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でも、まず「U21」の試合から・・。
昨日のアジア大会では、日本のオリンピック代表が、バーレーンに「5-2」という圧勝をおさめました。でも後半は、「不用意」に押し込まれる場面がありました。そこに彼らが抱える課題のの本質を見ていた湯浅でした。
ということで、先日、週刊プレイボーイで発表したコラムから・・。
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(9月16日に書き上げた週間プレイボーイ用のコラムです)
「選手たちは完全にビビッていましたよ・・」。あるサッカー関係者が、私にそう言っていました。
今週の末に韓国で開幕するアジア大会。それに臨む、ギリシャオリンピックの骨格にもなる「U21日本代表」が、合宿中に、ジュビロ磐田と35分ハーフのトレーニングマッチを行いました。ただ期待に反し、内容的にも完全に凌駕され、「7-0」という惨敗を喫してしまったのです。最初ベストメンバーで臨んだジュビロが、こちらもベストメンバーに近い日本代表を完全に凌駕し、前半だけで6点も叩き込んでしまいます。心理・精神的に、完全に押し込まれてしまったU21代表。本来の実力からすれば、そんな大差をつけられるはずがないのに・・。
練習試合だから気にする必要ないって!? いやいや、そこで彼らがみせた受け身で消極的な姿勢は、大いに問題にされるべきポイントです。それこそが、このチームが抱える課題の本質だと思うのです。不利な状況から盛り返してゲームを落ち着かせることができない・・、チームを鼓舞するリーダーがいない・・、それです。
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日本は、素晴らしい組織プレーを披露した・・」。先日ドイツで行われたサッカーコーチ国際会議で、何人ものコーチ仲間が、異口同音に日本チームの健闘を褒めていました。もちろんW杯での日本代表の活躍も話題になりましたが、ここでの日本とは、今年5月にフランスのツーロンで行われた国際トーナメントでの「U21日本代表」のことです。
ツーロン大会は、U21のイタリア代表、イングランド代表、ドイツ代表、ブラジル代表というブランド国も参加する本格感のある国際トーナメント。決勝でイタリアを2-0と下したブラジルが優勝したのですが、日本代表は、最後の順位決定戦でイングランドをPK戦で破り、堂々の三位に輝きました。ただ・・。
大会全体では優れた組織サッカーで結果を残した彼らでしたが、勝負という視点では、反省すべきポイントもあったのです。予選リーグでのドイツ戦。前半の日本代表は、内容で完全にドイツを圧倒し、彼らに対して3-1というリードを奪います。ちょうどそのときヨーロッパにいた私も、テレビ(ユーロスポーツ)で観戦していたのですが、若き日本代表の素晴らしくスピーディーなチームプレーに感嘆しきりでしたよ。
「もう完全にやられたと思っていたよ。クルクルとボールを回されていたし、日本の守備ブロックも安定していたからな。特に、最終ラインのブロンド選手が良かったな(FC東京の茂庭照幸)。それでも最後の時間帯になって、急に自信を失ったと感じたんだよ」。自分が育てた選手がいるということでツーロンまで出掛けていった友人のドイツ人コーチがそう感想を述べていました。
結局日本代表は、ゴリ押しのパワープレーを仕掛けてくるドイツ代表に追いつかれ、この試合を「3-3」で引き分けてしまったのです。押し込まれ、受け身になった日本代表は、結局「心理的な悪魔のサイクル」から立ち直ることができませんでした。
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私は、いまのU21日本代表は、まとまりのある良いチームだと思っています。でも逆に、もしかしたらそれは、「甘えの構造」に根ざした「まとまり」なのではないかとも心配しはじめています。チームの雰囲気に、闘うグループには不可欠な緊張感が足りない・・。
ギリギリの闘いの場で勝ち切るためには、心理的な悪魔のサイクルに陥ったとしても、自らそれを断ち切り、再びペースアップできるような「心理・精神的な強さ」が必須。その点に不安が見え隠れするのです。
だからこそ、ジュビロで活躍したドゥンガに代表されるような強烈な「刺激」で味方を鼓舞できるチームリーダーの存在が重要な意味をもってくるのです。私は、本番でも守備的ハーフコンビを務めるに違いないジェフユナイテッドの阿部勇樹と、レッズの鈴木啓太に期待しています。この二人の強いパーソナリティーは折り紙つき。縁の下の「汗かきプレー」にも全力を傾注する彼らだからこそ、「何やっているんだ。しっかり守備をしろ!」とか、「ビビるな。もっと闘え!」といったグラウンド上での罵声が重みを持つのです。「ドゥンガ」とまでは言いませんが、そろそろ彼らも、自分たちがチームのマインドを引っ張るという自覚を持たなければ・・。
良いところなく敗れた中国戦やジュビロ戦での惨敗。そこで落ち込んだり、自信が減退するようでは全くハナシになりません。彼らはそのネガティブ現象を、次のステップにつなげる良い刺激に転換しなければならないのです。脅威と機会は表裏一体。山本監督の、心理マネージャーとしての手腕に期待しましょう。(了)
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ということで、この試合でも、相手の前への「勢い」を余裕をもって受け止めることができない時間帯があった(全体的な流れの構図では、中盤守備が少し受け身になった!?)ことを反省材料にして欲しいのですが、それでも、後半も、半ばが過ぎるころには、ボールを奪い返した地点からの素早く鋭いタテパス(クサビパス)、中山のポストプレー、そこでの「時間」を明確にイメージした、大久保、松井等の押し上げ、はたまた石川、根本等のサイド突破などで、日本代表も盛り返していきます。この試合での一番の収穫は、何といっても、押し込まれる状態(消極プレー姿勢)から、吹っ切れたチャレンジをベースに、ゲームペースを盛り返していったことだと思う湯浅です。
やはり本物の勝負の場こそ、もっと言えば、厳しいゲーム状況こそ、選手たちが「ブレイク(スルー)」を達成するための「最良の心理環境」だということです。
日本代表は、大久保が戻ってきたことで(チームにとっての自信ファクターが増えたことで)、攻撃のバリエーションが拡大しました。また鈴木啓太も、徐々に、攻守にわたる「自己主張」が目立つようになっていますし、交代出場した阿部勇樹も、守備を基盤に、鋭く正確な中距離パスで攻撃の起点にもなっていました。
たしかにまだ課題も明確に見えます。でも、「ネガティブな状態」を乗り越えたからこその収穫も大きかったと思います。この試合で「何か」を掴んだに違いない彼らの今後に、大いなる期待が膨らんだものでした。
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PS:いまビジネスミーティングから帰宅したのですが、そこでも、U21のことが話題になりました。そして彼らのサッカーを見つめ直しながら思っていました。「彼らのサッカーは、組織と個のプレーが、よりハイレベルでバランスしはじめている・・」。組織プレーに、単独ドリブル勝負が、うまくミックスされてきている・・ということです。それは、大久保、田中達也、はたまた田中隼磨、石川たちのことですが、だからこそ、より強く、組み立て段階において「個人勝負プレー能力」を活かすというイメージを持つのが大事。要は、組み立ての段階で、誰を「送り込む」のかを、より明確にイメージしておこうということです。右サイドの石川や田中隼磨を意識して左サイドで組み立てる・・、また根本を意識して右サイドで「タメの組み立て」を展開する・・、もちろん具体的なツールは「サイドチェンジ」・・。それだけではなく、センターの中山をうまく使い、「衛星プレイヤー」である田中達也のドリブル突破能力を活かす・・等々。その意味でも、彼らのサッカーに対する期待が高まってきます。
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さて、チャンピオンズリーグ。
バイエルン・ミュンヘンが、ホームにACミランを迎えました。そして全体的なゲーム内容では凌駕しながら、ミランが作り出した「唯三つ」のチャンスのうちの「二つ」をゴールに結びつけられて敗北を喫してしまいました。
先制ゴールはミラン(後半立ち上がり)。左サイド(ペナルティーエリア角ゾーン)で、セードルフとリバウドが「ワンツー」を決め、セードルフが抜け出します。この時点で、ゴール前にインザーギがいたのですが、マークしていたリンケが「オフサイドトラップ」をかけたために、インザーギが完璧フリーになってしまいます。でもインザーギは、「ワンツー」には絡んでいなかったし、その瞬間での「ツーのタテパス」には関与していませんでしたから、セーフ。そして最後は、完璧にフリーな状態で、セードルフの横パスを、バイエルン・ゴールへ流し込んだというわけです。
その数分後、今度はバイエルンが、右サイドでうまく抜け出したサリハミジッチからのセンタリングを、中央のピサーロが豪快なヘディングシュートを決めます。これで「1-1」!
でも最後は、試合終了間際に、リバウドと交代したセルジーニョが左サイドから持ち込み、そこからのニアポストゾーンへの「イメージが完璧にシンクロ」したラストクロスが、インザーギにピタリと合ったという次第(地面へ叩きつける素晴らしいヘディングシュート!!)。このシーンでは、これまた「ここしかないというタイミング」で、マークするリンケの背後から、その眼前スペースへスッと抜け出したインザーギの「嗅覚」に大拍手です。
最終勝負スポットに、タイミングよく「いる」。インザーギの、ストライカーとしての資質の高さがうかがえます。もちろん、周りが、そんなインザーギの「勝負ポジショニング」を明確に意識していることは言うまでもありませんがね。
バイエルンは、ミランの最終ラインを崩し切るまではいけないものの(まあ、あれだけ守備ブロックを固められていてはネ・・)、セットプレーやクロス、ダイレクト中距離シュートやドリブル突破からのシュートなどで、何本も、何本も決定的チャンスを作り出しました。またミヒャエル・バラックも、素晴らしい活躍で「チームにインテグレートされた(組み込まれた)」ことを感じさせてくれました。そのことは、左サイドで攻守にわたって良いプレーを展開したゼ・ロベルトにも言えます。それでも、先週末のブンデスリーガ(対レーバークーゼン)でもそうだったのですが、チャンスを決め切れず、相手のカウンターで加点されて負けてしまう・・というゲーム展開を繰りかえしてしまいました。
まあこれは、戦術的な「機能不全現象」ではなく、どちらかと言えば「ツキ」に恵まれなかった敗戦だと言えるでしょう(レーバークーゼン戦も含め、チャンスをモノに出来ないという課題は目立ちますが、プロセスはまあまあ機能している!)。
バイエルンでは、前気味のリベロ、イェレミースの忠実ディフェンスは目立っていたし、左サイドのゼ・ロベルトとタルナート、右のサリハミジッチとハーグリーブスのコンビが展開する「攻守にわたるタテのポジションチェンジ」もうまく機能していました。またバラックも所せましと動きまわって効果的なプレーを展開していましたし、トップのエウベルとピサーロのコンビが展開する上下左右の変化を主体にした揺さぶりも良かった。ゲームの内容自体は、決して悪くはなかったのです。とはいっても、特に、2-1にされた後、攻撃の勢いを増幅できなかったことなど、彼らが、攻守にわたって最高のゲームを展開できていなかったことも事実です(ミラン守備ブロックに勢いを抑制されてしまったことには、かなり落胆!)。
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これで、グループ「G」では、ミランが「勝ち点9」でダントツのトップ、それにデポルティーボ・ラ・コルーニャが「6」でつづいています。それに対し、バイエルンとランスは、「勝ち点1」。さて、これ以上ないというところまで追い込まれたバイエルン。残り3試合で、どこまで追い上げられるのか・・。まあ数字的には、既に「不可能レベル」までいってしまっていますがネ。ここからの「ドラマ」を期待している湯浅でした。