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W杯レポート(1)・・訪韓前日の、ドイツ人とのパネルディスカッション・・そしてソウルからの初日レポート・・(2002年5月30日、木曜日)

「サッカーが日本社会にどんどんと浸透することは、日本の社会的な体質に何らかの影響を与えることになるんでしょうか・・?」

 昨日のことです。ドイツの「OAG(ドイツと東アジア諸国との文化交流を促進している組織です)」という組織が主催したパネルディスカッションに招待され、参加してきました。テーマは「日本のおけるサッカーという社会的現象について・・」。まあドイツ的というか、テーマは堅いし、パネラーが「プロフェッサー・・」という方々ばかりだから、さぞかし・・と思っていたのですが、ハナシが進むうちに、内容も、かなり「柔らかめ」になっていきました。もちろんそれも、「サッカー」が持つパワーが為せるワザ!? あっと・・、もちろん2時間半のディスカッションは、全てドイツ語です。久しぶりの「ドイツ語で考える」ディスカッション。いや、面白かったですよ。

 聴衆は多くはなかったのですが、そこはドイツ人、どんどんと質問や意見が飛び交います。そのなかの一つがを冒頭で紹介したというわけです。

 その質問が出るまでには、ディスカッションが揺動をつづけます。「ボクは、日本の子供たちのサッカートレーニングを何度も観察したことがあるんだよ。そこで子供たちは、炎天下で、何度も、何度も、基本練習をやらされていた。それも、1時間や2時間が当たり前。サッカーは創造的なものなんだから、そんなカタチばかりにとらわれず、子供たちをもっと自由にプレーさせれば・・なんて感じたものですよ・・」と、一人のプロフェッサー。

 「まさに、おっしゃる通りです。だからこれまでの日本は弱かったんですよ。そんなトレーニングを見せつけられたら、そりゃ閉口するでしょう。わたしも、そんな現場に居合わせたことがありますが、とにかく腹が立ったものです・・。でも今では、かなりコーチ養成システムがしっかりしてきているし、サッカーに関する情報も環流してきていますから、トレーニングの内容だけではなく、優秀な選手たちを選抜するシステムも充実してきてはいますよね。とはいっても、もちろん基本的な技術だけは、単純な再生産トレーニングをくり返さなければなりませんが、それでも、工夫次第で、子供たちの興味を殺がずにやることもできるわけで、現場でも、かなり工夫が為されてきているみたいですよ」と、私。

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 そんなディスカッションが進むうち、サッカーの本質的な部分である「創造性」にハナシが及んだのですよ。要は、「不確実性要素」があまりにも多いサッカーだからこそ、選手たちは自分自身の責任で、判断・決断し、勇気をもって行動していかなければ、決して良いプレーなどできない・・なんていうハナシの展開になったというわけです。そのプロセスのなかで、前出の質問が出ました。

 半分以上の参加者の方々は、日本に長く住んでいるドイツ人です(その他は、ドイツ語が分かる日本人の方々)。だから、日本人の体質(考え方・行動心理などなど)もよく理解している。そしてそれが、サッカーにとっては、かなり「アンチ」だということもよく知っているというわけです。だからこその質問・・。

 「私は、よくこんなキーワードを使うんですよ。サッカーは、21世紀の日本社会にとって、イメージリーダー的な(社会文化的な意味で!)存在にだってなりうる・・ってネ。まあ、期待のし過ぎかもしれませんが、サッカーの本質的な『特性』をしっかりと見つめてみれば、それが、組織に逃げ込み、責任の所在を分からなくする・・等といったマインドの日本人とは相反することは明らかですよネ」。

 「いま、特に私企業で仕事をしている方々は、世界的な大競争にさらされています。そんな環境のなかで、同じような不確実性テンコ盛りの状況と対峙しているのです。そんなビジネスマンの方々と接する機会も多いから、彼らのマインドは良く理解しているつもりです。そしてそんな彼らが、よく、サッカーは社会の縮図とも考えられるかもしれないネ・・なんていう発言をするんですよ。面白いでしょう!?」なんて、(例によって!?)湯浅の発言は留まるところを知らない・・あははっ・・。

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 そんなディスカッションが2時間半もつづいたというわけです。もちろん他のパネラーの方々も、積極的に、ご自分の理論を展開します。地政学的な環境変化など、あくまでもアカデミックに論を展開する方。ご自分の体験や、梶原さん原作の「マンガ・ストーリー(巨人の星や明日のジョー、はたまた赤き血のイレブン等々)」から、日本人のマインドの「光と陰」を体系的に描写しようとする方。いや、エキサイティングそのものでした。面白かった。もちろん全ての内容を明確に覚えているわけではありませんがネ・・。

 今回のパネルディスカッションの内容は、そのうちに文章に落とされるかも・・。そうしたら、もっと詳しくご報告しますので・・。

 とにかく、久しぶりのドイツ語でのディスカッションだったもので、日本語でしゃべるときとは、まったく違う「発想ベース」でハナシをする自分を、ある意味で「興味深く」見つめていた湯浅でした。

 もちろん最後は、「さて、最後に、今回のワールドカップだけれど・・」となったことは言うまでもありません。そして、パネラーのプロフェッサーの方々が、ものすごくクールな分析を展開します。それも面白かった・・。

 「まあ、いまのドイツ代表だったら、予選リーグを突破できれば上出来なんじゃないか・・」とか、「日本は、厳しい試合になるけれど、気候的なものや、ホームというアドバンテージがあるから、少なくとも決勝トーナメントにだけは進出できると思うよ・・」なんてネ。

 そして最後に、私の番。

 「さてそれでは・・まず、決勝にどのチームが勝ち進んでくるかというポイントからいきましょう。決勝トーナメントの組み合わせは、『グループ分け』の関係で、フランス対ドイツになりますネ。何といっても、決勝までにドイツが当たる強豪は、イタリア、スペイン、ポルトガルといった、ヨーロッパのラテン系諸国なんですから。彼らのドイツの対するコンプレックスは推して知るべきじゃありなませんか・・」なんて言った途端、聴衆の方々のなかからクスクスという含み笑いが漏れてきたり、なかには、大袈裟なジェスチャーで、「何を言っているんだよ!」なんていうリアクションをする方もいたりして。

 そこなんですよ・・サッカーの魅力は。あんなに「アカデミック」な方々が、事サッカーとなると、情緒的になる(入れ込んでくる)・・。私の、ものすごく楽観的な希望的観測にもとづいた(!?)発言は、そこが狙いだったわけです。「ということで、さてどうなるか・・。これで結果が楽しみになってきたでしょう?? 湯浅の予想が外れたら、それ見たことか・・なんて大笑いしてくださいネ」。なんてネ・・。

 ちなみに、日本については、前述したプロフェッサーのコメントに、ほぼアグリーでした。

 ホント、あ〜〜面白かった。

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 この原稿は、ソウルのホテルで書いています。予約が遅れてしまったので、町中のホテルはもう一杯。ということで、ソウルの北に位置する「オリンピア」というホテルに腰を落ち着けることになってしまいました。窓からは、緑に覆われた山(・・というか丘陵!?)が見えたりして、なかなか閑静。仕事をするには最高の環境かも・・なんてことを書いたところで、部屋の電話が鳴りはじめました。東京の文化放送からに違いない。ワールドカップ期間中は、時間が許す限り、彼らの番組に出演する約束をしていますから・・。

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 あ〜〜、またノリノリで話してしまった。もちろん話題の中心は、明日の開幕戦、フランス対セネガル。これまで、この両チームについては、かなり書いてきたつもりですから、まあここではいいですよネ・・。

 一言だけでまとめれば・・、組織と個がうまくバランスした「優れたサッカー」を展開するセネガルが、ジダン抜きのフランス代表とハイレベルな戦いを繰り広げ、世界のサッカー界に対し、「あっ・・アフリカからも、組織プレーに長けたチームが出てきた・・と、警戒感を抱かせる・・」、そしてセネガルが、俄然、ダークホースとして注目を集める・・なんていうシナリオをしゃべったというわけです。

 これも湯浅の「希望的観測」。もちろんこの試合については、明日の夜中までには(東京中日新聞の原稿とともに)レポートしますので・・。

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 さて、ホテルに到着するまでの経緯で「発見」したことを簡単にまとめて、今日は「お開き」にしましょう。ハラも減ってきたことですし・・。

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 今朝の10時に成田を発ち、2時間後、ソウルの新空港「インチョン」に到着。この新空港ですが、本当に町中から遠い、遠い。バスで1時間20分ほど揺られ、やっと「インターナショナルメディアセンター(IMC)」まで辿りついたという次第。

 まずそこで基本的な情報を仕入れました。韓国でも、公衆電話からインターネットにつなげるんですが(アナログ)、プレスの「ワーキングルーム」に設置されている「アナログ・ジャック」付きの公衆電話で、メールのチェックやインターネットに流れている情報をピックアップし、さてホテルへ・・。

 移動はタクシーにしました。メディア用のバスも準備されてはいるんですが、どうも時間や頻度がネ(また、私のホテルは、オフィシャルホテルではないので・・)。ということで、タクシーの窓を流れる風景に目を凝らすことにした次第。ワールドカップ関連の飾り付けが目立ちます。もちろんミョンドンなどの繁華街では、もっと盛り上がっているんでしょうが・・。

 でも、窓の外の景色を見ていたのは数分くらい。その後は、もう周りの車の「走り方」に意識が釘付けになってしまって・・。とにかく攻撃的(この表現が適切かどうかについては、後で検証することにします!)なんですよ、彼らの運転の仕方が。全ての車が、我先に・・という運転をしているように感じるのです。そういえば、空港から乗ったリムジンバスの運転手もすごかった。渋滞している「脇」をすり抜け、渋滞の先にある、その原因になっている車の列に、アタマから突っ込んでいったりして・・。もちろん周りは、「あっ、アタマを突っ込まれた・・」と、すぐに譲るんですがネ・・。

 私の乗ったタクシーも、とにかく左右に「身体」を揺すって(要は、頻繁に車線を変更して!)どんどんと、「前」へ進んでいきます。こちらは、ちょっとビビり気味。だらしないのですが、あんな追い越しや「突っ込み方」をしたら、東京じゃ確実にケンカになってしまう・・。でもこちらでは、そんなことは起きません。それが日常茶飯事だということなんでしょう、突っ込まれた方も、まったく意に介さず「どうぞ・・」ってな具合。競り合いに負けたら、素直に行かせる・・!?

 こんなだから、いつも「車列」がユラユラと不規則に揺れているように見えちゃったりして。

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 そんな彼らの「攻撃的(積極的!)」なマインドは、もちろんサッカーのグラウンド上でも如実に感じることができます。韓国代表チームの全員が「エネルギーを発散」しはじめたら、もう誰も止められない。最後尾から、前後左右から、「オレが、オレが!」と、どんどんと押し上げて(もちろん積極ディフェンスをベースに!)相手を押し込んでしまう。それは、「あの」ドイツも同様でした(1994年アメリカワールドカップの予選リーグで、前半で3点をリードしドイツが、後半タジタジで2点を返される!)。レベルを超えた、攻守での「前への勢い」にタジタジとなってしまったんですよ。サッカーとは、そういう「アンロジカル」な要素も多分に包含するチームスポーツだということです(もちろん、そんな韓国の前へのエネルギーを逆手に取るのがロジックな展開だとしたら・・)。

 そんな韓国代表が、オランダ人監督のヒディンクを迎えました。彼は、より「クレバー」に、彼らの「エネルギー」をバランスさせることを主眼にチーム作りをしたのです。それでも、「バランス感覚」を見いだすまではチョット苦労したようですが・・。

 「たしかに彼らはバランス(ポジショニングバランス、組織と個のバランス等々)をうまく取れるようにはなった。それでも、行くべきところで行かなくなるなど、ちょっとこの時点ではネガティブな面が目立つがネ。まあそれも時間の問題だよ・・」なんて、ヒディンクが、数ヶ月前に語っていたことを思い出します。

 チーム生長のプロセスを明確にイメージできる・・。たしかにヒディンクは一級品ではあります。さて本番では・・。

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 これからは、気付いたことを、自分自身のメモという意味でも、どんどんとアップしていくつもりです。東京中日新聞、朝日新聞、サッカーマガジン、週刊プレイボーイなどでの連載や、その他のスポットプリントメディアや、ラジオ、テレビ出演などはありますが・・。

 もちろん、「内容」が重複するところも出てくるに違いありません。そのときはご容赦アレ。では、ディナーにいってきます・・。

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 追伸:いま、ホテル近くにある小さな「地元食堂」へ行ってきました。ホテル内のレストランでもよかったのですが、せっかく「ソウル中心街」から離れたところに泊まったのだから・・と、ホテルから傘を借りて出かけた次第。その食堂は、15人も入れば一杯になってしまうくらいの場末の食堂。でもなかは、地元の人々で一杯でした(だから入ったんですけれどネ)。

 そしてカルビー焼き、韓国式の「うどん」などを注文したのですが、どうも食べ方がよく分からない。湯浅は、食事についてはホント疎いのです。そうしたら、「そうじゃなくて、ソースはこっち・・そっちの野菜はミソをつけて・・こっちの野菜は、カルビー焼きを巻いて食べる・・ニンニクとカルビーは、こうやって一緒に辛みソースにつけて食べるとおいしいヨ・・等々」、隣のおばさん、前に座っているおじさん、また食堂の女将さんから、どんどんと声がかかってしまって・・。

 ビックリすることに、皆さん日本語が「ある程度」分かるんですよ。そのとき私は、プレスの「AD」をクビにかけていたので、皆さん、「あっ、この日本人は、ワールドカップをレポートするためにきたんだな・・」なんて思ったはず。そして、一生懸命に面倒をみてくれること。ホント、箸の上げ下ろしまで・・。あははっ・・。

 一人のおじさんは、表情堅く、私の一挙手一投足に鋭い目を投げかけていたんですが、急に、店の女将に「・・・・!!」と、私をアゴで示しながら声をかけます。そして、ニコニコ微笑みながら、女将が、鉄板の上に乗っているニンニクやカルビーをひっくり返してくれました。

 「どうもありがとうございます・・」なんて、そのおじさんに声をかけたんですが、これまた表情を崩さずに、ちょっとアタマを傾げ、そのまま仲間の方へ向き直ってしまいます。いや、面白い。

 こんな小さな事で、彼らの「ワールドカップへの参加意識」も少しは高まるのかも・・?とにかく最後は、「どうもありがとうございました。美味しかった。美味しかった・・」と言って店を出てきた次第。そのときだけは「例の」おじさんも、ニコッ・・なんてネ。

 ドイツ時代には、韓国の友人が何人かいました。よく彼らと一緒にボールを蹴ったものです。今では疎遠になってしまいましたが、そのときの彼らの「温かい人間味」が鮮明に蘇ってきたものです。ホント、どうもありがとうございました・・。




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