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立派なサッカーを展開しただけではなく、世界&ヨーロッパチャンピオンのフランスに勝利をおさめてしまったセネガル。それも、ワールドカップの開幕戦で・・。
彼らが立派なサッカーを展開するだろうことは、これまで様々なメディアで書いたり、語ったりしてきました(前回の私の「ガンバレ、セネガル!」を参照してください)。また3月には、セネガル監督のブルーノとも対談し(東京中日新聞、サッカーマガジン、週刊プレーボーイに掲載)、彼のコンセプトを理解することで、大会でのセネガルの活躍に対する確信が、より深まりました。
でもね・・、本当に正直なところ・・、まさかフランスに勝利をおさめるような「目立ちかた」をするとまでは思っていませんでしたよ。
まあとにかく、セネガルが、立派な、本当に立派なゲームを展開し、成功裏に「世界デビュー」を果たし、「本物のダークホース」としての存在感を高めたことを心から喜んでいることだけはお伝えしたくて・・。
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試合の立ち上がりは、典型的な「開幕戦ゲーム」の様相を呈していました。要は、互いに守備を固める慎重プレーでゲームに入っていったということです。とはいっても、攻守にわたる局所的な競り合いでは、もの凄くハイレベルな「コンテンツ(守備での読みや、強者たちの全力での競り合い、はたまたウラ取りのフリーランニング等々)」が詰め込まれていましたけれどネ。まあ、フランスも、セネガルを警戒していたということです。
セネガルは、ラミーン・ディアッタとマリック・ディオップを、最終ラインのセンターコンビに据えます。そして、いつもは最終ラインのリーダーとして素晴らしいプレーを展開するシセを、中盤に上げます。面白い・・。要は、ブルーノ・メツが、フランスの「ツボ」を二列目だと考えていたということです。もちろん普通だったらそこにジダンがいるわけですからネ。でも、この試合では・・。
その「シセ」を中心に、ディアオとボウバ・ディオップで構成する「トリプル」気味の中盤の守備ブロック。それが、殊の外うまく機能します。フランスの攻めが、最前線(トレゼゲとアンリ)と中盤(ジョルカエフ、ヴィルトール)が分断されたことで、機能不全に陥ってしまったのです。
またセネガルの攻撃的ミッドフィールダーコンビ、ファディガとモウサ・ンディアイエも積極的にディフェンスに入るために、フランスの「カゲのゲームメーカー」、ビエラとプティーのコンビも、攻撃ではうまく機能しません。
全体的にはフランスが押しています。それでも、うまく攻撃を組み立てることができず、たまに繰り出されるセネガルのカウンターにタジタジといった具合。前半での枠に飛んだシュートの数では、押されている(ように見えた)セネガルの方が「一本」多かったりして・・。そこなんですよ、ブルーノが意図した「ゲーム戦術」は。まあ、当たり前の表現になってしまいますが、「しっかりと守り、カウンター気味のシンプル攻撃を決める」・・。
とにかく彼らは、開幕戦に標準を絞って準備を進めてきたということです。そして、世界中に彼らの存在を知らしめました。
これから注目が集まって大変なことになるでしょう。そこで舞い上がらず、しっかりと「今のフォーム」を維持するだけではなく「トーナメントでの生長」を意識して集中しなければいけません。ここからが、監督としてのブルーノの手腕の見せ所なのです。
機会があれば、大会期間中でも、ブルーノと対談したいものですが・・。
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それに対してフランス。大会が始まる前から、選手やコーチングスタッフ等が、「開幕戦がもっとも重要だ・・」という発言をくり返していました。それでも、優勝を明確に意識している彼らが、第一戦にトップフォームにもってくるのは考えにくい・・。トップフォームを維持できるのは、本当に限られた時間スパンだというのが常識ですからネ。
でも、決して油断していたわけではないと思いますよ。セネガルの選手たちは、全員がフランスリーグ所属ですし、彼らの実力は、フランス代表の選手たちが一番よく分かっているハズです。また、フランス代表のビエラ、存在感抜群の新人、シセは、実はセネガル人ですからネ。
まあ、(冒頭の部分で示唆したように)この試合では、ジョルカエフが機能しなかったということです。
ジダンの「パスリズム」は、選手全員が明確に理解しています(もちろん感覚的に!)。だから、ボールのないところで狙う味方の動き出しのタイミングに統一感がある。でもジョルカエフの場合は、「場当たり」的な(周りにはそう感じられる)ボールコントロールやパス出しタイミングですからネ。まあそのことについても、セネガルの中盤守備が堅牢だったからという視点を忘れてはなりませんが・・。
それでもジョルカエフの出来が良くなかったことだけは確かな事実。そしてそのために「周り」の足が止まり、フランス特有のリズムを奏でる「ボールの動き」が停滞気味になっていきます。
ボールホルダーのプレー(トラップ&コントロール、エスプリ満載のキープ等)に「確固たるリズム」があること、周りの動きに統一感と「忍耐」があること、コンビネーションプレー・イメージに統一感があること等々、それらの多様な要素が(それらの有機的な連鎖が!)、「ボールの動き」という、捕らえどころのないグラウンド上の現象を大きく左右してしまうということです。
でもこの試合では、それらの要素のうち、確実に「ボールホルダー(ボールが集められる選手)」のプレー内容が、「結果」にとって、もっとも重要なファクターになっていたということです。
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それでも、後半のフランスはペースアップしてきます。トレゼゲのヘディングシュート、アンリのドリブル突破、ビエラのフリーヘディングチャンス等々。
でも逆に、そんな猛攻をフランスが仕掛けてきたからこそ、セネガルの「守備力の高さ」が目立ってしまったともいえます。強いヘディング、ボールのないところでの忠実な守備、またクリエイティブな「読み」(=インターセプト、アタック、マーキング等々)、そしてGKシルバの才能等々。もちろん、彼らの高い身体能力(スピードとパワーなど)をベースにしてね。いや、素晴らしい。
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もちろん、全体的なチーム力ではフランスの方が上でしょう。そのことは明らかな事実です。また、前半22分のトレゼゲのシュートが入っていたら、その後のゲーム展開は、まったく違ったものになっていたに違いない・・という事実も残ります。そして忘れてならないのは、この試合に「ジダン」がいなかったことです。
とはいっても、そのことで、セネガルが魅せつづけた高質なプレーに対する評価が下がったりすることはありません。彼らの高い実力は、この試合を通じ、世界中の人々が鮮明に認識されたに違いないのですから。
ところでジダンですが、この試合では、彼が「代替の効かない中盤の王様」だということが証明されてしまいました。ピレスさえいれば、かなりレベルで、ジダンを忘れさせてくれるんですがネ。去年のコンフェデレーションズカップのときのように・・。
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とにかくこれで、フランスは、ガンガンといかなければならなくなってしまいました。逆にセネガルは、グループのトップ通過も夢ではなくなった(グループでの最終順位をコントロールしやすくなった)・・ということです。
フランスは、次のウルグアイ戦に全力で臨むことになります。またセネガルも、次はくせ者のデンマークですからネ(フランス大会で、ナイジェリアが「4-1」でキックアウトされた相手!)。Aグループから目が離せなくなった・・。
ちなみに湯浅は、次の「セネガル対デンマーク戦」を、韓国の「テグ」で観戦する予定です。
でもその前に、明日は、朝一番で「札幌」へ移動してドイツ対サウジを観戦し、次の日には、鹿島へ移動してナイジェリア対アルゼンチンの観戦。また、他のメディアの原稿も・・。フ〜〜。
でも私は心に決めています。「とことん、ワールドカップを楽しむゾ!」ってね。楽しまなければ良い原稿が書けるはずがありませんからネ。では・・