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さて、中村俊輔も、「やっと」自分が主体になってサッカーを楽しみはじめましたよ・・(2002年11月7日、木曜日)

「今のままじゃ、あの子は苦労することになるよ。とにかく、もっとボールがないところでのプレーに対する意識を高めなきゃ・・」。

 今でもはっきり思い出すのですが、私が最初に中村俊輔を観たとき、隣に座るサッカー関係者に語りかけた言葉です。私は神奈川県サッカー協会の技術指導委員にも名を連ねているのですが、その関係で、「湯浅さん、素晴らしい才能をもった選手がいるので、一度見に来てくれませんか・・」と誘われ、中村俊輔が高校生のとき(彼は神奈川県出身)に何度か彼のプレーを見たことがあります。そして思ったものです。「本当に、レベルを超えた才能に恵まれているな・・。でも、周りが彼にボールを集めているから、ボールを受ける動きが緩慢だし、守備がおざなり。これでは上のレベルへ行ったときに苦労するに違いない・・」。

 そのときの中村俊輔は、とにかくボールをもったら、まるで魔法遣いのように相手をキリキリ舞いさせていましたよ。もちろん、相手の高校生のディフェンス技術が低いからなのですが、それにしてもすごい才能だと思ったものです。だからこそ、危ないな・・とも感じていたというわけです。ドイツなどで、同じようなケース(才能の墓場!)を何度も目撃していましたからね。

 イタリアので最初の数試合では、まさに、そのときのイメージが重なっていました。ボールがないところでの動きが鈍い・・だから、パスを予測され、トラップの瞬間にアタックされたり集中プレスをくらって簡単にボールを奪い返されてしまう・・また守備もおざなりだから、チームメイトからも信頼されない・・等々。

 ところが、その中村俊輔が、徐々にイメチェンをはじめました。まあ彼自身も、これではマズイと自覚しはじめたということなのでしょう。そして迎えた「再試合」の対ラツィオ戦。良かったですよ、本当に。

 まず何といっても、動きの範囲が広く、そしてその動きにメリハリが出てきた。前後左右に大きく動き続け、そのなかで、ゆっくりとしたテンポから、勝負所ではズバッと走り抜けたりします。また「三人目の動き」の質も、格段に上がった・・。だからこの試合では、ボールタッチの数が格段に増えました。またそのボールタッチにも余裕を持てるようにもなりました。要は、スペースへ入り込むボールがないところの動きが活性化したことによって、相手のチェックに対し、より大きな間合いを空けてパスを受けることができるようになったということです。

 前に何度か、今の中村は、とにかく運動量を倍にすることで、ボールタッチも倍にしなければいけない・・それがなければ、あの才能は、宝の持ち腐れになってしまう・・なんてことを書いたものです。そして・・

 この試合では、画面上に登場する頻度が抜群にアップしましたよ。それも、ボールがないところでのアクションプロセスにある彼の姿が・・。一つの攻撃ユニットで「傍観者」になってしまうことが多かった中村俊輔。それが、大きなイメチェンを果たしているのです。だから、止まっている状態でも、それが「次のアクションに対する意図を内包した様子見」になっていると感じます。

 特に三人目の動きに鋭さが出てきたことが特筆モノ。味方のヘディング競り合いシーンでも、止まって傍観するのではなく、常に次のスペースへ走り抜けている。また味方の「次のパスレシーバー」の意図と連動するように、そのパスレシーバーがボールを受ける前の段階から、そこからのダイレクトパスをイメージしてスペースへ動きつづけるのです。もちろん、オレが決定的な仕事をしてやる・・という強烈な意志を放散しながら。

 そんな、ボールがないところでの実効アクションがあるからこそ、ボールを持ったときのプレーも光り輝く。「逃げ」ではない、効果的なボールキープ(有効な仕掛けのタメというレベル!)、また崩しのサイドチェンジパスやタテへの決定的パス(この試合では、彼からのパスのほとんどが仕掛けの起点になっていた!)、自分が主体になったワンツーチャレンジ、クレバーな三人目の動きによるシュートポジションへの入り込みからのシュートトライ等々。

 繰り返しになりますが、とかにく自らシュートポジションへ入り込む三人目の動きに目を見張らされましたよ。ムダに終わったとしても、その動きの意図に陰りの出てくることがない・・。「あっ、惜しい!」なんて声が何度出たことか。

 後半の最後の時間帯では、強烈な中距離シュートは放つは・・、左サイドで相手をかわして決定的なクロスは上げるは・・、はたまた忠実なチェイシングは魅せるは・・。

 以前は、相手のプレッシャーに押された逃げの横パスのオンパレードでしたからね。そんな彼の実効あるプレーは、本当に爽快そのものでした。ようやく、移籍前のマリノスでのプレーレベルまで回復した・・そして本当の意味でサッカーを楽しみはじめた・・なんてことを思っていました。

 たしかに、ドリブル突破へのチャレンジ(足が遅くても、彼ほどの才能ならばタイミングで相手を置き去りにできるはず!)や勝負のリスキーパスチャレンジ、また、タックルも含めた爆発ディフェンス等々、もっと、もっと・・という期待がわき出てくるわけですが、それも、そんな彼のフォームアップがあればこそなのです。

 あっと・・。ゲームは、ラツィオの堅牢な守備とクレバーなカウンターによって完敗(0-3)という結果に終わってしまいました。それでも、中村の「次のステップ」が明確に見えはじめたことが嬉しくて仕方なかった湯浅だったのです。

 これで、レッジーナの観戦が格段に楽しみになってきたじゃありませんか。




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