その作業と平行して、私のHPでも、過去に発表した「プリントメディア文章」をご紹介差し上げながら、ワールドカップを(準備期間も含め)振り返りたいと思います。
そこでは、中田英寿のパルマでの「揺動」について、フィリップ・トルシエのこと(彼を中心にした、協会、選手、そしてメディアに対して、ある一定レベル以上のテンションを維持しつづけたことが、彼の最大の功績!)、ベルギー戦の途中からレギュラーを確保した宮本のこと、そしてもちろん本大会でのプロセス等々、順を追って取り上げていきたいと思っています。
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ということで、まずその一回目として、パルマで苦労した中田英寿。
下記にご紹介する最初の文章は、今年の3月中旬、中田英寿が、パルマで復活の予感を感じさせはじめた頃、サッカーマガジンに寄稿した原稿です。
そして「二つ目の原稿」は、その二週間後におこなわれたポーランド戦の後、同じくサッカーマガジンに発表した文章。読み比べてみると面白いかも・・ということでアップすることにしました。では・・
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中田英寿・・脅威と機会の狭間で・・(タイトルです)
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「守備戦術をガチガチに徹底しすぎだとは思わないかい・・?」
もう5-6年も前のことになるが、ドイツサッカーコーチ連盟主催の国際会議で、アドリアーノという、一人のイタリア人コーチと知り合った。彼はイタリア地方協会のコーチとして、ユースの指導などにあたっているということだった。彼自身もドイツに留学していたから、会話はドイツ語でオーケー。もちろん話題の中心は、イタリアサッカーである。とにかく現場コーチの基本的な考え方をより詳しく知りたかった。
アドリアーノは、イタリアサッカーは、守備においてポジショニングバランスをものすごく大事にするし、ユースの選手たちにはまずそのことを教えると熱弁をふるう。たしかにサッカーでは守備がすべてのスタートライン。それが安定していなければ、優れた攻撃を組み立てることなど望むべくもない。ただ、イタリアの守備は、あまりに決まり事が強調されすぎていると感じていたボクは、その疑問をぶつけてみた。「守備にはいったら、できる限り、基本ポジションに戻ってバランスをとることをベースにするのかい? それじゃ、次の攻撃は、前線の選手たちに任せきりになるだろうし、変化だって演出するのは難しいんじゃないのか・・」。
「たしかにイタリアサッカーは、ファンタスティックな攻撃はできないかもしれないけれど、それって最後は個人の才能に頼るところが大きいからな。でも守備は、しっかりしたロジックを徹底すれば、組織としてどんどん伸びる。とにかくサッカーの基本は守備なんだよ・・」と、アドリアーノ。彼は、「あの」アリゴ・サッキを信奉しているらしい。そう、いま中田英寿が所属しているパルマの実質的な監督(テクニカル・ディレクター)である。
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アリゴ・サッキとカルミニャーニ監督のコンビは、二部落ちの危機に立たされていたパルマを、システマティックな守備戦術の「徹底」をベースに建て直しつつあるように見える。最初は明確なチャンスメーカーを置かず、まず中盤守備の強化をはかることでチーム内の戦術イメージを統一し、それがうまく機能しはじめたところで、ミクーを二列目に配置した。そして、中田英寿がベンチへと追いやられる。「守備の意識が低く、チーム戦術に適応できていない(3月12日、報知新聞)」という理由で・・。
中田英寿に対する、チーム首脳陣のディフェンス評価は驚くほど低い。「あの」中田がである。要は、彼らが考える、ポジショニングバランスを重視する「守備戦術イメージ」に適合しないということらしい。勝ちにこだわる典型的な「戦術サッカー」。そこでは、個人の自由度は、かなり抑えられる。
「中盤を強くするために、(あまり動きまわらずに)ポジションをキープして守備をより強化する・・(パルマ、ゾラットコーチ)」というのが、今のパルマの発想であり、中田は、ポジショニングバランスを重視するパルマ守備戦術への忠誠心が低いと評価されているということだ。
ペルージャ、ローマと渡り歩き、パルマで、自由なチャンスメーカーとして10番を与えられた中田。彼は、中盤守備で追いすぎず、常に、味方がボールを奪ったときに前線でのタテパスターゲットマンになる・・というウリビエリ監督の戦術サッカーを実践することで、ディフェンスに対する発想が希薄になっていったのかもしれない。とはいっても、彼が、非常にクレバーで実効ある守備能力を備えていることも確かな事実である。
まだ見ていないが、いま中田は、守備的ハーフまでポジションを下げられているという。そこでもまだ、信頼を勝ち取るまでには至っていないようだが、それを聞いたとき、「ものすごくポジティブな環境変化かもしれない・・」と、直感的に思ったものだ。中盤の底。彼本来のクリエイティブでダイナミックな守備感覚がよみがえってくるに違いない。それさえ戻れば、攻撃のリズムもよくなるはずだ。もちろんまず、臨機応変なタテのポジションチェンジを制限する、厳格なパルマの守備戦術という「壁」を乗り越えなければならないわけだが・・。
ボクは、もし中田が(何らかのこだわりを捨てて!?)中盤の底というポジションの魅力を『自ら』見いだせたら、必ずや世界レベルの「ボランチ」にまで成長すると確信している。ドゥンガやヴェーロンなど、守備を基調にしながらも、後方からの創造的なゲームメイクで決定機までも演出してしまうようなチームの重心・・、それである。確実に中田は、そのクラスにまで成長できるだけのキャパシティーを備えている。そうなれば、もうどんなポジションでも完璧にこなせるようになるに違いない。
脅威と機会は表裏一体。特に非定型なサッカーでは、その格言がピタリと当てはまる。自分の意志さえ強く持てば、脅威をも、ステップアップするための大きな機会に変容させられるのだ。何といっても中田英寿は、十分すぎるほどのインテリジェンスと、サッカー選手としてのたぐい希なる天賦の才に恵まれているのだから。
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そして上記の文章を発表した二週間後、完璧な復活を果たした(まあパルマでは、既に完全復帰を果たしていたわけですが・・)中田英寿が、ポーランド戦のグラウンド上にいました。
そこで魅せた、インプレッシブなプレーを見ていて、自然と下記のような文章(上記の文章を発表した二週間後のサッカーマガジンで発表!)が出てきたというわけです。では・・。
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解放された中田英寿・・(タイトルです)
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「すごいぞ・・ナカタは。これまでアイツは、ベンチだったんだって? 信じられないね。基本的には、ちょっと下がり気味でプレーしていたけれど、前へ、後ろへと、それはダイナミックに動きまわっていたぜ。効果レベルでは、確実にベストプレーヤーの一人だったよ。それに、あれだけの攻撃センスをもっていながら、守備でも、しっかりと汚れ役に精を出していたからな。特に、ここぞっていう場面でのボールがないところでの忠実なマークや、わざと間合いを空けてから仕掛けるアタックなんかも感動ものだったぜ・・」。
自分では見ることができなかったので、ドイツの友人に、パルマ対ユヴェントス戦をテレビで見てもらい、中田英寿について印象を聞かせてもらうことにした。プロコーチである彼自身も、中田のプレーに興味をもっていたから、ボクの頼みを快く引き受けてくれたというわけだ。
ボクは、彼の観察眼を信頼している。だからその話しを聞いて、そうか、中田英寿は、中盤の底でも「自由」を見いだしたのか・・と、直感的に思っていた。それも、「あの」戦術サッカーのパルマで・・。
サッカーとは、結局はそういうものである。どういうものかって・・? 要は、グラウンド上での選手たちのプレー姿勢によって、ゲーム戦術の「機能の仕方」が変容していくことだってあり得るということだ。まず守備からゲームに入り、攻守にわたって、常に「自分主体で仕事を探す」という積極プレーをくり返していれば、中田クラスの才能だったら、中盤の底が基調だとしても、徐々に、彼をコアにしたゲームになっていくことだって十分に考えられるのである。そして、中田の「自由度」が高まる。それに応じてゲーム戦術もポジティブに変容していく。こうなったらもうチームの首脳陣は黙るしかない。中田は、そのメカニズムを十分に理解し、実践し、そして「自由」を勝ち取ったということなのだろう。
トップ下は、チームのなかでもっとも大きな「自由度」が保証されるポジション。それでも、戦術的な(ロジックに計画された)イメージにこだわり過ぎることで守備がおろそかになったら、自身のプレーが矮小に縮こまってしまう。そのことは、全てのポジションに言える。戦術サッカーへの忠実さが、チームの「自由なダイナミズム」を減退させる閉塞したネガティブサイクル。イタリアサッカーが抱えている「隠された病根」は、そこにあるのかもしれない。
前回のコラムで、もし中田が、中盤の底としてプレーすることの魅力を「自ら」見いだせたら、確実に本物のボランチにまで成長できる・・、そして、そのレベルまでいけば、もうどんなポジションでも最高のパフォーマンスを発揮できるようになる・・と書いた。現代サッカーが待望して止まない、高質のオールラウンドプレーヤー。彼は、それを体現できるだけのキャパシティーを備えている。
パルマでの中田は、中盤の底というポジションを基点に、首脳陣が黙らざるを得なくなるくらいの「実効」を積みかねることで、そのポジションを、限りなく自由度の高いものにまで昇華させることにチャレンジしているのかもしれない。それこそ、創造的な(戦術)破壊ではないか。
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ポーランド戦で魅せた中田英寿のスーパーパフォーマンスについては、もう語るまでもないだろう。そのなかでもっとも惹かれたのは、「タテのポジションチェンジの演出家」という側面だった。
そのとき、ボールをもった中田英寿は、「行け!」と、波戸の前に広がるスペースへタテパスを送り込んだ。そして、波戸のサポートポジションまで一度は押し上げ、波戸がそのまま勝負すると判断した次の瞬間には、波戸のプレーゾーンに残っていたポーランド選手のマークへ、スッとポジションを下げてしまう。波戸とのタテのポジションチェンジ。
ボクの目は、そこからの中田のプレーに釘付けになった。勝負を挑んだ波戸だったが、結局は相手にボールを奪い返されてしまう。その瞬間、中田が、ポーランド選手への間合いを詰めた。そして今度は、実際にパスが出された別の相手への爆発アタックでボールを奪い返してしまったのだ。「パスを出させる」クレバーなポジショニング。目を奪われた。
チームメイトから絶対的な信頼を集める中田英寿。そのベースは、才能あふれる攻撃プレーばかりではない。いや、むしろそれよりも、献身的なディフェンスや中盤での「穴埋め」といった、ダイナミックなバランスプレーにあると思っている。前述したシーンは、その典型。それ以外にも、自らが下がることで、守備的ハーフの稲本や戸田を前線へ送り込んだり、小野と交代して左サイドに入ったりする。そこからの、逆サイドにいる市川へ向けた矢のように鋭いサイドチェンジパス。それがキッカケで追加ゴールが生まれた。
シンプルプレーの天才。創造的イメージシンクロの演出家。そんな中田英寿に、もう一つの称号を送りたい。タテのポジションチェンジを演出する中盤リーダー。
パルマでの苦境を糧に、物理的・精神的に、一皮も、二皮もむけようとしている中田英寿。攻守にわたって、周りに有無を言わせぬほどのクリエイティブパワーを秘めた、変幻自在のリスクチャレンジがよみがえった。解放された中田。さて、ワールドカップが見えてきた。
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今大会では、最初から相手のハードマークに遭っていた中田英寿。そして稲本が大活躍をしました。タテのポジションチェンジの演出家が本領を発揮した・・!? 私は、今でもそう思っています。
また、ベルギー戦で、ヴィルモッツに先制ゴールを奪われた後の「心理リーダー」としての存在感。素晴らしいじゃありませんか・・。そんな彼のパフォーマンスについては、欧州のエキスパートたちも、高く評価していました。
グループリーグ三戦目のチュニジア戦での追加ゴールは、彼が為した素晴らしいパフォーマンスに対する正当な見返だったのです。彼の更なる発展を願って止みません。