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W杯レポート(20)・・それでも、日本代表が為した偉業の価値が薄れることはありません・・日本対トルコ(0-1)・・(2002年6月18日、火曜日)

神戸のホテルで朝5時に寝覚めました。そのときの最初の感覚。「アッ、熱だけは下がった!」。ハッピーでしたよ。まだ鼻声だし、ちょっとフラつきはしますが、昨日に比べれば調子は段違い。ヨシっと起きだし、シャワーを浴びて新幹線で仙台へ向かいました。

 東京で乗り換えたのですが、とにかく、すごい人出。「こんなことは、今まであまり経験したことはないですよね・・」なんて駅員さんが言っていました。そしてその横を、赤いジャージーに身を包んだトルコ応援団が通り過ぎていきます。もちろん彼らは、プラットフォーム全体を包み込む「青の群衆」の中だからこそ目立ったわけです。決戦ムード!? いやいや、赤と青は、あちらこちらで談笑していたりして・・。とにかくサッカーは、人類史上最大の「異文化接点パワー」を備えた社会的存在ですからネ。

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 さて・・トルコ戦。日本がどこまでやるのか興味が尽きません。

 この試合では、西沢が、ワントップ。その後ろにアレックスと中田英寿のコンビが控えるとポジショニングバランス。「ウィニングチーム・ネバー・チェンジ」という原則を崩したフィリップ・トルシエ。彼なりの判断基準があったのでしょう。またアレックスが、中盤で、どこまで自分主体に仕事を探しつづけることができるのかにも興味がつのります。もちろんこの試合も、時間を追ってレポートすることにします。

 トルコは、ドイツとの関係が深く、それを通して、彼ら独特の個人能力の高さに、組織的な発想が徐々に高まっていきました。そして今では、自他ともに認めるハイレベルなモダンサッカー。彼らは、もう欧州の強豪といっても過言ではないチカラをつけているのです。そのことは、ヨーロッパのエキスパートたちにも共通している認識です。

 さてゲーム。立ち上がりから、互いに仕掛け合うエキサイティングな展開になります。内容的にも互角。

 日本は、アレックスの出来が、ゲームの行方を左右してしまうような・・。基本的には左サイドの上がり目にポジションをとる彼ですが、中田英寿とのコンビで、右にも張り出してきます。

 なかなかいい立ち上がりだな・・そんなことを思っていた前半11分、トルコに先制ゴールを奪われてしまいます。コーナーキックからのダバラの一発。まったくのフリーヘディングでした。要は、日本の最終ラインが最後までブレイクせず、ダバラへは誰もタイトに寄せていかなかったということです。彼は、そんな日本のラインの眼前で、ドカン!と、ヘディングを決めてしまったのです。後で、一度ビデオを見直してみましょう。

 そしてこの先制ゴールから、トルコの勢いが増幅していきます。それまでパスプレーに徹していた彼らが、中盤での単独勝負にもチャレンジしはじめたのです。もちろん組織的なボールの動きにアクセントをつける「程度」のチャレンジですから、全体的な流れが「停滞方向へ振れてしまう」ということはありません。吹っ切れたように、バステュルクが、ダバラがと、中盤での「個のエスプリ」を披露するのです。

 とはいっても、日本代表も、どんどんと攻め上がります。それにしても、やはりトルコの守備は強烈に強いな・・。そんなことを思っていました。ヨーロッパトップレベルでもまれた守備。一対一やヘディングに強いだけではなく、読みも素晴らしい。アッ抜けた・・と思った瞬間、相手の足が出て止められてしまう・・。そんなシーンを何度目撃したことか。

 それでも20分、日本代表が決定的チャンスを作り出します。タテの決定的スペースに抜け出したアレックスにタテパスが通ったのです。ダイレクトシュート! でも角度がありませんでした。だからGKの正面に飛んでしまって・・。

 「西沢とアレックスの変形ツートップ」に変更したことの是非は・・!?

 まあ、まだどちらとも言えませんが、西沢にしてもアレックスにしても、流れのなかで、ある程度、彼らの特徴を出したプレーをしていることだけは確かです。西沢は、しっかりとボールをキープしてタメを演出し、押し上げてくるヒデへボールを落としたり、はたまたドリブル突破にチャレンジしたり。またアレックスは、しっかりと左サイドの決定的スペースを狙いつづけたり(フリーランニングで、はたまたドリブルで!)。

 アレックスは、最初の時間帯の出来は良くはありませんでした。ちょっと「気持ちが上がり気味」だったのかも・・。それでも、15分を過ぎたあたりから、「これじゃいけない!」と、吹っ切れたかのように、「最後まで足が伸びる」サッカーをはじめたと感じました。

 25分。またまたトルコのツボともいえる決定的チャンスを作り出されてしまいます。ハカン・シュキュールへのロングボール。それを、ハカンが落としたところを、後方から回り込んだハッサンがダイレクトシュート! 惜しくも外れましたが、日本の守備ブロックは、そんな攻撃に対するイメージもしっかりと持たなければ・・。

 試合は30分を過ぎたあたりから、両チームともに決定的チャンスを作り出すことができないという拮抗した展開になっていきます。全体的には、日本が徐々に押し込む展開ではあるんですが・・。たしかにトルコ守備ブロックのウラを突ける訳ではありませんが、ガンガンと攻め上がる勢いは、これだったらいつかは・・なんていう期待を抱かせるに十分な何かを秘めていました。

 そんな雰囲気のなか、41分には、中田英寿へのファールで得たフリーキックを、アレックスが、ゴールポストの上の角に直接当てるすごいシュートをぶちかまします。その直後の43分には、アレックスへのファールで得たフリーキックから、またまた彼自身が惜しいニアサイド勝負のシュート。なかなかです。

 前半のここまでの出来としては、確実にフレックスと西沢の起用は「成功」だったと言えそうです。

 「ウィニングチーム」のメンバーを変えたフィリップ。それなりの根拠があってのことでしょうが、その成果については、キチッと評価しなければなりませんからネ。

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 後半、アレックスが外れて鈴木隆行が入ります。たしかに前半のアレックスは、最初の時間帯は、ちょっと「興奮気味」だった(!?)ことで、ミスが目立った時間帯もありました。それでも、前半の半ばを過ぎたころから「吹っ切れたプレー」を展開しはじめていたと感じます。決定的スペースを突いていくという意味では、彼の特徴は、十分に活かされていましたからね。時間が経つにつれて(雰囲気に慣れてきたことで)調子も上がりはじめたアレックス。それが、さあ、これからだゾ!というときに外されてしまって・・。私は、残念で仕方ありませんでした。

 また、稲本に代えて、市川も投入します(もちろん明神が守備的ハーフ!)。さて・・。この意味については、また落ち着いてから考えましょう。

 でも、そんな交代が功を奏したのか、後半の日本代表は、組織的な攻めのエネルギーが明らかに増大していったと感じます。もちろんそれは、トルコの前への勢いが減退しはじめた(守りイメージの方が強くなっている!?)ともいえるわけですが・・。

 15分。右サイドに入った市川からのクロスから、西沢がヘディングシュートを見舞います。素晴らしい展開からのチャンスメイク。

 そんな日本の組織攻撃に対し、トルコは、ハッサン、バステュルク、そしてハカン・シュキュールを中心に、カウンター気味の鋭い攻めを展開します。ハッサンが、素晴らしいドリブル突破から、日本ゴール前の正面から中距離シュートを放つ(楢崎がキャッチ)。またバステュルクが、ドリブルから、これまた惜しい中距離シュートを放つ。

 それでも日本の前への勢いは衰えることを知りません。彼らは、全身全霊で同点ゴールを狙いつづけたのです。立派な姿勢です。もちろん、そうそう簡単にチャンスを作り出せるわけではありませんが・・。とにかくトルコのディフェンスブロックの粘り強いこと。まあこれが「世界」だということです。

 そして、どんどんと時間だけが過ぎ去っていく。難しい試合だ・・、相手も優秀だしナ・・、もちろん惜しいチャンスは「できそう」にはなるものの、結局は、強いトルコ守備に防ぎ切られてしまう・・、やはりトルコは、総合力では日本を上回っているナ・・、全体的な「展開内容」では互角といってもいいゲームだけれど、「個」では、細かなところだけれども、確かに「最後の僅差」が見え隠れする・・、そんなことを考えながら、私のキーボードを叩く勢いも、徐々に殺がれていきました。

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 たしかに日本代表は、惜しい敗北を喫してしまいました。私も、ものすごく悔しいですよ。

 それにしても立ち上がりの、あの一点が・・。

 記者席で、色々な方々から話しかけられました。「どうして日本の守備は、セットプレーをゾーンで守るのか・・」。それに対して、「どんなやり方にしても、結局は、アタマ一つ先に出た方が勝ち・・相手に完璧に合わせられたら防ぎようがない・・ブレイクのタイミングを失してしまったというミスは痛かったけれど、マンツーマンだったら守れたという議論はおかしい・・セットプレーでのマンツーマンほど難しいものはない・・とにかく一番大事なことは、全員に統一されたイメージを徹底させることだ・・」なんて、答えていました。

 マンツーマンの場合、動きつづける相手をマークしつづけ、最後の瞬間に、ピタリと合わせられたクロスボールに、相手よりアタマ一つ飛び出してクリアすることほど難しい守備プレーはありません。だから最後は、しっかりとマークをつづけることをベースに、良いポジションから「身体を寄せる」ことしかできないというケースがほとんどなんですよ(良いポジションからの寄せだからファールにはならない!)。

 まあ、失点がコーナーキックで、それも、そのときだけ、何かラインが「眠って」いたような感じだったから、悔しさもひとしおだったのでしょう。正直私も、少なくとも、ヘディングの強いヤツだけには、完璧マンマークをつけるべきだったのかも・・なんて思ったモノです。

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 ということで、レポートをまとめることにします。

 日本は、大会を通じて、本当に立派なサッカーを展開しました。それについては誰もが認めるところでしょう。ただ、リーグが終了し、そこをトップで通過したときから、メディアノイズだけではなく、一般の生活者の方々のマインドも、ベスト8だ! ベスト4だ!とエスカレートしていったと感じます。

 それは「積み重ねられた事実」と別次元の期待です。とにかく、日本代表の勇者たちが、ホンモノの勝負であるからこその「確信」を勝ち取り、この試合でも立派なサッカーをやったことだけは確かな事実なのですから。

 とにかく、この試合での「結果」が、予選リーグでの立派なサッカーだけではなく、この3年半の間に日本代表が積み重ねてきたポジティブな事実を、「ネガティブ方向へねじ曲げて」しまわないことだけを、心から願っている湯浅です。

 そして日本でも、もっとサッカーを語り合う方々が増えることを、心から願って止みません。サッカーには、それくらいの普遍的な魅力が含まれていると確信する湯浅なのです。

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 最後に一言だけ、韓国代表と韓国の方々へのメッセージ。

 「あなた方が展開したサッカーは、世界中の人々に感動を与えたに違いありません。いま、ドイツの友人たちとも電話でそのことを話しました。サッカーがもつ奥深い魅力を堪能させてくれたあなた方に対し、心からの感謝と敬意を表したい湯浅です。」




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