを奪い返そうと「前気味」にポジションを取っていたというわけです。それを逆手に取り、ボールを奪い返した瞬間に、(ドイツ選手がアタックを仕掛けてくる直前のタイミングで)シンプルにタテパスを出すフランス。そんな彼らの「イメージ・シンクロ」プレーが、うまく功を奏したのです。

 これは明らかに、ベンチの指示。「ドイツの最終ラインは上げ気味だし、中盤でのチェックも厳しいから、とにかく早いタイミングで、決定的スペースへパスを通せ。シスだったら、少しは遅れても、必ず最後は追いつくから!」・・ってなことだったんでしょう。

 ただ、後半も10分を過ぎたあたりから、ドイツの「タテ・ヨコのポジショニングバランス」が、前半のように落ち着いてきます。そして今度はドイツが、「バランスの取れたサッカー」に転じ、フランスを「安定して」押し込みはじめます。守備的ハーフが、一人、二人と、フランスのカウンターの芽を摘むようになっていましたから、後半たち上がりのようなチャンスを作り出せないフランス。シスの「飛び出しタイミング」についても、ドイツの最終ラインが、早めのブレイクで、スッとスペースを埋めてしまうなど、徐々に「感覚的」に把握しはじめたと感じます(まあそれも、中盤ディフェンスが落ち着いてきたから・・と考えるのが妥当でしょうが・・)。

 そして今度は、ドイツが、彼ら特有の「ロジック」に裏打ちされたサッカーで、チャンスを作りはじめます。そして、完璧にフリーのヘディングシュートや、センタリングからのシュートチャンスを作り出します。それに対し、カウンターのカタチを作り出せないフランス。

 そんな展開から、やってくれました・・ドイツが・・。後半33分のことです。ブルックハルトがドカンと同点ゴールを決めたのです。彼が、(まあ、パスコースがなかったし、相手プレッシャーも厳しかったから仕方なかったんですが・・)左サイドからドリブルで三人を抜き去り、左足でシュートを決めたのです(右サイドネットへ突き刺さるシュート!)。

 いや、ビックリしましたヨ・・その「ねばり強い」ドリブルアクションに。そのドリブルに、ブルックハルトへ当たりにいったディフェンダー以外のフランス選手の足が止まってしまって・・(ボールウォッチャーというよりも、ブルックハルトのボールキープがあまりに迫力があったためにアクションウォッチャーになってしまった!?)。まあ、あんなこともあるんですよ。

 そして「激烈な終盤」の戦いがつづきます。中盤でのボールキープから、シスへのタテパスを通そうとするフランス。組織的に組み立てながら、一発ロングパス、サイドからのセンタリング、はたまた直線的な「コンビネーション」を狙うドイツ。互いに、何度かチャンスの芽を作り出します。

 ただ最後は、それまで「ギリギリ」で機能していたドイツのフラットスリーが、完璧に破られてしまって・・。決めたのは、もちろん「シス」。互いに疲れきっている状況で、中盤でボールをもったフランス選手が、フリーのドリブルで上がり、センターラインを越えます。ドイツの中盤選手たちは、誰もプレッシャーをかけない・・。それが勝負の瞬間でした。

 ドイツの最終ラインには「三人」とも揃ってはいたのですが、あれほど「最終勝負の起点(ここではドリブラーのことですヨ!)」がフリーになってしまったら・・。そしてその起点から、満を持して飛び出したシスへ、理想的なタイミングのスルーパスが通ってしまったのです。完璧に「置き去り」にされるドイツの最終ライン。そして完全にフリーでスルーパスを受けたシスは、ゴールキーパーまで外し、無人のドイツゴールへボールを送り込んだというわけです。

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 個人的な「能力の差」を(ドイツ的な)ロジックサッカーで補うことで、立派な(ドイツの伝統的な!?)戦いを展開したドイツの若者たち。ただ最後は、個人的なインプロビゼーション(即興性)にやられてしまって・・

 準々決勝に進出したフランス。たしかに「個人的な潜在力」では、ブラジルやアルゼンチンにひけはとりません。もし彼らが、自国のフル代表が展開する、「組織プレーと個人勝負プレーが理想的にバランス」した魅惑的サッカーの「本質」をもっと意識したら、確実に彼らのサッカーは、一皮も二皮も剥けるに違いないと思った湯浅でした。




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