そこは、プサン空港から乗ったタクシーのなか。時刻は、1200時をまわったところです。私は、ドライバーの方に向かって叫びつづけていました。何といっても、セネガル対デンマークのキックオフまで、もう「2時間30分」しかないんだから・・。
今朝、3時間ほど自宅で「仮眠」し、すぐに成田へ向かいました。目的地は「テグ」。でもタイムマネージメントが難しい。なんといっても、当日に、東京からテグへ、プサンを経由して、それも「1430時」までに到着しなければならない・・。
幸運なことに大韓航空のフライトは、遅滞なくプサンに到着します。でもイミグレーションに時間がかかる。ここは一つ・・。
「申し訳ないけれど、私はジャーナリストで・・」と、AD(プレスIDカード)を見せながら、近くにいた係員の方に話しかけます。「とにかく時間がないんですよ。これからテグまで、2時間でいかなければならないんです。ここには、ジャーナリスト用のイミグレーションカウンターはありませんか・・」なんて、口角泡を飛ばす勢いで説明する湯浅なのです。
その係官の方は、すぐに「では、こちらへ・・」なんて、私を誘導します。どこへかって・・!? 入国される方々が並んでいる最前列へですよ。そして、入国審査官の方へ「この方は、急いでいるから・・」なんて韓国語で話したんでしょう。すぐに、入国審査官の方が私を手招きします。それでも、そこに並んでいる数十人の日本人の方々には・・。この方たちは、この日プサンで行われるフランス対ウルグアイを観に来たに違いない。
私は、すぐに並んでいる方々へ向き直り、「これから、テグまで試合を見に行かなければならないんです。申し訳ないですが・・」と、声をかけた次第。そこでの皆さんのリアクションは優しかったですよ。先頭の方が、ニコニコ微笑みながら、「どうぞ、どうぞ・・」ってな具合。本当に感謝いたします。もちろん、その先頭の方だけではなく、その後ろに並んでいた日本人の方々に対しても・・。
この場で、もう一度。「本当に、順番を譲っていただいて、心から感謝します!!(そして心のなかで・・とにかく、試合は、ちゃんとレポートしますからネ!・・なんて・・)」。
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さて、タクシーの運転手の方との会話。プレスADを見せながら、「テグッ! テグッ!」。そして、「ワールドカップ! ワールドカップ!」なんて連呼します。
その運転手さん、ホント、私を落ち着かせてくれましたよ。ニコニコ笑いながら、「オーケー! オーケー! テグ・・ワールドカップ・・スタジオン。オーケー!」、なんてネ。いや、感謝です。
結局、日本円で17000円くらい払ったでしょうか。それで、時間通りに、それも少し余裕をもって到着できるのだから安いものです。あ〜〜よかった・・。
そしてこちらは、少し落ち着いたところで、資料を見はじめ、原稿を書きはじめました。そして気付いたんですよ。「あっ!!!! キックオフは、1430時じゃなくて、1530時だ!」ってネ。なんてこった! いや、お恥ずかしい。どうして時間を勘違いしていたんだろう・・。でもよかった。これで時間的な余裕もできた・・。そこで、またまた、イミグレーションで順番を譲ってくれた日本人の方々に、「アリガトウございました・・」なんて思った次第。ホント、バカだな、オレって・・。
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いまは、テグへ向かうタクシーの中なんですが、運転手さんの安全運転に(前回のソウルのタクシードライバーとは雲泥の差!)、かなり安心させられ、急に「創作意欲」が湧いてきました。ということで、昨日は書きそこなったアメリカ対ポルトガル戦について短評。
アメリカは、とにかく爽快なサッカーを展開しました。それを見ていて、すぐにシドニーオリンピックでのアメリカ代表のことを思い出しましたよ。彼らの「戦術的な発想」は一貫している。攻守にわたる、労を惜しまない組織プレー。ボールのないところでの「クリエイティブなムダ走り」をベースに、クルクルとボールが動き、そして勝負所では、しっかりと単独ドリブル勝負にだってチャレンジしていきます。そのメリハリが素晴らしい。テクニックも十分。そして定評ある運動量とスピード。いや、爽快なことこの上ありません。
彼らには、大いなるモティベーションがあるに違いありません。もちろん、まず、昨年の「9月11日」のこと。そして次が、「合衆国におけるサッカーの社会的ポジション」です。日本の新聞報道によれば、アメリカ国内で中継されるワールドカップは、ほんの数試合。それも、自分たちの代表チームの開幕ゲームは中継されない・・、そしてケーブルテレビだけ・・という悲惨な状況にあるらしいのです。
その背景には、いくつかの要因が考えられるでしょう。「つねに世界一でなければ気が済まないアメリカ人・・」なんていうのもその一つかも・・(「ヤツらはアロガントだ!」なんてシドニーの人々が言ってたっけ・・)。だから、世界一の「女子サッカー」は、ものすごくポピュラーですよ・・アチラでは。
アメリカ代表の選手たちは、そんな、自分たちが置かれたポジションを何とか好転させようと、チーム一丸となっているというわけです。
いま、HPやサッカーマガジン「1/4コラム」での、2000年のシドニーオリンピックに関する原稿を読み返してみました。そこで私は、アメリカチームに対して、「彼らは、確実に、世界での存在感を高めていくに違いない・・」なんて書いていました。フムフム・・
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対するポルトガル。私は、ワールドカップ地域予選での彼らのゲーム内容には、あまり納得していませんでした。もちろん「個人的なキャパの高さ」と「チームとしての現状パフォーマンス」の乖離についてです。あのハイレベルな「才能」からすれば、彼らは、もっともっと美しく、強いサッカーができるはず。でも、どうしても「個」が優先され過ぎ、そのことで「組織と個のバランス」が理想的な状態とはかけ離れていると感じているのです。
もちろん才能レベルによって「組織と個のバランス状態」は、大きく相違します。要は、「目的を達成する」ためのベストな「やり方(チーム戦術)」は、監督のコンセプト(彼自身がやりたいサッカー!)だけではなく、「個」のクオリティーやキャラクター、はたまた文化背景や自然環境などなども大きく影響してくるということです。
とにかく私は、ポルトガルが「ベストなバランス」を見いだしていない・・と常々思っていたんですよ。ということで、昨日のゲームもそうでした
守備の乱れも目立ちましたが、私が一番気になったのは、何といっても停滞気味の組織プレー。あれだけ個々の選手たちが、いたる所で「こねくり回し」たら、周りの足が止まるのも道理。彼らのサッカーに、「有機的なプレー連鎖」は、あまり見ることができません。クリエイティブな「個のプレー」をするのは、まあ、2-3人が限度ですよ。その選手たちが、主に「起点」になるようにすれば、周りの味方がもつ「動きに対する意識」にも統一感が出てくるものです。
「フィーゴがボールをもった。アイツは、あそこで、ディフェンスを引きつけるキープドリブルをする。よし、ちょっとタイミングを計ってから(動きをタメてから)、スペースへ爆発フリーランニングだ!」なんてネ。
まあポルトガルも、これで覚醒したでしょう。次からは、2年前のヨーロッパ選手権のような、高質サッカーを展開してくれるに違いありません。
これで、韓国、米国、ポルトガル、ポーランドが入るD組は、分からなくなりました。完全に調子を狂わせているポーランドは別にして、潜在力では一番のポルトガルが、「勝ち点での二強」を追いかけるという展開になってしまったんですから・・。
韓国は、素晴らしいサッカーで初戦を勝利で飾ったとはいえ、決して油断してはいけない・・。もちろんそのことは、私が言うまでもなく、ヒディンク監督の「深い眉間のシワ」が如実に物語っていますよね。
またまた、本命のカードの前のレポートが長くなってしまって・・。さてそれでは、A組では最高の勝負マッチになるに違いない「セネガル対デンマーク」です。
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とにかく、テグは、暑い、暑い。30度は確実に超えているに違いない。デンマークにとっては、つらいだろうな・・なんて思っていました。でも、ヨーロッパチームが、この暑さで「どのように変化」するのかについて明確なイメージを持てるかもしれない。その意味でも参考になるゲーム・・。
このゲームでは、シセが怪我のために出場していません。代わりに、サールが登場。まあ大きな戦力低下はないでしょう。この試合でもセネガルは、トリプルの守備的ハーフシステムで臨みます(ディアオ、パパボウバ・ディオップ、そしてサール)。
それは、デンマークも同様。こちらはベストメンバーです。これは、絶対に面白いゲームになる・・。
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さて、試合がはじまりました。
最初、こんなことを考えていました。「小さなコト」の積み重ねが、サッカーのゲームの大きな流れを形成する・・。
立ち上がり、まだデンマークに「暑さ」が襲いかかっていない時間帯。そこでも、明確に「小さなコトでの差」が見えてきます。もちろんセネガルの方が明らかに上。
守備では、互いのポジショニングバランスを基盤に、ボールホルダーへのチェックをスタートラインに、次のパスを狙う者、ボールの動きの停滞をターゲットに、協力プレスを狙う者など、美しいハーモニーを奏でます。また攻撃でも、一人ひとりの「個の能力」だけではなく、その集積としての組織プレーにも、差が明確に感じられるのです。
「静か」ではありますが、ゲームを「小さな差の積み重ね」で制圧しはじめるセネガルという展開。全体的な「僅差の輪郭」がだんだんと明確になっていきます。
でも先制ゴールは、デンマークでした。前半14分。セネガルがPKを取られてしまったのです。ベストタイミングで走り抜けたトマソンへ、スローインからパスが通る。そのとき、セネガルのディオップが、一瞬、集中を切らせてしまうのです。そして後方から追いついてアタックしたディオップが、トマソンを押し倒してしまったというファール。
さすがトマソン・・という、ボールのないところでの爆発フリーランニングではありました。そしてそれを、トマソンが確実に決めてデンマークが先制。デンマークの「経験」を明確に感じさせられたゴールではありました。
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その後セネガルが、コーナーキックから、抜群のヘディング力で、惜しいチャンスを作り出します。ヤツらのヘディングは本当に強い。だからこそ、また守備が強いからこそ、膠着状態でも「勝ち抜ける」という気にさせてくれるのです。
でも、ちょっと、セネガルのフラット最終ラインに脆さが見えたりします。再び、トマソンの「走り抜け」を許すシーンが出たのです(先制ゴールの後!)。フラットラインに並ぶ選手たちの「間」を抜けていく決定的フリーランニング。もちろんカウンターの状況です。
デンマークは、セネガルの強さを明確に体感し、そして自然の流れとして「守り主体」になっていきます。そして、そこからのカウンターを狙う。そんな展開の背景には、デンマークの選手たちの身体を、徐々に「蒸し暑さ」が蝕んでいったということもあるでしょう。
31分。「膠着」しはじめたゲームでしたが、セネガルがフリーキックから、またまた大きなチャンスを迎えます。しつこいですけれど、彼らのヘディング能力は、本当に抜群。「あの」デンマークでさえ、抑えきれるという雰囲気がありません。とにかく必死に、本当に必死に、忠実なディフェンスを展開し、ワンチャンスのカウンターを狙うデンマーク。
このデンマークのカウンターですが、そこでの「イメージ・シンクロ」プレーは、やはり素晴らしい。これこそ経験を積み重ねた「伝統」なんでしょう。素早いタテパスが出そうになった瞬間、トマソン等、フィニッシャーたちが、全力ダッシュでセネガルゴールへ迫ります。まあ、セネガルの選手たちも、そんなデンマークの「一発走り抜け」のタイミングが掴めてきたようで、前述したようなウラを取られるシーンは、もう目立たなくなります。とはいっても、デンマークのオフサイドが二度、三度とつづきます。彼らは、ここしかないというタイミングでの走り抜けを狙っている・・。少しでもタイミングがズレたら、すぐに失点につながってしまう・・。
前半終了間際、またまたセネガルがセットプレーから、「えっ、どうしてこれがゴールにならないの!?」という絶対的なチャンスを迎えます。それでも、流れのなかでは、デンマークが展開する必死のディフェンスによって、最後のところまでは崩しきれないセネガル・・。
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ハーフタイム。久しぶりに、友人の、フランス・フットボール誌の著名ジャーナリスト、ヴァンサン・マシュノーと再会しました。そこで、イタリアの「ガゼッタ・デル・スポルト」の記者にも紹介されたのですが、彼らと話す内容は統一されていました。「セネガルが、個人でも、組織でもデンマークを凌駕している・・まあ同点ゴールは時間の問題だな・・」。
さて後半、この蒸し暑さのなかで、デンマークがどこまで持ちこたえられるのか。前半だけでも、彼らの運動量の減退が明確に感じられていましたからネ。さて・・
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後半、モウサ・ンディアイエ、そしてサールが、ソレイマンとアンリの両「カマラ」と交代します。ブルーノが勝負をかけてきたのです。「デンマークは足が止まりはじめている。よし、ここで一気に逆転だ・・」。
そしてセネガルが早々に魅せてくれます。まず、アンリ・カマラが、右サイドを抜群の迫力ドリブルで突破し、そのままラストパスをデンマークゴール前に送り込みます。惜しくもクリアされましたが、その流れが継続し、今度は逆サイドにボールが振られます。そしてファディガが、これまたドリブル勝負でデンマークディフェンダーを外し、正確なセンタリングを送り込んだのです。そこには、フランス戦で唯一のゴールを決めた、ディオップが入り込んでいました。フリーのヘディングシュート! でも、大きくバーを越えてしまって・・。
もうここからは完全にセネガルペース。そして51分。完璧なカウンターから、セネガルが同点ゴールを挙げます。スコアラーは、ディアオ。
右サイドで、ディアッタが(だったと思いますが・・)素晴らしいタックルでボールを奪い返し、前線のデュフへ。デュフは、そのタテパスを「チョン!」と、ヒールで中央ゾーンへ。そこにはディアオが・・。
そのままディアオは、逆の左サイドをフリーで駆け上がるカマラへ展開パスを出し、自身は、ガン!と、最前線へ決定的フリーランニングです。そして最後は、まったくフリーになった「その」ディアオへのパスが通り、そのまま「ピンッ!」と、デンマークゴールの右隅に「パス」を決めたという次第。目の覚めるようなカウンター攻撃でした。
それにしてもセネガルは、あんなにシュートがうまかったっけ・・、なんて思っていた湯浅でした。でもそこから、またまた「現状」が見えてきてしまって・・。
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この時点で、デンマークはバテバテ。彼らが目指す流動サッカー。でも、選手たちの足が止まってしまったら・・。そして完全なセネガルペースになっていきます。カウンターのチャンスが訪れても、もうデンマークには、イメージがシンクロしたダイナミズムを放散するだけのエネルギーが残されていない・・。
でもそこから、セネガルの悪いクセが・・。そう、決定的なシュートミス。昨年10月の日本代表との試合でも、何本も、何本も外しまくりましたからネ。それがここでも・・。
左サイドでボールをもったデュフが、抜群の「タメ」を演出し(この瞬間、二人プラスアルファーのデンマーク選手たちが、視線と意識を引きつけられてしまう!)、そこから夢のようなスルーパスを、ゴール前でまったくフリーになったソレイマン・カマラへ通します。でもカマラの放ったシュートは、デンマークゴールの左ポストを数センチ外れていってしまう。またその数分後(71分ころ)には、コーナーキックからの、完璧に競り勝ったディアッタのヘディングシュートが右ポストを数センチ外れていく・・。いい加減にしろよ、ホントに! もっとシュート練習をさせろよ、ブルーノ!
そんな、いつ勝ち越しゴールが決まってもおかしくないという展開のなか、79分にアクシデントが・・。
中盤でボールを競り合ったヘンリクセンに対し、ディアオが、足裏を見せてタックルに入ったのです。それが、ヘンリクセンのスネに、まともに入ってしまって・・。危険なタックル。レフェリーが「一発レッド」で退場にしたのは正しい裁定でした(ディアオは62分にもイエローを受けていた)。
やはり経験が足りないのかな・・。たしかにボールにはいこうとしていたけれど、それでも、まともに足裏を見せてタックルに入るのは明らかに危険なプレーだし、それが一発レッドになってしまう危険性が高いというのは常識なのに・・。
これでゲームの流れが変わらなければいいけれど・・。
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そこで、ブルーノが動きます。後半から登場したソレイマン・カマラに代え、中盤のディフェンス要員として、バイエを入れたのです。そして、一人足りないセネガルが、ゲームのペースを握りつづけます。底知れないキャパシティー。彼らは、まだまだ発展できる大きな余地を残していると感じます。
ゲーム終了直前の時間帯は、もう引き分けでもいい・・ということで、守備をキッチリと組織するセネガル。そうなったときのセネガル守備ブロックは、それこそ鉄壁です。人数をかけて攻め上がるデンマークですが、チャンスの芽さえ演出することができませんでした。
そして、そのままタイムアップ。
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もう一つのA組の試合、フランス対ウルグアイ。それは、「0-0」の引き分けでした。ということで、このグループでは、デンマークが勝ち点「4」でトップ、つづいて、同勝ち点ながら得失点差で二位のセネガル。そしてフランスとウルグアイが、勝ち点「1」です。
王者フランスが、土壇場まで追い込まれた。退場のアンリ、累積警告のプティーは、当然次の試合は出場停止。さて・・
追い込まれたからこそ、彼らの実力が存分に発揮されるに違いないと期待する湯浅です。そして、フランスと(兄貴分を助けるという意志を強くもつに違いない!?)セネガルが決勝トーナメントに進出する・・。特にフランスは、そんな苦しい状況を繰り返し経験しつづける猛者のグループですからネ。
まあこれで、観る方にとって、ものすごくエキサイティングな展開になったということですかネ。
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テグでの試合の後、空路、ソウルまで移動しなければならず(もちろん到着してからは、タクシーでホテルまで!)、アップするのがちょっと遅れ気味になってしまいました。東京中日新聞の原稿も上げなければなりませんでしたからネ(東京中日新聞の夕刊での連載です!)。
さて明日は、朝一番で札幌へ移動します。もちろん、アルゼンチン対イングランドを観戦するため。今から楽しみで仕方ありません。