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W杯レビュー(2)・・セネガルについて・・(2002年7月5日、金曜日)

さて、プリントメディアで発表した文章を中心にまとめる「レビュー」第二回目ですが、今回はセネガルにしましょうか。

 彼らについては、昨年の10月、ランス(フランス)における対戦でビックリさせられ(日本代表とのフレンドリーマッチ=2-0でセネガルが内容的にも圧倒!)、注目していた今年1-2月のアフリカンカップで、彼らのサッカーに対するイメージが広がり(決勝では内容的にカメルーンを凌駕・・でもPK戦に負けて涙を飲む!)、そして今年3月に日本でおこなったブルーノ・メツ監督との対談で確信が深まったというわけです。

 そして、本大会での、案の条の活躍。彼らには、ワールドカップを楽しめたことに感謝したいと思っている湯浅です。今月は、コーチの国際会議があるのでドイツへ行くのですが、もしタイミングが合って彼がいるのならば、ちょっとパリまで足を伸ばそうかな・・なんて考えています。

 ここでは、私のHPに載せた文章を除き、セネガルがW杯開幕戦でセンセーショナルな世界デビューを果たした直後に、プリントメディアで発表した文章をご紹介します。では・・

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(サッカーマガジン)

アフリカが輩出した最初の組織サッカー・・(タイトル)

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 「選手たちには、前線ゾーンへいくまでは大事にボールを動かし、そこからは自由に勝負していけって言っているよ・・」。本誌にも掲載された、セネガル監督、ブルーノ・メツとの対談で、彼がそう述べていた。今年3月のことだ。

 簡潔な言葉だが、「オレは放任タイプの監督だよ・・」というブルーノ特有の表現なのだろう。「外部」には見えてこないが、その裏側には、心理的なトリートメントや、多岐にわたる戦術マネージメントが隠されているに違いない。彼らのハイレベルなサッカーを観ていてそう思う。「オレは放任・・」というブルーノの言葉に、確たる自信を感じたものだ。

 セネガルが、ワールドカップ開幕戦で、センセーショナルな世界デビューを果たした。今回のテーマは、アフリカが輩出した、最初の、「組織と個」が高次元のバランスを魅せるチームということにしよう。

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 ボクがセネガルに興味を惹かれたキッカケは、昨年10月に、ランス(フランス)でおこなわれた日本とのトレーニングマッチだった。そこで日本代表は、結果だけではなく(2-0でセネガルの勝利)、内容でも凌駕されたのだ。ボクは、その高質なサッカーに圧倒されていた。「アフリカのチームにしては、調和のとれた組織プレーができるチームだな・・」。そう思った。

 それから彼らに関する情報を集め、様々なメディアで書いたり、語ったりしてきた。「セネガルは、今大会での最大のダークホースだ・・」。

 アフリカのチームで注目を集めているのは、何といってもカメルーンとナイジェリアだろう。それに対しセネガルは、エジプト、モロッコというアフリカの強豪チームを抑えてワールドカップ本大会への出場を果たしたとはいえ、まだまだ未知の存在だった。それが、今年1月から2月にかけ、マリ共和国でおこなわれたアフリカ選手権で、世界中が、そこにおける勢力地図の揺動を実感させられることになる。

 セネガルは、準決勝で、スター軍団のナイジェリアを下しただけではなく、決勝で相対したカメルーンをも、「内容」で凌駕してしまう。もちろん組織プレーを主体にして。たしかにカメルーンとの対決は、「0-0」の末のPK戦で惜敗してしまった。しかし、そのハイレベルな組織サッカーは、世界中に強烈なインパクトを与えた。「セネガルは、ものすごく興味深いサッカーをやるよな・・」。友人のドイツ人プロコーチが語っていた。監督のブルーノ・メツが、2001年度のアフリカ最優秀監督に選出されたのも当然の成り行きだった。

 攻撃では、パスを主体にする組織プレーと、ドリブル勝負などの単独プレーが、得も言われぬバランスを魅せる。素早く、広くボールを動かし、相手ディフェンスが薄くなったところへパスが回されたら、迷わずドリブル勝負を仕掛けていく。そのメリハリが小気味よい。

 そんな彼らの攻撃だが、それが強固なディフェンスを基盤にしていることは言うまでもない。守備が強固だからこそ、攻撃にもダイナミズムが生まれてくるのだ。

 ワールドカップ開幕戦となったフランス戦では、そのディフェンスが抜群の存在感を誇示する。特に後半。一点を追いかけるフランスの攻撃パワーが、どんどんと増大していった時間帯でも、決して受け身にならず、それぞれが組織的にカバーしながら、局面では、抜群の競り合いを魅せつつづけていた。互いの能力を引き出す高度な組織ディフェンス。それが、デュフとファディガのコンビによって挙げたこの試合唯一のゴールとなって結実したのである。

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 アフリカ選手の個人能力の高さは、まさに「両刃の剣」。能力があるから、どうしてもそれに頼り気味になってしまう。だからクリエイティブなムダ走り等という、根元的な「組織プレー発想」も浸透してこない。

 そんなところに、セネガルが登場した。そしてヨーロッパの「現場」は、彼らの動向から目が離せなくなった。これからセネガルは警戒されるだろう。そんな厳しい環境こそが成長を促す。ブルーノ・メツの、ウデの見せ所である。

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(6月1日付け東京中日新聞の夕刊)

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 「オレたちの世界デビューをしっかりと見届けてくれよ・・」。セネガル監督のブルーノ・メツが、新聞や雑誌が企画した私との対談を終えた後、そう自信をにじませていた。今年3月のことだ。

 昨年10月に、ランス(フランス)でおこなわれた日本対セネガル(2-0でセネガルの勝利)。強烈な印象を与えられた。「アフリカから本物のチームが出てきた・・」。そう思った。パスを主体にする組織プレーと、ドリブル勝負などの単独プレーが、ハイレベルにバランスする高質なサッカー。素早く、広くボールを動かし、勝負所では、迷わずドリブル勝負を仕掛けていく。そのメリハリがいい。

 そのときボクは確信し、様々なメディアで表明してきた。モロッコ、エジプトというアフリカの強豪を抑えて初出場を果たしたセネガルが、本大会において「ダークホース」としての存在感を輝かせることを・・。

 今年2月のアフリカ選手権では準優勝を遂げた。決勝の相手はカメルーンだったが(0-0でのPK負け)、内容では確実にセネガルに軍配があがる。ちなみに準決勝では、スター軍団のナイジェリアを退けた。そこでの彼らは、まさに「調和のとれたチーム」だった。

 1990年イタリアワールドカップ開幕戦では、カメルーンが、前回大会優勝のアルゼンチンを敗った。ただ今回のセネガルの勝利は、「あの」フランスに対し、内容でも互角にわたりあったという意味で、よりインプレッシブな番狂わせだったと思う。

 これから彼らが、どこまで存在感を高められかに注目しよう。さて、ワールドカップがはじまった。

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(6月8日付け朝日新聞「be」連載)

組織プレーと個人プレーのバランス・・

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 「知っているかい? セネガルは、アフリカ諸国のなかで唯一、内戦やクーデターを経験したことがない国なんだぜ・・」。

 今年3月、フランス人のセネガル代表監督、ブルーノ・メツと対談したときのことだ。新聞と雑誌が相乗りした企画だったのだが、その冒頭で、彼がそんなことを言った。セネガルの首都は、「パリ・ダカ・ラリー」で知られるダカールだ。

 昨年10月。日本代表が、フランス北部のランスでセネガルと対戦した。そして、結果だけではなく、内容でも凌駕された。ボクは、その高質なサッカーに圧倒されていた。「アフリカのチームにしては、調和のとれた組織プレーだな・・」。

 アフリカで注目されるのは、何といってもカメルーンとナイジェリア。それに対しセネガルは、エジプトやモロッコというアフリカの強豪チームを抑えてW杯予選を突破したとはいえ、まだまだ未知の存在だった。ただボクは、その試合を見て確信した。「彼らは、今回のワールドカップで、センセーショナルな世界デビューを果たすに違いない」。

 今年1月から2月にかけ、マリ共和国でおこなわれたアフリカ選手権。準決勝で、スター軍団のナイジェリアを退けた。ただ決勝では、「0-0」の末のPK戦で、カメルーンに惜敗した。しかし「内容」では確実にセネガルに軍配があがる。監督のブルーノ・メツが、1991年度のアフリカ最優秀監督に選出されたのも当然の成り行きだった。

 そして迎えたワールドカップ開幕戦。フランスに押され気味とはいえ、全体的な「流れ」ではガップリ四つという立派な戦いを展開し、1-0の勝利をおさめてしまう。センセーションの序章である。

 身体的能力はもちろんのこと、テクニックや戦術理解など、個人的な能力は十分。そんな彼らが、攻撃の「組み立て段階」では、素早く、広いボールの動きなど、組織的にも傑出したプレーを展開する。「組織プレーと個人プレー」が美しいハーモニーを奏でるサッカー。目を奪われた。

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 「彼らは対話を重視するんだよ。話し合うなかで互いの合意点を見いだし、それを誠実に守ろうとするんだ・・」。ブルーノ・メツが言う。

 対話を成立させるためには、まず相手の話を聞けなければならない。彼らには、その精神が「歴史的」に備わっているというのだ。たしかに彼らのプレーは、味方のミスや、冒険プレーを積極的にカバーしようという「相互補完マインド」にあふれている。

 イレギュラーするボールを、足をつかって扱う。だから瞬間的に状況が変化してしまう。そんな不確実性要素が満載されたサッカーだからこそ、選手たちは、常にリスキーなプレーにもチャレンジしなければならない。そこで「逃げ」たら、進歩など望むべくもない。だからこそ、味方同士のバックアップ姿勢が大事なのだ。「アイツは勝負にいった。オレは乗り遅れたからバックアップに回っていよう・・」といった互いの相互補完マインドである。それこそが、不確実なサッカーで成功を収めるカギを握る。

 「ところでブルーノは、監督としてどんなタイプだと思う? 専制か民主、それとも放任タイプかい?」。そんなボクの質問に、メツ監督は、「オレは・・、放任だと思うよ」と、一言。

 もちろん放任とはいっても限度がある。どんな文化であれ、「光と陰」はあるものだ。そこに、「外」には絶対に見えてこない、ハイレベルな「心理マネージメント」が隠されているのは言うまでもない。「オレは放任・・」」の一言に、深い自信を感じたものだ。それぞれの生活文化に根ざす精神のポジティブな部分。それを巧みに活用し、発展させる。それこそ監督のウデの本質なのである。

 今大会でセネガルが巻き起こすに違いないセンセーション。既にこの時点で、その渦の拡大が見えてくるではないか。

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 ・・ということで、「コンテンツ」で重複する部分はありますが、自分自身のデータベースとしても、私のHPでご紹介することにした次第。

 この後セネガルは、世界中に存在感を示しつづけました。でも最後は、トップレベルサッカーの経験が足りなかったことでトルコにうっちゃられてしまいます(スミマセン・・準々決勝での敗退に関する背景には、もっと深いモノがあるのですが・・)。

 とにかく、自分のマイチームが活躍したこと、それも、世界の強豪国が「あそことは決勝トーナメント一回戦で当たりたくない・・」ということが、まことしやかに語られるほど、世界中に実力を認めさせたこと、それは、私が「トーナメントを楽しむ」うえで、大いなるモティベーションになったというわけです。

 そのことについては、6月25日付けの東京中日新聞夕刊で、下記の文章を発表しました。ということで本日は・・。

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(6月25日付けの東京中日新聞夕刊)

 初出場のセネガルが、志なかばにして頂点への旅を終えた。残念だが、仕方ない。準々決勝のトルコ戦。前半20分くらいまでは、決定的なチャンスメイクで圧倒していた。ただその後は、トルコの洗練された組織プレーの前に、攻め上がることさえできなくなっていった。

 彼らは、フランスとの開幕戦に照準を合わせて調整してきたのだろう。その世界デビュー戦で、人々を驚愕させる高質サッカーを披露し、勝利までも手中にした。でも結局は、「トップフォーム」を最後まで維持することはできなかった。それが、長丁場のトーナメントであるワールドカップの難しさなのだ。

 彼らのサッカーは魅力的だ。誰もが、その驚異的なテクニックとスピードに新鮮な驚きを隠せなかったことだろう。それは、組織プレーがしっかりしているからこそ目立つ。相手守備の「薄いゾーン」へ、素早く、広くボールを動かせるからこそ、余すことなく「個」を表現できるのだ。ボクは、彼らを、アフリカが生んだ最初の、攻守に調和のとれた「チーム」だとすることに躊躇しない。

 組織プレーと個人プレーのハイレベルなバランス。それは、サッカーにおける永遠のテーマだ。その意味でセネガルは、大きな可能性を示した。このまま一つのチームとして発展をつづけて欲しいとは思うが、そこは「微妙な生き物」のことだから分からない。もし彼らが、瞬間的に光り輝いたワンダーチームとして歴史に刻まれることになるのだとしたら、それほど惜しいことはない。




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