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ジーコジャパン(2)・・攻守にわたって仕掛けつづけたからこそ、一流との僅差を体感するためのよい「学習機会」になりました・・日本代表vsアルゼンチン代表(0-2)・・(2002年11月20日、水曜日)

まず、昨日発売になった週刊プレイボーイの連載で発表した文章を・・。

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(11月12日に仕上げた原稿です)

 さて、ジーコジャパンがアルゼンチンに挑みます。注目ポイントは二つ。アルゼンチンが本気で試合に臨んでくるに違いないということ。そして、ヨーロッパでプレーする日本代表の中盤カルテットが不参加になったことです。

 日韓W杯でのアルゼンチンは、調子を上げられず、屈辱的なグループリーグ敗退に終わってしまいました。そんな彼らにとって今回のゲームは、再スタートという重要な意味合いを持ちます。

 W杯での責任を問われたアルゼンチン代表のビエルサ監督ですが、結局、それまでの功績を総合的に評価され、継続してチームを任せることでアルゼンチン協会内でも意見が統一されました。要は、外部の人間には絶対に見えてこない、現場での本質的な仕事が、今でも高く評価されているということです。一度は泥にまみれたビエルサ監督ですから、自身の名声回復も含め、並々ならぬ決意で臨んでくるでしょう。

 そのことは、今回の来日メンバーにも如実に現れています。ソリン、サムエル、サネッティー、アルメイダ、ソラーリ、ヴェーロン、キリ・ゴンザレス、アイマール、リケルメ、クラウディオ・ロペス、クレスポ、オルテガ、サビオラ等々、ビエルサ監督は、最高のメンバーを揃えてきました。そのために彼は、足繁くヨーロッパへ飛び、選手たちが所属する各クラブとギリギリの交渉を重ねたと聞きます。選手たちは、厳しいスケジュールのなか、日本まで飛んでくるのですからね。

 そんな監督のやる気は、そのまま選手たちの高いモティベーションとなって現れてくるものです。グラウンド上でのプレーは、監督を映す鏡なのです。もちろん選手たちにしても、W杯での屈辱を「現地」で晴らしてやるという思いは強いでしょう。

 本気のアルゼンチン。だからこそ、フレンドリーマッチであるにもかかわらず、日本代表にとってまたとない学習機会になるという期待がふくらむのです。

 考えてみれば、多くのフレンドリーマッチをこなしたトルシエジャパンのときでさえ、相手が本気になった試合は数えるほどしかありませんでした。2001年3月にパリで行われたフランス代表戦、同年10月にフランスで行われたセネガル戦、そしてW杯直前の5月に行われたノルウェー戦。そのくらいでしょうか。この三チームには、それぞれに背景がありました。悪い内容の練習試合がつづいたことでメディアから総攻撃を受けていたフランス代表。W杯へ向け、開催国での注目度アップを狙ったセネガル代表。W杯出場が叶わなかったことで、ホストカントリーをブッ叩いてやるという意気込みが充満していたノルウェー代表。同様に、今回のアルゼンチンにも、明確な「背景」があるというわけです。

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 さて、もう一つの注目ポイント。ゲンクの鈴木隆行を除いた海外組が欠場するだけではなく、中盤のリーダーとして、彼らの不在を埋めることが期待されていた名波も出場を辞退してしまいました。たしかに痛い。とはいっても、脅威と機会は表裏一体という視点に立てば、他の選手たちがジーコ監督にアピールする願ってもない機会だと考えることもできます。そして代表チーム内の競争が激化していく。それこそ、闘う集団にとって不可欠な心理環境というわけです。

 原稿を書いている時点では、最終的に中盤がどのような構成になるかは分かりませんが、前回のジャマイカ戦をみる限り、福西と中田浩二が、守備的ハーフコンビとして先発に名を連ねることは確実でしょう。ディフェンスだけではなく、攻撃の起点としても機能しなければならない中盤の底と呼ばれるポジション。彼らほど、チームにとって重要な役割を担う選手たちはいません。フットボールネーションでは、そのポジションをチームの重心などとも呼ぶのですが、そこがうまく機能しなければ、攻守にわたって安定したサッカーなど望むべくもないのです。

 ということで、実力と実績を兼ね備えたこの二人への期待が高まるわけですが、なかでも私は、中田浩二に注目しています。アントラーズでも不動の守備的ハーフ。攻守にわたり、常に自分主体の判断と決断で、勇気をもってリスクにもチャレンジしつづける等、どんどんとプレーに磨きがかかっていると感じます。

 また彼については、実際のプレー以外にも期待していることがあります。それは、中盤でのリーダーシップ。今回は、年齢とは関係なく、実力ベースで中盤の指揮権を掌握する大きなチャンスだと思うのです。素晴らしい才能に恵まれている中田浩二だからこそ、この試合での大ブレイクを願わずにはいられません。

 とにかく、気合いの乗ったアルゼンチンに対し、臆することなく自分主体の積極プレーを展開することで、このゲームを最良の学習機会にして欲しいと願って止まない筆者です。

●注釈:原稿を仕上げた時点では、中村俊輔も来日しない、またアイマール、リケルメは参加するということだったので・・。そしてもう一つ、ジーコ監督のお母さんの突然の逝去。合掌・・。

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 さて試合・・。

 立ち上がりは互角の展開になります。アルゼンチンも、そんな「来ない」。まあ、本気とはいっても、相手のホームですからね。最初は落ち着いてスタートしよう・・ということでしょう。それにしても日本代表。一人ひとりが、立派な戦いを展開しようとしています。ビビることなく、自信をもって試合に臨んでいるのです。その姿勢がいい。

 特に鈴木隆行。今度から、彼の(ベルギーリーグのゲンク)ゲームもしっかりと観察するようにしましょう。素晴らしい出来ですよ。攻撃でも、守備でも。粘り強いプレーという表現が適当ですかね。とにかく、勝負を焦らず、自信をもってボールを扱いながら、チャンスとなったしっかりと個の勝負を仕掛けていきます。ドリブルでも、タメからの勝負パスでも。また、何度か、味方の最終ラインを「追い越して」までも、マークに戻ったシーンがありました。素晴らしい・・。

 ということで、日本も攻撃の最終段階まで攻め込めるような「互角の展開」なのです。名良橋や高原が惜しいシュートを放ちましたしね。私は思っていました。「それでいい。とにかくアルゼンチンをホントの本気にさせなければ・・」。この互角の展開。その背景には、アルゼンチンが「まだ」100パーセントを出していないことだけではなく、日本選手たちが自信をもって仕掛けていることもあります。いや、面白い。

 それでも、ちょっと心配なことが・・。アルゼンチン左サイドの「ソリン」がフリーになってしまうシーンが多発するのです。クラウディオ・ロペスが名良橋を中央ゾーンへ引っ張り込み、空いた左サイドをソリンが上がっていく・・。アルゼンチンは、そこまで意識しながら、右サイドでボールをキープするのです。そして最後の瞬間に、逆サイドへラストパスを回す。そこでソリンをマークしなければならなくなるのは中村俊輔というシーンが多いから困った・・。ソリンと中村では、走りっこでは相手にならない。だから、中村がどうしてもソリンに「行かれて」しまうというシーンが続出するのです。何度ありましたかネ、「あっ、やられちゃう!」って心のなかで叫んだシーンが・・。極めつけが、フリーでパス受けたソリンのシュートでした(ギリギリで楢崎がパンチで逃れる!)。

 もう一つ、前半20分ころから出はじめた、アルゼンチンの「長いラストスルーパス」。それは、日本代表の最終ラインが、二人の専業守備的ハーフ(中田浩二と福西)がいることで、より安心してラインを上げることができていたからでしょう。でもアルゼンチンは、その「逆」を突いてくる・・。。ズバッ! 二度、三度と、クレスポが爆発し(タテへの決定的フリーランニング!)、そこへ、ヴェーロンやアルメイダから、ピタリのタイミングでスルーパスが出る。これまた何度・・ってな具合です。

 まあ結局は、ソリンのケースも、ロングスルーパスのケースも、ギリギリのところで大事には至りませんでしたが、でも私は、それこそが守備ブロックの崩れだと思っていたわけです。まあ大事には至りませんでしたが・・。

 そのことは、最終ラインの松田と秋田がもっとも切実に感じていたに違いありません。「もうちょっとで行かれるところだった・・」と感じていたはずなのです。だから、その後の最終ラインの押し上げが、ちょっと消極的になっていった・・。まあ、とはいっても、35分を過ぎたあたりから、再び、積極的なラインコントロールが見られるようになってきましたがネ。

 とにかく、積極的なラインコントロールの「心理的バックボーン」は、何といっても二人の守備的ハーフの、忠実でクリエイティブな守備なのです。中盤守備ラインにおける、アルゼンチン攻撃の抑制・・それです。決定的スルーパストライにしても、ドリブル突破トライやコンビネーショントライにしても、何度彼らがその「芽」をギリギリのところで摘んだことか。そんなアクティブ守備プレーに対する信頼があればこそ、最終ラインも「守備での仕掛け」にトライできるというわけです。

 それでも、前半の終了間際の時間帯は、もう完全にアルゼンチンのペースになっていきます。グラウンド全体を掌握するアルゼンチン。たしかに、一度だけ日本が、アルゼンチン守備ブロックの深いところまで攻め込みはしました。でも逆に、その深い位置から、ヴェーロンが主体になったカウンター攻撃を浴びてしまいます。タテに走り抜けたクラウディオ・ロペスに対する、ヴェーロンからの50メートルはあろうかという決定的タテパス。素晴らしい。それこそ世界レベル! という決定的ロングラストパスではありました。

 そして、そんなスーパーパスを通された日本代表の守備ブロックが、再び「心理的」に押されはじめてしまう・・。

 それでも前半の日本代表が、そこそこの積極サッカーを展開できていたことは確かな事実でした。

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 後半。トント〜ンと二点を先行され、そして、何かから解放されたようにペースアップしたアルゼンチンに、チンチンにやられはじめた日本代表。一体どうなることかと思っていましたよ。それが、10分を過ぎたあたりから、また落ち着きを取り戻した・・。

 それには、二つのに視点があると思います。一つは、守備的ハーフの二人(中田浩二と福西)が主体になった中盤ディフェンスが再びうまく機能するようになっていったこと。また交代出場した中山ゴンとアレックスが仲間たちに与えた刺激もありました(鈴木と交代した中山ゴンの最前線からの積極ディフェンスも効果的!)。逆に、二点を先行したアルゼンチンが、徐々に、勢いを減退させていったという視点もあります。もちろんその後も、基本的にはアルゼンチンがゲームをコントロールしてはいましたが・・。

 そこで山本監督は、小笠原に代えて、遠藤保仁を投入します。そのことによって、中盤がよりソリッドになっていったことはいうまでもありません。

 この試合での小笠原と中村は、決して悪い出来ではありませんでした。でも時間とともに、アルゼンチンのミッドフィールダーたちと比べて、彼らのパフォーマンスがより大きくダウンしていったことだけは確かな事実でした。

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 たしかに2-0で負けました。それでも、全体としては、日本も立派なゲームを展開したと思います。またそこには、選手タイプの組み合わせ、最終守備ラインと中盤ラインのコンビネーション、はたまた「ほんのちょっとしたこと」で勝負を決められてしまうという現実などなど、色々な意味で見所はありました。詳細な分析については、別のメディアや、このページでも扱いますので・・。

 わたしはタイムアップのホイッスルが吹かれたとき思っていました。「やはり日本代表と世界一流との間には厳然たる僅差が横たわっている・・だからこそ、中盤守備の実効レベルが、チームの全体パフォーマンスを決めてしまうほどの重要な意味をもつ・・それが不安定だったら、決して世界にギリギリの勝負を挑んでいくことはできない・・」。

 このことは、「選手タイプの組み合わせ」というテーマにつながるわけですが、それについてはサッカーマガジンで・・。

 また「ほんの小さなミスで勝負が決まってしまう」・・という部分についてですが(要は、両失点のシーン)、日を改めて、戦術的な視点、心理的な視点などで分析したいと思います。もしかしたら別のメディアで発表することになるかも・・。

 単車を飛ばして帰宅しながら、この試合の「俯瞰(ふかん)イメージ」をまとめていた湯浅でした。ということで、本日はこれで。乱文、ご容赦アレ・・。




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