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CL・・見所豊富なエキサイティングマッチでしたよ・・フェイエノールト対ユーヴェントス(1-1)・・(2002年9月19日、木曜日)

あ〜〜あっ、「イタリアのツボ」が機能しはじめてしまった・・。

 チャンピオンズリーグ本戦の開幕ゲーム。フェイエノールト対ユーヴェントス戦の後半立ち上がりに、一発カウンターから、ディバイオに決定的シュートまでいかれてしまったんですよ。それこそ「イタリアのツボ」という攻撃でした。

 でも、ディバイオのシュートは、僅かにフェイエゴール右へ外れます。そんな、「ツキ」にも恵まれたフェイエノールトに、期待が高まったものです。

 この試合、前半のユーヴェントスは、彼らがイメージするとおりのゲームを推し進めます。組織的なディフェンスからの「ツボの一発勝負」を繰り出していく。この「一発」のほとんどはセットプレーです。フリーキックやコーナーキックから、決定的なシュートがバシバシ飛んでくるんですよ。流れのなかでフェイエの守備ブロックを崩し切るのは難しい・・だから意識して相手のファールを誘うようなプレーをする・・そうすればオレたちのツボにはまる・・。やはり試合巧者だなヤツらは。

 そして前半32分、コーナーキックからのこぼれ球を、カモラネージが、ドカン!と叩き込んでしまいます。これでユーヴェの「1-0」。そして、例によっての「カンヌキ守備」からのカウンター・・。これは、フェイエノールトにとっては難しいゲームになるな・・。そんなことを思っていたものです。

 でも、その「カンヌキ」は、以前ほど頑強なものではありませんでした(近頃、イタリアのツボも色あせてきた=他国の選手たちも、それを怖がらなくなってきている!)。フェイエノールトが、ソン・ジョング、ブッフェル、ファン・ホーイドンク等を中心に、「流れのなか」から、鋭いチャンスメイクを成就させそうになるのです。

 特に「ソン・ジョング」。素晴らしい「補強」ではありませんか。先日のトゥエンテ戦でデビューしたときも、抜群の「自己主張プレー」を魅せつづけました。そのソンが魅せた、前半の終盤でのドリブル突破は、まさに大迫力。そこから、ユーヴェゴール前に入り込んだブッフェルへ、正確なラストパスまで通してしまいます(完璧なゴールチャンス・・でもブッフォンに阻まれてしまう!)。そんな攻撃プレーばかりではなく、左サイドをドリブル出て突破したダーヴィッツに最後まで「食らいつき」、身体を上手く寄せながらボールを奪い返してしまうといった、スーパーディフェンスプレーも披露しましたよ。いや、素晴らしい。

 また、新戦力のブッフェルも、素晴らしい活躍です。フェイエノールトが、ソンとブッフェルという、組織プレーと個人プレーが絶妙にバランスした攻撃プレーヤーの獲得によって、大きく戦力アップしたことだけは確かなことです。

 その、ソンが演出した決定的チャンスの後も、フェイエノールトは、ブッフェルの右サイド突破をベースに、最後はファン・ホーイドンクのフリーシュートを放ったり、中盤の高い位置でボールをもった小野伸二が、スッ、スッと二人のユーヴェディフェンダーを抜き去って中距離シュートにチャレンジしたりと、流れのなかで、何度か決定的チャンスを作り出します。期待が高まったものです。

 とはいっても、後半に入った早々に飛び出した、冒頭で紹介したユーヴェのカウンターシーン。そこでまたまた、「やっぱり、イタリアのツボは怖いな・・」なんて、再認識されたというわけです。

 そんな一発カウンターが「クスリ」になったのか、徐々に、フェイエノールトの攻め上がりにも「前後のバランス」が取れてくるようになります(誰かが、必ず中盤の低い位置に残る!)。そして、一進一退というゲームがつづくなかで迎えた後半30分。ゴール正面20メートルのFKから、ファン・ホーイドンクが、素晴らしいシュートを決めたというわけです。

 全体的には、まさに互角の展開といったところ。でも、やはりユーヴェの方が、「個のチカラ」で一日の長があるかな・・。とにかく、見所豊富のエキサイティングゲームでした。

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 さて小野伸二。先日のオランダリーグ、対トゥエンテ戦での、攻守にわたるスーパープレーですが、そのイメージは、確実にこの試合でも活かされていました。私は、トゥエンテ戦での素晴らしいプレーを見ながら、「次の、強いユーヴェントス戦ではどうかな・・」と注目していたのです。そして相変わらずの「積極プレー」の連続。安心しましたよ・・本当に。

 とはいっても、彼のパートナーであるボスフェルトがいない(「何故」かは聞き逃してしまいしまた・・)、また、彼の代わりに「中央ゾーン」に入ってきたエマートンとの「ポジショニング(使い、使われる)コンビネーション」にちょっと不安があったのか、このゲームでの小野の「攻守にわたるアクションラディウス(行動半径)」は、トゥエンテ戦よりもちょっと落ちていたと感じます。まあ、もちろん相手のチカラは、トゥエンテとは比べものにならないということもあったわけですが・・。

 ここで、小野について書いた、週間プレイボーイの連載記事を・・。これは、先日のコラムやサッカーマガジンでの記事などを「まとめ」たものです。

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(2002年9月2日に仕上げた原稿です)

 先週号で、中村俊輔について「心配事」を書きました。今回は、大きな発展の可能性をみせはじめた他の「外国人」を取り上げましょう。まずは、小野伸二。

 彼については、今年の4月に行われたUEFAカップ準決勝でのプレーについて、「まだ消極的に過ぎる・・自己主張のリスクチャレンジが重要なキーワード・・あの才能が、本当の意味で開花しなかったら日本サッカーにとってものすごく大きな損失だ・・」なんて書きました。先シーズンの彼は、攻守にわたって堅いプレーはしていたものの、どちらかといえばそれは、チャンスがあるのに「行かない」等、ミスをしないようにという後ろ向きの姿勢だったのです。これでは、結局は使われる選手として小さくまとまってしまう。そのことが心配だったんですよ。また日韓W杯でも、目立った自己主張プレーは影を潜めたままでした。

 ただ今シーズンに入り、彼のプレーに明確なイメチェンの兆しが感じられるようになったのです。

 私は、先月おこなわれた本物の勝負マッチ、ホーム&アウェーの二試合トータルで決まるチャンピオンズリーグ最終3次予選に注目していました。相手は、トルコの強豪フェネルバチェ。イスラエルの天才レヴィーボ、アルゼンチンのオルテガ、以前ペルージャで中田英寿とチームメイトだったラパイッチなど、優秀な選手を揃えています。小野のプレー姿勢をチェックするには絶好のゲームだというわけです。

 第一戦は、フェイエノールトのホームゲーム。互いに注意深いサッカーで立ち上がったとはいえ、徐々にフェイエノールトが押し込みはじめるのも自然の成り行きでした。それでも、相手の堅い守備を攻め切れない。そんな停滞した雰囲気のなか、相手の守備ラインを崩すシーンを演出する選手がいました。小野伸二です。

 走り回ることで、攻守にわたって頻繁にボールに絡み、チャンスには積極的に前線へ飛びだして素早いコンビネーションの起点になる。そして、彼の真骨頂ともいえるダイレクトのラストパスが冴えわたる。特に、エマートンとの「あうんの呼吸」は目立ちまくっていました。前後半を通じた決定的チャンスのほとんどは、小野が演出したといっても過言ではありません。彼に対する仲間の信頼を明確に感じましたよ。何せ、小野がボールを持つ状況(パスを受けそうな状況)で既に決定的な動きをスタートしているんですからね。

 そして後半19分には、小野自身による、このゲーム唯一のスーパー決勝ゴールが決まります。後方からの鋭いタテパスを、マーカーの意図を読み切るかのようにトラップすることでアタックを誘い、間一髪のタイミングで、ファン・ホーイドンクとのワンツーを決めて抜け出す小野。彼には、最初から最終勝負シーンが明確に見えていたということです。でも最後のシュートは、完全に「即興」。トルコ代表でもあるフェネルバチェGKレクベルが、空いた右サイドへ重心を移すのを瞬間的に「読んだ」小野は、逆の左サイドへ向けてシュートを放ったのです。そこには相手選手が立ちはだかっていたから、シュートコースは、ほんの10数センチしかない。でも小野が放ったシュートは、正確なカーブを描いてフェネルバチェのゴール左隅に飛び込んでいきました。誰もがため息をついた瞬間でした。いや素晴らしい。

 そしてトルコでのアウェー第二戦。立ち上がりは攻め込まれたフェイエノールトでしたが、前半も20分を過ぎるあたりから押し返しはじめます。小野は、そんな「流れの逆流」にも一役買っていましたよ。それだけではなく、後半開始早々の3分には、先制ゴールまで決めてしまうのです。そこでの、シュートポジション(決定的パスを受けるポジション)への入り方が、これまた秀逸。パスが出る!と確信した瞬間に魅せた、素晴らしい爆発スタート。そして柔らかいトラップからの、落ち着きはらった正確なシュート。思い切り蹴るのではなく、コースを狙いすましたシュートです。第一戦での決勝ゴールにつづく、美しい「ゴールへのパス」。それこそ才能の証明といったゴールでした。

 守備では、1対1の競り合いやボールがないところでのマーキングなどに課題を残しています。また攻撃でも、ドリブル勝負やタメの演出といったリスキープレーにも、もっとチャレンジしていかなければいけません。それでも私は、忠実な守備アクションを基盤にして、常に攻撃の流れに「乗り」ながら、効果的なフリーランニングや決定的パス出しにトライしつづける積極プレーに、格段の進歩を感じていました。そんな、積極的な自己主張プレーがあったからこそ、チームメイトから本物の信頼を勝ち取れた・・。

 才能が「正しい方向」へ発展していることの証人になるのは楽しいものです。(了)

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 小野伸二は、ユーヴェントス戦でも、攻守にわたって実効あるプレーを魅せていました。たしかに攻撃に「出ていく回数」は落ちましたが、まあそれも、ボスフェルトの不在やユーヴェのチカラを考えれば当然。少し下がり気味の「攻守にわたるバランサー」を意識したんでしょう。そしてしっかりと、自分主体で、攻守にわたる勝負所に絡みつづける・・。そのプレーは、昨シーズン頻繁に見られた、「そこにいるだけ・・(似非のバランサー!)」といったモノとは、まったく次元を異にするものなのです。

 中盤での展開プレーでは、相変わらずの「才能」を輝かせていましたし、守備での「狙いすましたアタック」にも磨きがかかっていると感じます。また、ココゾ!の一発勝負場面では、上記した勝負ドリブルへのチャレンジとか(素晴らしいチャンスシーンを生み出した!)、爆発的なフリーランニングも魅せます(数10メートルの爆発ダッシュ・・そして次のシーンでは、既に中盤まで戻っている!)。

 もちろんまだ、守備と攻撃の両面で、「世界プレーヤーたちとの僅差」という視点もありますが、とにかく彼が「持てる能力の限界」までプレーパフォーマンスをアップさせていることだけは確か(正しいベクトル上に乗っている!)。

 本物の才能の開花。その「証人」になることほど楽しいことはありません。




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