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WC地域予選の「佳境シーン」を少し(!?)だけ・・トルコvsスウェーデン(1−2)・・アルゼンチンvsブラジル(2−1)・・(2001年9月6日、木曜日)

今日は、朝から所用が重なってしまったことで、HPのアップがちょっと遅れ気味。ご容赦アレ・・。

 さて標記の試合ですが、この両ゲームともに「同じような」勝負ドラマが展開されました。リードするチームが、守備的になったにもかかわらず、結局、同点、逆転ゴールを奪われて敗北を喫してしまう・・

 アルゼンチン対ブラジルでは、ブラジルが、前半2分に「入ってしまった」アルゼンチンのオウンゴールを守りきろうとし、トルコ対スウェーデンでは、後半7分に挙げた、ハカン・シュキュールの先制ゴールを、守備を固めて守りきろうとしたのです。でも・・

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 まずトルコ対スウェーデンの試合を簡単に振り返りましょうかネ。

 私は、トルコの友人も多いので、どうしても彼らに肩入れしてしまうのですが、押してはいるものの(彼らは勝つしかない!)、「内容的」には、明らかにスウェーデンの方が「洗練」されたサッカーを展開しているということで、フラストレーションがたまってしまって・・。「何で、もっとボールを動かさないんだ。そんな緩慢なアクティブゾーンの移動だったら、簡単に次を読まれてしまうじゃないか!!」。多くはありませんが、作り出したチャンスの「質」では、明らかにスウェーデンの方に軍配が上がると感じていた湯浅だったのです。

 たしかに近年のトルコサッカーは、「組織プレー」という意味で大幅にレベルアップしています。でもこの試合では、スウェーデンの「忠実&クリエイティブ&ダイナミックな守備」に、どうしても「各ステーション(ボールホルダー)」でのボールの動きが停滞気味になり、「流れの中でのシュートチャンス」は、ほとんどといっていいくらい作り出すことができません。

 何といっても、スウェーデン最終ラインのリーダーは、「あの」パトリック・アンデションですからネ(先シーズンは、バイエルン・ミュンヘンの二冠をカゲで演出し、今シーズンは、バルセロナ最終守備ラインにコアに収まった!)。またスウェーデンの中盤が魅せるディフェンスも秀逸でした。何といっても彼らは、「アウェーゲームだし、引き分けさえすれば、グループトップを確実なものにできる」という「明確な目標(モティベーション)」をもって試合に臨んでいますからね。

 これは、トルコにとっては大変なゲームになるな・・なんて思っていた矢先の後半6分、スウェーデンCKでボールを奪ったトルコが、見事なカウンターから先制ゴールを奪ってしまいます。まず、ボールを持ったトルコ選手が、中央をドリブルで上がっていきます(もちろんスウェーデン守備ブロックは、中央に引き寄せられる!)。そして右サイドで完全にフリーになった、アリフへ展開。中央の最前線ゾーンには、ハカン・シュキュールが、全力で上がってきていますが、スウェーデンの最終ディフェンスブロックの「意識」は、サイドへボールが展開された時点で、完全に「振られて」いました。彼らの目は、ボールを持つアリフへ向けられて・・。それが勝負の瞬間でした。アリフとハカン・シュキュールの「勝負イメージ」が、完璧にシンクロしたのです。

 それにしても、アリフの「ラスト・ピンポイントセンタリング」は見事。位置は、スウェーデンのペナルティーエリア角から少し戻ったポイントだったのですが、そこから、スウェーデン最終ラインとGKの間にある「狭い決定的スペース」へ正確なラストセンタリングを送り込んだのです。その「ボールの軌跡」を明確にイメージしていたハカン・シュキュールが、並んでいたパトリック・アンデションとサーレンベーの「間」から、ベストタイミングで「飛び出した」ことは言うまでもありません。ヘディング一閃!

 それまで注意深く攻め上がっていたスウェーデンですが、もうこうなったら全力で攻め込むしかない・・。でも、今度はトルコが守備を固めはじめたことで、簡単に「守備の壁」をうち破れない・・。

 そんな膠着した「流れ」がつづいていた後半42分。スウェーデンが起死回生の同点ゴールを奪い取ってしまいます。左サイドのタッチライン際から、ユングベリが、「落ち着いたリズムのフェイント」を入れながら中へ切れ込んでいく(もちろんトルコ守備の重心は、そのサイドへ寄っていく)・・、そこからユングベリは、ペナルティーエリア際にいた味方へ「短い横パス」を出す・・、そのパスを受けた選手は、チョン!と、同じ左サイドに空いていた「ニアポスト際の決定的スペース」へ、ダイレクトで浮き球のパスを送り込む・・、それに最初に追いついたのが、スウェーデンFWのアルバック・・、これでトルコの最終守備ブロックの「意識とアクション」は、完全に「左サイド」へ引きつけられてしまって・・、そしてアルバックが、ダイレクトのオーバーヘッドキックで、トルコゴール前へボールを送り込んでしまう(このオーバーヘッドのラストセンタリングは見事の一言!)・・、その一連のアクションに「見とれて」しまい、トルコのボランチ、ダバラは、GKの眼前スペースへ入り込もうとするスウェーデンのスター、ラーションの「動き」についていけない・・、そしてラーションが、まったくフリーでヘディングを決める・・。

 そしてロスタイム。同じく「左サイド」の後方からの、サイドチェンジ気味のクロスボールに、鋭く反応したアンドレアス・アンデションが、勝負を決める勝ち越しゴールを決めます。

 このシーンでは、ゴール前中央ゾーンにポジショニングするスウェーデンのアンドレアス・アンデションをマークしていたトルコのディフェンダーが、クロスが蹴られる瞬間に「スッ」とポジションを上げたことに注目しましょう。もちろんオフサイドトラップです。ただ、その(ボールサイド側の)横にいた味方ディフェンダーは、トップに張っていたもう一人のスウェーデンFWに対する「基本マークポジション」に残ったまま・・。ということでアンドレアス・アンデションは、オフサイドになることなく、フリーでヘディングシュートを決めることができたというわけです。

 それは、最後の決定的「瞬間」でオフサイドトラップをかけるのは、「味方とのコンビ」に対して余程の確信がなければ決してトライすべきではない・・という原則の「意味するところ」がそのまま反映された失点ではありました。

 ましてこのシーンでは、「残ってしまった」トルコディフェンダーの視線は、相手FWと、ラストパスを出すスウェーデン選手に向けられていたのですからネ。まさにこれは、オフサイドトラップを仕掛けたトルコ選手の「勇み足」そのものでした。そしてそれが、スウェーデンの決勝ゴールにつながってしまう・・。

 ギリギリの勝負においては、そんな「コンマ数秒の判断ミス」が命取りになってしまう・・。同じようなシーンが、先日おこなわれた、日本代表対オーストラリア代表の試合でもあったのですが覚えていらっしゃいますか・・?それは、試合の立ち上がりの6分のことです。

 オーストラリアの左サイドバックが、最前線の決定的スペースへタテパスを出します。この瞬間、トップに張っていたズドリリッチをマークしていた森岡が、スッと、オフサイドトラップをかけました。でも、その後方には、タイミングが合わなかった中田浩二が「一瞬」残ってしまって・・。この決定的シーンでは、まったくフリーで抜け出したズドリリッチのシュートが弱かったから命拾いしたものの、それは、「やってはならない!」決定的なミスでした。

 オフサイドトラップは難しいものです。数日前の、ドイツ対イングランドでも、オフサイドトラップの「ウラ」を突かれ、イングランドに同点ゴールを許してしまいました(そこから地獄の五失点!!)。

 前半12分に上げた、オーウェンの同点ゴールのシーンです。ベッカムの左サイドからのフリーキック・・、ゴール前(ファーポストスペース)での競り合いから、こぼれ球を奪ったイングランド選手が大きくバックパス・・、それをイングランド選手が(たぶん後方に残っていたガリー・ネヴィルだったと思いますが・・)ヘディングで、再び最前線の中央ゾーンへ送り込みます。

 この時点で、ドイツ守備ラインは、ズバッと上げていました(でもレーマーやヴェルンスの反応は、ちょっと遅れ気味!)。そして、少なくとも「ヘスキー」だけは、オフサイドのポジションに残すことに成功します。でも結局、ヘスキーがアクションを起こさなかったことで、オフサイドを取ることができず、ドイツ守備ブロックが仕掛けたオフサイドトラップの逆を取るカタチで、素晴らしいタイミングで「再び」方向転換したバーンビーに、決定的スペースへズバッと抜け出され、オーウェンへのラストヘディングパスを通されてしまったというわけです。

 このシーンでは、バーンビー以外にも、オフサイドではない二人のイングランド選手が抜け出していたことも付け加えておきましょう。

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 もし相手チームが、「アイツらは、頻繁にオフサイドトラップを仕掛けてくるゾ!」と確信していたら、もちろん彼らは「対抗の戦術」をとってくるでしょう。相手守備ラインが上げる状況を見計らい、「わざと」トップ選手を「オフサイドの位置」に残るようにしながら、「意図的なバックパス」から、(そのバックパスが、まだ転がっているタイミングで!)二列目の選手が、タテの決定的スペースへ爆発ダッシュをスタートするというものです・・。これで守備ラインは、完全に「置き去り」にされてしまう・・。

 このことについては、また別の機会に書こうとは思いますが、とにかく「最終勝負シチュエーション」において、最終ラインを「一体」となって上げるオフサイドトラップを「安易に(確信の持てない状態で)」仕掛けることは危険だ(難しい!)ということが言いたかった湯浅でした。

 もちろん、通常のラインコントロールや、「上げる」のではなく、ライン全体を止めることで対処する「最終勝負のラインコントロール」は別ですがネ・・これについては「フラットライン守備システムを語り合いましょう」コラムを参照してください!

 何といっても「今のルール改正」が、オフサイドが取りにくい方向へ向かっていることは確かな事実ですからネ(副審も、そのことを強く意識している!!)。

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 ちょっと長くなり過ぎてしまったようなので、アルゼンチン対ブラジルに関するコメントをほんの少しだけ・・

 まず、どなたが見ても、ブラジルが「重傷」だということは一目瞭然ですよネ。とにかく、全体的な「ボールのないところでの動き(イメージ的なコンビネーション)」が機能不全を起こしていると感じます。

 「あの」ブラジルとはいえ、動かずに「足許パス」ばかりをつなぎ、当たりにくる相手を「個人の才能で翻弄して」置き去りにし、どんどんと「ウラ」を突いていく・・なんてことができるはずがありません。もう以前とは、「状況」がガラッと変わっているのです(サッカーの国際化と情報化によって、各国のレベル差が急速に縮まっている!)。

 もちろんブラジルの選手たちも、そのことは十二分に実感しているはずなのですが、どうも「チーム」として機能しない・・、一人ひとりのアクションが「有機的に連鎖」しない・・。

 ブラジルのここ数試合を見ていて(いろいろな「選手タイプの組み合わせ」が全てうまく機能しないという現実を見ていて!)、これは本当に時間がかかるかもしれない・・、ラディカルな「刺激と変化」が必要なのかもしれない・・と思っている湯浅です。もちろんブラジルは本大会に出場します。これは間違いのないことでしょうが、来年までに、しっかりとしたチームに仕上げて欲しいものです。もちろんだからこそ、彼らの「復調プロセス」に対し、限りない興味が沸いてくるんですがネ・・。とにかくフエリペ監督の手腕に期待しましょう。

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 対するアルゼンチンは、絶好調。ブラジルと違い、全員の、攻守にわたるプレーイメージが、絶妙にバランスしている(シンクロしている)と感じます。組織プレーと個人勝負プレーのバランスが素晴らしい・・、中盤での「個人プレー」にしても、全体的な流れの停滞につながらないことが凄い・・。

 それも、ハイレベルな能力に恵まれているだけではなくチームプレーに対する意識も非常に強い選手たち全員が、仲間たちのプレーのクセを熟知しているからなんでしょう。「あっ、アイツが中盤でボールをキープしはじめた。次にボールが動くタイミングは、ここいら辺りだろう・・」と、そのタイミングに合わるように「次のアクティブゾーンへ」動きつづけるんですからネ。そして実際に、そこへボールが展開されてくる・・。それが「組み立ての展開段階」にあろうと、決定的スペースを突く「最終勝負の仕掛けプロセス」だろうと・・。いや、素晴らしい。

 特に、後半から出場したオルテガのプレー。以前は、単なる持ちすぎで、「自ら袋小路へ・・」というプレーが目立っていたのですが、ここにきて、個人勝負のレベルが向上したこと(より実効ある個人勝負!)、また「次のパスプレー」に対する意識が向上したことで(周りの選手たちも、その意図を理解しはじめたことで)、彼のプレーの「実効レベル」が格段に向上したと感じる湯浅です。

 実際に、逆転劇(それまでのアルゼンチン攻撃のペースアップ)の「コア」になったのは彼でしたからネ。

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 ここで、あるメディア関係の方からメールされてきた「ゴールの描写」を、それが素晴らしい内容だったので、そのままご紹介することにしましょう(もちろんアルゼンチンが奪った同点&逆転ゴールのシーンですヨ!)。

 『アルゼンチンの同点ゴールのシーン・・オルテガがボールを持った瞬間に、(右サイドの)サネッティが"スペースへの爆発的なダッシュ"を仕掛け、オルテガをチェックしていたディフェンス(ロベカル)を引きつけたところが勝負のポイントでした・・』

 まさにその通り。そのことで、オルテガが「よりフリーで」正確なラストパスを、ウラへ入り込んだガジャルドへ送り込むことができたというわけです。それにしても、ゴール前スペースへ、フリーで入り込んできたガジャルドを「最後にマーク」しなければならなかったカフー(彼のガジャルドへのアタックも後の祭!)。

 二点目のシーンでも、タテのロングパスを「アタマ越え」され、クラウディオ・ロペスの「ラスト・センタリング」のキッカケを作ってしまいました。主力選手の、そんな緊張感を欠いたプレーにも、今の「ブラジル代表が抱える心理・精神的な問題点」が浮き彫りになっている・・!?

 さて、前出の「辣腕プロデューサー氏」が描く、アルゼンチンの勝ち越しゴールのシーン・・

 『更にアルゼンチンの2点目・・勢いに乗って攻めるアルゼンチン。死にものぐるいで守るブラジル。ブラジルがあれだけゴール前に人を集めて守れば、いかにアルゼンチンでも、うち破るのは難しい。しかし、ただひとり、状況を冷静に読んでいたのが、ベテランのシメオネでした。センターサークル近くのやや自陣よりでボールを持ったシメオネは、ゆっくりと近くの選手とパスを回し始めます。そして、突然のスローダウンにブラジルの選手もホッと一息ついてしまいます。画面にはブラジルの選手が3人映っていて、あきらかに前

につり出されているのがわかります。この時、私の頭には「おっ、ここが勝負の瞬間だな!」というインスピレーションが・・。そして、ブラジルの陣形に緩みが出た瞬間を見逃さず、突然DFの(カフーの)背後に出されたロングボール。まさに決定的な5秒間のドラマでした・・。水前寺清子は「押してだめなら引いてみな。」と言いましたが、シメオネの、ゲームの「流れを読む目」の確かさはさすがベテランのそれでした・・』

 そんな鋭い分析に、思わず「まさにその通り!」と声が出てしまってりして・・。

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 とにかく、この時点での「世界サッカー地図」が、フランスとアルゼンチンを中心に描かれていることは確かな事実。

 才能あふれる選手たちが、優れたバランスを魅せる組織プレーと個人勝負プレーが有機的に、そして美しく連鎖するサッカーを展開する・・それです。

 ワールドカップの開幕まで、あと9ヶ月足らず。伝統あるフットボールネーションが、どこまで巻き返し、彼らの「次元」まで近づくことができるのか・・注目しましょう。

 長文、また乱文、失礼!!

 




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