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欧州便り(4)・・本物の世界との「僅差」を体感させられた日本代表・・そこには「ポジティブ&ネガティブ」なキーポイントがあった・・ノルウェー代表vs日本代表(3-0)・・(2002年5月14日、火曜日)

本気の戦いを挑んできたノルウェー代表。だからこそ、「本物の世界との僅差」を体感させられた日本代表・・。その「視点」をスタートラインにしましょう。

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 前半の出来を見ていて、どうなることかと思っていました。全員の動きが「重い」。守備で、互いのプレーが連動しない。だから、攻撃でも、ボールの動きに軽快さがまったく見られない。もちろんそれには、忠実でクリエイティブという、抜群に強力なノルウェーの守備ブロックがあったわけですが・・。

 この日本代表チームの鈍重さは、とりもなおさず、何度か守備ブロックを破られそうになったことで、最終ラインの「押し上げ」が消極的、そして中盤のプレスが消極的になってしまったからに他なりません。

 最終ラインの押し上げに問題があるし、中盤での協力プレスがうまく機能しないというポイントもあった。この二つの「要素」が、守備ブロックの攻撃的なディフェンスにとっての「両輪」ですからね。この二つのファクターが「有機的に連鎖」しない限り(どちらが・・とは言えない!)、日本チームのゲームペースは上がらないのです。

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 前半の内容は、まさに「半分、悪魔のサイクル」に入った日本代表といったところでした。

 稲本のミスパスから決定的なセンタリングを上げられてしまったり、市川の不用意な足上げファールやマークミスがあったり、宮本のコントロールミスでボールを奪われ決定的ピンチを招いてしまったり、福西が、コントロールミスでボールを奪われ、そのまま持ち込まれてしまうという決定的なミスを犯したり、相手のロングスローに、飛び出した川口が、まったくボールに触れず、コロコロとボールが日本ゴール前を横切ったり(その後のノルウェーは、弱点を見つけた!と言わんばかりに同じロングスロー攻撃を仕掛けてきた!)、最前線の久保の「ダイレクトパスのミス」から、一気に、危険なカウンターを食らってしまったり、中盤でのミスからボールを奪われ、最後は、逆サイドまでパスを回されてしまい、そこにいたノルウェー選手に対する市川のマークが遅れて決定的シーンを作り出されてしまったり・・。

 そんな、自ら、心理的な不安をあおってしまうようなミスの連発なんですよ。それも、これも、守備ブロックの「攻撃的なディフェンス」が機能しないからに他なりません。原因は、上記したように「二つのファクターが有機的に連鎖」しないから。

 中田ヒデには、相手のアンデルセンやリーセなどがケースバイケースで「ハード・マンマーク」をしています。それでも、動きまわり、何とか攻撃や守備の「起点」になろうとします。とはいっても、3日前に、イタリアカップ決勝でプレーしたんですから、いくら「あの」中田ヒデといえども・・。

 あっと、自身の大活躍でユーヴェントスを破り、イタリアカップに優勝した中田ヒデに対し、UEFAカップで優勝した小野伸二とともに、心から「おめでとう」と祝福したい湯浅です。また、彼らが為した、日本サッカーの社会的ポジションアップへの貢献に対しても、心から感謝の意を表したいと思います。

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 さて、ここで話題に上がった小野。全体的には、ものすごく「安定した」プレーを展開していました。それでも、湯浅が、まだまだ不満なことは言うまでもありません。彼は、もっとできる、もっと「やらなければ」ならない存在なのです。何といってもサッカーには、「やらなければ」ミスが目立たない(ミスをしない)という特徴がありますからネ。あれ程の才能なんですから、あのような「セキュリティー(安全志向)プレー」だったら、まったくミスを犯さないのも当然です。とはいっても、しっかりとしたボールキープや、前線への正確&的確なパスなど、「起点」としては機能していました。それでも・・

 ドリブル突破にはトライしますが、どうしても「途中」でキープに切り替え展開パスを出すようになってしまう・・、ワンツーなどで自身が「決定的スペース」へ飛び出していくようなプレーがない・・等々。

 特に前半では、中田ヒデがハードなマンマークに遭っていることもあって、攻守にわたって日本の中盤がうまく機能していないのだから、彼こそが、ゲームペースを「作り出す」という、ミッドフィールドでの「中心プレー」でチームを引っ張らなければならないのに・・。

 でも後半は、日本代表の全体的なペースが「格段」に上がったことで、彼のプレーにも、相手守備ブロックを崩していくための「ダイナミズム」が感じられるようになっていきました。

 小野についてですが、彼がサイドに入ることで、左サイドが安定し、組織プレーの崩し(その起点)も出てくる反面、「単独突破」という芽は、確実に薄れてきます。難しい選択ということですネ・・。まあ、このことについては、また別の機会に触れることにしましょう。

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 とにかく、前半での「あの」チーム全体の出来では、どんなスーパープレーヤーだって良いプレーができるはずがありません。特に悪かったのは、自身のミスで「自信」を失いつづけ、プレーがどんどんと消極的になっていった(受け身の姿勢になってしまったことで、攻守にわたって自ら動き出すような仕掛けの姿勢も大きく減退していった)福西、久保、市川・・。

 前半の「チーム全体」の出来の悪さが、彼ら「だけ」の責任だったなんて、誰にも言えるはずはありません。それでも後半、この三人に代わり、戸田、柳沢、そして明神が登場してから、ゲームが、本当に「格段」といえる位に好転したことも事実(久保については、本大会まで本物のブレイクを待つしかない!?)。そしてそのことで、フラットスリーだけではなく、ヒデ、稲本、小野、鈴木たちのプレーも、格段にパフォーマンスアップしてくる・・。

 守備ブロックの機能性が抜群にアップしたことで、攻撃でも、スパッ、スパッと、軽快にボールが動くようになったのです。サッカーとはそんなモノなのです。さて、この現象の背景にある「メカニズム」をうまく表現できるかな・・。

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 難しいですよね、それに関するコメントは・・。チームがうまく機能していれば、基本的な能力を備えた日本代表の選手たちですから、誰でも良いプレーができる(それぞれが良いプレーをしているから、チーム全体の出来も良くなる・・)。でも逆のケースでは、全てが空回りし、満足なパフォーマンスを出すことができない・・。それを、「サッカーにおける有機的なメカニズム」なんて表現しましょうか。もちろんそれは「プラス方向」にも「マイナス方向」にも振れるということです。もっと言えば、その「振れ」が極端なのが、不確実要素が満載されたサッカーの特徴・・だとも言えそうです。

 前半の日本代表では、完全にマイナス方向へ「連鎖」が振れ、半分、悪魔のサイクルに陥ってしまったわけですが、その「うまくいかない要因」のうちで、「もっとも大きなモノ」を探して対処するのが監督の仕事であり、フィリップは、的確な対策をほどこしたと思いますよ。

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 とにかく後半になって、格段に良いサッカーを展開しはじめた日本代表ですが、そのコアになったのが「戸田」だったことに異論をはさむ方はいないに違いありません。彼が為したパフォーマンスは、まさに「スーパー」。

 彼の、攻守にわたって「常に仕事を探す姿勢」によって、日本代表がペースを取り戻したといっても過言ではないと思います。そのプレーは、本当に感動モノでした。

 守備では、ボールウォッチャーになることなどほとんどなく、常に「首を振り」ながら、次、そのまた次を狙いつづけます(アクションのラディウス=半径=が抜群に広い!)。もちろんボールのないところで展開される、ノルウェー選手たちの忠実な「フリーランニング」を逃さないだけではなく、相手の次のボールの動きを読み、確実に、そして必要ならばハードに「抑えて」しまう。

 また攻撃でも、起点になりつづけていました。「シンプルパスの起点」というわけですが、そんな戸田の、(決してボールをこねくり回したりしない!)軽快で正確なパス出しのリズムを信頼するヒデも、どんどんと戸田にパスを「付ける」のです。いや、ヒデだけではなく、周りの味方も皆、彼を信頼してボールを集めていました。本当に素晴らしい・・。

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 そしてゲームが拮抗してきます。もちろん、ホームであり、シーズン最後の代表ゲームということで(また相手がホストカントリーの日本ということで!?)抜群の「やる気ポテンシャル」を魅せるノルウェーが、全体的なペースを握ってはいます。それでも、対する日本も、前半のようなイージーミスが原因の「自滅ペース」にはまり込むことなく、ダイナミックに変身した守備をベースに、攻撃でも、ノルウェーの、ものすごく堅牢な「4x4のフラットライン」で構成する守備ブロックを振り回すようなシーンを演出できるまでに回復していくのです。

 後半19分には、左サイドの小野から、最前線の鈴木へ、素晴らしいタテパスが通されます。そこで、こぼれたボールを拾ったヒデから、逆サイドを爆発オーバーラップした明神へ、これまた素晴らしいラストパスが通される。「それだよ!!。素晴らしい展開に、思わず声が出てしまいました。結局、明神が引っかけられてフリーキックになりましたが、とにかく、日本の「元気の良いサッカー」に溜飲を下げていた湯浅だったのですが・・。

 「よし! このペースだぞ!!」なんて思っていた後半26分、やられてしまったんですよ。フリーキックで・・。

 相手のフリーキックの際、(もちろんケースバイケースですが)日本代表は、スッとラインを上げます。そんなシーンは、前半でも二度ありました。キックのタイミング、最前線で張る選手たちの決定的スペースへ走り抜けるタイミング等、それらのイメージを「狂わされつづけた」ノルウェー。日本のラインコントロール(・・というか、これはオフサイドトラップ!)が印象に残ったに違いありません。

 そして彼らは、ハーフタイムの更衣室のなかで、それに対する対策を練った・・。「よし! 最前線をオトリにして、二列目が走り込むゾ!」。

 そして、その「明確なイメージ」をベースにしたセットプレーを見事に決めたのです。キッカーが蹴る「直前」、日本の最終ラインから10メートルは後方から爆発スタートを切った「ベルグ」。見事に、本当に見事に「日本のオフサイドトラップ破り」となる、「後方からの決定的スペースへの走り込み」を成功させたのです。なす術なく、ベルグのヘディングシュートを見送る川口。

 そしてこのゴールで、日本代表の、素晴らしく統一されていた攻守にわたるプレーリズムに微妙な崩れが見えはじめます。崩れ・・。やはりその現象は「ディフェンス」に如実に現れてきました(バランスの崩れとも表現できるかも・・でもまだ分かりにくい!?)。もちろんその背景には、先制ゴールで元気を倍増させたノルウェーの勢いもありましたがネ・・。

 そして後半31分。中田浩二の「目測ミス」からボールを奪われて右サイドを突破されてしまいます。そしてファーサイドへの、正確な「サイドチェンジ・クロス」。そこで待ち構えていた相手をマークする中澤は、一度、後ろへ「振られた」ことで、リターンパスへの対応が遅れ、そのまま「最初にファーポストにいた」レオナードセンに、ズバッとシュートを決められてしまうのです。

 まあ、中田浩二が先にボールに触ると確信していたチームメイトたちが、前へ重心がかかっていたし、ボールを奪ってからのノルウェーの攻めが抜群に素早かったから、このゴールは、もう相手を誉めるしかない・・。それにしても、中田浩二の目測ミスは痛かった。それまでステディーな良いプレーをつづけていた中田浩二だったのですが・・。

 その後の32分には、ノルウェーのペナルティーエリア右サイドをワンツーで抜け出した鈴木が、ドカン!とフリーシュートを放ちますが(相手GKに防がれる!)、その後の38分には、スールシャールにだめ押しの三点目を決められてしまって・・。

 この三点目のシーンでは、最後までスールシャールに付いて戻らなければならなかったのは小野伸二。彼は、「途中」で追うのを止めてしまいました。そしてフリーのスールシャールが、味方とのワンツーで抜け出し、フリーシュートを決めてしまったのです。

 決定的なシーンでは、絶対に守備プレーを止めてはいけない・・。最終勝負の流れのなかでタテに走り込む相手を、「後方の味方」がテイクオーバーすることほど難しいことはありませんからネ。

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 ちょっと長くなってしまいましたが、とにかくこの試合は、ワールドカップを間近に控えた日本代表にとって、大変重要な「学習機会(良いクスリ)」になりました。誰もが思っていたことでしょうが、やはり・・というか、ノルウェー戦は、ものすごくハードなゲームになったのです。だからこそ、学習機会としての「価値」があった・・。

 それぞれに反省するポイントがあるに違いありません。忘れるのではなく、選手全員が、この試合で体感した「(ポジティブ&ネガティブな)キー・ポイント」を、しっかりと脳裏に刻み込んでおかなければならないのです。




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