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W杯レポート(25)・・さて決勝・・「天才集団vs職人集団」ってな視点はいかが・・(2002年6月28日、金曜日)

「フランスの選手たちは、かなりアロガントだった(思い上がっていた)よな。何せ、選手の誰に聞いても、セネガルなんて知らないよ・・とか、ヤツらはフランスリーグでプレーしているんだって? とか、とにかく自分たちが追い込まれるなんてことは夢にも思っていないようだった。それでもオレは、セネガルが良い試合をすることだけは確信していたんだヨ・・」。

 試合の「中日」になった木曜日。久しぶりに、ヴァンサン・マシュノーと、ゆっくり話す機会に恵まれました。彼は、フランス・フットボール紙の著名ジャーナリスト。スタジアムのメディアセンターでは、韓国でも、日本でも、よく顔を合わせてはいたんですが、そこは我々にとっての「現場」ですから、落ち着いた会話は無理ですからね。だから、中日に(私のビジネスミーティングの合間に)彼のホテルを尋ねたというわけです。

 そして、「ところで、フランスの敗因だけれどさ・・」。なんていう私の問いかけに、すぐに、冒頭のように反応したヴァンサンだったのです。

 「周りのジャーナリスト連中にしても、みんな2-0で勝つとか言っていたよ。またスコラーリ(ブラジルのフェリペ監督)も、2-0でフランスが勝つって言っていたっけ。それに対してボクは、いやいや、まあ1-1の引き分けがいいところじゃないか・・って答えていたのさ・・」。ヴァンサンは、ブラジル代表の担当で、ずっと彼ら追いかけていました。ですから、監督から選手まで、非常に親しい間柄のようです。普段はあまりインタビューをしたがらないブラジルのスター選手たちにしても、ヴァンサンとだったらいいよ・・なんていうことになるみたいですしネ。

 「そのとき、スコラーリのビックリした顔を思い出すよ・・」。セネガルとの開幕戦を引き分けになるとしたヴァンサンの予想に対して、ブラジルのフェリペ監督が驚いた表情をしたということです。そして実際に・・。

 まあ私も、ヴァンサンと同じ予想だったわけですが、そのことについては、昨年10月にランス(フランス北部の町)で行われた日本代表とセネガル代表との試合を観た後にも話し合ったものです。

 「いいサッカーをするよな、セネガルは。アフリカのチームとは思えない組織プレーは、本当にインプレッシブだったよ・・」。そんな私の言葉に、「そうさ、彼らは、本当に良いサッカーを展開するよ。そのことについては、ブルーノ(セネガル代表のメツ監督)ともよく話し合ったものさ。ヤツらは、確実にセンセーションを巻き起こすよ・・ってネ」と、ヴァンサンが応えたものです。

 この試合(日本代表対セネガル代表)は、ヴァンサンと一緒に(彼のクルマで)パリから観戦に行ったのですが、帰りの車中では、セネガルの話題で持ちきりになったものです。

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 昨日、ヴァンサンをホテルに尋ねたときは、もちろんブラジルについても話し合いました。「さて、決勝だけれど、どうかな・・」。そんな私の問いに対し、「まあ・・普通だったらブラジルの方にチャンスがあるとは思うけれどネ・・。ケンジは、ドイツの応援だろう・・?」。

 もちろん私はドイツを応援はしますが、そこには、良いサッカー(様々な意味を包含します・・決して美しいだけではありませんヨ!)を展開した方が勝利をおさめるべきだという「ロジカル」な期待もあるわけです。

 「でもさ、トルコ戦でのブラジルは、ビックリするくらい組織プレーもうまく機能していたよな。クレベルソンとジウベルト・シルバの守備的中盤コンビもよかったしな。ということは、やはりロナウジーニョの才能が、諸刃の刃だということかな・・」と、私。それに対し、「アハハハッ!」とひとしきり腹を抱えたヴァンサン。そして、「そうだよな。ヤツは天才だし、ツボにはまったらもう誰にも止められない。でもな・・」と、言葉を濁します。

 私は確信しているんですよ。ロナウジーニョが、決勝戦の行方のキーポイントになる選手だってネ。

 この日のブラジルは、決勝ゴールを挙げるまでは、素晴らしくソリッドなサッカーを展開しました。それでも、後半も中盤を過ぎる頃には、守備ブロックの足が止まり気味になり、トルコの前への勢いを「余裕をもって受け止める」ことができなくなってしまいます。何といっても、人数はいるけれど、ボールのないところでのマークがいい加減になっていましたからネ(次のパスに対する読み=思考=が停止状態に陥ってしまっている!)。そして、受け身のディフェンスに落ち込んでいきます。

 その結果として、ボールを奪い返してからの後方からのサポートが消極的になり、中盤でのキープもままならなくなっていきます。普通の(リードしている状況での)ブラジルだったら、確実なキープ(=相手の前への勢いを殺ぐための心理的な武器)を駆使したはずなのに・・。

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 「スコラーリ(フェリペ)がブラジル代表の監督に就任してから1年以上の期間があったわけだけれど、実際には、チームをまとめる作業に割ける時間は、あまりなかったんだよ。何といっても選手たちの大半はヨーロッパでプレーしているしな・・。彼は、いまのサッカーに賭けていると思うよ。天才たちの輝きにな・・。もちろんそのために必要な守備固めを前提にして・・」。ヴァンサンが言っていました。

 とにかく、トルコ戦でのブラジルが(少なくとも決勝ゴールを入れるまでは!)、今大会最高のサッカーを展開したことだけは確かな事実だと思います。そのキーマンになったのが、(守備的ハーフコンビを除いて!)レイソルで活躍したエジウソン。彼が、二列目で動きまわり、シンプルにボールを動かす「作業」に徹していたからこそ、天才たちのワザも、これまで以上に活かされたと思うのです。

 もちろん(エジウソンの)スピードや突破力などは、全盛期からすれば比べものになりません。それでも、しっかりとしたタメを演出できるし、シンプルな展開パスを回し、次の瞬間には、忠実に「パス&ムーブ」を実践しつづける。そんな彼のプレー姿勢が、ブラジルの攻撃ブロックが描く「イメージ」に、ポジティブな影響を与えたことだけは確かだと思います。

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 前半17分。この試合でもっとも美しいかったブラジルの攻めが成就しかけます。私にとって、そこでの起点は、エジウソンでした。

 後方からパスを受けたエジウソン。前にはスペースが広がっています。すぐにドリブルで上がりかけますが、トルコ選手が、そのスペースを「埋め」ようとし、彼へもプレスを掛けてきたことで、一度切り返します(エジウソンの周囲に4-5人のトルコ選手が集ってきていた!)。そして、チョン!と、押し上げてきたブラジル選手(たぶんジウベルト・シウバ)へ横パスを出したのです。この「展開パス」が良かった。この、短い横パスによって、「次」の数人のブラジル選手たちの仕掛けイメージが確立された・・そう思うのです。

 そしてそこから、素早く、タテでフリーになっていたリバウドへボールが走ります。一旦トラップし、前方からと後方から迫るトルコ選手を「引きつけた」リバウドが、最前線で、スッと「引いて」フリーになったロナウドへタテパスが通すのです。それが勝負の瞬間でした。

 このジウベルト・シウバからリバウド、そしてロナウドという「タテのボールの動き」によって、トルコ選手たちが、そのゾーンへ引きつけられ、右サイドを上がってきたカフーが、完璧にフリーになってしまいます。もちろん、リバウドからのタテパスを受けた段階で、ロナウドには、その状況が明確に見えていました。そしてリラックスした姿勢でトラップし、(ほんの、コンマ数秒)イメージ的な「タメ」を演出したロナウドから、本当に柔らかな「ファウンデーション・ラストパス」が出されるのです。素晴らしい・・。

 最後は、カフーのワントラップシュートが、トルコのスーパーGK、レクベールに弾かれてしまいましたが、それは、それは素晴らしい「組織ベース」のチャンスメイクではありました。

 このシーンですが、私は、過去のワールドカップにおける「伝説ゲーム」のワンシーンを思い出していました。それは1970年メキシコワールドカップ決勝。ブラジル対イタリアでのブラジル四点目のシーン。

 ロナウドと同じようなカタチでパスを受けたペレ。同じように「一瞬のタメ」を演出し、そして、右サイド後方からフリーで駆け上がってくるカルロス・アルベルトへ、ピタリのタイミングと球種のファウンデーションパスを送り込んだのです。

 「背中にも目があるペレの真骨頂」と絶賛された伝説的なアシストでした。もちろんアルベルトの「怒濤のダイレクトシュート」も凄かったですがネ。

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 さて決勝。前述したように、私は、(個人勝負にこだわりつづける)ロナウジーニョを使うかどうかがキーポイントだと思っています。たぶんスコラーリ(フェリペ監督)は、この試合での「優れた内容」とは別次元の「こだわり(!?)」で、彼を使ってくることになるでしょう。「ウィニングチームネバーチェンジ」という原則を曲げてでもネ(まあ、イングランドとの準々決勝の内容も、ウィニング・・と言えないこともありませんが・・)。

 スコラーリのこだわり・・『強固な守備ブロックをベースに(そのことについては大いに疑問は残りますが・・)、前線の三人(リバウド、ロナウド、ロナウジーニョ)とサイドの二人(ロベカルとカフー)が繰り広げる、個人的な才能を前面に押し出した美しい仕掛けでゴールを奪って勝つ!』

 対する「職人集団」のドイツでは、絶対的な主力の一人、ミヒャエル・バラックが出場停止。私は、ドイツ代表にとってこのことが、最終的には「プラスの方向へ転ぶ」と踏んでいます。追い込まれたときのドイツの強さ・・。それです。

 ドイツのことになると、どうしても「ナイーブ」になってしまう湯浅!? まあそれも、最後の最後まで、ワールドカップを心から楽しんでいる湯浅のことだから・・とご理解いただければ幸いです。

 さて、「究極の心理ゲーム」であるワールドカップの決勝が二日後に迫ってきました。

 あっと・・、明日は三位決定戦でした。「成績に応じた報奨金(ボーナス!?・・正式な名称は、どうでしたっけ!?)」が違いますし、何といっても韓国はホームですからネ。また、ここ最近では「三位」というポジションにも、かなりの重みが出てきましたから、両チームともに全力の闘いを展開してくることでしょう。こちらも楽しみです。では・・。




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