前回の準決勝、タイ戦レポートの最後に、『イランとの決勝戦をホンモノの学習機会にすることができるのか・・』と書いたのですが、既に彼らは、準決勝までのプロセスで存分に成長を遂げていたのです。
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「U21」日本代表は、イランのことを正確に分析し、しっかりとイメージ準備をこなしたようです。ドリブル主体の仕掛けをベースに、「高さ」をフルに活用した最終勝負やロングシュートを仕掛けてくるイラン。それに対し日本代表は、ボールホルダーへの素早いチェックを忠実にこなしつづけながらも、絶対に安易に当たりに行かず、粘り強くマークしつづけます。イラン選手たちのスピードアップするタイミングを明確にイメージしている日本選手たち。そんな日本選手たちの対応に、イランのドリブラーたちも、前への勢いを殺がれることで突破(マーカーを外すドリブル)へのチャレンジを諦め、次に展開するようになっていきます。そうです。それこそ日本選手たちの「狙い目」なんですよ。イランのパス回しは「大きく」はありませんからね。そして、どんどんと中盤でボールを奪い返し、危険な攻めを展開していくのです。
そこでの彼らのプレー姿勢は、自信にあふれ、あくまでもチャレンジャブルでした。身体を寄せられても、ビビることなく「押し返し」、そのままドリブル突破にチャレンジしたり、素早いコンビネーションで崩していったり。「中途半端」という雰囲気など微塵も感じません。それが素晴らしい。吹っ切れた若武者たち。
それでも、やはりイランの守備は強かった。人数をかけているだけではなく、パワーを前面に押し出す強烈な競り合いを仕掛けてきます。またボールを奪い返すテクニックも上手い。それでも我らが若武者たちは、まったくビビらずに、攻撃の「心理的な勢い」を増幅させていったのです。
何度も失敗したりミスをしたりする・・それでも、彼らのチャレンジマインドに陰りを感じることがない・・。そして、ミスにめげることなく、何度も、何度も積極的にトライし、そして決定的なチャンスを作り出していく。素晴らしい。
また前述した守備にも、格段のクレバーさとダイナミズムを感じていました。猪突猛進ではありません。あくまでも組織ディフェンス。一人ひとりが、「使い、使われる状況」を明確にイメージしながら守備に入っていると感じるのです。最初は押し込んでいたイランでしたが、日本代表のクレバーで粘り強いディフェンスに、徐々に攻めの「勢い」が減退していったものです。チャレンジするのではなく、パスで「逃げるプレー」が目立ちはじめたのです。そしてゲームは、徐々に日本のペースになっていきました。それでも・・。
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後半、鈴木啓太が、青木と交代します。青木が最終ラインに入り、前半はそこでプレーした阿部勇樹が守備的ハーフへ上がったのです。決して悪い出来ではなかった阿部。でも明らかに、ボールホルダー(次のパスレシーバー)へのチェックなど、鈴木啓太の「ボール絡みプレー」とはタイミングが違う・・。そこでは、日本代表の中盤守備のリズムが、少し減退しはじめた・・と感じていました。
もちろん「もう少し」時間があったら、森崎、そして前線の選手たちとも、ディフェンスの息が合ってきたとは思うのですが、何せ、不運な先制ゴールを奪われてしまったのが、後半開始早々でしたからね。自分たちのリズムを、まだ明確に掴めていないのに、ゲームの状況が急に変化してしまった・・。だから、その後の日本代表が積極的なゲームリズムを取り戻すまでに、より多くの時間を費やしたというわけです。またその間、イランに、決定的チャンスを作り出されもしましたからね。
そして大久保に代えて田中達也を入れ、阿部に代えて石川を投入した勝負の時間帯。そこでも日本は、立派な最終勝負に挑んでいきましたよ。中途半端ではないから(思い切り勝負を仕掛けていくから)、変なカタチでボールを奪い返されることが少ない・・。一つひとつの仕掛けが、フリーキックやゴールキックなどの「アウトオブプレー」につながるのですよ。それも彼らが成長したことの証だと感じていた湯浅でした。
自分たちのミスで奪われた二失点については、もう仕方ないとしか言いようがありません。大事なことは、そこで体感したことを、常にイメージ的に「反芻」することです。それがあれば、次の「ホンモノの勝負の場面」で、瞬間的に、そのシーンが脳裏に蘇ってくるはず。そしてそのときは、もうミスにつながらない・・。それが、ホンモノの勝負マッチこそが、最高の学習機会(進歩のベース)だといわれる所以なのです。
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立派な、本当に立派なゲームを展開した日本の若武者たち。だからこそ、悔しさも極まっているに違いない・・。それでも彼らが、サッカーにおける普遍的なコンセプト(全体を貫く統一的な視点や考え方)を明確に意識しつづけることが如何に重要であるかを、冷や汗とともに体感しつづけたことで、ホンモノの発展のキッカケを掴んだことだけは確かな事実です。
サッカーにおける普遍的なコンセプト。それは・・不確実ファクターてんこ盛りのサッカーだからこそ、最後は、自分主体の判断、決断をベースにした、解放された(自由な)「極限の実行力」だけが問われる・・ということです。
また彼らは、それを体感したからこそ、本当の組織プレーの意味をも心底理解したに違いないとも思っています。組織プレーが、チームの目的を強烈に意識した積極的な(チャレンジャブルな)個のプレーこそが、「有機的に連鎖」した結果として出てくる「ハーモニーあふれる集合体」だということを・・。
ギリシャオリンピックだけではなく、ドイツワールドカップをも視野に入れた、更なる発展に注目していきましょう。