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WCヨーロッパ予選第9組・・この「屈辱」が、「ブレイクスルー」のキッカケになって欲しいと願って止まない湯浅です・・ドイツ対イングランド(1−5)・・(2001年9月2日、日曜日)

ドイツにとって、こんな屈辱的な「公式試合」は、近年まれにみるんじゃないだろうか・・。試合の後、そんなことを思っていました。とにかく、文章を書くための「心理エネルギー」が必要だったため、まず一寝いり(試合終了は午前4時半近く)。翌朝の日曜日に、コラムを書くことにしたというわけです。

 何といってもドイツは、「反面教師」という意味でも、私のサッカー人生のルーツの一つですからネ。やはりこの結果には、ちょっと落胆が大きくて・・。もちろん「点差」もそうですが、「内容的」にも・・。フ〜〜

 昨年の欧州選手権(グループリーグで敗退!)も、同じように屈辱的な結果におわりました。特にポルトガル戦は、選手たちが「戦意喪失」状態になっていたことでも「スキャンダラス」な出来事だったわけですが、それでもこの試合は、選手たちの「モティベーション状態」が、「あのスキャンダラスマッチ」と比べたら段違いだったわけで、その意味でも、ちょっと落胆の幅が拡大してしまって・・

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 私が言っているのは、「内容的」にもイングランドに凌駕されてしまったということです。

 イングランドとの第一戦。「あの」ウェンブリーで、ドイツが「1-0」とアウェー勝利をおさめました。その夜、ベッカムやオーウェン等、イングランド中核の選手たちは寝付けなかったといいます(その悔しさが、この試合にぶつけられた!)。そして当時の代表監督、ケヴィン・キーガンが退任し、後がまに、イングランドサッカーの歴史上はじめて、外国人の代表監督が就任することになります。スウェーデン人、エリクソン。そして、積極的に「若手」にもチャンスを与える姿勢を鮮明にし、イングランドサッカー界に、ある意味での「意識(体質)の変化」をもたらしたのです。

 様々な意味で、あの「ウェンブリーでの屈辱」は、イングランドサッカーにとって、大きな「ブレイク・スルーのキッカケ」になったのかもしれません。

 対するドイツ代表。欧州選手権当時のエアリッヒ・リーベックから、伝説的なストライカー、ルディー・フェラーにバトンがタッチされ(優秀なプロコーチ、ミヒャエル・スキッベとのコンビ)、そして表面的には(結果だけは!?)「再生」しているように見えました。でもそれは、再生というよりも、選手たちの「心理」が、本来の「実力(勝負強さ)」を発揮できるまでに治癒してきただけ・・ということなんでしょう。基本的には選手たちの顔ぶれは変わらず。ドイツサッカーが抱える「クリエイティビティーの発展」に対する「体質的な問題点」は、まったくクリアされていない・・

 このことについては、「2002クラブ」で、もう何度も書きましたので、そちらの「バックナンバー」を参照してください。また、明日アップされるはずの「スポナビ」でも書こうと思っていますので・・

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 さて試合。立ち上がりを見ていて、このゲームの「構図」が明確に見えてきました。まずしっかりと守備ブロックを固め、そこからの注意深い「蜂の一刺し(カウンター気味の素早い攻撃)」をキッカケにペースを上げていこうとするイングランド。ミュンヘンでのホームゲームということで、また「勝ち点」で大きくリードしているということで、例によっての、攻守にわたる「ダイナミックサッカー」を展開しようとするドイツ(ちょっと表現がファジーですが・・)。

 そして前半6分、ドイツが、まだ「注意深さ」ばかりが目立つイングランドから先制ゴールを挙げてしまいます。中盤で「楽に」ボールをキープするハマンから、その左サイドの中盤スペースを、これまた「フリー」で駆け上がったバラックへタテパスが通されます。

 「チェック」が甘く、余裕をもってルックアップするバラック。そのルックアップをベースに、スッと、マークする相手から「消える」動きをする最前線のノイビル。そこへ、バラックから、正確なタテパス(ロビング)が送り込まれます。こうなったらもうドイツのもの。ノイビルは、自身のちょっと後方から、これまたまったくフリーで上がってくるヤンカーへ、正確な「アシスト・ヘディングパス」を送ったのです。そのラストパスを、イングランドGK、シーマンの眼前で「チョン!」とつつくヤンカー。先制ゴ〜〜ル!!

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 その後も、全体的なゲームペースではドイツに分があるように見えますが、それでも「内容」はオソマツの一言。中盤でのボールの動きはまあまあなのですが、「攻撃の変化」を演出する選手がいない。だから「単調リズム」の攻めしか繰り出せない。例によって、「直線的」に、イングランドゴールへ迫るだけ。両サイドのスペースを突く攻撃や、後方の選手が前線プレーヤーを追い抜くなどの「タテのポジションチェンジ」などもほとんどなく、中央でのワンツー狙いやスルーパス狙い、ロビングボールをトップ(ヤンカー)へ合わせて、そのこぼれ球を狙う・・といった「単調な拙攻」をくり返すばかりなのです。

 それに対し、イングランドは、先制ゴールを奪われたこともあって、どんどんとペースを上げてきます。「変化」という意味では、完全にドイツを凌駕する内容で・・

 そして12分、オーウェンが同点ゴールを挙げます。ベッカムの左サイドからのフリーキック・・、ゴール前(ファーポストスペース)での競り合いから、こぼれ球を奪ったイングランド選手が大きくバックパス・・、それを(たぶん後方に残っていたガリー・ネヴィルだったと思いますが)ヘディングで再び最前線の中央ゾーンへ送り込みます。

 この時点で、ドイツ守備ラインが、ズバッと上げます(でもレーマーやヴェルンスの反応がちょっと遅れ気味!)。そして、少なくとも「ヘスキー」だけは、オフサイドのポジションに残すことに成功します。でも結局、ヘスキーがアクションを起こさなかったことで、オフサイドを取ることができず、そのスキを突くカタチで、素晴らしいタイミングで「再び」方向転換したバーンビーに、決定的スペースへズバッと抜け出されてしまったというわけです(それ以外にも、オフサイドではない三人が抜け出していた!)。

 これで勝負アリ。そのまま抜け出したバーンビーが、同じく「抜け出した」オーウェンへ、ヘディングで、ゴールアシストとなる「ラストパス」を通したというわけです(このシーンでは、ドイツGK、オリバー・カーンも飛び出したが、結局ボールに触れず!)。ドカン!と、無人のドイツゴールへたたき込むオーウェン。それは、ドイツの「オフサイドトラップ」が、完璧にウラを取られた瞬間でした。

 ドイツの最終ラインですが、特に先発のリンケとヴェルンスは、不安定そのもの。その後も、イングランドのスーパートップコンビ、ヘスキー、オーウェンに振り回されっぱなしでした(彼らをしっかりとコントロールできず、ボールウォッチャーになった瞬間にウラスペースへ走り込まれたり等、受け身の守備をくり返すばかり・・)。

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 その後のゲーム展開は、もうイングランドの独壇場。特にベッカムの出来が最高でした。右サイドから、中央から、ジェラードとともにゲームを組み立てるだけではなく、最終シーンのチャンスメーカーとしても(主に、正確な中距離パスを活用して!)素晴らしい活躍を魅せつづけます。

 もちろん彼だけではなく、守備的ハーフのジェラード(前半ロスタイムに勝ち越しゴールを挙げた中距離シュートは秀逸!)、左サイドで、攻守にわたって鬼神の活躍を魅せたバーンビー、中央で、例によっての豊富な運動量で、攻守にわたる「クリエイティブなつなぎ役」をこなしたスコールズ、左サイドの「突破屋」として存在感を示したアシュレー・コール、最終ラインの「壁」、キャンベルとファーディナンドのコンビ・・。全員が素晴らしく自信にあふれるプレーを展開しました。

 イングランドでは、「中盤から攻撃ブロック」が、マンUとリバプールの選手たちで固められていることが、抜群の効果を発揮していると思います(ハイレベルなイメージシンクロ!)。

 ヘスキー、オーウェン、バーンビー、ジェラードはリバプール。そしてスコールズとベッカムがマンU。もっと言えば、今回のイングランド代表が、リバプール、マンU、アーセナル(アシュレー・コール、キャンベル、シーマン)、リーズ(ファーディナンド)だけから選抜されていたという興味深い事実が浮き彫りになりますが、ここでは「攻撃ブロック」についてスポットを当てましょう。

 同点ゴールの後、何度も、何度も、ジェラード、ベッカム等から、最前線のオーウェン、ヘスキーへ「危険なロングラストパス」が飛だしつづけます。それも、ドイツ最終ラインのウラの「決定的スペース」へ向けて・・。これはもう、彼らの「イメージシンクロ」が、「あうんの呼吸レベル」までになっていることの確たる証拠です。

 ベッカムが「パスを受けようとする瞬間」には、既に、ドイツ最終ラインのウラに広がる決定的スペースへ向けてスタートを切っているオーウェン・・、もちろんベッカムも「そのこと」をイメージしてボールをトラップする・・ってな具合です。

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 後半の「試合内容」については、もう振り返りたくないですネ。足の止まったドイツ代表が、覇気なく(明確な仕掛けイメージもないのに!)、漫然と、前方へボールを運ぼうとする・・、その逆を取り、イングランドが、次々とカウンターを決める(後半開始早々にオーウェンが挙げた三点目のゴールは、カウンターではなく、リンケの視野のウラに入り込んだ、つまり、ドイツ最終ラインを崩しきった素晴らしいゴールでしたが・・)。

 四点目は、中盤でのドリブルを(ハマン)、イングランドのスーパーボランチ、ジェラードが奪い、そこから見事なスルーパスをオーウェンへ通したことから生まれました(これでオーウェンはハットトリック!)。五点目は、完璧なカウンターから、ヘスキーが挙げたものでした(後半にヴェルンスに代わって最終ラインに入ったレーマーは、追いつけるのに、全力奪取で戻らなかった!)。フ〜〜

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 この試合に臨むイングランドには、攻撃の「コア(イメージクリエイター)」がいるし、世界レベルのストライカーもいる・・、守備ラインも堅牢そのもの・・、また「ウェンブリーの屈辱」というモティベーションもある・・。強いはずです。

 対するドイツは、ステレオタイプの組織プレー「だけ」という状態に落ち込んでしまって・・。素早く、広いボールの動きにしても、そのパスの「リズム」を、イングランド守備ブロックに把握されてからは、完全に「停滞気味」になってしまったというわけです。

 たしかにダイスラーには「可能性」を感じます。でも、若手の才能が「彼一人」というのでは・・。また彼が、自由奔放に「個人の才能」を発揮できない(効果的に発展させられない)ところにも、ドイツサッカーの「体質的な問題点」を感じます。何度、「どうしてドリブル勝負を仕掛けていかないんだ!!」とか、「何故、そんなタイミングで逃げの横パスを出すんだ!」なんて心の中で叫んだことか。まあ、ショルが戻れば、ダイスラーの才能もより活きてくるのかもしれませんがネ・・。

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 これで、予選9組では、イングランドとドイツが、同勝ち点(19)でトップに並ぶ可能性が大きくなりました。ただドイツは、この試合結果によって「得失点差」では大きく引き離されてしまいました(この試合前までは、ドイツのプラス8に対し、イングランドのプラス4・・でも試合後は、その数字が入れ替わってしまった!)。またイングランドの残り二試合は、(予選落ちが決まっていることで)モティベーションの低い相手ですからネ(ドイツに残されたのは、フィンランドとの一試合だけ!)。

 ということで、ドイツが、グループ二位として、「ヨーロッパ予選の決定戦」に出る可能性が限りなく大きくなったということです。

 まあドイツは、「現実」を、これ以上ないというほどの刺激とともに「体感」させられたわけで、その意味では、この惨敗にはポジティブな意義もあった・・と考えることにしましょう。

 さて、ルディー・フェラーとミヒャエル・スキッベのコンビ。彼らが、このチームを、どのように立て直していくのか。でも、ドイツサッカーの根本的な「ファンダメンタルズ」や「体質」の改善には、まだまだ時間が必要でしょうから・・。

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 まずは、こんなところですかネ・・。フ〜〜〜

 




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